抄録
はじめに
重症心身障害児施設である当施設の入所者平均年齢は40歳を超えており、成長過程で現代的な福祉機器の使用がかなわなかった世代といえる。言語表出が困難な入所者が圧倒的に多い中、言語聴覚療法ではパソコンを意思伝達に用いる取り組みを行ってきた。加えて平成18年には、重度障害者意思伝達装置を導入した。今回は平成23年までの5年間で、それらを生活のツールとして活用までに至った症例から、わかったことを報告する。
症例
文字理解が可能だった6例、うち専用パソコン活用4例、専用意思伝達装置活用2例。文字理解が困難だった2例、訓練用パソコン・意思伝達装置活用。いずれもスイッチとマウスは適合済み。
方法
活用に至った症例のカルテ記載から訓練経過と問題点の推移をまとめ、家族や友人関係との関連に着目して検討を加えた。
結果と考察
文字理解が可能であった場合には作文だけでなく、電子メール機能の活用まで訓練を継続したことで、家族や友人と相方向の意思伝達ができるようになった。さらに専用機器入手後は、自作詩集や自分史作成も始めた。文字理解が困難な場合であっても登録句を活用して言語聴覚士と共に作文し、パソコンで自分の気持ちにぴったりした絵や写真を添えることで文の不足を補ったカードを作成、他者にプレゼントする取り組みを楽しむようになった。こうした取り組みは家族や友人に認められる契機となり、関係は深まった。他者と共感したい、喜んでもらいたいという気持ちが膨らむことで、施設外とのつながりが広がったと考えられた。
まとめ
言語表出困難な施設入所者へのパソコンおよび重度障害者意思伝達装置のリハビリ訓練では、施設外との間接コミュニケーションである電子メールや手紙、カードの取り組みが有効だった。意思伝達だけでなく他者との関係の深まりがあってこそ、生活のツールとして機器を活用することが可能になるとわかった。