抄録
目的
長期臥床の重症心身障害者の問題点に拘縮と変形がある。成人の場合には、進行した拘縮・変形の矯正がより困難で、体位変換を難しくする。拘縮・変形による呼吸障害、筋緊張亢進は姿勢の崩れを誘発し、苦痛を増強させる。今回、仰臥位以外の体位変換が困難であった患者に対して、変形の部位と程度に応じたポジショニングを行った結果、効果があったので報告する。
方法
34歳男性。頸部後屈、右側彎症、上肢W肢位があり、股関節脱臼と膝関節にて両足が交差した状態で、体位変換も困難な症例1名を対象とした。ポジショニング方法としては、頸部後屈を補正・維持し、後弓反張と肩甲帯の後退による胸郭運動の制限に対して、後退した肩甲帯を前に出し胸郭を広げた。下肢は、左側臥位の場合のみ側彎方向の下肢を挙上し、変形部位への負担を軽減した。ポジショニングには、バスタオルや三角マットを使用した。データ収集として、日内変動の多い血中酸素飽和度を効果の指標とする。実施前と実施後10日間ごとに3日間測定し、24時間のデータを抽出。正確性と値の安定を図るため、3日間の平均を使用する。
結果
実施前の最低値は70%で平均値が94%。実施後10日〜30日では最低値87%、平均値94〜95.2%。40日〜70日では最低値91%、平均値95.3〜96%。80日〜100日では最低値95%、平均値96〜96.6%と改善した。
考察
頸部、肩甲帯、上肢、下肢の拘縮・変形の部位に応じたポジショニングは、呼吸運動の抑制を緩和し、呼吸の安定を図るのに有効であった。体位変換に取りいれることで、呼吸苦からくる姿勢の崩れを引き起こさず、安楽な姿勢を維持することができた。
結論
拘縮・変形の部位に応じたアセスメントを行い、ポジショニングを実施することは、重症心身障害児(者)の個別性に応じた安楽な呼吸を提供することに効果がある。