抄録
第40回日本重症心身障害学会学術集会を9月26日(金)、27日(土)の二日間、京都の地で開催いたします。障害者を取り巻く福祉施策や社会環境は大きく変わろうとしており、大会のテーマを「見つめ直そう。重症心身障害医療・福祉の原点」(サブテーマ 新しい制度のもと、その課題と方向性)としました。平成18年障害者自立支援法が施行され重症心身障害施設は18歳以上を対象として医療型の療養介護事業へ制度移行となり、経過期間を経て24年からは公立・法人立重症児(者)施設と国立病院機構の重症児(者)病棟は医療型の療養介護事業に変わりました。特に国立病院機構では大きな質的な変化をもたらそうとしています。
昭和39年全国重症心身障害児(者)を守る会が設立され半世紀が過ぎました。守る会が掲げた三原則の一つに「最も弱いものをひとりももれなく守る」があります。この理念が世界に類のない福祉と医療が表裏一体の重症心身障害施策を日本にもたらしたと思います。
今回の学会で二人の先生に特別講演をお願いしています。「この子らを世の光に」を理念に掲げたびわこ学園で、長年実践を重ねてこられた前院長の高谷清先生に「重い障害のある人の生きるよろこびと“生命倫理”」と題して講演をお願いしています。高谷先生は岩波新書から「重い障害を生きるということ」(平成23年)と題した本を出版されました。重症心身障害医療の現場で働く者として、この著書から「最も弱いものをひとりももれなく守る」事の意味や意義を改めて考えさせられました。今学会のテーマである「重症心身障害医療・福祉の原点」にふさわしい特別講演と考えています。また同志社大学の小西行郎先生(赤ちゃん学研究センター教授)には「赤ちゃん学からみた重症心身障害」と題してお話頂きます。周囲に育まれ日々成長していく赤ちゃんと同じように、さまざまな障害を負う重症心身障害児(者)にも大きな“力と可能性”が秘められていないか、それを引き出し伸ばしていくヒントは無いのかとの思いからです。
今学会ではシンポジウムとして3つの課題を取り上げました。
1.本学会サブテーマの「新しい制度のもと、その課題と方向性」に基づき「障害者総合支援法からみた重症心身障害」と題してシンポジウムの一つを企画しました。療養介護事業移行に伴い、日中活動や社会参加がクローズアップされています。公立・法人立施設では、利用者一人に対するスタッフ数はほぼ1人を確保していますが、国立病院機構では看護師中心で、0.8人程度でマンパワーの不足は否めません。しかし国立病院機構の運営方針の一つとして在宅支援を中心としたセーフティーネットを掲げ地域社会のニーズに合った取り組みを進めています。設立母体やその歴史は異なりますが、重症心身障害児(者)を受け入れる施設の運営上の課題や地域のニーズを見据えた取り組みを、福祉行政の立場や利用者の視点からも意見を交え、これからの在り方や方向性に関して、参加者間で活発な議論を期待しています。
2.「重症心身障害医療の専門性とその教育」と題して重症心身障害の医療や教育また福祉の現場を支えるスタッフの専門教育の課題やあり方について問題提議していただきます。重症心身障害医療は一般医療の延長線上で対応できるものではなく、また福祉や教育を含め極めて専門性が高く集学的で、職種間の連携が不可欠な分野です。それを担う医師や看護師、リハスタッフの専門教育、福祉職や更に支援学校教職員の大学教育の視点から論じていただきます。
3.「地域生活と医療的ケア 快適に生きるための課題とこれから」をテーマに、医療ニーズの高い在宅重症児(者)が確実に増えていく現実を踏まえ、医療的ケアを含めた地域行政を巻き込んだネットワーク作り、支援学校における医療的ケア、訪問診療・看護を実践している立場からの課題、施設での短期入所の対応など在宅支援を多角的に議論していただきます。
また教育講演として京都大学iPS 細胞研究所(臨床応用研究部門)の准教授井上治久先生に「iPS 細胞と神経疾患(仮題)」と題して最新の研究成果についてお話しいただきます。iPS細胞の技術もいよいよ臨床応用されようとしており、重症心身障害医療に携わる我々に希望を与えてくれるものと感じています。
微かな秋の気配を感じ始める9月下旬の古都京都は、その雰囲気をゆっくり堪能できる季節になります。会場近くには「弘法大師の東寺」で知られる教王護国寺があり、ライトアップが美しい五重塔は是非ご覧下さい。この学術集会に重症心身障害に携わる多くの分野の皆様方に参加して頂き、日頃施設や地域で取り組んでいる医療・看護や療育、リハビリテーション、在宅支援、教育など幅広い分野の発表、情報交換や交流が出来ればと考えています。
この京都の地で皆様とお会いできることを楽しみにしています。
追記
現場で役立つ共催ランチョンセミナーを計画しています。
また手作りのファッションショーにも取り組んでいます。