-
船戸 正久, 竹本 潔, 馬場 清, 飯島 禎貴, 柏木 敦子, 塩川 智司
2013 年 38 巻 2 号 p.
248
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
現在、医学教育の中で患者さまをトータルに診られる医師の育成(全人医療教育)が社会から望まれている。今回関西医科大学医学教育センターから医学生の1週間の地域医療実習の依頼があり、当センターとして独自の実習カリクラムを作成し実行したのでその経験を報告する。
方法
医学生は1回生で、センター責任者会議の承諾を得て3名受け入れた。1週間(実質6日間、土日を除く)のプログラムは、オリエンテーション、施設紹介から始まり、医師・看護師・リハスタッフ・介護スタッフ・HPS(Hospital play specialist)など多職種による集中講義と実習研修である。特に今回移動・入浴・トイレ介助など介護実習を主として、利用者さまとのコミュニケーションを中心とした日常生活支援を担当者の指導の下、直接実習するプログラムを実行した。また訪問看護・リハ・訪問診療にも同行して、ご本人・ご家族にインフォームド・コンセントの基に家庭での実習も行った。
結果
今回の地域医療実習は当センターにとっても初めての経験であるが、3名の医学生は熱心に毎日実習に参加した。彼女たちの感想も「医療の専門的な知識がない時期に看護や介護の実習をさせていただくことができて本当に良かったです」「講義内容が難しいときがありましたが本当に様々な体験をさせていただけたので、良い経験になったと思います」「すべてのスタッフの方が、とても優しく接して下さり、とても嬉しかったです」「特に先生方には将来医師になるための心構えまで教えていただき、とても勉強になりました」など好評であった。
結語
医学生のEarly exposureとして、医療型障害児施設は利用者さまのニーズを中心に多職種が専門的にどのように良いチームで関わるかという全人医療教育の場として最適と思われる。
研究協力者:天野陽子(当センター教育担当)
木下 洋(関西医科大学医学教育センター)
抄録全体を表示
-
河村 京子, 中村 由佳, 松本 孝夫, 上村 千春, 井上 佳子
2013 年 38 巻 2 号 p.
248
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
当センターは「在宅看護実習」として看護学生を受け入れ、日常生活援助の実施など2日間の見学実習を行っていたが、2012年度よりA看護学校の依頼を受け「小児看護学実習」を受け入れることになった。
対象者が小児ではない上に重症心身障害児(者)施設で本当に小児看護を学ぶことができるのか、看護学生は目標を達成することができるのか指導者は戸惑いと不安を感じた。そこで定期的に行われる実習指導者会で、学生が実習目標を達成するためにはどのような指導が効果的か話し合い、実習指導案を作成した。
方法
1.各病棟より指導者が参加する実習指導者会を定期的に開催し、情報交換を行う。
2.A看護学校側が求める実習について教員より講義を受け、実習指導案に組み入れる項目を検討する。
3.A看護学校と実習連絡会を開催し、実習指導に関する討議を行う。
4.実習中は教員と連携を密にして指導を行う。
5.実習終了時、学生と実習反省会を行い学生アンケートを提出してもらう。
結果
1.実習指導者会は6回行い、指導に関する必要な項目の検討と実習反省会や学生アンケート結果から、指導内容、指導方法を検討し実習指導案を作成した。
2.教員による講義と年3回行った学校との実習連絡会議により、現在の学校側が求める実習の進め方や、教員がどのように関わって指導したのか具体的な内容について理解することができた。
3.実習中は教員と毎日話し合う時間を持ち、互いの指導方法を確認したことで不安が軽減し指導に対して自信がもてた。
考察
教員との綿密な話し合いを重ねたことで、学生が目標を達成できる効果的で統一した指導はどのようにしたらよいか理解でき指導案作成に活かせたと考える。
結論
実習指導案の作成には指導の内容や到達目標について理解するとともに、教員と連携を密にすることで学生の指導内容や指導目標が明確となり、指導の方向性を見出すことができる。
抄録全体を表示
-
−在宅医療支援に重点をおいた医療機関中心の全県的な対応モデルの構築−
山本 重則, 石原 あゆみ, 眞山 義民
2013 年 38 巻 2 号 p.
249
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
背景
千葉県の重症心身障害児者の地域生活に係る最大の課題は、医療を必要とする重症心身障害児者に対する在宅支援サービスが不十分で、そのために在宅移行できずにPICUやNICU等に長期入院している重症心身障害児が多いという点であり、早急に改善していく必要がある。そのためには高度医療を必要とする重症心身障害児者に対する在宅支援サービスを増やすことと、現在あるサービスを効率よく利用できる連携体制を構築していく必要がある。
実施概要
2012年度、重症心身障害児者地域生活モデル事業を受託し、千葉県内全体を対象として、在宅医療支援に重点をおいた医療機関中心の全県的な対応モデルを構築して、種々の事業を計画・実施した。県内の大学病院・主要医療機関の小児科・新生児科、医療型障害児入所施設、重症心身障害児者を対象にした在宅診療所・在宅訪問看護ステーション・地域歯科診療等の医療機関ならびに福祉施設、特別支援学校、千葉県重症心身障害児(者)を守る会、千葉県、千葉市(政令指定都市)、船橋市・柏市(中核市)の行政に参加を呼び掛けて、「千葉県重症心身障害児者地域生活支援ネットワーク協議会」を発足させた。その中で高度医療を必要とする重症心身障害児者に対する在宅支援サービスを増やしていくことと、現在あるサービスを効率よく利用できる連携体制を構築することを目指した。ネットワーク協議会を定期的に開催することにより、千葉県内全域の重症心身障害児者の地域生活向上のための連携推進の基礎を確立するとともに、医療機関現場と行政との現状認識の共通化が推進された。ネットワーク協議会参加施設の実務担当者による実務担当者会議を定期的に開催することにより、お互いの顔がわかりあえる関係の連携が強化された。これらの実務担当者が実際に連携して在宅移行の際のコーディネート・相談支援を実施することにより、個々の事例での地域生活の向上が達成された。
抄録全体を表示
-
丸山 幸一, 長谷川 桜子, 三浦 清邦, 吉田 太
2013 年 38 巻 2 号 p.
249
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
心身発達障害のある人が成人に達した際の医療支援における、医療機関の役割分担の現状と問題点を明らかにすることを目的として、当院から地域医療機関へ紹介した成人患者の医療的QOLをアンケート調査により検証した。
対象と方法
2007年度に当院から地域医療機関に紹介した、てんかんあるいは重症心身障害のある成人患者92名の保護者にアンケート用紙を郵送した。調査については当院倫理審査委員会の承認を得た。
結果
回答数は61通(回収率66%)であった。身障手帳1/2級46%、療育手帳A判定72%、両者の重複は43%であった。受診医療機関は地域基幹病院56%、一般病院18%、診療所18%であった。紹介先からの再転院が27%あり、理由は「診察をしてくれる医師がいない」「担当医がやめた」などであった。当院再受診は2人のみであった。てんかんの治療は93%が受けており、病状は「発作なし・投薬調整なし」51%、「発作あるが安定・投薬調整なし」16%、「発作あり・投薬調整あり」18%、「発作あり・投薬調整なし」3%であった。医療機関利用に関する意向は「一般診療は地域医療機関、特殊診療は専門機関」が最多であった。満足度は「満足」「まあまあ満足」が51%、「不安もあるが何とかやっている」が39%であり、「他の病院に移りたい」は2%であった。自由記載では入院・手術の受け入れ、長く診てくれる医師がいない、障害者を診る専門性を持った医師の不足、抗てんかん薬の調整、緊急時の対応等に対する内容が多かった。
考察
地域医療機関への転院については肯定的な考えが多かったが、不安要素としては入院診療、緊急時対応、てんかん治療、主治医の継続性と専門性などがあった。円滑な地域移行に必要な要素として、専門医療機関と地域医療機関との連携、障害者医療知識の普及、専門性を持った医師・医療機関に関する情報提供が挙げられた。
抄録全体を表示
-
三浦 清邦, 丸山 幸一, 長谷川 桜子, 吉田 太
2013 年 38 巻 2 号 p.
250
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
近年、重症心身障害児を中心に人工呼吸器などの濃厚な医療ケアを必要とする児が増加している。小児在宅医療が可能な医療機関がみつからず、在宅移行に支障を来している場合も多い。小児在宅医療の受け入れについて現状を把握するため、名古屋市内の医療機関に意向調査を実施した。
方法
名古屋大学医学部附属病院地域医療センターから、名古屋市医師会の了承をえて名古屋市内の全医療機関(急性期病院・精神科・美容外科を除く)にアンケートを送付した。訪問診療に対応、または往診に対応、または在宅療養指導管理に対応するサービスを外来通院患者に提供している場合を、「在宅医療に対応している」とした。在宅医療に対応可能かどうかの質問に可能と回答した医療機関には、小児在宅医療に対応可能かどうか、さらに対応可能な内容について追加質問した。
結果
送付数1,261、回収数336(回収率26.6%)で、72医療機関(21.4%)が在宅医療に対応可能と回答した。72医療機関のうち、年齢別では、1歳未満対応可能13、1歳〜就学まで対応可能23、小学生対応可能36、中学高校生対応可能44であった。最も受け入れが困難と思われる「気管切開下の人工呼吸器を装着した患者」に対しては、1歳未満対応可能6(専門診療科が内科5)、1歳〜就学まで対応可能10(8)、小学生対応可能16(10)、中学高校生対応可能17(11)であった。内科では呼吸器科を専門とする医師が半数をしめ、小学生以上になると外科を専門とする複数の医師が可能と回答した。
考察
気管切開下の人工呼吸器装着児の在宅医療についても、小児科医でなくても受け入れ可能な医療機関は存在することがわかった。地元医師会や在宅療養支援診療所連絡会などと連携をとり、特に呼吸器内科専門の医師を中心に、小児在宅への関わりを求めていくことが必要と思われる。
抄録全体を表示
-
吉田 太, 丸山 幸一, 長谷川 桜子, 三浦 清邦
2013 年 38 巻 2 号 p.
250
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
小児期発症の心身発達障害のある人に対する医療については、日頃のかかりつけ医(主に地域の開業医)、2次医療機関としての地域基幹病院、障害医療に特化した医療機関という3者の医療連携が重要と考える。その中で、一般的な急性疾患による入院を前提とした2次医療については、地域の基幹病院の受け入れに関しては未だ多くの課題を抱えている。この理由としては、基幹病院に勤務する各診療科医師の意識の問題、病院としての障害児(者)医療などに対する取り組みの温度差も関係すると考えられる。このような現状を鑑みて「地域基幹病院の実地診療医に対する障害児(者)診療に関するアンケート調査」を実施したので報告する。
方法
近隣の地域基幹病院4施設の勤務医師に対して、診療科を問わず重症心身障害児者および自閉症などの広汎性発達障害児者に対する診療経験や課題、今後求められることなどについてアンケート調査を実施した。
結果
送付数540、回収数352(回収率65.2%)、回答医師の内訳は、内科、外科、小児科、整形外科などほぼすべての診療科にわたり医師経験年数も研修医から管理者まで幅広く回答が寄せられた。多くの医師が限られた経験しか持たない中で、今後については「専門領域に関しては診ていきたい」という前向きの回答が多くみられた。必要なこととしては「障害専門医師との具体的な連携」「コメディカル・病院の理解」「普段の様子を把握している付添い人」などが上位を占めた一方で「専門医からの研修の機会提供」「メディア等による情報提供」について挙げた医師は比較的少なかった。
考察
今回のような、複数の基幹病院のほとんどすべての診療科の医師に対する障害児(者)医療に関する意識調査の報告例は稀と思われる。地域医療連携のもとに、キャリーオーバーも含めて小児期からの障害のある人々をライフステージを通じて診ていく上で貴重な資料になると考え報告する。
抄録全体を表示
-
松尾 久美子
2013 年 38 巻 2 号 p.
251
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
NICUでベッドを占拠している重症心身障害児(以下、重症児)が社会問題化した後、在宅重症児が急増し、重症児施設でNICUからの受け入れ、在宅支援の需要も増えた。そこで、県内の重症児施設で在宅支援の足並みを揃えるために、2010年、福岡県重症児施設協議会にて企画書を提出し2011年より看護管理者中心の連携会議を始めた。その中から見えてきた問題や成果を報告する。
経過
2011年の調査では、福岡県内の重症児者は、3019人。このうち在宅は1938人(64.2%)。内18歳未満は875人で在宅780人(89.1%)と多い。
始めは、重症児施設7施設と国立病院機構3施設の看護管理者で開始した。その後、訪問看護ステーション、福祉施設等が参加。しだいに基幹病院の社会福祉士、看護師の参加が増え、第10回会議では41施設の参加となり、様々な問題を討議した。
成果
1.施設間連携 2.人脈作り 3.問診表の統一
4.食事形態の表作成 5.基幹病院との共通理解
問題点
1.在宅児の受け入れ施設や開業医が極端に少ない 2.搬送問題 3.救急対応 4.訪問看護師スキル不足 5.人件費などの莫大な費用 6.家族、兄弟児問題等
考察
施設間連携は取りやすくなった。しかし、在宅支援の方向は正しいのか? 莫大な費用は? 在宅をみる開業医が少なく、個別性の高い看護など在宅誘導する際の相談支援員の必要性は高いが認知度は低い。整備が整わない中での在宅誘導は、インクルージョンではないのか? 医療的ケアも重度化している中、重症児施設の果たす役割を再検討すべきである。在宅支援強化、地域の施設職員の教育、特別支援学校職員教育等山積みである。国の施策は、医療ケアのあるなしで分けているが、医療のない重症児もいずれ医療が必要となることは明確である。今後の展望をよくみながら、重症児の小さな幸せを支援していきたい。
抄録全体を表示
-
小川 千香子, 三浦 清邦
2013 年 38 巻 2 号 p.
251
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
当院の在宅医療の現状を調べ、大学病院における小児の重度障碍児(者)の在宅医療の課題を明らかにする。
方法
2013年4月、5月に当院小児科および小児外科の外来を受診した、在宅療養指導管理料(在宅自己注射・悪性腫瘍患者指導管理料を除く)を算定した患者32人を対象とした。診療録をもとに後方視的に検討した。
結果
男13人・女19人、2013年4月時点での平均年齢は6歳11カ月(範囲:0歳1カ月〜26歳8カ月)、居住地は名古屋市内17人、名古屋市以外の愛知県15人であった。基礎疾患は、周産期異常8人、染色体異常・奇形症候群9人、その他15人であった。小児在宅医療の項目にある医療行為が必要となった年齢は新生児期23人、乳幼児期6人、学童期3人(0歳0カ月〜12歳4カ月)であった。在宅移行年齢は中央値0歳7カ月(0歳1カ月〜21歳8カ月)であった。在宅酸素療法のみ8人、非侵襲的陽圧換気1人、気管切開17人、気管切開下人工呼吸管理9人であった。経管栄養は胃瘻10人、経鼻栄養5人、中心静脈栄養2人、自己導尿3人、経皮的胆道ドレナージ1人であった。重症心身障碍児(者)は12人、超重症児に相当する患者は8人、準超重症児は7人であった。気管切開下人工呼吸器患者9人のうち在宅医と連携ができているのは5人、訪問看護ステーションの利用は8人であった。
考察・結論
当院から退院した在宅患者の医療依存度は高いが、当院からの往診、当院への軽症な感染性疾患等での入院やレスパイト入院は困難である。当院では小児在宅支援のための統合部門がなく、在宅医療については主治医または各科外来ごとの管理をしている。今後当院でも病院内はもとより地域の基幹病院や在宅医とさらなる連携を深め、患者家族と医療者双方に有用な整備を行う必要があると考えられる。
抄録全体を表示
-
井合 瑞江
2013 年 38 巻 2 号 p.
252
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
子ども専門病院に重症心身障害児施設・肢体不自由児施設が併設される当センターにおける在宅呼吸療法導入の現状について明らかにすることを目的とした。人工呼吸器を在宅で使用する必要性が生じた場合、地域医療連携室が中心となり、安全で安心した在宅生活ができるように支援体制も含め、チームで取り組んでいる。毎月開かれる在宅医療審査会での取り組みを中心に検討した。
対象
2011年4月から2013年3月までの2年間に在宅呼吸療法導入の検討を行われた36例(2011年度12例、2012年度24例)である。
結果
原因疾患は神経疾患28例、筋疾患6例、その他2例であった。うち28例が在宅へ移行、検討途中での死亡4例(うち2例は緩和的使用目的導入)、不要3例、検討中1例であった。導入された在宅人工呼吸療法はTPPV19例(8例、11例)、NPPV17例(4例、13例)であった。導入に至る入院期間は筋疾患NPPV導入は16−122日(平均51日)、神経疾患NPPV導入27−145日(平均75日)であった。
考察
2年間での変化ではNPPV症例が大幅に増加し、この傾向は今後も続くと思われた。退院までの時間が長くかかる要因として、NPPVでは導入時のインフォームドコンセントが不十分な症例があり、導入に慣れた医療者側の対応に対し、導入時説明項目のチェックリスト等の見直しの必要性が明らかとなった。また、緩和ケアの一環としての導入(院内・院外外泊)、家族の受容過程に伴う導入など目的の多様化がみられた。
抄録全体を表示
-
長嶋 雅子, 森 雅人, 門田 行史, 福田 冬季子, 野崎 靖之, 杉江 秀夫, 山形 崇倫
2013 年 38 巻 2 号 p.
252
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
小児の在宅人工呼吸器管理(HMV)の背景と現状および問題点を明らかにすることを目的とした。
対象と方法
当院に1996年から2011年まで通院したHMV児(者)37例(年齢11カ月〜23歳、中央値9歳)を対象に、疾患背景、臨床経過を診療録から後方視的に検討し、HMVの利点および問題点を介護者への調査票により評価した. 調査票回収率は68%(19/28例)であった。
結果
基礎疾患は、中枢神経疾患が25例(68%)で、神経筋疾患が9例(24%)だった。33例(89%)が重症心身障害児(者)であり、1症例に対して数種類の専門的な医療的ケアや手技を必要としていた。調査時すでに死亡していたのは9例で、全例が重症心身障害児(者)であった。死亡原因は、気管チューブ誤抜去や喀痰・誤嚥による気道閉塞などの気道のトラブルが4例、感染症3例、心不全1例、原因不明1例であった。2003年以降症例数は増加し、6歳未満で在宅移行する症例が増加していた。 HMVの利点として、家族と一緒にいられる(100%)、児の成長が得られる(79%)、介護者が納得するケアができる(74%)などが挙げられた。一方で、療育費の自己負担が大きい(79%)、レスパイト施設利用が不便(68%)、などの困難さが挙げられた。
考察
HMVは、重症心身障害児(者)の割合が高く、多数の難易度が高い医療的ケアが必要であり、管理が難しいと考えられた。HMVへ移行時には、家族に、必要な医療的ケアの手技、状態を観察する重要性を十分に教育する必要があると思われた。HMV児は、この10年で増加し、低年齢化していた。HMVは、家族にとって利点が多い反面、介護の負担が金銭的、人的に大きいと考えられた。様々な対策、制度が作られているが、HMV児の現状に促した、レスパイト施設の拡充、医療材料補助の見直しなどのサービスを検討する必要があると考えられた。
抄録全体を表示
-
和山 加奈子, 高舘 美穂子
2013 年 38 巻 2 号 p.
253
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
在宅人工呼吸療法(以下、NPPV)が必要と言われたときの家族の思いとその背景を明らかにし、家族の思いに配慮した支援とは何かの示唆を得る。
対象
A病院でNPPVの指導を受けた家族3例で子どもの年齢・性別に限定はしない。
期間
2012.10〜2012.11
方法
半構造的インタビューを行い、録音したインタビュー内容を文字化、コード化し、類似項目からカテゴリーを抽出し内容を分析した。
本研究はA病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果
【生きていてほしい】【人工呼吸器をつけるまでの葛藤】【人工呼吸器が必要であると認める】【支えが欲しいという家族の要望】の4つのカテゴリーと9つのサブカテゴリーが生成された。対象3例に共通して、気管切開を勧められたが拒否していたという事実がわかった。
考察
子どもの身体的変化が起こったときに家族は≪体調が悪化することによって子どもが死んでしまうのではないかという不安≫が強かった。同時に気管切開を勧められていたが、「声を失いたくない」「体に傷はつけない」という家族の意向に沿った≪気管切開をしなくてもいい人工呼吸器があったことの喜び≫があった。一方で≪人工呼吸器を導入することで介護負担が増えることへの不安≫もあり、気持ちの整理がつかない状態であったと考えられる。家族は、「子どもが死んでしまうのでは」という恐怖を感じながら子どもに代わって意思決定する状況になるたびに≪子どもの考えを理解してあげることができていないという自信の無さと判断に迷う苦しさ≫が強くなっていったと考えられる。
これまで、NPPV導入のために必要な介護方法に重きが置かれた支援を行ってきた。しかし、家族にとってはそれと同等以上に不安や苦しみの理解を医療者に求めていたことがわかった。家族が抱えている不安や苦しみの背景に目を向け、家族が相談しやすい環境を整えていく取り組みが、より必要であると考える。
抄録全体を表示
-
二宮 悦, 小林 拓也, 神前 泰希, 城谷 みち, 惣田 浩一, 渡邉 美保, 木島 亜依
2013 年 38 巻 2 号 p.
253
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
重症心身障害児(者)(以下、重症児)は、NICU・病棟から、医療ケアを伴って退院することが多い。しかし、在宅生活に移行してのち、医療ケアが追加になる場合、不要となる場合もある。在宅医療の立場から、この医療ケアの重・軽度化に着目した検討は少ない。
私たちは、1999年より障害児の日中一時預かりを柱とした在宅支援を行っており、医療ケアが変化するときに、家族に寄り添う機会が少なくない。今回、日中一時預かりを利用する重症児の医療ケアの重・軽度化について検討を試みた。
2003年に支援費制度が施行されて以降、日中一時預かりを行った重症児は計82名。このうち、医療ケアを有するもの62名、医療ケアのないもの20名であった。この62名中、医療ケアに変化のあったものは34名。ケアが重度化したもの26名、軽度化したものが3名、重度化ののち軽度化したもの1名、注入経路の変更(胃・腸瘻造設)18名であった。重度化の内訳は、経管栄養導入12例、気管切開施行3例、在宅酸素導入5例、人工呼吸器(NIPPV)導入2例、下咽頭挿管開始5例、導尿開始4例であった。軽度化の内訳は、経管栄養中止1例、気管切開閉鎖1例、酸素中止3例であった。ケアの重度化の年齢は就学前、小学校高学年年齢、高校生年齢にピークを認めた。一方、軽度化の年齢は、就学前に集中する傾向がみられた。胃・腸瘻造設については、年齢分布に特徴は見られなかった。特別支援学校の多くは、医療ケアのある児を受け入れているが、新たな医療ケアの導入、医療ケアの重度化には、時間と手続きが必要となる。単独登校が可能になるまでには入院期間、学校への付き添いなどを含め、長い期間がかかる場合が多く、この間の在宅支援、早期単独登校再開への支援は必要不可欠である。私たちの施設では在宅期間中、預かり回数を増やすこと、特別支援学校への情報提供等を試みている。
抄録全体を表示
-
−家族のケア力向上を目的としたチーム医療連携−
木下 靖子, 久保田 雅美, 山口 昌子, 上野 美保, 山本 正仁, 成宮 正朗
2013 年 38 巻 2 号 p.
254
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
近年、地域連携室などが設置される病院が増え、NICUでも早期から退院調整を考えるようになってきている。しかし、超重症児は退院調整が困難なケースと捉えられ、在宅へ移行できないケースが少なくない。今回、低酸素性虚血性脳症により重度の神経学的な後遺症が残った児に関わった。この児の在宅移行が可能になるためには、24時間対応の呼吸器管理、吸引、経管栄養、導尿、浣腸、全介助での日常生活のケアなどを行うことが必要であった。われわれNICUの看護師は、超重症児の在宅移行をサポートした経験がなかったため、手探り状態から院内外の多職種との調整、連携を行った結果、在宅移行が実現した症例を経験したので報告する。
症例
児は、在胎週数32週で出生した女児である。出生体重2038g、アプガースコア1分値1点5分値2点、JCS300。重症新生児仮死で低酸素性虚血性脳症となり、自発呼吸はなく、人工呼吸器管理中である。退院後も24時間の医療ケアが必要不可欠であった。
結果・考察
児の状態が安定し、在宅に向けた家族の意志決定が確認され、在宅移行に向けた具体的な支援を開始した。出生から1歳5カ月経過し在宅移行となった。在宅移行を進める上で、児や家族に無理が生じない医療ケア、在宅サポートを考えることが大きな課題となった。そこで、NICU看護師をはじめ、新生児集中ケア認定看護師、訪問看護師、ソーシャルワーカーなど、それぞれの職種が特性を生かし、家族の身体的、精神的、経済的面での負担をできるかぎり少なくするために試行錯誤した。本症例は、必要な職種と役割を分担し退院支援を行い、家族のケア力を育てることで在宅移行につながったと考える。NICU看護師は、新生児の救命に携わるとともに、急性期から退院に向けた支援を行う必要がある。NICU内のケアだけにとどまらず、在宅医療を見越したケアを構築していく必要があると考える。
抄録全体を表示
-
谷口 敬道
2013 年 38 巻 2 号 p.
254
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
重症心身障害児(者)の在宅生活を支えているのは、家族の献身的な養育である。特に母は、常に子の呼吸音に耳を澄ませ、タイミングの良い吸引を家事の傍ら行う。また、夜間の就寝時においても同様であり母の疲労は日常的なものになっている。このような中で、筆者は、就寝中に人知れず静かに息を引き取る事例を数例経験した。家族にとっては予期せぬ出来事である。そこで、心拍数・呼吸数を測定しそれらの測定値が一定条件以下を示したとき、外部に発信する機器の必要を感じ、2002年より装置の開発を行ってきた。心電計などを在宅生活に持ち込み24時間モニタリングすることでこの問題を解決することは可能であるが、その必要性は限られている。また、家族は子どもへの身体拘束を避けたいと考えている。
2002年度から3年間は、高分子圧電薄膜素子を用いて開発を行った(アステック(株))。マットレス上にセンサをシート状に配置しその上に寝かせることで心拍数・呼吸数を測定する装置である。無拘束状態における測定は可能となったが脊柱の強い変形のために背面の全面接地ができない事例などの測定は困難であった。
2010年度より株式会社タニタの協力を得ながら本目的に叶う機器の開発に向けた実証研究を行っている。同社のスリープスキャン(SL-501®)は、眠りを測定する装置であり30cmのマットレスの下にセンサを敷いても測定可能という特長がある。3回の改良が加わり、現在は、無線Wi-Fiを通してデータを取得し各家庭、研究機関などのPCモニタ上にリアルタイム表示することが可能となった。また、測定値によりアラートを特定のメールアドレスへ自動的に発信する機能も有している。実証研究は、1家族を対象に2013年2月より開始した。家族からは、睡眠中はもとより他の部屋で家事をしているときなどの不安軽減につながるなどの意見を得ることが出来た。
今後は、事例数を増やし実証研究を推進していく予定である。
抄録全体を表示
-
木原 健二, 河崎 洋子, 今西 宏之, 宇宿 智裕, 八木 麻理子, 水戸 敬, 高田 哲
2013 年 38 巻 2 号 p.
255
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
在宅重症心身障害児(者)(以下、重症児者)では機能障害が重度な者ほど夜間に多くのケアを必要とし、介護負担は介護者の睡眠に影響を及ぼす。近年、在宅重症児者では障害が重度化する傾向にあるが、介護者の睡眠状況についての報告は少ない。今回、在宅重症児者の重症度と介護者の睡眠状況の関係について検討した。
対象および方法
重症心身障害児(者)施設に外来通院する重症児者53名(平均年齢16.0±9.9歳)およびその介護者53名(平均年齢45.7±9.2歳)を対象とした。介護者の睡眠状況については平均的な就寝時刻と起床時刻(睡眠時間)・子のケアのために夜間中途離床する回数・5段階スケールによる介護者の熟眠感の自己評価を自記式のアンケートにより調査し、子の運動機能(GMFCS)と介護者の睡眠状況の関係をKruskal-Wallis検定を用いて検討した。またGMFCSレベルⅤの群33名について、医療ケア(経管栄養・口鼻腔吸引・気管切開・夜間の人工呼吸器使用)の有無により介護者の睡眠状況に差異が生じるかをMann-Whitney検定を用いて検討した。
結果
GMFCSレベルⅤの群の介護者はレベルⅢの群と比較して睡眠時間が短縮し( p =0.02)、夜間中途離床する回数が増加していた( p <0.01)。口鼻腔吸引を必要とする群の介護者は必要としない群と比較して夜間中途離床する回数が増加しており( p <0.01)、熟眠感が低下していた( p =0.01)。
考察
GMFCSレベルⅤの重症児者では夜間の体位変換の必要性が高く、これが介護者の睡眠状況の悪化に影響していると考えられた。また口鼻腔吸引を要する重症児者の介護者はケアのため不定期に中途離床することが必要であり、これが熟眠感の低下に影響していると推察された。介護者の睡眠状況を改善するためには、介護者にポジショニング等のケアを指導して重症児者本人が夜間安楽に過ごせる状態を維持することや、夜間を含めたレスパイトケアの充実が重要であると考えられた。
抄録全体を表示
-
玉置 ふみ子, 堂脇 千里, 島邑 眞理子, 西田 加代子, 福本 良之, 蘆野 二郎, 服部 英司
2013 年 38 巻 2 号 p.
255
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
地域で生活する医療ケアを必要とする児の母親の疲弊(疲れ)の改善は医療者にとっても大きな課題である、母親の疲弊の軽減は、結果として児の利益に結びつく。母親が自由な時間を確保するには「短期入所」制度があるが、現状では自由に予約を得るのが困難であり、児を慣れていないスタッフに任せる不安感も見られる。また、呼吸器や多くの医療機器を持ち出しての施設への移動は容易ではない。通常の訪問看護と短期入所の間隙を埋め、母親の疲弊を軽減する目的にて、ノーマライゼーションの観点から、「特別」を可及的に除去(自由時間のバリアフリー)するための「在宅レスパイト」(訪問看護によって母親に自由な時間=小休止を提供)を試行したので報告する。
目的
母親の疲弊を軽減するとともに自由時間がないという母親の「特別」な状況を減らし、地域で患児と家族がより「普通」に活きるための有効な支援の方法を開発する。
対象と方法
通常の訪問看護は、1回につき1〜2時間の訪問時間であるが、3時間以上(8時間以内)に延長した訪問看護を「在宅レスパイト」とした。「核家族」「呼吸器」「兄弟」「母親の不安」の4項目をスクリーニング基準として、看護師が必要性を判断して試行対象を選択した。計14人に試行し、開始時の患児の年齢 は0歳から10歳であった。
結果
在宅レスパイトの開始時期は、患児の退院後1年以内が10人を占めた。14人中5人が試行期間中に原疾患等が原因で死亡、1名が施設入所に移行した。実施中に事故はなかった。6人は現在も在宅レスパイトを継続中である。利用回数は月1回から8回であり、スクリーニング基準に合致したケースでは再利用率は100%となった。
考察
母親が自由に使える時間を提供することで、閉塞感や孤立感を伴った疲弊感を軽減することができた。自由時間がないという母親の「特別」な状況を減らし、ノーマライゼーションに寄与すると考えられた。
抄録全体を表示
-
長尾 亜祐美, 木村 登志子, 出口 裕子, 中村 千亜紀, 石原 道子, 中澤 真由美, 川又 協子
2013 年 38 巻 2 号 p.
256
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
当事業部は、東京都事業として特別区の重症心身障害児へ週一回、3時間程度の訪問看護を年間約250人に実施。“療育支援”を看護の柱とし、5歳児は“学校(特別支援教育)につなげること”が目標である。
研究方法
2013年4月に就学した重症児22人の担当看護師による生活支援シート(5歳までの各年度・就学前年度の月毎記録)とアンケート調査 (概要と看護内容)から、就学に向けた生活支援、特性、看護について分析した。
結果
1.対象児:大島分類1=18人2=1人3=1人4=2人、超重症児10人・準超重症児6人・非該当児6人
2.児童発達支援事業:通所“あり” 16人(73%)、“なし” 6人(超3・準2・非1)
3.就学先:全員が特別支援学校で、通学籍13人(59%)・訪問籍9人(41%)である。通学籍の超重症児5人・準超重症児2人は全員通所経験があり、非該当は全員通学籍である。しかし、通学バスに乗れた児は3人で、他全員家族送迎である。
4.学校・コーディネーターとの連携:超重症児は同行など全員がなんらかの連携を取っている。準超重症児は5人(83%)が学校と連携を取っている。非該当児は通所先との連携で看護師からの連携はない。
5.看護:1)児への関わり:看護内容は体調管理、成長・発達支援。就学をイメージして座位の時間を増やす、経口摂取への努力もある。2)家族への関わり:多くが母に寄り添う・学校訪問や面接同席の経験を共有すると回答。関係機関と連携。3)看護師として:重症度や家族力の差、経験により看護師の揺れに差がある。家族が児の成長を喜ぶことに共感。就学支援の経験が “寄り添う支援”の学びとなっている。
考察・結論
医療ケアが多い在宅重症児は、看護師がプライマリーとして母に寄り添いながら体調管理、発達・家族支援を行っている。療育支援を掲げる重症児の訪問看護は、社会の一員となる教育につなげる大きな役割がある。しかし、障害受容や母性や父性を育てる支援等に課題がある。
抄録全体を表示
-
小黒 範子, 清水 純
2013 年 38 巻 2 号 p.
256
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
当院施設部には、旧肢体不自由児施設である病床数30床の医療型障害児入所施設がある。18歳以下の長期入所児と同じ病棟で障害児のレスパイト事業(短期入所・日中一時支援)を実施している。2009年からは、人工呼吸器装着児の受け入れを開始した。当院における事業の現状をまとめ課題を検討する。
対象と方法
2010年度〜2012年度(4月〜翌年3月)利用実績等をまとめた。2012年度の利用実績の詳細、利用者の診断名と医療的ケアの内容などを診療録や看護記録等から調査した。
結果
3年間の利用延べ日数は、平均916日/年(内短期入所は426日/年、日中一時は490日/年)であった。2012年度では、人工呼吸器装着児の利用が126日(15%)、気管切開児が293日(35%)、その他胃瘻、経鼻経管栄養、導尿などケアの子では67日(8%)であり、全体で58%の利用児に医療的ケアが実施されていた。利用児の年齢は1歳〜18歳であった。診断名は、脳性麻痺、神経筋疾患、染色体異常、多発奇形症候群など多様であった。主治医が当院であるのは17%のみで、他の83%は大学病院や地域の総合病院であった。利用中の問題点(3年間)としては、発熱による利用中止がのべ9回、気管切開児が呼吸不全の増悪のために救急搬送、頻回の気管カニューレ自己抜去、人工呼吸器回路等のトラブル等があった。
考察
レスパイト事業は平均すると一日に約2.5人の利用であったが、実際は日毎に人数のばらつきがあり、短期入所は休日に希望が多い傾向がある。長期入所児の看護・保育業務とのバランスをとる必要がある。特に人工呼吸器装着児はそれぞれの体調管理に合わせた環境配慮をし、異なるケアの方法があるので、看護師全員が共有できるように詳細なマニュアルを作成しながら、家族との信頼関係を築いていくプロセスが必要である。今後も、他の医療機関と協力して県内の障害児の在宅支援としてレスパイト事業を展開していく必要がある。
抄録全体を表示
-
小林 拓也, 神前 泰希, 二宮 悦, 惣田 浩一, 城谷 みち, 渡邉 美保, 木島 亜依
2013 年 38 巻 2 号 p.
257
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
2012年、自立支援法改正に伴い医療型特定短期入所制度が開始された。無床診療所における重症心身障害児者(以下、重症児)の日中一時預かりを制度化したものである。一旦支援費制度で制度化されたが、自立支援法の制定とともに消滅し、今回の改正に伴い復活した。医療ケアの高度な在宅重症児の支援には有用な制度であるが、自治体に広く周知されておらず、導入を検討しながら実現できないという事例も耳にする。
私たちは、1999年開業当初より障害児の日中一時預かりを開始し、支援費制度では宿泊を伴わない短期入所、自立支援法では日中一時支援制度で施設運営を行い、2012年5月より医療型特定短期入所制度を導入した。その結果、採算性が向上し、事業の継続性が担保された。今回この制度の採算性と医療圏につき検討を行ったので、制度導入を検討している諸氏の参考になればと考え報告する。
私たちの運営する重症児日中一時預かり施設は定員20名、2013年4月1日現在登録者数45名であり、一日に10から15人くらいの重症児が利用している。施設と自宅・特別支援学校間の送迎も行っている。曜日を決めての定期利用が38名と多く、さらに保護者の就労支援のため毎日預かりをしているケースもある。
45名の登録者のうち、施設のある金沢区が31名。他の14名は周辺区に居住しているが、その大半は片道30分以内に居住している。この30分が重症児を預けに連れて来る限界と考えられる。片道30分の地域人口約40万人が定員20人に対しての医療圏と想定できる。一方、施設定員10人、平均稼働率50%であれば、6000万円の年収が見込め、職員の人件費を差し引いても医師一人の収入は確保できる。定員10人であれば20万人の人口が医療圏と設定できる。片道30分以内に20万人の人口があれば、外来診療なしで、医療型特定短期入所制度での重症児日中一時預かりの施設運営が可能と考えられる。
抄録全体を表示