日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
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O-2-B-21 タブレット型端末(iPad®)を使用した個別心理面接の事例
児玉 久美子赤嶺 綾倉本 恵子佐藤 圭右
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2012 年 37 巻 2 号 p. 296

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抄録
はじめに 重度の障害を持つ人と関わるとき、表出を十分受け止めることができず、意図や気持ちに寄り添うことが難しい。そこで、表出手段の支援と、利用する人の気分や気持ちを反映する道具になることを期待して、タブレット型端末(以下、iPad®)を導入した。 個別対応の事例を通して、いくつかの効果や課題が見出されたので報告する。 事例 30代男性、脳性まひ(アテトーゼ型)。大島分類横地案D3。就学時に当施設入所。日中は、座位保持装置付き車いす使用、移動は全介助。日常の言葉を理解できるが、表出は特定のスタッフに、決まったフレーズを繰り返していた。 面接構造は、月に1−2回、50分間の個別セッションとした。 iPad®は、1.画面の変化、音楽を楽しむ、2.散策の際にBGMを再生する、 3.触れると画面が動く体験等に使用した。 開始期は、二者択一で問うと、意思と無関係に後の単語にうなづいていた。意図と表出が結びつかず、うなづきは伝えたいことがあるときの合図だった。セッションで、セラピストが提示したBGMを自分のタイミングで再生する行動が定着すると、意図と表出が一致しはじめた。 画面を触って動かす体験は、偶然指が触れたことがきっかけで始まり、Yes-Noボタンのアプリケーションをやりとりに使うなど、目的のある行動に発展した。 約1年が経過して、決まったフレーズの繰り返しは減少し、やりたいこと、感じたことを自由に表出するようになった。 考察 この事例で、iPad®は表出のきっかけとして機能した。言葉や複雑な動作を介さず、直感的に使えること、気分・雰囲気など形のないものを視覚的に共有できること等が事例の表出を促進した。また、画面を自らコントロールする経験は、「自分だけの楽しみ方」を実現して、個別の時間全体に主体的に関与する意欲に結びついた。 今後は、言語理解が難しい人との関係形成、上肢機能の問題で画面に触れることができない人との展開の仕方などに応用、検討したい。
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© 2012 日本重症心身障害学会
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