日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
38 巻, 2 号
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前付け
  • 2013 年 38 巻 2 号 p. H2
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
  • 下泉 秀夫
    2013 年 38 巻 2 号 p. 179
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    このたび、第39回日本重症心身障害学術集会を北関東の宇都宮で開催させていただきます。多くの学会員の皆様、またさまざまな分野の皆様から263演題もの多くの演題の応募をいただきました。心から感謝申し上げます。また3つのシンポジウム、2つの特別講演、教育講演、3つのランチョンセミナーと欲張ったプログラムのため、日程が忙しくなり参加者の皆様にはご迷惑をおかけしますがお許しください。 故、大谷藤郎先生(元日本重症心身障害学会名誉会長、国際医療福祉大学初代学長)は、「病む人も、障害のある人も、元気な人も、互いに互いを尊敬しあいながら『共に生きる社会』の実現を目指した教育を行う」という言葉を国際医療福祉大学の理念としました。 本学会では、大谷先生の遺志を継ぎ、『重症児者と共に生きる−重症心身障害児医療における職種間連携−』をテーマに、これからの重症児の医療、支援を考えていくプログラムとしました。1日目は、髙嶋幸男先生の教育講演「重症心身障害の脳を理解しリハビリテーション、療育を行う」、シンポジウム「重症心身障害児(者)へのこれからのリハビリテーション」、さらに、日本で最も注目されている科学技術であり、すでにリハビリテーション、介護に応用が始まっているロボットスーツHALの開発者である山海嘉之先生に特別講演「少年のころからの夢とロボットスーツHALの開発、最先端技術の重度障害児者への応用」をお願いしました。2日目は、2つのシンポジウム「災害時の重症心身障害児(者)への支援」「地域生活重症心身障害児者本人、家族、きょうだいへの支援」と、児玉浩子先生による教育講演「重症心身障害児(者)への経腸栄養剤・治療フォーミュラ使用時の落とし穴」、現在、重症心身障害児者の視覚機能とその評価法について、工学系の先生方と共に精力的に研究を進めている新井田孝裕先生の特別講演「多職種連携による重症心身障害児(者)の客観的視機能評価法の確立と普及」を通して「重症児者と共に生きる社会」の実現のための職種間連携について考えていきたいと思います。 一般演題の発表は、口演会場3会場、ポスター会場6会場と多くの会場に分かれてしまいましたが、ポスター発表は、展示入れ替えなしで2日間継続して展示いたします。発表時間は、口演、ポスターとも発表6分、質疑応答3分と長くとりました。座長は多くの分野の方にお願いしました。発表が、発表者にとって大きな自信となり、ますますの実践、研究の発展につながり、また、参加者全員に発表内容が共有され、明日からの仕事において新たな気づきが得られるよう、ぜひ建設的で活発な議論をお願いいたします。 今年のファッションショー「喜績織(きせきおり)×(作る人々+使う人々+それをとりまく人々)=生かし生かされる社会に向けて」では、多屋淑子先生と栃木県壬生町にある「手織り工房 のろぼっけ」に協力いただきました。障碍者の方が織った服とモデルの障碍児のコラボレーションです、例年以上に楽しいショーになるよう準備しています。ご期待下さい。 旧交を温める方も、初めて会った方も、宇都宮名物のカクテルと餃子でのどとおなかを満たしながら、語り合っていただき『共に生きる』仲間の絆を強めていただければ幸いです。会場隣の栃木県庁本館15階の展望ロビーからは日光連山や天候が良ければスカイツリーが見渡せます、学会の合間に足をお運びください。また世界遺産・日光、ロイヤルリゾート・那須まで1時間です。宇都宮は、東京駅から新幹線で1時間弱です、ぜひ多くの方の参加をお待ちしております。 最後になりましたが、本学術集会は「読売光と愛の事業団」のご後援により開催されますことを記し、感謝の意を表します。継続的なご厚情に感謝申し上げます。 第39回日本重症心身障害学会学術集会会長 国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園 下泉 秀夫
  • 2013 年 38 巻 2 号 p. 180-181
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
  • 2013 年 38 巻 2 号 p. 182-183
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
  • 2013 年 38 巻 2 号 p. 184-185
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
  • 2013 年 38 巻 2 号 p. 186-188
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
  • 2013 年 38 巻 2 号 p. 189-222
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
特別講演1
  • 山海 嘉之
    2013 年 38 巻 2 号 p. 223
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    略歴 山海 嘉之(さんかい よしゆき) 1987年3月 筑波大学大学院(博)修了 学位:工学博士(筑波大学) 日本学術振興会特別研究員、筑波大学機能工学系助手、講師、助教授、米国Baylor医科大学客員教授、筑波大学機能工学系教授を経て現在、筑波大学大学院システム情報工学研究科教授、筑波大学サイバニクス研究センターセンター長。CYBERDYNE(株)CEO。 日本栓子検出と治療学会会長、日本ロボット学会フェロー、理事、評議員、欧文誌Advanced Robotics理事、委員長、医学雑誌Vascular Lab. Executive Editorなどを歴任・担当。筑波大学「次世代ロボティクス・サイバニクス」学域代表。内閣府 FIRST:最先端サイバニクス研究プログラム研究統括(中心研究者)。CYBERDYNE(株)創設者/代表取締役CEO。 Cybernetics, Mechatronics, Informaticsを中心として、脳・神経科学、行動科学、ロボット工学、IT技術、システム統合技術、生理学、心理学などを融合複合した人間・機械・情報系の新学術領域「サイバニクス」を開拓し、人間の機能を補助・増幅・拡張する研究を推進。 主な研究業績として、サイバニクスを駆使した装着型のロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)を世界で初めて開発し、2004年6月には研究成果で社会貢献すべく“HAL”の開発/製造を行う大学発ベンチャー「CYBERDYNE(サイバーダイン)」を設立。ネットワーク医療、次世代医療福祉システムの研究開発も精力的に推進している。 2005年11月 「The 2005 World Technology Awards大賞」 2006年5月ならびに2009年2月 首相官邸での総合科学技術本会議にて、ロボットスーツを中心とした       人支援技術について説明・ディスカッションを行い、当該医療福祉分野の推進が閣議決定 2006年10月 「グッドデザイン賞金賞」 2006年11月 「日本イノベーター大賞優秀賞」 2007年 6月 「経済産業大臣賞」  2008年1月 「文部科学省ナイスステップな研究者」 2009年1月 「2008年日経優秀製品・サービス賞最優秀賞」 2009年5月 「IEEE/IFR Invention & Entrepreneurship Award大賞」 2009年5月 「平成21年度全国発明表彰 “サイボーグ型ロボット技術の発明” 21世紀発明賞」 2010年5月 「日経 Change Makers Of The Year 2010」 2010年12月 「Entrepreneur of the year 2010」(チャレンジング・スピリット部門大賞) 2011年2月 「Netexplorateurs of The Year 2011」(フランスユネスコ本部) 2012年3月 「Capek Award」(INNOROBO) 他多数
特別講演2
  • 新井田 孝裕
    2013 年 38 巻 2 号 p. 224
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    運動障害と知的障害を併せもつ重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は、視覚刺激に対する応答が不明瞭であり、実際にどこまでどのように見えているのか正確に捉えることがきわめて難しい上に、強度の屈折異常や斜視・弱視、眼球振盪などの眼疾患を合併している場合が多い。このような重症児(者)の見え方を客観的に評価することは、療育の質を高める一つの重要なポイントであるが、評価は対象者の体調に留意し、安定する姿勢を保ち、慣れ親しんでいるスタッフの同伴と安心できる環境下で短時間に行う必要がある。このため、視覚専門職である視能訓練士、眼科医と療育に携わっている作業療法士、言語聴覚士、小児科医が専門性を活かして連携し、情報を共有しながら的確な総合判断のもとに共同で評価を行うことが重要かつ不可欠と考えられる。講演ではこれまで医療型障害児施設を中心に、工学系研究者の協力の下に取り組んできた「多職種連携による重症児(者)の視機能評価」の研究成果とその重要性についてお話しする。 1.慣用的手法を用いた視機能評価として眼位と他覚的屈折検査、絵視力標や縞視力標(TAC)を用いた定量的視力評価、定性的評価として視運動性眼振(OKN)の誘発、視覚刺激による反射性瞬目、光刺激時の体動や表情の変化(光覚反応)、対光反射の観察を施設入所者50名で実施した。眼位は外斜視を有する者が約80%と高率で、屈折異常は近視と乱視を有する者が多く、2D以上の乱視を約半数に認めた。強度の屈折異常では眼鏡装用を積極的に試みている。定量的視力評価は30名で実施でき、視反応は18名で認められたが、2名は光覚反応と対光反射が確認できず、視覚の活用が困難と判断した。一方、重症児(者)ではしばしば上位中枢に異常があると随意性サッカードの開始が阻害され、見ようとする対象物に視線を向けることができない。一見視覚を利用せずに対象物に上手に手を伸ばすことができる症例では、眼球運動失行が隠れている場合があり、ビデオを供覧する。 2.客観的視機能評価には主に1)ビデオ解析、2)視覚誘発電位(VEP)、3)視線解析装置と近赤外分光法(NIRS)を用いた。これらの評価法は療育者や験者の主観的観察結果に基づいてきたこれまでの重症児(者)の応答性を客観的に評価し共有できる点で優れている。1)瞼裂幅の時間的推移や瞬目率は覚醒レベルや視覚的注意を反映する。本研究で開発した「顔映像観測による瞬目自動計測法」は汎用のビデオカメラで録画した顔映像を解析することで対象者の瞼裂幅や眼球位置の経時的変化を数値で示すことができる。2)VEPは固視の保持が難しい場合、単調な光刺激やパターン反転刺激では波形の再現性がなかなか得られない。今回、興味を引くキャラクター画像の反転刺激でVEPを抽出し、従来波形ときわめて類似していることが判明した。3)視線解析装置(Tobii社製TX300®)は視線の動きを非接触に300Hzの時間的分解能で記録できる上に、モニタ上にTACやOKN誘発刺激、興味を引く幼児番組の動画を提示することができる。TACは左右どちらかに提示した縦縞模様を選択し注視するための随意性サッカードの有無を肉眼的に判定するが、運動の軌跡や潜時を計測することで客観的な評価が可能になる。OKNの誘発経路には皮質を経由する短潜時の間接経路と脳幹・小脳のみを経由する長潜時の直接経路があり、視診では両者を判別できないが、運動の潜時や利得を解析することで、皮質を経由しているか否かを判定することができる。幼児番組等の動画を課題にして注視点と注視時間を解析することで、動画の中のどの部分にどの程度関心を示しているのかを把握できる上に、NIRSとの同時記録で課題に注意を向けているか否かを評価することができる。 謝辞:本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤(B)22330260の助成を受けて実施した。 略歴 1984年 北里大学医学部卒業、北里大学病院眼科研修医 1986−88年 都立神経科学総合研究所(岩井榮一主任研究員)で神経解剖学を習得 1989年 眼科専門医取得 1990年 医学博士取得、北里大学医学部眼科学教室 助手 1991−93年 米国ヴァージニア州立医科大学生理学教室(B Stein教授)に留学 1994年 東芝林間病院 眼科医長 1996年 北里大学 医療衛生学部 講師 1998年 北里大学 医療衛生学部 助教授 2002年 国際医療福祉大学 保健医療学部 教授、視機能療法学科長 国際医療福祉大学病院 眼科専門外来(小児眼科、神経眼科)担当 2005年 国際医療福祉大学 図書館長兼任 現在に至る
教育講演1
  • 髙嶋 幸男
    2013 年 38 巻 2 号 p. 225
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害はいろいろの原因によって起こり、脳の病理も軽重あり、症状も多彩である。療育の領域では、個々の障害児をより深く理解し、より健やかな生活が維持できるように、弛まない進歩が期待される。新生児医療では、如何にして脳障害を防止するかを考えて、日々の保育が行われるが、障害児でも、障害のない脳機能を如何にして守り、発達させるかも重要である。こころを知ることは難しいが、脳の良いところを客観的に知り、良い機能を生かして生活活動を伸ばすことはできないかと思う。 障害児者の脳機能を理解し、生活に生かすために、1)脳の発達を理解し、2)重症心身障害の脳病理とその原因を知り、3)発達期脳の可塑性、代償を考えて、4)脳のよいところを探し、5)よい脳機能を知る。そして、6)よい脳機能を守り、伸ばす、の順に考えてみたい。 脳の発達は幼若なほど急速であり、傷害の時期によって、脳の後障害は異なった特徴がある。また、脳低酸素症、頭部外傷などのように、原因によっても障害が異なる。傷害を免れた脳機能にも特徴がある。 脳の傷害病巣を病理学的に観察すると、病巣周囲には修復とともに再生現象が見られ、長い間、再生する細胞が増加し、代償機能が働いていることが分かる。さらに、脳は神経ネットワークを形成して機能しているために、それを介して遠隔の神経細胞にも代償や活性化がみられる。脳の可塑性は未熟なほど強いが、成人でもみられる。 最近では、脳の形態画像の検査法は急速に進歩しており、さらに、脳の機能画像や機能生理検査の発展もめざましく、臨床に応用されている。機能的MRI、SPECT、PET、大脳誘発電位など、いろいろあるが、ベッドサイドでも、近赤外線分光測定(NIRS)や脳波解析が応用されており、脳の可塑性、脳機能の代償を含めて、脳機能の可視化への進歩が期待される。 このような脳の細胞や組織の修復・再生・代償の機構を臨床神経学的およびリハビリテーション学的に、療育の現場でも、より有効に活用できるように発展することが望まれる。 略歴 髙嶋幸男 現職 柳川療育センター施設長        国際医療福祉大学大学院教授        柳川リハビリテーション学院学院長 1964年3月 九州大学医学部医学科卒業 1967年1月 九州大学医学部病理学教室にて、脳病理研究 1977年1月 トロント小児病院で、小児脳病理研究 1978年4月 九州大学医学部小児科講師 1979年2月 鳥取大学医学部助教授(脳神経小児科学) 1987年10月 国立精神・神経センター神経研究所部長(発達障害関連) 1998年10月 国立精神・神経センター武蔵病院臨床検査部長 2000年4月 国立精神・神経センター神経研究所長 2004年8月 柳川療育センター施設長、国際医療福祉大学大学院教授併任、2008年4月より、柳川リハビリテーション学院学院長併任
教育講演2
  • 児玉 浩子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 226
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    近年、臨床現場で栄養管理の重要性が認識されている。それに伴い重症心身障害児(者)においても、経腸栄養剤や治療ミルクなどを使用する機会が増えている。また、難治性てんかんの治療にケトンフォーミュラが使用されている。しかし、その中には必要な必須栄養素が十分含まれていないために、欠乏症が発症することがある。欠乏症としてビオチン、カルニチン、銅、セレン、ヨウ素が多く報告されている。エンシュアリキッドにはカルニチン・セレン・ヨウ素、エレンタールとエレンタールPにはカルニチンとセレン、ラコールにはカルニチンとヨウ素がほとんど含まれていない。また、ケトンフォーミュラ、先天性代謝異常症用ミルク、牛乳アレルゲン除去ミルクにはビオチン・カルニチン・セレン・ヨウ素、ラクトレスミルクにはセレン・ヨウ素がほとんど含まれていない。 ビオチンは水溶性ビタミンで、カルボキシラーゼの補酵素であり、ビオチン欠乏でカルボキシラーゼ活性が低下し、糖新生、脂肪酸代謝などを障害する。欠乏症の主な症状は、がんこな皮膚炎、発育不全、筋緊張低下などである。現在、我が国では、血液・尿中ビオチンを測定することは難しい。診断には、尿中有機酸分析で3−ヒドロキシイソ吉草酸の増加が有用である。治療は、ビオチン(1~2mg/日)を投与する。 カルニチンは、脂肪酸代謝に関与している。カルニチン欠乏の症状・所見は、非ケトン性低血糖、血清アンモニア高値、ライ様症候群、心筋症、横紋筋融解などである。カルニチン欠乏は、ヒポキサンチン基含有抗菌薬(フロモックス、メイアクトなど)やバルプロ酸の投与でも起こりやすい。したがってこれら薬剤と低カルニチン含有量経腸栄養剤を使用するときは特に注意が必要である。診断は血中カルニチン低値で行う。治療はカルニチン(20~30mg/kg/日)を投与する。 銅は、経腸栄養剤などに必要量は含まれている。しかし、亜鉛の過剰投与で、銅の吸収が障害され、銅欠乏になる。銅はチトクロームCオキシダーゼなどに不可欠な元素で、銅欠乏で銅酵素活性が低下する。欠乏症の症状・所見は、血清セルロプラスミンと銅の低下、白血球減少、貧血、頭髪異常、骨粗しょう症、筋緊張低下などである。亜鉛と銅の投与バランスは10:1が望ましいとされている。投与バランスを改善すると銅欠乏も改善する。 セレンは、グルタチオンペルオキシダーゼや甲状腺ホルモンであるT4をT3に変換するヨードチロニン脱ヨウ素酵素などの構成成分で、セレン欠乏で活性が低下する。セレンが欠乏すると、心筋症、不整脈、筋肉痛、免疫能低下、爪の白色変化が生じる。血清セレン低値で診断が可能である。現在、セレン製剤は市販されていない。セレンを含むテゾンの使用、または院内で病院薬局製剤を参考に作成する。 ヨウ素は甲状腺ホルモンの構成成分で、ヨウ素欠乏で甲状腺機能が低下する。症状・所見は、甲状腺腫、血清T3およびT4の低値、TSH高値とともに、甲状腺機能低下症の症状・所見を呈する。診断は尿中ヨード低値で行う。治療はヨウ素製剤(ヨウ化カリウム、ヨウ素レシチン)を投与する。 重症心身障害児(者)は、様々な障害を持っており、上記に示した症状が発症しても見逃される恐れがある。上記に示した経腸栄養剤や治療フォーミュラを使用する場合は、含有量が少ない栄養素の欠乏に注意が必要である。一方、近年、濃厚流動食が多く市販されている。食品であるため改良が比較的容易で、微量栄養素が適切に含まれているものが多い。また、最近では、小児に適した流動食(アイソカル1.0ジュニア)も市販されている。 経腸栄養剤を使用する場合は、製剤の選択には十分配慮することが大切である。 参考文献:児玉浩子ら.特殊ミルク・経腸栄養剤使用時のピットホール.日児誌116:637−54.2012. 略歴 現職 帝京平成大学 健康メディカル学部教授、健康栄養学科長 1970年大阪大学医学部卒業、大阪大学小児科助手、自治医科大学小児科講師、帝京大学小児科教授を経て、現職。帝京大学客員教授、東京大学医学部非常勤講師併任 専門:小児栄養・代謝・内分泌、特に微量元素の代謝・栄養 日本学術会議連携会員、日本医師会学術企画委員、厚生労働省「日本人の食事摂取基準策定委員会」委員 日本微量元素学会理事、日本臨床栄養学会理事、日本先天代謝異常学会監事、日本小児栄養・消化器病肝臓学会運営委員 小児科専門医、日本小児神経学会名誉会員、小児神経科専門医、内分泌代謝科(小児科)専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科指導医、日本臨床栄養学会認定臨床栄養指導医
シンポジウム1:重症心身障害児(者)へのこれからのリハビリテーション
  • 栗原 まな
    2013 年 38 巻 2 号 p. 227
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害施設には、従来から理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などのリハビリテーションスタッフの関わりがあり、入所者だけでなく、外来通院者にも頼りになる存在となっている。リハビリテーションの分野では日進月歩、新しい技術の導入がみられるが、重症心身障害の分野にはその恩恵がなかなか得られていないようである。そこで今回は、重症心身障害児(者)に向き合うスタッフにとってリハビリテーションの新しい知識・技術の広がりが得られるようなシンポジウムを企画してみた。髙嶋幸男先生の「重症心身障害の脳」の講演と、山海嘉之先生の「ロボットスーツ、最先端技術」の講演を念頭に置き、それらの講演内容の実践といった形での一連の流れを作りたい。はじめに小児神経専門医およびリハビリテーション専門医としての観点から、栗原が当センター内の重症心身障害施設(七沢療育園)などの診療を通した全般的な話を行う。次いで奥田PTから「自ら動く」というテーマでThe SPIDERを用いた理学療法の話を、岸本OTからは対象児(者)の生活に寄り添い、健康増進維持・楽しみのある日常生活活動・多職種の協業を実践する作業療法の話をしていただく。最後に高見STからは認知・コミュニケーション支援と摂食・嚥下支援について歴史的経緯も含めて話していただく。 重症心身障害に対するリハビリテーションを行うにあたっては、まずはじめに「医療」がある。近年、重症心身障害者においても高齢化の問題が生じてきており、呼吸器疾患、神経疾患、消化器疾患など従来からの疾患に加え悪性腫瘍や脳血管障害への対応が求められるようになってきている。七沢療育園長期入所者の平均年齢は約50歳である。医療と並行して、機能の改善、機能低下の予防、介護量の軽減への対応を行う。七沢療育園に長期入所した延べ95例のうち機能退行がみられたのは31例で、退行がはじまった年齢の平均は14.4歳であった。機能低下の原因は、痙縮・過緊張・関節拘縮・側彎などによる場合、肺炎・イレウス・てんかんなどにより身体機能が低下する場合、学校生活が終わり運動量が減少する場合などであるが、リハビリテーションによって機能低下を防ぐのは容易ではない。リハビリテーションの分野では、従来からのものに加え、新しい技術が取り入れられてきているが、その多くはリハビリテーション工学の進歩に基づくものである。これらは専門的な知識が必要となるが、専門的になればなるほど、関連する多職種がチームを組んでアプローチしていくことが必要である。 一般的な補装具・福祉機器だけでなく、工学的計測を行いながら作製する車いす、四肢麻痺のため額につけたポインターを用いて動かす車いす、コミュニケーション機器を動かす各種スイッチ、特製階段昇降機、体の変形拘縮に合わせて作製した車いすなど、当センターで用いている機器を紹介する。 七沢療育園におけるリハビリテーションスタッフの関わりでは、PTの関わりが最も多く、入所者への呼吸排痰訓練や適正姿勢の確認などが中心である。車いすなどの作製にはPT・リハビリテーション工学士・装具業者・担当看護師/支援員がチームで関わる。摂食嚥下評価には、医師・PT・ST・担当看護師/支援員がチームで関わる。勤務スタッフに対しては、PTによる介助法指導、PT・OTによるリフターの導入などが行われている。 最後に、交通事故による脳外傷で重度身体障害・中度知的障害を残した12歳男児のリハビリテーション状況を提示する。当センターに導入された歩行支援ロボットスーツ「HAL」も試用した。 このシンポジウムが重症心身障害児(者)のこれからのリハビリテーションに役立つと嬉しい。 略歴 1977年千葉大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学入局。国立大蔵病院、都立北療育医療センター、神奈川県立こども医療センター、英国・ハマースミス病院などを経て、1989年より神奈川県総合リハビリテーションセンター小児科に勤務。
  • −理学療法の立場から−
    奥田 憲一
    2013 年 38 巻 2 号 p. 228
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の理学療法(以下、PT)に携わる15人の理学療法士(以下、PT)が発起人となり、花井 丈夫 氏(横浜療育医療センター、PT)を会長に、2009年8月1日「重症心身障害理学療法研究会」が発足した。おおむね年1回開催されるセミナーは今年で第5回を数え、9月14〜15日、大阪で開催される。第5回セミナーのテーマは「動く」であり、「リハビリの夜」(医学書院、2009.)の著者である熊谷 晋一郎 氏をお招きし、「動きの誕生−身体外協応構造−」というテーマで提言を頂く。さらに「電動移動機器を用いて子どもたちの動きを引き出す−エンジニアの立場から・理学療法士の立場から−」というテーマで、安田 寿彦 氏(滋賀県立大学工学部)と高塩 純一 氏(びわこ学園医療福祉センター草津、PT)から提言を頂く。 何故「動く」がテーマなのか。電動車いすに関する研究は比較的古くから行われており、20カ月から36カ月くらいの子どもたちにとって、障害の有無に関わらず、電動車いすの使用が認知や社会性、コミュニケーション能力を向上させることが示されてきた。Gallowayら(2008)は、物に向かって手を伸ばし把握することが可能で、実用的な移動手段が未獲得の7カ月の正常乳児と、ほぼ同程度の上肢機能と粗大運動機能をもつ14カ月のダウン症児、2名を対象に、具体的指示は用いず、自発性を重視する態度で電動車いすに乗せた結果、徐々に自発的操作が獲得されることを示した。さらにLynchら(2009)は、7カ月の二分脊椎を持つ乳児の電動車いす操作を半年間追跡した。その結果、自発的な電動車いす操作が獲得されるだけでなく、Bayley Ⅲを用いた評価では、認知、言語、巧緻運動の領域で暦年齢よりも高いスコアが獲得されたことを示した。この「自ら動く」ことが認知や言語領域等の発達に不可欠であるということの意味は大きく、今後注目していかなければならない領域であることは間違いない。 一方、重症児(者)にとって「自ら動く」ことの制約因子となるものの一つに重力がある。この重力に対して高塩(2011)は、1993年にNorman Lozinski が開発したThe SPIDERを次のように紹介している。「The SPIDERという名前は、身体から外に向かって張られたゴム紐が蜘蛛の巣のように見えるところからつけられたもので、身体に装着する留め具付きベルトと、弾力性の異なるゴム紐とを固定するための支柱もしくは枠から成り立っている。The SPIDERを用いることで(身体がゴム紐によって吊られ、体重が免荷された状態となり)、身体の弱い部分をサポートしながら、筋肉や関節内にある固有受容器からの情報と、バランス能力に必要な前庭系・視覚系からの情報を容易に統合することができる。」としている。当園でも重症児(者)に対して、独自に作製したThe SPIDERを用いてPTを行っている。たとえば痙直型四肢麻痺を持つ50代の男性(GMFCS level Ⅳ) にThe SPIDERを用いて、バルーン上座位にて他動的に体幹の上下運動を行うと、しだいに両下肢の筋緊張亢進状態は改善し、徐々に両下肢の屈曲・伸展の自動運動が現れてくる。回数を重ねてくるとバルーンを用いずに立位姿勢の中でも可能となり、両下肢だけではなく両上肢の筋緊張亢進状態も改善し、「身体が軽くなった。」と喜ばれている。このThe SPIDERを用いることは、結果的に自動運動が現れてくるので「自ら動く」ことにつながるものといえる。 以上示した内容は、従来の重症児(者)のPTに置き換わるものと考えるのではなく、従来のPTでは十分に達成できなかった側面を補うものであり、その側面は無視することのできない領域であると考える。最後に今回のシンポジウムでは、当園でのPTの実際の取り組みも可能なかぎり紹介しながら、多くの方々との討議が深まることを期待している。 略歴 1991年、国立療養所福岡東病院附属リハビリテーション学院理学療法学科卒。同年、佐賀整肢学園入職。1995年、旭川荘療育センター児童院入職。同年、ボバースアプローチ8週間講習会受講。1997年、中央競馬馬主社会福祉財団海外研修生(第26回生)、英国、米国で研修。2004年、柳川療育センター入職。2012年、聖ヨゼフ園入職。2007年、国際医療福祉大学大学院保健医療学専攻修士課程修了。2009年、第43回日本理学療法学術大会(福岡)優秀賞受賞。第44回日本理学療法学術大会(東京)イブニングセミナー「小児の24時間姿勢ケア」講師。2010年4月、専門理学療法士(神経)認定。
  • −作業療法の立場から−
    岸本 光夫
    2013 年 38 巻 2 号 p. 229
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    近年のリハビリテーションにおいて、家族中心理論(対象児(者)の治療は、家族ぐるみの援助を含むべきである)、生態学的理論と課題指向型理論(生活障害を軽減し、自立や適応を促していくためには、対象児(者)が生活する家庭や学校、施設生活環境で実際に必要な技能・課題を練習することが必要である)、といった考え方が重要視されるようになった。このような中で、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))のリハビリテーションにおいても、作業療法士(以下、OT)の働きが一層重要になってきていると感じている。OTの役割は、対象児(者)を取り巻く実生活と環境を詳細に評価し、日々繰り返しのある生活活動や遊びを治療手段とし、楽しみと夢のある日常生活を目標にしていく、まさに「生活支援」であり、それは過去もそして今後も変わることのない根底である。 筆者らは、2011年から「重症心身障害のある人の生活を支える作業療法フォーラム」を開催し、今年で3回目を迎えている。毎回この領域に携わるOTの施設での取り組みの意見交換や事例報告が活発に行われているが、その内容は、重症児(者)の生活に寄り添いながら、1.健康増進と維持、2.楽しみのある日常生活活動、3.そのための多職種との協業、の3点に集約できる。本シンポジウムにおいては、これらの実践を紹介し、重症児(者)のOTのこれからをアピールしたい。 1. 健康増進と維持 OTは、呼吸理学療法に代表されるような徒手的技術は十分にもち合わせていないが、育児や日々の介助の工夫、環境調整を通して、様々な合併症に対する包括的な支援にあたっている。ポジショニングなどは、二次障害への対策だけでなく生活空間の広がりを目指すものであり、筆者も取り入れている興味深いデザインなどを紹介したい。また、施設入所者を対象に、日常生活の中に無理なく継続できる24時間の姿勢援助プログラムを約5カ月間実施した成果の報告(2001年、旭川児童院研究)などは、重症児(者)の一見固定的に思える拘縮や変形が改善しうる範囲をもっており、何よりその進行を予防できることを示唆した臨床研究として意義深いものである。2. 楽しみのある日常生活活動 全国の施設内でOTが、様々な個別的レクレーション活動やクラブ活動を企画・運営している例が多くなった。これらには、在宅生活にも取り入れられるアイデアも多くあり、病院のリハ専門職にも役立つ情報である。中でもOTが最も貢献できる「感覚あそび」は、感覚統合理論やスヌーズレンの理論と活動形態などをうまく応用してきた経過があり、今後はさらに明解な根拠に基づいた感覚あそびの支援に発展していくことが期待される。3. 多職種との協業 「近江学園」の創設者であった糸賀一雄先生は、重症児は自前で太陽や星のように光っており、その理解の輪を広げていくことを願って、「この子らを世の光に」と唱えた。多職種協業の意義は、まさにここにあり、重症児者がすでにもっている豊かな部分に気付き、それを十分に発揮させてあげるような発想が必要なのである。そして多職種協業においてOTがいつも身近な存在でいたいと願う。施設という生態系の中で、最も係りの時間の多い支援員の人たちが、対象児(者)との日々の付き合いに喜びをもてるということが、OTの一目標でもあり、重症児(者)のQOLに貢献できる協力体制の充実が求められる。個別治療の一手段として、OTとPT、OTとSTといったジョイントセラピーも実施されるようになり、その成果も大いに期待される。 OTは、「実生活支援」をキーワードにしているだけで、その専門性は曖昧なものである。しかしだからこそ、様々な生活現場で多岐にわたる重症児(者)のニーズに柔軟に応えられる専門職であり、今後もリハビリテーションチームワークに貢献できる役割を果たしていきたい。 略歴 1980年、作業療法士免許取得 1980年−1997年、社会福祉法人愛徳姉妹会聖母整肢園訓練部(現大阪発達総合療育センター) 1997年−2005年、茨城県立医療大学保健医療学部作業療法学科講師、同大学附属病院リハビリテーション部作業療法科長兼任 2005年−現在、フリーランス作業療法士
  • 高見 葉津
    2013 年 38 巻 2 号 p. 230
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 1971年に初めて言語聴覚士(以下、ST)の国立の養成所が開設された。その頃は重症心身障害(以下、重症児)施設で働くSTはわずかであった。運動障害は重度であり、知的活動が盛んでも発語できずコミュニケーションがとりにくい方や認知・言語面発達促進への支援が中心だったようだ。1970年代前半にスイスのST Mueller HAが提唱する食事やプレスピーチの考え方やテクニックが伝達された。その頃に子どもたちの重度・重症化傾向がみられ食事指導のニーズの高まりもあって、STの支援が食事指導に広がり今日に至っている。したがってSTの支援は認知・コミュニケーションと摂食・嚥下が2本の柱といえよう。 認知・コミュニケーション支援について 重症児(者)には生涯にわたり生活を維持する上でライフステージを踏まえたリハビリテーションが必要である。子どものコミュニケーションの発達の原点となる母子相互作用への調整は早期のSTの支援として欠かせない。授乳や離乳食に関する食事指導とともに母子相互作用へのサポートをすることは、子どもへの共感や理解を深め、コミュニケートする意欲やその表現方法などの基盤を育てる。成長に伴って、家族から通園職員、教員、施設職員と生活の場の変化とともに関わる人々が広がる中でコミュニケーション能力も豊かになって欲しいと願うものである。鯨岡(1997)は対人関係の原点として間主観性を挙げている。関わり手が対象児(者)の関心を見出し、それを共有できたときに豊かな反応を示す。それは「その人の固有性」を理解し関わる人々との関係性と関わる文脈の中で発見できることがある。重症児(者)に関わる多職種が「その人の固有性」を共有しなければならない。その具体的な方法の看護研究報告もある。STは生活の場で多職種とどのようにチームを組むかが課題となろう。また、近年コミュニケーション機器の開発が進み、その使用が広がってきているが、重症児(者)にとっては十分使いこなせているとは言い難い。認知・コミュニケーションの学習や意欲への働きかけをしつつ機器の使用へ発展させるには多くの時間が必要であるが、根気よく取り組むプロセスを大切にしたいものである。最新技術のニュウーロコミュニケ—ターを筋萎縮性側索硬化症患者に使用した看護支援に関する研究などもみられるが、やはり重症児(者)に有効となるにはまだまだ先のことになろう。 摂食・嚥下支援について 摂食・嚥下については、栄養補給だけではなく、少しでも経口から食物を摂取する経験が子どもの感覚運動機能を刺激し、認知面にも影響することが考えられる。脳の損傷から嚥下困難とされた場合でも乳児期からの指導で、経口での食物摂取が可能になる場合もある。一方、生活のQOLを維持するための医療ケアの導入がある。嚥下障害のある子どもに早期から胃瘻造設術を行うことが増えてきている。食べることの発達的意味を考えると胃瘻からの栄養摂取とともに口腔の感覚運動経験を続ける必要があると考える。重症児(者)の中には成長に伴い身体的機能低下とともに呼吸・嚥下障害の進行によって気管切開、喉頭気管分離術が施行されることもある。手術による喉頭周辺の形態、機能の変化に応じて嚥下運動が再学習され、摂取量は限られるが再び経口から食べられるようになることある。また、嚥下筋への侵襲と手術の負担の少ない声帯閉鎖術も施行されてきている。医療ケアの後に安全にお楽しみ程度でも経口摂取を再開できるよう支援することは、その人の生活の豊かさを考えるうえでもSTがめざすものである。 略歴 1972年3月 国立聴覚言語障害センター付属聴能言語専門職員養成所卒業(現・国立リハビリテーションセンター学院言語聴覚科) 1972年4月〜2012年3月 東京都立北療育園 言語聴覚指導担当職員 (現・東京都立北療育医療センター) 2012年4月〜 東京都立北療育医療センター非常勤 訪問看護ステーションHUG契約職員 都立墨東特別支援学校 専門家支援非常勤職員など    
シンポジウム2:災害時の重症心身障害児(者)への支援
  • 東日本大震災の実情と今後の対策(座長メッセージ)
    伊東 宗行, 田中 総一郎
    2013 年 38 巻 2 号 p. 231
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    未曽有の災害2011年3月の東日本大震災・大津波は人々に大きな衝撃を与え、世界中から救援、復旧のために多くの援助と励ましをいただき、被災地では復興と防災対策に取り組み2年余を経過した。災害時に特別な援護を必要とする障害者、特に重症心身障害児(者)が受けた被害状況とその救援と支援対応について具体的に検証し、今後の災害対策に役立てることが喫緊の課題である。本シンポジウムは、発災当初の現場の状況と対応および今後の対策・とるべき具体的な備え等について、医療、教育、福祉、行政等の現場・地域で支援活動に尽力された5名の当事者によって各々の専門職の視点から発表していただき、課題と解決策を関係各位と共に協議し、災害弱者への有効な支援策を共有することを目標して企画された。東日本大震災の情報は、岩手、宮城、福島の3県が主たる被災地として集約されているが、全国集計(2013年4月10日警察庁発表)では死者15,883人、行方不明者2,681人であり、要援護者である福祉サービス利用者の死亡・行方不明者は54人(2012年10月現在)であった。注目すべきことは、障がいのある人が災害時の被害者になる割合が高かったことである。東北3県の沿岸31自治体の調査では被害者数の割合が一般人0.8%に対して障害者手帳所持者は1.5%で約2倍であった。(2012年9月24日付、河北新報)これらの報道や調査公表に含まれない被害者も多数あったと推測されるが、自力ないし家族の支援のみで避難ができない高齢者、障害者を災害時に支援する「要援護者避難支援計画」について東北3県の沿岸37自治体を対象とした調査(2013年4月、共同通信社)では、計画を策定していた24自治体のうち10自治体が「実際には役立たなかった」と回答しているので、災害弱者への災害避難対策は住み慣れた地域での生命保護と生活維持に実効性のある組織体制の整備が必要である。シンポジウムでは、前半に福島整肢療護園・吉原診療部長は東日本大震災・津波発災時の医療施設の緊急対応、特に原発事故による患者・利用者の避難移動とその後の実情と課題を提示し、宮城県立拓桃支援学校(前石巻支援学校)・櫻田校長は支援学校現場での緊急対応の実情とその後の避難活動の経験を通して、学校教育の視点から防災対策を提言する。後半は、社会福祉法人りとるらいふ・片桐理事長は中越沖地震の被災支援の経験を踏まえて、東日本大震災直後から障害者入所施設での支援のニーズを組織的に救援した経過を報告するとともに、災害時のコーディネート機能の重要性を述べ、東北大学小児科(前宮城県拓桃医療療育センター小児科医療部長)・田中准教授は発災直後から被災地の障害児者、施設、支援者等と連携し、切迫する現場のニーズに応え活動した経験を基に実効ある支援体制と具体的な支援内容を提示し、福井県総合福祉相談所(前厚生労働省障害福祉課障害児支援専門官)・光真坊判定課長は発災当時、厚生労働省の障害児支援専門官として業務し、被災地の障がいのある人々および障害福祉サービス事業所の被害状況の把握、支援体制の整備、福祉サービスの提供等に関わった経験から当面の課題と今後の被災者支援体制のあり方を提言する。重症心身障害児(者)の災害時の救護と支援について、関係各位と共に課題を検討し、不測の事態においてもすみやかに対応できる地域の体制づくりと身近な備えを共有する機会となることを強く願う。 略歴 伊東宗行(1937年12月30日生)社会福祉法人新生会みちのく療育園 施設長 1962年 岩手医科大学医学部卒業 1963年 岩手医科大学小児科 1965年 釜石市民病院小児科 1967年 岩手医科大学小児科 1983年 国立療養所釜石病院 院長 2001年 現職 田中総一郎(1964年2月25日生)東北大学小児科 准教授 1989年 東北大学医学部卒業 1992年 国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科 1995年 東北大学小児科 1999年 心身障害児総合医療療育センター小児科 2000年 宮城県拓桃医療療育センター小児科 2012年 現職 震災関連の医療機器や資料の展示のお知らせ 学会会場内に災害時に役立つ緊急用の医療・介護機器の展示と実演コーナーを開催します。てんかんの薬などの医療情報を携帯するための「ヘルプカード」、電源を必要としない「手動式吸引器」や「足踏式吸引器」を実際に動かし、その作動方法や吸引圧を体感してください。 また、各地で防災用のパンフレットや「ヘルプカード」などを作成されていると存じます。お互いに紹介することができましたら、各地域での資料作りに役立つと思います。事前に、東北大学小児科田中総一郎soichiro@rose.ocn.ne.jpまでご連絡願います。供覧しやすいように準備します。
  • 吉原 康
    2013 年 38 巻 2 号 p. 232
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    東日本大震災における福島原発事故は、障害者や高齢者等、社会的弱者と呼ばれる人たちにも多大な影響を及ぼした。 原発の事故という経験したことのない混乱の中で、寝たきりの高齢者が病院関係者らに「置き去り」にされた等という誤報が不幸にも先行して報道されてしまったが、それでも避難後の3週間で130名中50名が亡くなったという双葉病院の事例は、事実として重く受け留めなくてはならない。 一方、東京大学大学院、国際保健政策学分野の渋谷健司教授らによる報告では、避難による高齢者の死亡リスクは移動距離とは関係なく、むしろ避難前の栄養管理や、避難先の施設のケアや食事介護の配慮の方が重要であると述べている。 私たち福島整肢療護園の57名の入所者のうち、14名が他の施設に、6名が保護者の元に、残り37名が園内に留まった。 他施設に避難した14名は、18歳未満の子どもたちと一部の重症患者で、3月17日から3月23日までに避難した。 一方、園内に残った37名に対しても、3月末までには避難予定先の確保や避難ルートの選定をし、国からの指示があればいつでも避難できる状態になっていた。 これらの避難にあたっては、数年前まで実施していたクリスマス祝会という園外行事参加のため、大型バスで入所者全員が移動していたことが、図らずも大いに役立った。やはり日常からの備えが肝要であると思われる。 略歴 1988年 山形大学医学部卒 1994年 東北大学医学部大学院卒 2006年 福島整肢療護園勤務 現職診療部長
  • 櫻田 博
    2013 年 38 巻 2 号 p. 233
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    私は、石巻支援学校長として勤務していたときに震災を経験し、児童生徒の安否確認や避難所運営、学校再開へ向けた取組を経て学校教育の復興等に向けた様々な取組を行った。震災当日は、小・中学部の卒業式で高等部は臨時休業日。小・中学部は、卒業式を終え、全員下校後であった。学校には津波は来なかったものの、甚大な被害を受けた。4名の児童生徒が津波の犠牲になった。また、約3割の児童生徒の家屋が全壊・半壊状態にあった。幸い教師は全員無事であったが、約2割の教師が家を失った。学校は震災当日から避難所になり、3月11日から5月8日まで約2カ月間避難所運営を行った。最大で81人の避難者がおり、その中には介護が必要な高齢者21名、在籍児童生徒が延べ13人利用した。避難所運営の当初の課題は食料がなかったことである。食料調達のために教職員は奔走した。それを救ってくれたのは、近隣の地域住民であった。地域の農家や工務店、議員等が食料提供を申し出てくれたのである。食料や水等の公的な支援が入ったのは、避難所申請をした震災後5日後からであった。また、県内の特別支援学校および高校、宮城教育大学等からのボランティアを有効活用して避難所運営を行った。学校再開は、5月12日であった。学校再開へ向けた取組として、家庭訪問を2期に分けて実施し家庭状況の把握に基づく心理的ケアを継続して行った。 東日本大震災から学んだ教訓として次のことが挙げられる。 (1)危機管理マニュアルの見直し ア 津波を想定した通学バス避難場所の指定 イ 地区割り担当者の決定 ウ 災害用児童生徒名簿の整備(緊急時の連絡先一覧と避難場所の掲載) エ 災害用備蓄品の整備(食料、発電機、ラジオ)・医療的ケア児童生徒の持ち出し物品の整備 オ 体験的防災教育の推進(教育課程の編成、防災教育力の育成、SOSファイルの作成) (2)関係諸機関との連携 大災害時は、学校独自の力だけでは困難を乗り切ることはできない。普段から各学校が関係諸機関と協力関係を構築しながら連携を点から線へ(継続性)そして面へ(広域性)と拡充・発展させる必要がある。 (3)障害児の理解・啓発 学校を積極的に公開するとともに、学校間交流や居住地校学習の深化・拡充を図りながら障害児の理解・啓発活動を充実させることが重要である。石巻支援学校では、PTAを中心に障害児の理解・啓発活動として「ハートバッチ運動」が展開されるようになった。 (4)特別支援学校の役割 大災害時に障害児が地域の小・中学校等で避難所生活を送れることが最も望ましい社会の姿であろう。しかし、どうしても地域での避難所生活が立ちゆかない場合は、特別支援学校が最後の砦として避難所を開設する使命を担っていると考える。 (5)学校の危機管理能力の向上 危機管理能力は、イマジネーション力である。不安感情をコントロールし、具体的・組織的行動力に変えていくことが、今学校に問われている命題である。 略歴 櫻田 博(さくらだ ひろし) 宮城県立拓桃支援学校校長 東北大学教育学部・教育心理学科卒業後、宮城県内の中学校に7年間、特別支援学校に13年間勤務。 その後、特殊教育センター指導主事、特別支援学校教頭、中学校長、特別支援教育室副参事、石巻支援学校長を経て現在に至る。東日本大震災時は、石巻支援学校長として震災対応や避難所運営に当たり、その経験を踏まえて各種雑誌や講演等で「学校の危機管理体制」について提言している。
  • 片桐 公彦
    2013 年 38 巻 2 号 p. 234
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    新潟県は2004年7月の新潟・福島豪雨、同年10月の中越地震、2007年7月の中越沖地震さらにはたび重なる豪雪など多くの災害に見舞われている。私自身はそのたびに、障害福祉施設を中心に支援活動に参画していた。 1996年に起こった「阪神淡路大震災」をきっかけに多くの市民が復旧・復興に関わった。それは日本における「ボランティア元年」と呼ばれ、それを契機に超党派による議員連盟が発足され、のちに「特定非営利活動促進法(NPO法)」が成立したことは有名な話である。 4つのプレートの上で、危なっかしく、まるで「地震の巣」で暮らしているわれわれにとっては震災への対応はまさに「通常のできごと」として捉えていくべきである。そして震災が実際に起こったとき、誤解を恐れずにいえば、震災が発生したことによって市民活動が活発化された歴史的な背景が語るように、震災の復旧・復興を通じて、私たちは今、立っている仕事の関わりの専門性を深め、今日に至っている、そんな気がするのである。 そんなことを前提にして、私たちには確立しなければならないテーマがある。「災害時におけるビジターコーディネート」である。多くの震災を通じて、普及・復興には外部からの支援を前提に組み立てなければ成立しないことが明らかになってきた。ここでいう「外部からの支援」とは国からの財政的な支援という大きな枠組みから、草の根のボランティアというミクロでローカルな取り組みまでを指すが、ここでは福祉施設において多くの専門家が、被災地域、施設に支援に入ることを指している。 このシンポジウムでは、災害規模に比例して投入される「外部支援者(ビジター)」の行動特性、心理特性をふまえたコーディネートの必要について論じてみたい。 略歴 片桐公彦 1975年4月19日生まれ(38歳) 社会福祉法人りとるらいふ 理事長 1998年 淑徳大学社会学部社会福祉学科 卒業 (福)上越つくしの里医療福祉協会 2002年 上越市役所健康づくり推進課    ボランティア団体「障害者の余暇活動を支援する会りとるらいふ」代表 2003年 NPO法人くびき野NPOサポートセンター 2004年 りとるらいふをNPO法人化 理事長  2010年 現職 
  • 田中 総一郎
    2013 年 38 巻 2 号 p. 235
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重い障がいのある子どもたちは、人工呼吸器、経管栄養、抗てんかん薬など医療面のニーズが高いだけではなく、苦痛の表現や環境変化に対する適応力が弱く、避難所など慣れない場所での生活は大きなストレスとなる。医療面と生活面の両方の支援が必要である。災害弱者である障害児のニーズは優先されることはなく、また気付かれることも少ない。たとえば、救援物資のおむつは高齢者・新生児用がほとんどで障害児がよく使う中間サイズは不足していた。医療系と福祉系のメーリングリストに援助を求め、被災地への支援を行った。「患者は困っていたら病院へ来るだろう」というわれわれ医療者の日常の意識では知りえなかったニーズであり、ニーズを被災地に取りにいくことが求められていた。被災3県の沿岸31自治体への調査によると一般の死亡率は0.8%であったのに対して、障害者手帳を所持する方では1.5%と約2倍に上った。これは、障害のある方を津波被害から守る避難支援の方策が機能しなかったことを示している。宮城県の小児医療機関を受診している、たんの吸引や人工呼吸器などの医療を要する113家庭(子どもの平均年齢13.4歳)を対象に行ったアンケート調査では、津波被災は10.6%、自宅が住めないほどに被害を受けたのは8.9%であった。自宅から避難したのは38.2%で、避難先は地域の指定避難所12.4%、自家用車10.6%、親戚・知人宅11.5%、その他医療機関など3.7%であった。安否確認は、普段通っている学校や福祉施設からが63.7%と多く、医療機関からは21.2%であった。よく用いた通信手段は、携帯電話64.6%と携帯メール74.3%が多かった。 要援護者避難支援プランについて、震災前から知っていたのは16%、登録していたのは13.3%に過ぎず、登録していた方も実際に支援が受けられたのは15人に3人(20%)であった。自宅近くの指定避難所は84.4%の方が知っていたが、「福祉避難所」という言葉を知っていたのは37.6%、近くの福祉避難所の場所を知っていたのは19.8%、今回福祉避難所を利用したのは0%であった。利用しなかった理由として、知らなかった、移動手段がなかった、慣れない場所で体調が悪化する心配があげられた。普段通っている支援学校や福祉施設が福祉避難所となることを63.6%の方が希望していた。2012年9月末時点で、全国の特別支援学校のうち102校が福祉避難所に指定されている。金沢市(45万人)では、障害児者向け8カ所、高齢者向け30カ所の福祉避難所(既存の福祉施設)を2012年4月に指定した。その際、以下のような事柄に留意したとされる。高齢者と障害児者のニーズは違うので、防災の準備をする避難所も高齢者と障害児者で分けて考えた。また、利用者一人ひとりに「あなたはどこへ避難しますか」と問いかけ名簿を作り、対象となった施設や学校は名簿にある方のニーズにあった救援物資を備えた。福祉避難所の指定だけに終わらず、顔の見える関係性を地域に作り、普段からのつながりを構築することが重要なのである。その理由は、今回の大震災を経験した多くの人が「緊急時だけのための防災は役に立たなかった、普段からのつながりが最も災害時の支えになった」と感じているからだ。 生きていくのに医療が必要な子どもを守るために、一人では動けない子どもをだれとだれが避難させるか、安心して過ごせる避難先をどう確保するかなど、医療と地域が協力しあって検討すべき課題が明らかにされた。 略歴 田中総一郎 1964年2月25日生(49歳)東北大学小児科 准教授 1989年 東北大学医学部卒業 同年 山形市立病院済生館小児科 1991年 埼玉小児医療センター未熟児新生児科 1992年 国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第2部、武蔵病院小児神経科 1995年 東北大学医学部付属病院小児科 1999年 心身障害児総合医療療育センター小児科 2000年 宮城県拓桃医療療育センター小児科 2012年 現職 震災関連の著書「重症児者の防災ハンドブック−3.11を生きぬいた重い障がいのある子どもたち」クリエイツかもがわ、2012
  • 光真坊 浩史 
    2013 年 38 巻 2 号 p. 236
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    東日本大震災での被災3県の被害は、福祉サービス利用者の死亡48名、行方不明6名(2012.10.1現在)で、障害福祉サービス事業所等は全壊43カ所、半壊・一部損壊200カ所で全体の12.1%であった。厚生労働省は、障がいのある人やその家族に対して行った支援について報告するとともに、課題と今後の対策について考えてみたい。被災地において把握された課題と対応の主なものは以下のとおりである。 (1)在宅の障がいのある方々の安否確認が困難 → 全国から派遣された保健師による訪問のほか、関係障害者団体が会員名簿を基に家庭訪問を実施、相談支援専門員派遣によるニーズ把握などの活動を支援するとともに自治体との連携について調整 (2)一般避難所では障がいのある方々に対する配慮が不十分 → 障害福祉サービス等の取扱いや相談窓口等周知のための生活支援ニュース(壁新聞)の作成・配布、避難所での障害福祉サービスの提供、福祉避難所の設置促進および移転促進(日頃通っている特別支援学校や事業所への自主避難も多かったが発災後の指定は進まず。ホテル等の利用も同様) (3)被災した障がいのある方々の他県での受入れが必要 → 全国の障害福祉施設を調査し、2,800カ所、8,946人分の受入れを確保し、斡旋(県外ピーク時515人) (4)障害福祉サービス事業所の介護職員等のマンパワー不足 → 全国の障害福祉施設を調査し、介護職員等2,028人の派遣要員を確保し、斡旋(延7,789人を派遣) (5)障害福祉サービスの利用・提供が困難 → 福祉制度の運用弾力化。利用者に対しては、受給者証の紛失や有効期限切れでもサービスを利用可能、普段利用している事業所以外でも同様のサービスを利用可能、新規の支給決定や変更が簡易な手続きで可能、利用者負担の免除や支払い猶予、避難所における居宅介護等が利用可能等。事業者に対しては、定員超の受入や職員配置基準を満たさなくても提供可能、避難先における安否確認や相談支援も請求対象、利用者と共に仮設の施設や他施設に避難し、サービスを提供した場合も報酬対象、概算請求を可能、等とした。 (6)きめ細やかな対応が難しい → 11関係団体連絡協議会の立ち上げや運営会議への参加等:ニーズの把握、人的・物的支援の効率化(融通・共有化)、情報共有等 上記のほか重症心身障害児者独自のものとしては、(1)停電等(計画停電含む)による生命の危機 → 相談窓口の開設、(2)避難所での生活困難 → 発災後の福祉避難所の指定促進、(3)救援物資の不足・輸送困難 → 業者・団体等を通じた輸送、緊急通行車両取扱い等、(4)生産工場被災による物資不足 → 経管栄養剤の不足と代替策の周知、(5)施設入所者の組織的避難 → 受入れ施設の広域調整、移送手段の確保等のサポート(福島整肢学園、国立いわき病院)、(6)今後の防災、減災 → 自家発電機等の整備等が挙げられる。 厚生労働省の役割は、現場のニーズを迅速かつ的確に把握し、状況に応じ現行制度の弾力運用化等を図ること、介護職員等の派遣や被災者受入の広域調整、復旧さらには今後の大震災に備えた整備等の支援を行うことである。しかし、発災直後の現場が混乱する中ではニーズの集約、発出する情報の周知、個別具体的で機動性のある対応は難しく、施設や病院、関係団体等のネットワークによる支援が有効であった。発災時は関係団体等と連携を緊密にし、ネットワークによる支援が十分に機能するようしっかりサポートすることが重要である。また、専門官としては被災施設等と顔の見える関係を築き、丁寧に対応していくことが大切である。なお、福祉避難所の在り方も含め、重症心身障害児者およびその家族への支援について検証の上見直しが必要であろう。 略歴 光真坊浩史 1967年7月5日生(46歳) 福井県総合福祉相談所 判定課長 1992年 筑波大学大学院修士課程教育研究科卒業 同年 福井県心理職採用:福井県総合福祉相談所、障害福祉課、子ども家庭課等 2010年 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域移行・障害児支援室 2012年 現職
シンポジウム3:地域生活重症心身障害児者本人、家族、きょうだいへの支援
  • 小沢 浩
    2013 年 38 巻 2 号 p. 237
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    在宅の重症心身障害児者は年々増加しているが、子どもたちとその家族をサポートする環境は不十分である。しかし子どもたち・家族を支えようという取り組みが各地で起こり、広がっている。東京多摩地区では、医師を中心に多摩療育ネットワークを立ち上げ、顔の見える体制づくり、お互いの情報交換をして病院の役割分担を行った。また、医療と福祉との連携においては、八王子在宅重症心身障害児者の会を立ち上げ、八王子市の「輪」を広げる取り組みを行っている。−「個」から「システム」そして「個」へ−サポートする環境を作るためには、「個」の力により地域をつなげる「システム」を作り、そしてさらに「個」の力を高め、地域を高めることが大切である。このシンポジウムでは、子どもたち・家族のために活動を行っているシンポジストにその取り組みを紹介していただき、よりよい社会をどのように作っていったらいいのか考えてみたい。 プロフィール 静岡県出身。伊豆の天城で山野を駆けめぐる少年時代を過ごしました。高校のときに井村和清先生の「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」という本に出会い医師を志しました。大学の実習で神経芽細胞種の子に出会い、小児科医になることを決めました。趣味は野菜作りです。野菜作りは医療と同じです。野菜は日々成長します。それを見守ることが大切です。野菜が元気のないときは必ず訴えがあります。その訴えを聴くことが大切です。その声に応えると驚くほど成長してくれます。手をかけすぎてもいけません。水を毎日やると根の成長を阻害しかえって弱いものとなってしまいます。土が大切です。土は命です。常日頃から土に手をかけていると半年後一年後に形になって現れます。野菜は正直です。だから私は野菜作りが好きです。 略歴 1990年   高知医科大学(現高知大医学部)卒業、浜松医科大学小児科入局 2011年4月 島田療育センターはちおうじ所長 著書:「愛することからはじめよう」大月書店
  • 高橋 昭彦
    2013 年 38 巻 2 号 p. 238
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 医療の進歩に伴い、多くの幼い命が助かる一方で、人工呼吸器、経管栄養、痰の吸引などの医療的ケアが必要な子どもが増えてきている。しかし、医療的ケアが必要な子どもを支える社会資源は限られ、子どものケアの大半は家族の負担により支えられているのが現状である。 診療所でレスパイトケアを始める 当院は、2002年に開業した無床の診療所であり、現在は機能強化型の在宅療養支援診療所となっている。人工呼吸器をつけた子どもと家族の現状を知る機会があり、2007年度に在宅医療助成勇美記念財団助成事業として人工呼吸器をつけた子どもの日中預かり(レスパイトケア)を始めた。この研究事業が契機となり、宇都宮市重症障がい児者医療的ケア支援事業が2008年3月に創設された。これは、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の地域生活支援事業に位置付けられている日中一時支援に、市独自の運営支援費を合わせたものである。2008年6月より重症障がい児者レスパイトケア施設うりずんを開設、宇都宮市の委託事業として、日中の預かりを開始した。 うりずんのレスパイトケア 現在、うりずんでは最大5名までの医療的ケアが必要な子どもの日中一時支援を行っている。営業時間は10時〜16時である。2013年6月1日現在のスタッフは、常勤3(看護1・介護2)、非常勤4(看護1・介護2・事務1)である。現在の日中一時支援の登録者は22名で、うち人工呼吸器装着状態が4名、経管栄養・気管切開・導尿が必要な子どもが18名である。 レスパイトケアの目指すもの うりずんでは、安全・安心・安楽(石井光子先生より)をモットーにしている。これは安全に預かることで親も安心でき、さらに本人にとっても楽しいことが大切という考え方である。レスパイトケアは、家族にとってはケアからの一時的な解放となるが、子どもにとっては、自分を他人にゆだねる貴重な機会となる。子どもは人に預けられる経験を積むと、サインをしっかりと出すことができるようになり、これは、親から自立して生きる力がつくことにつながる。また、子どもにとって楽しい場であると、親は罪悪感を抱かないと考えている。 レスパイトケアの効果 レスパイトケアは、日々の暮らしの中でなくてはならないものになってきている。臨時で利用の場合は、きょうだいの運動会や受診、親の休息などに、また5年間で人工呼吸器をつけた子どもの母親が妊娠し、無事出産に至ったケースが2例あった。2012年度は医療福祉機構(WAM)の助成を得て、外出支援を行い、事業所への送迎や学校行事への参加にスタッフを派遣した。 宇都宮市が制度を創ったことから、近隣の日光市・鹿沼市・塩谷町でも、ニーズに応じて同様の制度が創設されて現在は4つの自治体と委託契約を結んでいる。 レスパイトケアの課題 経営的な課題は最も大きい。まず利用が安定しない。就学期で通学籍の子どもは学校へ行くため、土曜日と夏休みなどの長期休暇は予約が多く、平日は少ない。また、病状が不安定な子どもも少なくないため、入院するとその後の予約がキャンセルとなる。2012年度は910名の予約に対してキャンセルは265名、29%がキャンセルとなった。ほぼマンツーマンに近いスタッフを確保し、人材育成を行いながら事業を運営していることから事業収入だけでは運営できず寄附で補っている。次に親に頼らない送迎も課題である。送迎のニーズは高いが、車両が確保できていないこと、1人の子どもの送迎に運転とケアで2人のスタッフが必要であることから自前の送迎は行っていない。 おわりに うりずんは、2012年4月より特定非営利活動法人うりずんとして運営し、ホームヘルプサービス(居宅介護)も開始している。子どもと家族の暮らしを地域で継続的に支援するため、今後も必要なことを行う所存である。 略歴 滋賀県長浜市出身 1985年   自治医科大学医学部卒業 滋賀県と栃木県で、病院、診療所、老人保健施設などに勤務 2002年5月 ひばりクリニック開設(栃木県宇都宮市)運営理念は、在宅医療、家庭医、市民活動支援 2008年6月 重症障がい児者レスパイトケア施設うりずん開設 人工呼吸器など医療的ケアが必要な子ども      の日中レスパイトケアを始める 2012年3月 特定非営利活動法人うりずん設立 NPO法人として日中一時支援と居宅介護を開始 現職:ひばりクリニック院長/特定非営利活動法人うりずん理事長 活動:在宅ケアネットワーク栃木世話人 在宅緩和ケアとちぎ副代表 資格:日本小児科学会専門医 福祉用具プランナー
  • 鈴木 亜矢子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 239
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    病状の安定 子どもたちが自宅で家族と過ごすためには病状の安定が不可欠である。10代 脳性麻痺 Aくん。嚥下機能の低下とともに肺炎を繰り返していた。母親は誰にも頼らずに自分のやり方でずっとがんばってきたため、入院中から医療不信が強く、訪問看護導入時には訪問を拒否されるなど困難も多かった。しかし必要性を訴え、訪問時には呼吸理学療法・腹臥位を取り入れるなど予防を徹底。状態の安定とともに信頼関係が徐々に構築され「また来てほしい」と母親の心理も変化した。自宅でどのように病状をコントロールし日々の生活を安定させていくかは専門職である私たちの役割である。 がんばらない育児・養育 最近は人工呼吸器・在宅酸素・気管切開など様々な医療的ケアが必要な子どもたちが自宅で生活することは珍しくない。しかし障害を持つ子どもとの生活、制約のある育児の様子は、家族には想像しにくく不安も大きい。そのため家族は病院で多くの医療技術・病気に関する指導を受ける。あるカンファレンスで父親が「うちの嫁は、この子のことに関してはそこら辺の看護師さんよりなんでも分かるし出来ます」と言っていたがその通りで、いつも側にいる母親だからこそ、子どもの小さなサインも見逃さず、痒いところにも手が届くであろう。しかし、「その子にとってのお母さん」は1人しかいない。そのために私たちは母親に「がんばらない育児・養育」を勧めている。自宅で家族が一緒に継続して生活していくうえで、お互いの心身の安定はとても大切なこと。退院前と「少ししか変わらない生活スタイル」が維持できることを私たちは目指している。時間的制約はあるが「お留守番看護」で支援。買い物、午睡、美容室や歯科受診など様々に活用されている。 家族で過ごした時間 18トリソミー。3きょうだいの末っ子Bくん。心不全・呼吸障害があり出生直後にご両親は余命半年の宣告を受けたが、苦しい葛藤の末「家族で過ごしたい、自宅に帰ろう」と決意。生後49日目に初回訪問となった。自宅ではチアノーゼを伴う啼泣、酸素量の調整、吸引、鳴り続けるアラームで母親は疲労と不安でいっぱいだったが、きょうだいたちの学校行事への参加や習いごとへの送迎、家事をこなさなければならなかった。母親は「不安定なBくんの状態を見てもらい、外出したい」と希望。学校行事や外出予定に合わせて変則的に訪問日程を調整した。また、NICUの主治医へ適宜状態報告するなど連携も図った。半年という時間が過ぎ、日々の成長に喜びと不安を感じている頃、Bくんは半年と24日で天国へと旅立った。Bくんを自宅に迎えて5人になった家族は、最期のときまで各々が普段通りに自分の役割をこなし、Bくんを囲んで生活をした。亡くなって数日後、母親は「自宅へ返してもらい、家族で過ごす時間が出来て本当に良かった。心の支えになっていたのは、自分の気持ちを理解してもらったこと。家族で過ごせる環境を作ってもらいありがとうございました」と涙ながらに話した。家族が一緒に自宅で過ごすことは、一見当たり前のことに思える。しかしその当たり前の日常が障害児者本人・家族にとって貴重な時間である。 問題点と今後の課題 小児の在宅医療に関する支援体制は十分ではない中、特に栃木県北地域は小児を積極的に受ける往診医や訪問看護ステーションが少ない現状がある。ある病院を退院した家族は、訪問看護導入後も病棟の直通電話でなんでも相談するように指導されていた。自宅での状況を理解している訪問看護師だからこそ的確に支援できることも多いのではないだろうかと思う反面、病院関係者の地域サービスへの知識不足や小児訪問を行う看護師のスキルも問題であろう。今後は訪問看護師のスキルアップを目指すとともに、病院や地域サービスが各々の役割を再認識し連携を図って行くことが必要である。 略歴 横浜市立大学医学部付属高等看護学校卒業 横浜市立大学医学部附属浦舟病院勤務 国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園勤務 国際医療福祉大学病院勤務 栃木県看護協会とちぎ訪問看護ステーションくろばね勤務 2012年開設訪問看護ステーションりんりん勤務
  • −花の郷で大切にしていること−
    関根 まき子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 240
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 花の郷は重度の障がいを持つ人たちの生活の一部を担う生活介護事業所である。安定した通所を保障・支援するために、当施設で大切にしていることを紹介する。 施設概要 2004年4月、東京都町田市に開所し定員は60名(現員62名のうち医療的ケアは10名)である。施設の特徴は「送迎保障」「形態食の提供」「活動の豊富さ」「医療的ケア」「連携」である。 安定した通所のために 現在、送迎車は10台がフル稼働している。常時吸引が必要な利用者について、送迎希望100%保障を目指し実現した。看護師以外に吸引をする職員が添乗しているからである。利用者の家庭における介護と家事や育児などに追われる特に母親の体調不安や睡眠不足は計りしれない。施設の送迎は通所保障に大きな意味を持つ。給食は常食の他に、形態食を別調理で提供している。摂食機能評価や機能維持のための取り組みを行い、形態食の作り方や食品注入について家族に情報提供をし、本来の食べる楽しみを支援している。たとえば食品が注入できることで家族と同じ飲み物や食品を家庭でも簡単に摂取できる。夜間水様便の処理に追われていたケースでは食品や食品由来の栄養剤を注入することで有形便になり、夕方ヘルパーと一緒に排便ケアができるようになった。施設の外出や行事でも再調理している。活動は療育的活動、作業、地域交流活動、プール、季節行事などがある。その他に外出、拡大外出、宿泊、イベントなどの企画がある。利用者が自分のために通所し、そこで何がしたいのかを本人、家族と考えている。重度心身障がい者の場合、通所すると最初に体づくりを行う。その日の体調を考慮し、参加する活動を利用者と相談して決める。当たり前のこととして排泄はトイレで行う。生活に不必要な同一体位はしない。通所に関して医療的ケアでの制限はしていない。2008年度から特例実施者として非医療職が吸引を実施し、現在、吸引と注入は都の認定取得した職員と、研修待機の特例実施者が混在している。常に利用者に寄り添う職員として正規・パートの雇用形態にとらわれない。家族の他に利用者の日常をより理解している人間が医療的ケアを実施することが大切だし、施設では職員に強要せず利用者に必然として実施しようと思える環境作りをしている。レスパイトケア(送迎なし)の利用率は医療的ケアが約半数を占める。これについては送迎を保障していないところが課題である。他に、まれに夜間休日対応の家庭訪問がある。制度上でそのサービスを施設が保障するところまでには至っていないし、地域サービスにおいて家庭や介護者の予測不可能な緊急時にタイムリーな対応ができるシステムに課題があるためと考えられる。地域・通所施設における利用者支援はご家族以外、非医療職が圧倒的に多く、また長い時間関わりを持つ。利用者の医療情報は職員が共有し、その内容が理解できるよう医療職はサポートすることが求められる。医師、訓練士、心理など専門職から生活の中で誰でもできる支援方法を学ぶ。必要であれば他機関への情報提供や受診同行、訓練見学、カンファレンスに参加する。これは利用者と職員が安心・安全に一緒の時間を過ごすための必要条件である。命の安心・安全があり、その先にある自立や自己実現の支援ができるのである。 おわりに 利用者が施設で自分らしさを発揮し充実して過ごすこと、安定した通所の保障は地域で暮らすことにつながる。家族の一員である利用者が花の郷で豊かに過ごすことは、その家族の豊かさに貢献するのだと思う。誰のために施設があるのか、それは第1に本人のためであり、そのサポートができるよう要望ではなくニーズに応えていくこと、地域のサービスの1つとして通所施設が機能することが必要だと考える。 略歴 神奈川県横浜市出身 1996年 国立療養所神奈川病院付属看護学校卒業、看護師免許取得    神奈川県内の大学病院で集中治療センター勤務その後、身体障害者療護施設勤務 2005年 社会福祉法人ボワ・すみれ福祉会花の郷勤務し現職 活動 NPOスキル理事(障害者のアクティビテイ、海外留学支援)
  • 稲森 絵美子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 241
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害をもちつつ成長する子どもの数は、周産期・新生児医療の進歩とともに増えており、それらの子どもと家族の係わりを支えることは、重要な課題となってきている。筆者は、在宅で生活している4名の重症心身障害をもつ子どもとその母親との間のコミュニケーションについて、インタビュー形式で調査を行った。インタビュー時の4名の年齢は10〜14歳で、在宅での生活期間は7〜8年だった。4名とも人工呼吸器を装着し、吸引などの医療的ケアを常時必要としていた。インタビューの方法は、1.子どもとコミュニケーションがとれたと感じる具体的な場面、2.子どもと係わるときの方法、3.さらなるコミュニケーションへの希望について質問しながら親の語りを聴く、半構造化面接を用いた。その結果は、以下の5つのテーマにまとめることができた。 1.子どもとのコミュニケーションの方法:4名の児は重度の運動障害によって表情やジェスチャーによる感情表現はできなかったが、顔色や目の開き具合、頭の動き、口唇周辺の色や動きによって、親は子どもの気持ちを読み取っていた。 2.子どもの反応の変化:病院を退院して、在宅での生活に親子が慣れるにしたがって、子どもの反応が読み取りやすくなった。また、子どもに係わる他の人たちによる子どもの反応の読み取りが、親子間の絆を深める役割をしていた。 3.障害、病気からくるコミュニケーションの制限:成長とともに運動可動域が広がった児がいた一方、逆にもともとの疾患の特性から成長とともに可動範囲が狭まり、相互の係わりがもちにくくなった児もいた。 4.コミュニケーションをとる上で工夫していること:子どもと共にいる時間の中で、微細な動きから子どもの意思を読み取ろうとし、確証はなくても親が子どもの気持ちを推察することが、親子相互の交流が始まる契機となっていた。 5.子どもとの係わりについての希望:重症な障害を越えて、どうにか互いに交流したいという親の切実な気持ちが語られた。また、子どもが障害をもって生まれたことの意味について問い、この経験が周りの人を力づけるものになるようにとの、親子のナラティブ(物語)を語った親もいた。 以上のインタビューの結果から、次のことが考察された。在宅生活は、子どもに生理的・情緒的安定をもたらすだけでなく、家族が共にいる時間を通して、親が子どもの微細な変化をより読み取り、コミュニケーションが深まる機会を提供していた。また、在宅生活を続ける中で、家族以外の訪問介護スタッフや教師など、子どもが自分に直接係わる人に対して特定の反応を示すようになったことで、子どもと第三者との間にも相互関係が生まれ、そのことが親にとって子どもの気持ちや個性をより明確に把握できる機会となっていた。親が子どもの曖昧な反応を読み取りつつ、相互の係わりを発展させていくということは、通常の乳児と母親との間で日々展開されている間主観的係わりであり、母子間のコミュニケーションの原型であると言える。この親子の間主観的係わり合いに関心を寄せ、子どもたちの思いを家族と共に汲み取る係わりを積み重ねていくことが、支援する側にも求められる。 略歴 1992年、上智大学大学院文学研究科教育学専攻心理学コース修了。東京都東久留米市教育センター等で非常勤心理相談員を勤めた後、1997年から2011年まで、自治医科大学とちぎ子ども医療センターで、臨床心理士として勤務。その間、新生児集中治療室(NICU)で重症な疾患をもつ子どもたちと出会い、その家族をサポートする経過の中で、人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)とちぎ支部の立ち上げに関わることとなった。現在は東京医科大学病院小児科で、NICUに入院されたお子さんとその家族の心理的サポート、及び退院後の発達のフォローアップに従事している。
ランチョンセミナー1
  • −レベチラセタムを中心に−
    澤石 由記夫
    2013 年 38 巻 2 号 p. 242
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児)は高率に難治性てんかんを合併する。外科的治療の困難な症例が多く、新規抗てんかん薬の登場は大きな希望となる。現在広く使用されている、ガバペンチン(GBP)、トピラマート(TPM)、ラモトリギン(LTG)、レベチラセタム(LEV)について、重症児を念頭に解説する。 GBPは抗てんかん薬としてだけでなく、重症児の喉頭ジストニアにも効果が期待される。TPMは用量依存性に異なる抗てんかん作用を示す。少量でGABA増強作用があるため、通常量にて無効でも、減量して有効となることがある。LTGはLennox-Gastaut症候群にも適応があり、難治例での有効性が高い。一方、重篤な副作用として皮膚粘膜眼症候群などが警告され、投与法も煩雑なため、使用がためらわれる。しかし、皮膚症状が多彩なこと、投与開始後1〜2カ月に集中していること、小児期には希なこと、などはあまり知られていない。 LEVはシナプス小胞蛋白SV2Aに結合し、シナプス小包から興奮性神経伝達物質が放出されるのを抑制する。先行販売された海外では、副作用が少なく、種々の発作型に有効なため、高く評価されている。しかし、LEV投与後に発作が増加することがあり、奇異効果(paradoxical effect)として報告されている。特に知的障害を伴う場合、30%以上で奇異効果を認めたとの報告もある。実際に、奇異効果を認めた重症児を経験し、LEVを中止せず継続投与したところ、数日のうちに発作が軽減した。以降、奇異効果を10例以上の症例で認めたが、すべて発作増加は一過性であり、LEVを継続投与することができた。また、LEV投与初期に強い眠気を呈する例もしばしばあるが、多くは一過性でありLEVの継続投与が可能であった。したがって、LEVの使用に当たっては、一過性の副作用を前提にした治療プランを立てる必要がある。 略歴 澤石 由記夫 出身 秋田県 1985年 3月 秋田大学医学部卒業    4月 秋田大学医学部小児科へ入局 1987年 4月 鳥取大学医学部脳神経小児科 医員(2年間) 1989年 4月 秋田大学医学部小児科 医員 1993年 4月     同    助手 1999年 4月     同    講師 2007年 6月     同    准教授 2009年 4月 秋田県小児療育センター 統括診療科長 2010年 4月 秋田県立医療療育センター 副センター長 (秋田県小児療育センターと秋田県立太平療育園が統合) 専門医 日本小児科学会専門医 日本小児神経学会専門医 日本てんかん学会専門医 日本人類遺伝学会臨床専門医
ランチョンセミナー2
  • 根津 敦夫
    2013 年 38 巻 2 号 p. 243
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児者(重症児者)では、比較的広範囲に強い痙縮やジストニアを認めることが多い。それによる頸部・体幹、上下肢の異常姿勢は、ADLやQOLの低下、疼痛や健康状態の悪化、介護負担の増大をもたらす。ボツリヌス治療は、概して用量の上限から、痙性斜頸、片麻痺や対麻痺などの局在的な障害に対して有効であり、広範囲な障害では効果の減弱が懸念される。しかしながら、重症児者に対する緩和医療的な面においても、相当の効果を発揮することから、積極的に試みられるべき治療であると思われる。 治療の適応 痙縮やジストニアによる異常姿勢が下記の原因あるいは増悪因子である場合、重症度を問わず早期に開始することが望ましい; 有痛性筋収縮、神経根圧迫による神経痛、股関節内転による疼痛、座位保持困難、摂食困難、閉塞性あるいは拘束性呼吸障害、胃食道逆流症、介護(抱っこする、着替え、皮膚衛生管理)の負担増大 慎重投与 アテトーゼ型脳性麻痺、特発性ジストニア、著しい筋の萎縮・繊維化、筋緊張を軽減してもADL・QOLの実質的な改善が期待されない場合、高用量のダントロレン服用 用量 重症児者への投与量の上限は、頸部・体幹筋に6単位/kg(100単位まで)、上肢筋に8単位/kg(150単位まで)、下肢筋に12単位/kg(200単位まで)、全体では12単位/kg(250単位まで)程度を目安とする。また、初回投与量は、これらの6割程度にする。呼吸・嚥下障害をもつ重症児者には、通常より少量で治療するのが望ましい。 用法 頸部筋へは片側のみに投与するか、両側の場合は下部頸椎レベルの後頸筋に限定して投与するのが安全である。後弓反張や側彎に対しては、できるだけ傍脊柱筋に投与せず、僧帽筋、大円筋、広背筋、大菱形筋、肩甲挙筋、腰方形筋、腹斜筋、腸腰筋などの上肢帯・下肢帯筋を中心に治療するのが望ましい。 重症のハサミ足には、長内転筋、内側ハムストリング、薄筋、腸腰筋へ投与し、股関節脱臼の予防を試みる。長袖の着替えが困難な場合には、大円筋、大胸筋、上腕筋、上腕2頭筋、腕橈骨筋に投与する。 有効性 42例の自験例では、39例(93%)に有効で再投与を行った。特に、疼痛はよく軽減し、睡眠障害の改善にもつながった。 股関節脱臼の長期的予防効果も示唆されたが、側彎などの脊柱変形の予防効果は不明であった。 副作用 重症児者では、高用量による医原性ボツリヌス症が生じやすく、咽頭・喉頭筋の筋力低下による呼吸困難や誤嚥性肺炎をみることがある。自験例では4例に唾液の咽頭内貯留を認めたが、治療2〜3週間後には回復し、重篤化・長期化することはなかった。 他治療との連携 脊柱の変形予防には、体幹装具の併用が必要と思われる。ボツリヌス治療が無効の場合、バクロフェン髄腔内投与(+頸部のボツリヌス治療)を検討するとよい。 おわりに ボツリヌス治療は、経口筋弛緩薬と比較し、効果と副作用の両面から、より優れた治療法であると思われる。重症児者では、運動機能の改善は若干であるが、特に疼痛・苦痛の軽減、健康関連QOLの改善、著しい骨格変形の予防、介護負担の軽減に有用である。ただし、呼吸・嚥下障害をもつ重症児者では、高用量あるいは頸部筋の治療に十分な注意が必要である。今後、重症児者へのボツリヌス治療は、緩和医療的面からますます普及することが望まれる。 略歴 1984年 横浜市立大学医学部卒業 1984年 神奈川県立こども医療センター研修医 1986年 横浜市立大学医学部小児科学教室入局 1998年 Institute of Neurology, MRC Human motor and balance unit, Research fellow 1999年〜2008年 横浜市立大学小児科講師、准教授 2008年〜現在 横浜療育医療センターセンター長 横浜市立大学小児科、東邦大学第一小児科非常勤講師 日本小児神経学会評議員 日本臨床神経生理学会評議員 日本脳性麻痺ボツリヌス療法研究会世話人 著書 小児脳性麻痺のボツリヌス治療 改訂第2版
ランチョンセミナー3
  • 富和 清隆
    2013 年 38 巻 2 号 p. 244
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    カルニチンはアミノ酸の一種で、長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に輸送する働きがあり、エネルギー代謝に重要な関わりをもつ。カルニチンの供給は食事からが75%で、残り25%は体内で合成される。体内ではそのほとんどが骨格筋と心筋に分布する。低カルニチン血症により長鎖脂肪酸の利用障害は意識障害、筋力低下、心機能低下、成長障害などの原因となり非ケトン性低血糖、高アンモニア血症が見られるとされる。一般小児では特にピボキシル基を有する抗菌薬投与による低カルニチン血症と低血糖が大きな話題である。 近年、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))での低カルニチン血症の報告が散見される。その原因として、バルプロ酸(VPA)などの薬剤の服用や、経腸栄養剤の使用などが挙げられている。その他の要因として、食品摂取例での食事内容や、体格による影響も考えられているが、詳細はわかっていない。また、重症児(者)では、低カルニチン血症の症状は他の合併症の症状と重複するために見逃される可能性が高い。 当院入院の重症児(者)26名(3-41歳、平均17歳)について、体格、皮下脂肪測定、食事内容、抗けいれん剤とカルニチン投与前後での血清カルニチンの関連を、女子学生(19-25歳)をコントロールとして検討した。その結果、重症児(者)では明らかに血清低カルニチンが見られ、特に栄養剤のみ栄養では低下が著しかった。また、コントロールではカルニチン摂取量と血清値とは相関がないのに対して、重症児者では正の相関がみられた。また、抗けいれん剤を服用する者は非服用者に比べ低かった。カルニチン値と皮下脂肪厚との相関は見られたが身長、体重、BMI との関連は無かった。レボカルニチン30mg/kg/日を2週間投与後、血清カルニチン値は全例で上昇し正常範囲になった。また、NP-proBNPもほぼ全例低下した。 これらより、重症児(者)における血清遊離カルニチン値は、健常人よりも低いと言える。その要因としてカルニチン摂取の不足が挙げられる。特に調査時の栄養剤ではカルニチンの添加がなく、よりカルニチン低下をもたらしたと考えられる。 今回の調査ではVPAと他の抗けいれん剤のカルニチン値に与える差異を明らかにできなかったが、VPAは腎尿細管でのカルニチン再吸収を阻害するとされ、カルニチン欠乏の原因として知られている。VPA以外の薬剤もカルニチン代謝に影響を与える可能性が高く、今後さらなる検討が必要である。 重症児(者)では筋肉量の指標である上腕筋囲長、上腕筋面積が同年代の平均を大きく下回っていた。体内のカルニチンは95%が筋肉中に存在するが、筋肉の絶対量が少ないために筋肉内のカルニチンの貯蔵量も少ないと思われる。また重症児(者)では、カルニチン摂取量と血清遊離カルニチン値に相関がみられ、カルニチン製剤投与後すみやかに改善したことからも、貯蔵量が少ないために摂取量の影響を受けやすいのではないかと考えられる。 また、低カルニチン血症により、心筋のエネルギー利用障害や、蓄積した遊離脂肪酸の毒性による心筋細胞の破壊、心機能低下がおこり、カルニチン投与により心不全症状や心機能の改善が報告されている。 結論:重症児(者)は血清カルニチン値が低い。その要因として、重症児(者)では筋肉量が乏しくカルニチン貯蔵量が少ないため、摂取量、栄養状態、抗けいれん剤の影響を受けやすいことがある。治療の反応は良好である。 参考: 中野千鶴子ら.重症心身障害児・者における血清カルニチン濃度の検討.重症心身障害研究会雑誌15:23−9.1990. 越智史博ら.経管栄養施行中の重症心身障害児における二次性カルニチン欠乏症の検討.日児誌115:1314−20.2011. 大森啓充ら.重症心身障害児(者)の栄養:微量元素、特にセレンとカルニチンについて.日本臨床栄養学会誌33:31−8.2011. 日本小児科学会薬事委員会.ピボキシル基含有抗菌薬投与による二次性カルニチン欠乏症への注意喚起.日児誌116:804−6.2012. 略歴 1975年 京都大学医学部卒業 聖路加国際病院小児科 レジデント 1980年 京都大学大学院医学研究科入学 1983年 京都大学医学部附属病院助手 1984年 ロンドン神経研究所 客員研究員 1985年 ロンドン小児病院 神経科/臨床遺伝科 臨床研究員 1988年 滋賀県立小児医療センター 保健指導部長 1993年 大阪市立総合医療センター 小児神経内科 副部長 1995年 同上 部長  2006年 京都大学大学院医学研究科 教授(遺伝カウンセラーユニット) 2010年 東大寺福祉療育病院 副院長 現在に至る 学会専門医:日本小児神経学会専門医、日本小児科学会専門医、臨床遺伝専門医/指導医
ファッションショー
  • 鈴木 利子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 246
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    喜績織(きせきおり)とは、織りの中で最も単純な平織り機を用いて「自分の持って生まれた感力を自由に表現しよう、喜びを未来へつむごう」という思いを込めて名づけている。それぞれが生きてきた「軌跡」、これから起こす「奇蹟」という意味も重ねている。 既成概念に縛られない人たちの感性の鋭さ、色彩感覚の豊かさが、機(はた)というキャンバスにいきいきと表現されるとき、作品の放つエネルギーは、単なる織物という枠を超えて見る者の心を動かし、そのことが、生かし生かされる社会へとつながっていく。 そもそもこの工房を設立したきっかけは、私の個人的で強烈なある経験からだった。 40数年前、知的障害を持つ息子が6歳になったとき、旧養護学校の前身ともいうべき学級が普通の小学校の一室を借りてスタートした。初めての集団生活に日々心を閉ざしていく息子の様子に心を痛めていたものの、夢にまで見た学校という「行き場」を失う怖さに、心を鬼にして通学の日々を送らせていた。 その年の秋に小学校と合同で運動会が開かれることとなり、毎日徒競争の練習があった。皆自力で走ろうとせず、先生に手を引かれてゴールまでたどりつく光景が何度となく繰り返されていた。そしていよいよ本番の日、徒競争が始まり、小学校の児童たちが次々に颯爽と駆け抜けていく。次にいよいよ息子たちの学級の番になり、スタートの合図が鳴った。私は思わず自分の目を疑った。練習では先生方に手を引かれてしか走れなかった彼らが、全員自力でゴールを目指して疾走している。それは奇跡が起きたような瞬間だった。 翌年、重度障がい児通園施設が新設され、息子はそちらに移ることになった。秋には施設でも運動会が行われる。一年前の運動会ではゴールを目指して一生懸命に走っていた息子、また今回もそんな姿を信じて疑わなかった。しかし目の前の息子は他の子どもたちと同様に自力で走ることは無かった。 何が息子を走らせたのか、また翌年は走れなかったのか。彼らには何か秘められた力があるのではないか。そして、その力を引き出すことが出来れば、障がい者と言われている人たちの生き方が変わるのではないか。そうすれば息子や私自身も救われるのではという思いが湧きあがってきた。 以来、手探りにつぐ手探りの模索が始まった。様々な経験を経たのち、自らが輝き生かされることで他者をも輝かせることができる「手織り」と出会うことができた。そして小さな町の一角で開いた手織り教室で障がいのある人もない人も共に創作活動を続ける中で、「たとえ障がいがあっても人は地域の中で生かされる」という結論に辿りつくことが出来た。 当工房では次の3つの理念を大切に活動している。 1. 障がい者、健常者が、一緒に地域の中で創作活動ができる環境をつくる 2. それぞれの持って生まれた「感力」を引き出す支援をする 3. 手織り作家としての社会的自立をめざした様々な活動を行う 設立以来20年、一般の人たちと様々な障がいを持った人たちが一緒に創作活動をしている。障がいの種類は視覚障がい、知的障がい、脳の疾患による半身不随の身体障がいなど様々だ。キャリアも数年から十数年と様々だが、それぞれが個性的な織り作家として社会進出を目指し、努力している。 このたび、重症心身障害学会学術集会のファッションショーの機会をいただき心より感謝申し上げます。喜績織の彩り豊かな味わいある作品をご堪能いただければ幸いです。 略歴 1974年 栃木県初の精神薄弱者授産施設(通所)、設立準備会代表として設立に努める 1993年 手織り工房 のろぼっけを開設 1997年 宇都宮市制100周年記念 とっておきの芸術祭in大谷 主催  2000年 全国健康福祉祭(ねんりんぴっく)大阪大会 シルバーファッションコンテスト入選 2003年 第2回全国裂織公募展審査員賞受賞 2009年 読売新聞主催 「モノを大切にする心 再生デザイン大賞」 大賞受賞 2011年 宇都宮市制定 「宮のものづくり達人」 認定
  • 多屋 淑子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 247
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    衣服は、私たちが生命を維持し、健康を保つために重要であるばかりではなく、心身の安心・安全に密接に関わり、生活に活力や楽しさを生み出す力を持っている。第39回日本重症心身障害学会学術集会の重症心身障害児(者)では、色の持つ力と装いに着目し、機能性はもちろんのこと、美しさと装う楽しさを併せ持つ衣服を提案する。 ファッションショーは、国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園と、のざわ特別支援学校高等部、および手織り工房のろぼっけ(栃木県下都賀郡壬生町)の協力を得て実施する。重症児モデルは、家族の承諾を得た8歳と15歳の女性2名と16歳の男性1名からなる計3名であり、さらに、手織り工房のろぼっけ所属の障害を持つ織り作家も自らの作品を着装して参加する。 のろぼっけの織り作家が造り出す作品の色は、織糸に複数の色を使用しているにもかかわらず、透明感がある。その織物を身にまとって装うとき、着用者が異なると、同じ素材でも別の雰囲気を呈する色となることも興味深い。複雑な織物の色と着用者の皮膚の色との関係から、装うことにより新たな色が表出してくることも面白い。今年度は、脳性麻痺のモデルがショーで使用する帽子やハンドバッグ等の小物に、その織物を使用する。 重症児モデルの衣服の製作には、本人や家族および介護者との面談による身体状況や日常生活状況のヒアリング、またはアンケートによる調査を行い、衣服の好みや要望等を把握し、その情報を反映した衣服を作製し、衣服の機能と美しさが両立し、着用中も快適さが持続する衣服を提案する。女性モデル用の衣服は、特別な配色デザインをした特殊な織技術を利用した機能性素材を用い、身体を美しく覆うロング丈のワンピースと清楚なボレロからなるアンサンブルスタイルである。衣服は、身体を圧迫せず、着用による疲労感がなく、着心地の良さが持続し、着脱もしやすく、軽量で、洗濯等の取り扱いも容易である。着用者が一番美しく映える色やデザインを選定し、シルエットにも配慮を行っている。男性モデル用の衣服は、いろいろな生活シーンに活用できるように、カジュアルにもフォーマルにも着用できるシャツ・ベスト・ズボンから構成するスタイルとした。無理なく着脱でき、着用中も着心地が持続する工夫を行い、着用者の身体状況に応じた工夫を行っている。これらの衣服は、車椅子使用時に身体を固定するための車椅子のベルトが目立たなくする工夫も行っている*)。 今年度は、色を装うことにより生活が楽しくなる体験を行い、機能性と美しさを持つ着心地の良い衣服の提案を行う。 参考) *)多屋淑子.重症心身障害児(者)の生活を快適にする衣服.(社)全国重症心身障害児(者)を守る会.両親の集い 667 1月号:12−6.2013. 略歴 1977年 お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了 博士(生活工学) 日本大学専任講師、田中千代学園短期大学助教授を経て、1996年より日本女子大学教授 日本繊維機械学会学会賞受賞(1996年) 現在、日本重症心身障害学会評議員、日本学術会議連携会員、経済産業省独立行政法人評価委員会委員等
一般演題
  • 船戸 正久, 竹本 潔, 馬場 清, 飯島 禎貴, 柏木 敦子, 塩川 智司
    2013 年 38 巻 2 号 p. 248
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 現在、医学教育の中で患者さまをトータルに診られる医師の育成(全人医療教育)が社会から望まれている。今回関西医科大学医学教育センターから医学生の1週間の地域医療実習の依頼があり、当センターとして独自の実習カリクラムを作成し実行したのでその経験を報告する。 方法 医学生は1回生で、センター責任者会議の承諾を得て3名受け入れた。1週間(実質6日間、土日を除く)のプログラムは、オリエンテーション、施設紹介から始まり、医師・看護師・リハスタッフ・介護スタッフ・HPS(Hospital play specialist)など多職種による集中講義と実習研修である。特に今回移動・入浴・トイレ介助など介護実習を主として、利用者さまとのコミュニケーションを中心とした日常生活支援を担当者の指導の下、直接実習するプログラムを実行した。また訪問看護・リハ・訪問診療にも同行して、ご本人・ご家族にインフォームド・コンセントの基に家庭での実習も行った。 結果 今回の地域医療実習は当センターにとっても初めての経験であるが、3名の医学生は熱心に毎日実習に参加した。彼女たちの感想も「医療の専門的な知識がない時期に看護や介護の実習をさせていただくことができて本当に良かったです」「講義内容が難しいときがありましたが本当に様々な体験をさせていただけたので、良い経験になったと思います」「すべてのスタッフの方が、とても優しく接して下さり、とても嬉しかったです」「特に先生方には将来医師になるための心構えまで教えていただき、とても勉強になりました」など好評であった。 結語 医学生のEarly exposureとして、医療型障害児施設は利用者さまのニーズを中心に多職種が専門的にどのように良いチームで関わるかという全人医療教育の場として最適と思われる。 研究協力者:天野陽子(当センター教育担当)      木下 洋(関西医科大学医学教育センター)
  • 河村 京子, 中村 由佳, 松本 孝夫, 上村 千春, 井上 佳子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 248
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 当センターは「在宅看護実習」として看護学生を受け入れ、日常生活援助の実施など2日間の見学実習を行っていたが、2012年度よりA看護学校の依頼を受け「小児看護学実習」を受け入れることになった。 対象者が小児ではない上に重症心身障害児(者)施設で本当に小児看護を学ぶことができるのか、看護学生は目標を達成することができるのか指導者は戸惑いと不安を感じた。そこで定期的に行われる実習指導者会で、学生が実習目標を達成するためにはどのような指導が効果的か話し合い、実習指導案を作成した。 方法 1.各病棟より指導者が参加する実習指導者会を定期的に開催し、情報交換を行う。 2.A看護学校側が求める実習について教員より講義を受け、実習指導案に組み入れる項目を検討する。 3.A看護学校と実習連絡会を開催し、実習指導に関する討議を行う。 4.実習中は教員と連携を密にして指導を行う。 5.実習終了時、学生と実習反省会を行い学生アンケートを提出してもらう。 結果 1.実習指導者会は6回行い、指導に関する必要な項目の検討と実習反省会や学生アンケート結果から、指導内容、指導方法を検討し実習指導案を作成した。 2.教員による講義と年3回行った学校との実習連絡会議により、現在の学校側が求める実習の進め方や、教員がどのように関わって指導したのか具体的な内容について理解することができた。 3.実習中は教員と毎日話し合う時間を持ち、互いの指導方法を確認したことで不安が軽減し指導に対して自信がもてた。 考察 教員との綿密な話し合いを重ねたことで、学生が目標を達成できる効果的で統一した指導はどのようにしたらよいか理解でき指導案作成に活かせたと考える。 結論 実習指導案の作成には指導の内容や到達目標について理解するとともに、教員と連携を密にすることで学生の指導内容や指導目標が明確となり、指導の方向性を見出すことができる。
  • −在宅医療支援に重点をおいた医療機関中心の全県的な対応モデルの構築−
    山本 重則, 石原 あゆみ, 眞山 義民
    2013 年 38 巻 2 号 p. 249
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    背景 千葉県の重症心身障害児者の地域生活に係る最大の課題は、医療を必要とする重症心身障害児者に対する在宅支援サービスが不十分で、そのために在宅移行できずにPICUやNICU等に長期入院している重症心身障害児が多いという点であり、早急に改善していく必要がある。そのためには高度医療を必要とする重症心身障害児者に対する在宅支援サービスを増やすことと、現在あるサービスを効率よく利用できる連携体制を構築していく必要がある。 実施概要 2012年度、重症心身障害児者地域生活モデル事業を受託し、千葉県内全体を対象として、在宅医療支援に重点をおいた医療機関中心の全県的な対応モデルを構築して、種々の事業を計画・実施した。県内の大学病院・主要医療機関の小児科・新生児科、医療型障害児入所施設、重症心身障害児者を対象にした在宅診療所・在宅訪問看護ステーション・地域歯科診療等の医療機関ならびに福祉施設、特別支援学校、千葉県重症心身障害児(者)を守る会、千葉県、千葉市(政令指定都市)、船橋市・柏市(中核市)の行政に参加を呼び掛けて、「千葉県重症心身障害児者地域生活支援ネットワーク協議会」を発足させた。その中で高度医療を必要とする重症心身障害児者に対する在宅支援サービスを増やしていくことと、現在あるサービスを効率よく利用できる連携体制を構築することを目指した。ネットワーク協議会を定期的に開催することにより、千葉県内全域の重症心身障害児者の地域生活向上のための連携推進の基礎を確立するとともに、医療機関現場と行政との現状認識の共通化が推進された。ネットワーク協議会参加施設の実務担当者による実務担当者会議を定期的に開催することにより、お互いの顔がわかりあえる関係の連携が強化された。これらの実務担当者が実際に連携して在宅移行の際のコーディネート・相談支援を実施することにより、個々の事例での地域生活の向上が達成された。
  • 丸山 幸一, 長谷川 桜子, 三浦 清邦, 吉田 太
    2013 年 38 巻 2 号 p. 249
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 心身発達障害のある人が成人に達した際の医療支援における、医療機関の役割分担の現状と問題点を明らかにすることを目的として、当院から地域医療機関へ紹介した成人患者の医療的QOLをアンケート調査により検証した。 対象と方法 2007年度に当院から地域医療機関に紹介した、てんかんあるいは重症心身障害のある成人患者92名の保護者にアンケート用紙を郵送した。調査については当院倫理審査委員会の承認を得た。 結果 回答数は61通(回収率66%)であった。身障手帳1/2級46%、療育手帳A判定72%、両者の重複は43%であった。受診医療機関は地域基幹病院56%、一般病院18%、診療所18%であった。紹介先からの再転院が27%あり、理由は「診察をしてくれる医師がいない」「担当医がやめた」などであった。当院再受診は2人のみであった。てんかんの治療は93%が受けており、病状は「発作なし・投薬調整なし」51%、「発作あるが安定・投薬調整なし」16%、「発作あり・投薬調整あり」18%、「発作あり・投薬調整なし」3%であった。医療機関利用に関する意向は「一般診療は地域医療機関、特殊診療は専門機関」が最多であった。満足度は「満足」「まあまあ満足」が51%、「不安もあるが何とかやっている」が39%であり、「他の病院に移りたい」は2%であった。自由記載では入院・手術の受け入れ、長く診てくれる医師がいない、障害者を診る専門性を持った医師の不足、抗てんかん薬の調整、緊急時の対応等に対する内容が多かった。 考察 地域医療機関への転院については肯定的な考えが多かったが、不安要素としては入院診療、緊急時対応、てんかん治療、主治医の継続性と専門性などがあった。円滑な地域移行に必要な要素として、専門医療機関と地域医療機関との連携、障害者医療知識の普及、専門性を持った医師・医療機関に関する情報提供が挙げられた。
  • 三浦 清邦, 丸山 幸一, 長谷川 桜子, 吉田 太
    2013 年 38 巻 2 号 p. 250
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 近年、重症心身障害児を中心に人工呼吸器などの濃厚な医療ケアを必要とする児が増加している。小児在宅医療が可能な医療機関がみつからず、在宅移行に支障を来している場合も多い。小児在宅医療の受け入れについて現状を把握するため、名古屋市内の医療機関に意向調査を実施した。 方法 名古屋大学医学部附属病院地域医療センターから、名古屋市医師会の了承をえて名古屋市内の全医療機関(急性期病院・精神科・美容外科を除く)にアンケートを送付した。訪問診療に対応、または往診に対応、または在宅療養指導管理に対応するサービスを外来通院患者に提供している場合を、「在宅医療に対応している」とした。在宅医療に対応可能かどうかの質問に可能と回答した医療機関には、小児在宅医療に対応可能かどうか、さらに対応可能な内容について追加質問した。 結果 送付数1,261、回収数336(回収率26.6%)で、72医療機関(21.4%)が在宅医療に対応可能と回答した。72医療機関のうち、年齢別では、1歳未満対応可能13、1歳〜就学まで対応可能23、小学生対応可能36、中学高校生対応可能44であった。最も受け入れが困難と思われる「気管切開下の人工呼吸器を装着した患者」に対しては、1歳未満対応可能6(専門診療科が内科5)、1歳〜就学まで対応可能10(8)、小学生対応可能16(10)、中学高校生対応可能17(11)であった。内科では呼吸器科を専門とする医師が半数をしめ、小学生以上になると外科を専門とする複数の医師が可能と回答した。 考察 気管切開下の人工呼吸器装着児の在宅医療についても、小児科医でなくても受け入れ可能な医療機関は存在することがわかった。地元医師会や在宅療養支援診療所連絡会などと連携をとり、特に呼吸器内科専門の医師を中心に、小児在宅への関わりを求めていくことが必要と思われる。
  • 吉田 太, 丸山 幸一, 長谷川 桜子, 三浦 清邦
    2013 年 38 巻 2 号 p. 250
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 小児期発症の心身発達障害のある人に対する医療については、日頃のかかりつけ医(主に地域の開業医)、2次医療機関としての地域基幹病院、障害医療に特化した医療機関という3者の医療連携が重要と考える。その中で、一般的な急性疾患による入院を前提とした2次医療については、地域の基幹病院の受け入れに関しては未だ多くの課題を抱えている。この理由としては、基幹病院に勤務する各診療科医師の意識の問題、病院としての障害児(者)医療などに対する取り組みの温度差も関係すると考えられる。このような現状を鑑みて「地域基幹病院の実地診療医に対する障害児(者)診療に関するアンケート調査」を実施したので報告する。 方法 近隣の地域基幹病院4施設の勤務医師に対して、診療科を問わず重症心身障害児者および自閉症などの広汎性発達障害児者に対する診療経験や課題、今後求められることなどについてアンケート調査を実施した。 結果 送付数540、回収数352(回収率65.2%)、回答医師の内訳は、内科、外科、小児科、整形外科などほぼすべての診療科にわたり医師経験年数も研修医から管理者まで幅広く回答が寄せられた。多くの医師が限られた経験しか持たない中で、今後については「専門領域に関しては診ていきたい」という前向きの回答が多くみられた。必要なこととしては「障害専門医師との具体的な連携」「コメディカル・病院の理解」「普段の様子を把握している付添い人」などが上位を占めた一方で「専門医からの研修の機会提供」「メディア等による情報提供」について挙げた医師は比較的少なかった。 考察 今回のような、複数の基幹病院のほとんどすべての診療科の医師に対する障害児(者)医療に関する意識調査の報告例は稀と思われる。地域医療連携のもとに、キャリーオーバーも含めて小児期からの障害のある人々をライフステージを通じて診ていく上で貴重な資料になると考え報告する。
  • 松尾 久美子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 251
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに NICUでベッドを占拠している重症心身障害児(以下、重症児)が社会問題化した後、在宅重症児が急増し、重症児施設でNICUからの受け入れ、在宅支援の需要も増えた。そこで、県内の重症児施設で在宅支援の足並みを揃えるために、2010年、福岡県重症児施設協議会にて企画書を提出し2011年より看護管理者中心の連携会議を始めた。その中から見えてきた問題や成果を報告する。 経過 2011年の調査では、福岡県内の重症児者は、3019人。このうち在宅は1938人(64.2%)。内18歳未満は875人で在宅780人(89.1%)と多い。 始めは、重症児施設7施設と国立病院機構3施設の看護管理者で開始した。その後、訪問看護ステーション、福祉施設等が参加。しだいに基幹病院の社会福祉士、看護師の参加が増え、第10回会議では41施設の参加となり、様々な問題を討議した。 成果 1.施設間連携 2.人脈作り 3.問診表の統一  4.食事形態の表作成 5.基幹病院との共通理解 問題点 1.在宅児の受け入れ施設や開業医が極端に少ない 2.搬送問題 3.救急対応 4.訪問看護師スキル不足 5.人件費などの莫大な費用 6.家族、兄弟児問題等 考察 施設間連携は取りやすくなった。しかし、在宅支援の方向は正しいのか? 莫大な費用は? 在宅をみる開業医が少なく、個別性の高い看護など在宅誘導する際の相談支援員の必要性は高いが認知度は低い。整備が整わない中での在宅誘導は、インクルージョンではないのか? 医療的ケアも重度化している中、重症児施設の果たす役割を再検討すべきである。在宅支援強化、地域の施設職員の教育、特別支援学校職員教育等山積みである。国の施策は、医療ケアのあるなしで分けているが、医療のない重症児もいずれ医療が必要となることは明確である。今後の展望をよくみながら、重症児の小さな幸せを支援していきたい。
  • 小川 千香子, 三浦 清邦
    2013 年 38 巻 2 号 p. 251
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    目的 当院の在宅医療の現状を調べ、大学病院における小児の重度障碍児(者)の在宅医療の課題を明らかにする。 方法 2013年4月、5月に当院小児科および小児外科の外来を受診した、在宅療養指導管理料(在宅自己注射・悪性腫瘍患者指導管理料を除く)を算定した患者32人を対象とした。診療録をもとに後方視的に検討した。 結果 男13人・女19人、2013年4月時点での平均年齢は6歳11カ月(範囲:0歳1カ月〜26歳8カ月)、居住地は名古屋市内17人、名古屋市以外の愛知県15人であった。基礎疾患は、周産期異常8人、染色体異常・奇形症候群9人、その他15人であった。小児在宅医療の項目にある医療行為が必要となった年齢は新生児期23人、乳幼児期6人、学童期3人(0歳0カ月〜12歳4カ月)であった。在宅移行年齢は中央値0歳7カ月(0歳1カ月〜21歳8カ月)であった。在宅酸素療法のみ8人、非侵襲的陽圧換気1人、気管切開17人、気管切開下人工呼吸管理9人であった。経管栄養は胃瘻10人、経鼻栄養5人、中心静脈栄養2人、自己導尿3人、経皮的胆道ドレナージ1人であった。重症心身障碍児(者)は12人、超重症児に相当する患者は8人、準超重症児は7人であった。気管切開下人工呼吸器患者9人のうち在宅医と連携ができているのは5人、訪問看護ステーションの利用は8人であった。 考察・結論 当院から退院した在宅患者の医療依存度は高いが、当院からの往診、当院への軽症な感染性疾患等での入院やレスパイト入院は困難である。当院では小児在宅支援のための統合部門がなく、在宅医療については主治医または各科外来ごとの管理をしている。今後当院でも病院内はもとより地域の基幹病院や在宅医とさらなる連携を深め、患者家族と医療者双方に有用な整備を行う必要があると考えられる。
  • 井合 瑞江
    2013 年 38 巻 2 号 p. 252
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    子ども専門病院に重症心身障害児施設・肢体不自由児施設が併設される当センターにおける在宅呼吸療法導入の現状について明らかにすることを目的とした。人工呼吸器を在宅で使用する必要性が生じた場合、地域医療連携室が中心となり、安全で安心した在宅生活ができるように支援体制も含め、チームで取り組んでいる。毎月開かれる在宅医療審査会での取り組みを中心に検討した。 対象 2011年4月から2013年3月までの2年間に在宅呼吸療法導入の検討を行われた36例(2011年度12例、2012年度24例)である。 結果 原因疾患は神経疾患28例、筋疾患6例、その他2例であった。うち28例が在宅へ移行、検討途中での死亡4例(うち2例は緩和的使用目的導入)、不要3例、検討中1例であった。導入された在宅人工呼吸療法はTPPV19例(8例、11例)、NPPV17例(4例、13例)であった。導入に至る入院期間は筋疾患NPPV導入は16−122日(平均51日)、神経疾患NPPV導入27−145日(平均75日)であった。 考察 2年間での変化ではNPPV症例が大幅に増加し、この傾向は今後も続くと思われた。退院までの時間が長くかかる要因として、NPPVでは導入時のインフォームドコンセントが不十分な症例があり、導入に慣れた医療者側の対応に対し、導入時説明項目のチェックリスト等の見直しの必要性が明らかとなった。また、緩和ケアの一環としての導入(院内・院外外泊)、家族の受容過程に伴う導入など目的の多様化がみられた。
  • 長嶋 雅子, 森 雅人, 門田 行史, 福田 冬季子, 野崎 靖之, 杉江 秀夫, 山形 崇倫
    2013 年 38 巻 2 号 p. 252
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    目的 小児の在宅人工呼吸器管理(HMV)の背景と現状および問題点を明らかにすることを目的とした。 対象と方法 当院に1996年から2011年まで通院したHMV児(者)37例(年齢11カ月〜23歳、中央値9歳)を対象に、疾患背景、臨床経過を診療録から後方視的に検討し、HMVの利点および問題点を介護者への調査票により評価した. 調査票回収率は68%(19/28例)であった。 結果 基礎疾患は、中枢神経疾患が25例(68%)で、神経筋疾患が9例(24%)だった。33例(89%)が重症心身障害児(者)であり、1症例に対して数種類の専門的な医療的ケアや手技を必要としていた。調査時すでに死亡していたのは9例で、全例が重症心身障害児(者)であった。死亡原因は、気管チューブ誤抜去や喀痰・誤嚥による気道閉塞などの気道のトラブルが4例、感染症3例、心不全1例、原因不明1例であった。2003年以降症例数は増加し、6歳未満で在宅移行する症例が増加していた。 HMVの利点として、家族と一緒にいられる(100%)、児の成長が得られる(79%)、介護者が納得するケアができる(74%)などが挙げられた。一方で、療育費の自己負担が大きい(79%)、レスパイト施設利用が不便(68%)、などの困難さが挙げられた。 考察 HMVは、重症心身障害児(者)の割合が高く、多数の難易度が高い医療的ケアが必要であり、管理が難しいと考えられた。HMVへ移行時には、家族に、必要な医療的ケアの手技、状態を観察する重要性を十分に教育する必要があると思われた。HMV児は、この10年で増加し、低年齢化していた。HMVは、家族にとって利点が多い反面、介護の負担が金銭的、人的に大きいと考えられた。様々な対策、制度が作られているが、HMV児の現状に促した、レスパイト施設の拡充、医療材料補助の見直しなどのサービスを検討する必要があると考えられた。
  • 和山 加奈子, 高舘 美穂子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 253
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    目的 在宅人工呼吸療法(以下、NPPV)が必要と言われたときの家族の思いとその背景を明らかにし、家族の思いに配慮した支援とは何かの示唆を得る。 対象 A病院でNPPVの指導を受けた家族3例で子どもの年齢・性別に限定はしない。 期間 2012.10〜2012.11 方法 半構造的インタビューを行い、録音したインタビュー内容を文字化、コード化し、類似項目からカテゴリーを抽出し内容を分析した。 本研究はA病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した。 結果 【生きていてほしい】【人工呼吸器をつけるまでの葛藤】【人工呼吸器が必要であると認める】【支えが欲しいという家族の要望】の4つのカテゴリーと9つのサブカテゴリーが生成された。対象3例に共通して、気管切開を勧められたが拒否していたという事実がわかった。 考察 子どもの身体的変化が起こったときに家族は≪体調が悪化することによって子どもが死んでしまうのではないかという不安≫が強かった。同時に気管切開を勧められていたが、「声を失いたくない」「体に傷はつけない」という家族の意向に沿った≪気管切開をしなくてもいい人工呼吸器があったことの喜び≫があった。一方で≪人工呼吸器を導入することで介護負担が増えることへの不安≫もあり、気持ちの整理がつかない状態であったと考えられる。家族は、「子どもが死んでしまうのでは」という恐怖を感じながら子どもに代わって意思決定する状況になるたびに≪子どもの考えを理解してあげることができていないという自信の無さと判断に迷う苦しさ≫が強くなっていったと考えられる。 これまで、NPPV導入のために必要な介護方法に重きが置かれた支援を行ってきた。しかし、家族にとってはそれと同等以上に不安や苦しみの理解を医療者に求めていたことがわかった。家族が抱えている不安や苦しみの背景に目を向け、家族が相談しやすい環境を整えていく取り組みが、より必要であると考える。
  • 二宮 悦, 小林 拓也, 神前 泰希, 城谷 みち, 惣田 浩一, 渡邉 美保, 木島 亜依
    2013 年 38 巻 2 号 p. 253
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児)は、NICU・病棟から、医療ケアを伴って退院することが多い。しかし、在宅生活に移行してのち、医療ケアが追加になる場合、不要となる場合もある。在宅医療の立場から、この医療ケアの重・軽度化に着目した検討は少ない。 私たちは、1999年より障害児の日中一時預かりを柱とした在宅支援を行っており、医療ケアが変化するときに、家族に寄り添う機会が少なくない。今回、日中一時預かりを利用する重症児の医療ケアの重・軽度化について検討を試みた。 2003年に支援費制度が施行されて以降、日中一時預かりを行った重症児は計82名。このうち、医療ケアを有するもの62名、医療ケアのないもの20名であった。この62名中、医療ケアに変化のあったものは34名。ケアが重度化したもの26名、軽度化したものが3名、重度化ののち軽度化したもの1名、注入経路の変更(胃・腸瘻造設)18名であった。重度化の内訳は、経管栄養導入12例、気管切開施行3例、在宅酸素導入5例、人工呼吸器(NIPPV)導入2例、下咽頭挿管開始5例、導尿開始4例であった。軽度化の内訳は、経管栄養中止1例、気管切開閉鎖1例、酸素中止3例であった。ケアの重度化の年齢は就学前、小学校高学年年齢、高校生年齢にピークを認めた。一方、軽度化の年齢は、就学前に集中する傾向がみられた。胃・腸瘻造設については、年齢分布に特徴は見られなかった。特別支援学校の多くは、医療ケアのある児を受け入れているが、新たな医療ケアの導入、医療ケアの重度化には、時間と手続きが必要となる。単独登校が可能になるまでには入院期間、学校への付き添いなどを含め、長い期間がかかる場合が多く、この間の在宅支援、早期単独登校再開への支援は必要不可欠である。私たちの施設では在宅期間中、預かり回数を増やすこと、特別支援学校への情報提供等を試みている。
  • −家族のケア力向上を目的としたチーム医療連携−
    木下 靖子, 久保田 雅美, 山口 昌子, 上野 美保, 山本 正仁, 成宮 正朗
    2013 年 38 巻 2 号 p. 254
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 近年、地域連携室などが設置される病院が増え、NICUでも早期から退院調整を考えるようになってきている。しかし、超重症児は退院調整が困難なケースと捉えられ、在宅へ移行できないケースが少なくない。今回、低酸素性虚血性脳症により重度の神経学的な後遺症が残った児に関わった。この児の在宅移行が可能になるためには、24時間対応の呼吸器管理、吸引、経管栄養、導尿、浣腸、全介助での日常生活のケアなどを行うことが必要であった。われわれNICUの看護師は、超重症児の在宅移行をサポートした経験がなかったため、手探り状態から院内外の多職種との調整、連携を行った結果、在宅移行が実現した症例を経験したので報告する。 症例 児は、在胎週数32週で出生した女児である。出生体重2038g、アプガースコア1分値1点5分値2点、JCS300。重症新生児仮死で低酸素性虚血性脳症となり、自発呼吸はなく、人工呼吸器管理中である。退院後も24時間の医療ケアが必要不可欠であった。 結果・考察 児の状態が安定し、在宅に向けた家族の意志決定が確認され、在宅移行に向けた具体的な支援を開始した。出生から1歳5カ月経過し在宅移行となった。在宅移行を進める上で、児や家族に無理が生じない医療ケア、在宅サポートを考えることが大きな課題となった。そこで、NICU看護師をはじめ、新生児集中ケア認定看護師、訪問看護師、ソーシャルワーカーなど、それぞれの職種が特性を生かし、家族の身体的、精神的、経済的面での負担をできるかぎり少なくするために試行錯誤した。本症例は、必要な職種と役割を分担し退院支援を行い、家族のケア力を育てることで在宅移行につながったと考える。NICU看護師は、新生児の救命に携わるとともに、急性期から退院に向けた支援を行う必要がある。NICU内のケアだけにとどまらず、在宅医療を見越したケアを構築していく必要があると考える。
  • 谷口 敬道
    2013 年 38 巻 2 号 p. 254
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の在宅生活を支えているのは、家族の献身的な養育である。特に母は、常に子の呼吸音に耳を澄ませ、タイミングの良い吸引を家事の傍ら行う。また、夜間の就寝時においても同様であり母の疲労は日常的なものになっている。このような中で、筆者は、就寝中に人知れず静かに息を引き取る事例を数例経験した。家族にとっては予期せぬ出来事である。そこで、心拍数・呼吸数を測定しそれらの測定値が一定条件以下を示したとき、外部に発信する機器の必要を感じ、2002年より装置の開発を行ってきた。心電計などを在宅生活に持ち込み24時間モニタリングすることでこの問題を解決することは可能であるが、その必要性は限られている。また、家族は子どもへの身体拘束を避けたいと考えている。 2002年度から3年間は、高分子圧電薄膜素子を用いて開発を行った(アステック(株))。マットレス上にセンサをシート状に配置しその上に寝かせることで心拍数・呼吸数を測定する装置である。無拘束状態における測定は可能となったが脊柱の強い変形のために背面の全面接地ができない事例などの測定は困難であった。 2010年度より株式会社タニタの協力を得ながら本目的に叶う機器の開発に向けた実証研究を行っている。同社のスリープスキャン(SL-501®)は、眠りを測定する装置であり30cmのマットレスの下にセンサを敷いても測定可能という特長がある。3回の改良が加わり、現在は、無線Wi-Fiを通してデータを取得し各家庭、研究機関などのPCモニタ上にリアルタイム表示することが可能となった。また、測定値によりアラートを特定のメールアドレスへ自動的に発信する機能も有している。実証研究は、1家族を対象に2013年2月より開始した。家族からは、睡眠中はもとより他の部屋で家事をしているときなどの不安軽減につながるなどの意見を得ることが出来た。 今後は、事例数を増やし実証研究を推進していく予定である。
  • 木原 健二, 河崎 洋子, 今西 宏之, 宇宿 智裕, 八木 麻理子, 水戸 敬, 高田 哲
    2013 年 38 巻 2 号 p. 255
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    目的 在宅重症心身障害児(者)(以下、重症児者)では機能障害が重度な者ほど夜間に多くのケアを必要とし、介護負担は介護者の睡眠に影響を及ぼす。近年、在宅重症児者では障害が重度化する傾向にあるが、介護者の睡眠状況についての報告は少ない。今回、在宅重症児者の重症度と介護者の睡眠状況の関係について検討した。 対象および方法 重症心身障害児(者)施設に外来通院する重症児者53名(平均年齢16.0±9.9歳)およびその介護者53名(平均年齢45.7±9.2歳)を対象とした。介護者の睡眠状況については平均的な就寝時刻と起床時刻(睡眠時間)・子のケアのために夜間中途離床する回数・5段階スケールによる介護者の熟眠感の自己評価を自記式のアンケートにより調査し、子の運動機能(GMFCS)と介護者の睡眠状況の関係をKruskal-Wallis検定を用いて検討した。またGMFCSレベルⅤの群33名について、医療ケア(経管栄養・口鼻腔吸引・気管切開・夜間の人工呼吸器使用)の有無により介護者の睡眠状況に差異が生じるかをMann-Whitney検定を用いて検討した。 結果 GMFCSレベルⅤの群の介護者はレベルⅢの群と比較して睡眠時間が短縮し( p =0.02)、夜間中途離床する回数が増加していた( p <0.01)。口鼻腔吸引を必要とする群の介護者は必要としない群と比較して夜間中途離床する回数が増加しており( p <0.01)、熟眠感が低下していた( p =0.01)。 考察 GMFCSレベルⅤの重症児者では夜間の体位変換の必要性が高く、これが介護者の睡眠状況の悪化に影響していると考えられた。また口鼻腔吸引を要する重症児者の介護者はケアのため不定期に中途離床することが必要であり、これが熟眠感の低下に影響していると推察された。介護者の睡眠状況を改善するためには、介護者にポジショニング等のケアを指導して重症児者本人が夜間安楽に過ごせる状態を維持することや、夜間を含めたレスパイトケアの充実が重要であると考えられた。
  • 玉置 ふみ子, 堂脇 千里, 島邑 眞理子, 西田 加代子, 福本 良之, 蘆野 二郎, 服部 英司
    2013 年 38 巻 2 号 p. 255
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 地域で生活する医療ケアを必要とする児の母親の疲弊(疲れ)の改善は医療者にとっても大きな課題である、母親の疲弊の軽減は、結果として児の利益に結びつく。母親が自由な時間を確保するには「短期入所」制度があるが、現状では自由に予約を得るのが困難であり、児を慣れていないスタッフに任せる不安感も見られる。また、呼吸器や多くの医療機器を持ち出しての施設への移動は容易ではない。通常の訪問看護と短期入所の間隙を埋め、母親の疲弊を軽減する目的にて、ノーマライゼーションの観点から、「特別」を可及的に除去(自由時間のバリアフリー)するための「在宅レスパイト」(訪問看護によって母親に自由な時間=小休止を提供)を試行したので報告する。 目的 母親の疲弊を軽減するとともに自由時間がないという母親の「特別」な状況を減らし、地域で患児と家族がより「普通」に活きるための有効な支援の方法を開発する。 対象と方法 通常の訪問看護は、1回につき1〜2時間の訪問時間であるが、3時間以上(8時間以内)に延長した訪問看護を「在宅レスパイト」とした。「核家族」「呼吸器」「兄弟」「母親の不安」の4項目をスクリーニング基準として、看護師が必要性を判断して試行対象を選択した。計14人に試行し、開始時の患児の年齢 は0歳から10歳であった。 結果 在宅レスパイトの開始時期は、患児の退院後1年以内が10人を占めた。14人中5人が試行期間中に原疾患等が原因で死亡、1名が施設入所に移行した。実施中に事故はなかった。6人は現在も在宅レスパイトを継続中である。利用回数は月1回から8回であり、スクリーニング基準に合致したケースでは再利用率は100%となった。 考察 母親が自由に使える時間を提供することで、閉塞感や孤立感を伴った疲弊感を軽減することができた。自由時間がないという母親の「特別」な状況を減らし、ノーマライゼーションに寄与すると考えられた。
  • 長尾 亜祐美, 木村 登志子, 出口 裕子, 中村 千亜紀, 石原 道子, 中澤 真由美, 川又 協子
    2013 年 38 巻 2 号 p. 256
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    はじめに 当事業部は、東京都事業として特別区の重症心身障害児へ週一回、3時間程度の訪問看護を年間約250人に実施。“療育支援”を看護の柱とし、5歳児は“学校(特別支援教育)につなげること”が目標である。 研究方法 2013年4月に就学した重症児22人の担当看護師による生活支援シート(5歳までの各年度・就学前年度の月毎記録)とアンケート調査 (概要と看護内容)から、就学に向けた生活支援、特性、看護について分析した。 結果 1.対象児:大島分類1=18人2=1人3=1人4=2人、超重症児10人・準超重症児6人・非該当児6人 2.児童発達支援事業:通所“あり” 16人(73%)、“なし” 6人(超3・準2・非1) 3.就学先:全員が特別支援学校で、通学籍13人(59%)・訪問籍9人(41%)である。通学籍の超重症児5人・準超重症児2人は全員通所経験があり、非該当は全員通学籍である。しかし、通学バスに乗れた児は3人で、他全員家族送迎である。 4.学校・コーディネーターとの連携:超重症児は同行など全員がなんらかの連携を取っている。準超重症児は5人(83%)が学校と連携を取っている。非該当児は通所先との連携で看護師からの連携はない。 5.看護:1)児への関わり:看護内容は体調管理、成長・発達支援。就学をイメージして座位の時間を増やす、経口摂取への努力もある。2)家族への関わり:多くが母に寄り添う・学校訪問や面接同席の経験を共有すると回答。関係機関と連携。3)看護師として:重症度や家族力の差、経験により看護師の揺れに差がある。家族が児の成長を喜ぶことに共感。就学支援の経験が “寄り添う支援”の学びとなっている。 考察・結論 医療ケアが多い在宅重症児は、看護師がプライマリーとして母に寄り添いながら体調管理、発達・家族支援を行っている。療育支援を掲げる重症児の訪問看護は、社会の一員となる教育につなげる大きな役割がある。しかし、障害受容や母性や父性を育てる支援等に課題がある。
  • 小黒 範子, 清水 純
    2013 年 38 巻 2 号 p. 256
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    目的 当院施設部には、旧肢体不自由児施設である病床数30床の医療型障害児入所施設がある。18歳以下の長期入所児と同じ病棟で障害児のレスパイト事業(短期入所・日中一時支援)を実施している。2009年からは、人工呼吸器装着児の受け入れを開始した。当院における事業の現状をまとめ課題を検討する。 対象と方法 2010年度〜2012年度(4月〜翌年3月)利用実績等をまとめた。2012年度の利用実績の詳細、利用者の診断名と医療的ケアの内容などを診療録や看護記録等から調査した。 結果 3年間の利用延べ日数は、平均916日/年(内短期入所は426日/年、日中一時は490日/年)であった。2012年度では、人工呼吸器装着児の利用が126日(15%)、気管切開児が293日(35%)、その他胃瘻、経鼻経管栄養、導尿などケアの子では67日(8%)であり、全体で58%の利用児に医療的ケアが実施されていた。利用児の年齢は1歳〜18歳であった。診断名は、脳性麻痺、神経筋疾患、染色体異常、多発奇形症候群など多様であった。主治医が当院であるのは17%のみで、他の83%は大学病院や地域の総合病院であった。利用中の問題点(3年間)としては、発熱による利用中止がのべ9回、気管切開児が呼吸不全の増悪のために救急搬送、頻回の気管カニューレ自己抜去、人工呼吸器回路等のトラブル等があった。 考察 レスパイト事業は平均すると一日に約2.5人の利用であったが、実際は日毎に人数のばらつきがあり、短期入所は休日に希望が多い傾向がある。長期入所児の看護・保育業務とのバランスをとる必要がある。特に人工呼吸器装着児はそれぞれの体調管理に合わせた環境配慮をし、異なるケアの方法があるので、看護師全員が共有できるように詳細なマニュアルを作成しながら、家族との信頼関係を築いていくプロセスが必要である。今後も、他の医療機関と協力して県内の障害児の在宅支援としてレスパイト事業を展開していく必要がある。
  • 小林 拓也, 神前 泰希, 二宮 悦, 惣田 浩一, 城谷 みち, 渡邉 美保, 木島 亜依
    2013 年 38 巻 2 号 p. 257
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    2012年、自立支援法改正に伴い医療型特定短期入所制度が開始された。無床診療所における重症心身障害児者(以下、重症児)の日中一時預かりを制度化したものである。一旦支援費制度で制度化されたが、自立支援法の制定とともに消滅し、今回の改正に伴い復活した。医療ケアの高度な在宅重症児の支援には有用な制度であるが、自治体に広く周知されておらず、導入を検討しながら実現できないという事例も耳にする。 私たちは、1999年開業当初より障害児の日中一時預かりを開始し、支援費制度では宿泊を伴わない短期入所、自立支援法では日中一時支援制度で施設運営を行い、2012年5月より医療型特定短期入所制度を導入した。その結果、採算性が向上し、事業の継続性が担保された。今回この制度の採算性と医療圏につき検討を行ったので、制度導入を検討している諸氏の参考になればと考え報告する。 私たちの運営する重症児日中一時預かり施設は定員20名、2013年4月1日現在登録者数45名であり、一日に10から15人くらいの重症児が利用している。施設と自宅・特別支援学校間の送迎も行っている。曜日を決めての定期利用が38名と多く、さらに保護者の就労支援のため毎日預かりをしているケースもある。 45名の登録者のうち、施設のある金沢区が31名。他の14名は周辺区に居住しているが、その大半は片道30分以内に居住している。この30分が重症児を預けに連れて来る限界と考えられる。片道30分の地域人口約40万人が定員20人に対しての医療圏と想定できる。一方、施設定員10人、平均稼働率50%であれば、6000万円の年収が見込め、職員の人件費を差し引いても医師一人の収入は確保できる。定員10人であれば20万人の人口が医療圏と設定できる。片道30分以内に20万人の人口があれば、外来診療なしで、医療型特定短期入所制度での重症児日中一時預かりの施設運営が可能と考えられる。
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