Ⅰ.はじめに
東日本大震災による被災3県の被害は、サービス利用者の死亡48名、行方不明6名、障害福祉サービス事業所等の全壊43カ所、半壊・一部損壊200カ所(損壊等率12.1%)であった。厚生労働省の行った支援の概要を報告し、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))を中心に今後の課題について論ずる。
Ⅱ.発災直後の現地課題と国の対応
1.在宅障害者の安否確認、ニーズ把握が困難
全国から派遣された保健師や相談支援専門員等によるニーズ把握、障害者団体による会員の調査の活動を支援。
2.一般避難所では障害者に対する配慮が不十分
障害者への情報確保や相談窓口等の周知のため「生活支援ニュース」(壁新聞)を作成し、全避難所に配布。一般避難所での障害者への配慮を促すとともに福祉避難所の設置を促進。
3.被災した障害者の他県での受入れが必要
全国の障害福祉施設を調査し、2,800カ所8,946人分の受入れを確保し斡旋。ピーク時には施設入所者515人が県外避難。
4.障害福祉サービス事業所のマンパワー不足
全国の障害福祉施設の介護職員等2,028人の派遣要員を確保。現地の要請に基づき派遣の斡旋を行う仕組みを作り、最大148人(延べ7,789人日)を派遣。
5.障害福祉サービスの利用・提供が困難
福祉制度の運用弾力化を図り、利用者には①受給者証の紛失や有効期限切れでもサービス利用可能、②新規の支給決定や変更手続きの簡易化、③利用者負担の免除や支払い猶予、④避難所での居宅介護等を利用可能に、事業者には①定員超の受入や職員配置基準を満たさなくても提供可能、②避難先での安否確認も請求対象、③仮設施設や避難先施設で支援した場合も請求対象、④概算請求を可能とした。
6.小規模な障害者団体ではきめ細やかな対応が困難
人的・物的支援の相互乗入や情報共有を行うことを目的に11関係団体連絡協議会(全国重症心身障害児(者)を守る会も参加)の立上げ支援や運営会議への協力1)。
Ⅲ.重症心身障害児(者)特有の課題と対応
①停電等(計画停電含む)による生命の危機→相談窓口の開設、施設への自家発電機整備等、②避難所での生活困難→発災後の福祉避難所の指定促進、③救援物資の不足・輸送困難→業者・団体等を通じた輸送等、④生産工場被災による経管栄養剤の不足→代替策の周知、⑤施設入所者の組織的避難→受入施設の広域調整、移送手段の確保(福島整肢療護園等)を行った。
Ⅳ.今後に向けて(国の役割、福祉避難所等)
大災害時の国の役割は、現場のニーズを迅速かつ的確に把握し対応することである。一方、今回の東日本大震災では、医療機関や関係団体等の既存のネットワークによる支援が有効に機能した。今後は、ネットワークによる支援が十分に機能するよう、発災直後から関係団体等と緊密な連携を図り、サポートしていくことも国の重要な役割の一つになろう。
重症児(者)については、人的・物的環境の整った福祉避難所で積極的に受入れていくことが命をつなぐ意味でも重要である。今回の大震災では、日頃通っている特別支援学校や事業所へ自主避難した重症児(者)も少なくない。それらの施設の多くは福祉避難所の指定を受けていない場合が多く、今後は重症児(者)に対応できる福祉避難所を増やしていくことが求められる。一方、福祉避難所の運用上の問題を指摘する声も聞かれる。「福祉避難所設置・運営に関するガイドライン」2)では、まず身近な指定避難所に避難した上で福祉避難所の設置の判断をすることになっており、これが重症児(者)には過度の負担となるという指摘である。しかし、これはあくまでも指針であり、要援護者の状況等が把握できている場合は事前に避難する福祉避難所を特定することも可能である。個々の実情に応じて各自治体の柔軟な運用が求められる。そのために今できることは、災害対策基本法に基づく避難行動要支援者名簿の作成3)を通しながら、顔の見える関係の中で個別の避難計画を検討していくことである。障害の重い人のことから考える災害対策が求められる。
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