抄録
目的
重症心身障害を有する者(以下、重症者)における四肢の周径やADLに関する報告は少なく、客観的な指標の実態は十分ではない。先行研究では周径と運動機能やADL能力との関連性が報告されているが、重症者において周径とADL能力との関連が認められればADL能力の維持・向上や健康管理の目標になり得る。そこで、本研究の目的は周径およびADL能力を計測しその実態を把握することと、周径とADL能力との関連を検討することである。
方法
対象は重症者60名であった。周径の評価には上腕周径、前腕周径、膝蓋骨上端10cm近位部における大腿周径、下腿周径を測定した。ADL能力の評価には日本広汎小児リハ評価セット・基本ADL評価法ver3.2(以下、JASPER)を用い、自立度および介助度を点数化した。統計学的解析方法では、日本人の新身体計測基準値(JARD2001)の上腕周径の平均 −2SD(199.1mm)および下腿周径の平均 −3SD(224.1mm)を基準に対象者を高群と低群に分類し、ADLの自立度および介助度を各群間で比較検討した。なお、本研究の実施にあたり当院倫理委員会の承認を得た。
結果
周径は上腕周径、前腕周径、大腿周径、下腿周径の順に199.4±30.3mm、182.2±25.4mm、289.2±57.2mm、212.4±37.1mmであった。JASPERによるADLの自立度および介助度はそれぞれ38.7±18.6、123.9±22.8であった。上腕周径および下腿周径において自立度・介助度の高群と低群との間で比較した結果、上腕周径では自立度・介助度両者で各群間に有意差は認められなかったが、下腿周径では高群の自立度が有意に高値を示し、介助度は有意に低値を示した( p < 0.05)。
結論
重症者の周径の測定値は日本人標準値と比較し、きわめて低値を示し、筋の発達や栄養状態が劣っていると推察された。また、下腿周径がより発達している群のADL能力が優れていたことは、重症者の下肢の発達がADL能力の獲得に影響を及ぼす可能性を示唆した。