日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム3:地域生活重症心身障害児者本人、家族、きょうだいへの支援
医療的ケアが必要な子どもの日中レスパイトケア
高橋 昭彦
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2013 年 38 巻 2 号 p. 238

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抄録

はじめに 医療の進歩に伴い、多くの幼い命が助かる一方で、人工呼吸器、経管栄養、痰の吸引などの医療的ケアが必要な子どもが増えてきている。しかし、医療的ケアが必要な子どもを支える社会資源は限られ、子どものケアの大半は家族の負担により支えられているのが現状である。 診療所でレスパイトケアを始める 当院は、2002年に開業した無床の診療所であり、現在は機能強化型の在宅療養支援診療所となっている。人工呼吸器をつけた子どもと家族の現状を知る機会があり、2007年度に在宅医療助成勇美記念財団助成事業として人工呼吸器をつけた子どもの日中預かり(レスパイトケア)を始めた。この研究事業が契機となり、宇都宮市重症障がい児者医療的ケア支援事業が2008年3月に創設された。これは、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の地域生活支援事業に位置付けられている日中一時支援に、市独自の運営支援費を合わせたものである。2008年6月より重症障がい児者レスパイトケア施設うりずんを開設、宇都宮市の委託事業として、日中の預かりを開始した。 うりずんのレスパイトケア 現在、うりずんでは最大5名までの医療的ケアが必要な子どもの日中一時支援を行っている。営業時間は10時〜16時である。2013年6月1日現在のスタッフは、常勤3(看護1・介護2)、非常勤4(看護1・介護2・事務1)である。現在の日中一時支援の登録者は22名で、うち人工呼吸器装着状態が4名、経管栄養・気管切開・導尿が必要な子どもが18名である。 レスパイトケアの目指すもの うりずんでは、安全・安心・安楽(石井光子先生より)をモットーにしている。これは安全に預かることで親も安心でき、さらに本人にとっても楽しいことが大切という考え方である。レスパイトケアは、家族にとってはケアからの一時的な解放となるが、子どもにとっては、自分を他人にゆだねる貴重な機会となる。子どもは人に預けられる経験を積むと、サインをしっかりと出すことができるようになり、これは、親から自立して生きる力がつくことにつながる。また、子どもにとって楽しい場であると、親は罪悪感を抱かないと考えている。 レスパイトケアの効果 レスパイトケアは、日々の暮らしの中でなくてはならないものになってきている。臨時で利用の場合は、きょうだいの運動会や受診、親の休息などに、また5年間で人工呼吸器をつけた子どもの母親が妊娠し、無事出産に至ったケースが2例あった。2012年度は医療福祉機構(WAM)の助成を得て、外出支援を行い、事業所への送迎や学校行事への参加にスタッフを派遣した。 宇都宮市が制度を創ったことから、近隣の日光市・鹿沼市・塩谷町でも、ニーズに応じて同様の制度が創設されて現在は4つの自治体と委託契約を結んでいる。 レスパイトケアの課題 経営的な課題は最も大きい。まず利用が安定しない。就学期で通学籍の子どもは学校へ行くため、土曜日と夏休みなどの長期休暇は予約が多く、平日は少ない。また、病状が不安定な子どもも少なくないため、入院するとその後の予約がキャンセルとなる。2012年度は910名の予約に対してキャンセルは265名、29%がキャンセルとなった。ほぼマンツーマンに近いスタッフを確保し、人材育成を行いながら事業を運営していることから事業収入だけでは運営できず寄附で補っている。次に親に頼らない送迎も課題である。送迎のニーズは高いが、車両が確保できていないこと、1人の子どもの送迎に運転とケアで2人のスタッフが必要であることから自前の送迎は行っていない。 おわりに うりずんは、2012年4月より特定非営利活動法人うりずんとして運営し、ホームヘルプサービス(居宅介護)も開始している。子どもと家族の暮らしを地域で継続的に支援するため、今後も必要なことを行う所存である。 略歴 滋賀県長浜市出身 1985年   自治医科大学医学部卒業 滋賀県と栃木県で、病院、診療所、老人保健施設などに勤務 2002年5月 ひばりクリニック開設(栃木県宇都宮市)運営理念は、在宅医療、家庭医、市民活動支援 2008年6月 重症障がい児者レスパイトケア施設うりずん開設 人工呼吸器など医療的ケアが必要な子ども      の日中レスパイトケアを始める 2012年3月 特定非営利活動法人うりずん設立 NPO法人として日中一時支援と居宅介護を開始 現職:ひばりクリニック院長/特定非営利活動法人うりずん理事長 活動:在宅ケアネットワーク栃木世話人 在宅緩和ケアとちぎ副代表 資格:日本小児科学会専門医 福祉用具プランナー

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© 2013 日本重症心身障害学会
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