抄録
はじめに
Aさんは快・不快の感覚に左右されやすく、感覚的遊びに没頭しやすい行動特性がある。Aさんの自己刺激行動が皮膚損傷を伴い、介入を要するようになったのは3年前からである。職員がAさんに統一した援助を実施することで自己刺激行動が軽減できると考え本研究に着手した。
対象
Aさん。40歳男性。脳性麻痺、痙性四肢麻痺、精神遅滞、てんかん、神経因性膀胱、両側停留精巣。太田stage1−1−3。
方法
(1)自己刺激行動についての現状把握(観察記録および直接行動観察)(2)具体的アプローチ方法の検討(ABCDEH分析)(3)具体的アプローチの実施と介入前後の比較(基本統計量、Mann−Whitney検定)(4)皮膚損傷の程度
結果と考察
介入前の観察記録から自己刺激行動は覚醒とともに出現し、8時〜11時の間は80%の割合で出現していた。また、行動観察から午前中の時間および明け方の時間帯に占める自己刺激行動の生起が全体の60%以上確認された。介入前における自己刺激行動の状況整理をした結果、眠れない状況、覚醒後、手持無沙汰なときに頬を手で叩き、感覚的な刺激を得ていた。(1)(2)のアセスメントから午前と夜間に分化強化的介入を行った結果、介入前後における自己刺激行動の出現回数に有意差が認められた。
自己刺激行動によって皮膚剥離が生じた際に保護材を使用した回数と実際の皮膚の状態を介入前後で確認した。保護材の使用は介入前5件、介入後0件であった。保護材の使用回数が減少し、介入前に見られた皮膚剥離が消失した。そして介入前後の自己刺激行動の出現回数が有意に減ったことが明らかとなった。今回の自己刺激行動を軽減させる介入を探る上で、分化強化的な関わりはAさんの感覚刺激を満たす一つの方法として効果があった。