日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム2:災害時の重症心身障害児(者)への支援
支援活動から得られた防災対策
田中 総一郎
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2014 年 39 巻 1 号 p. 47-48

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抄録

Ⅰ.災害から逃げのびる 東日本大震災による被害者の死因の90.5%が溺死であった。また、被災3県の障害者手帳を有する方の死亡率(1.5%)は、一般の方(0.8%)の約2倍に及んだ。これは、障害児(者)を津波被害から守る避難支援の方策が機能しなかったことを物語る。2005年に内閣府は、自力では避難することができない高齢者や障害者の避難を支援する「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を策定した。2012年には、全体計画は87.5%の市町村で策定済であったが、個別計画は33.3%に過ぎなかった。宮城県の医療を必要とする子どもたち113家庭を対象としたアンケート調査(2012年10月)では、このプランを知らなかったのは57.2%、この制度に登録していないのは79.6%であった。また、震災時に登録していた15人のうち実際に援助が得られたのは3人(20%)であった。今後の周知と、実際の支援を見直す必要がある。 Ⅱ.安全に過ごせる場所を見つける 1995年の阪神淡路大震災では、神戸市内養護学校の児童生徒262人の59%が自宅に留まり、39%が避難した。その避難先は、避難所が10%、親戚・知人宅は28%であった。東日本大震災では、医療を必要とする子どもたちの家庭の62%が自宅に留まり、38%が避難した。その避難先は、避難所が12%、親戚・知人宅が12%、自家用車内が11%であった。避難所を選択しなかった理由として、夜間の吸引音や、奇声を発する子どものことを気兼ねしたことが多くあげられた。阪神淡路大震災から東日本大震災の間、16年経っても、避難所は障害児(者)にとって避難しにくいところのままであった。 子どもたちが普段通いなれている学校や施設が福祉避難所になることは、安否確認、必要な物資の把握、子どもたちの精神的安定のためにも今後取り組まれるべき方策であると思われる。 Ⅲ.普段からの防災 人工呼吸器や吸引器など電源が必要な家庭では、電源の確保や自家発電機、電源を必要としない手動式・足踏式吸引器が注目を集めた。学校や福祉施設への自家発電機の配置、常時服用している薬剤のお預かりなど、防災への意識も高まっている。 子どもの薬剤は、錠剤やカプセルを常用する大人と違い、散剤やシロップが多く、詳細な情報がないと処方しにくい特性がある。薬を流失した、または、長期にわたる避難生活で内服薬が不足したときに、遠くの専門病院まで処方を受けにいくことは困難である。今回の教訓として、処方内容や緊急時の対応法などを明記した「ヘルプカード」の作成と携帯が提案されている。医療と教育、福祉が協力して推進すべき課題である。 Ⅳ.それでも困ったときは 災害時の備えを十分に行っても、「想定外」な不測の事態は起こりうる。このようなときに頼りになるのは、普段からのつながり、信頼関係、きずなである。 たび重なる津波被害を受けてきた三陸地方に伝わる「つなみてんでんこ」は、「津波のときは人に構わず、一人ひとりてんでに逃げる」ような一見冷たい印象を与えるが、実際には異なる。「家の人が戻ってくるまで家で待っている」子どもがたくさん犠牲になったこの地方では、「お母ちゃんはちゃんと逃げているだろう、だからボクも待っていないで一人で逃げる。そうすれば、あとで迎えにきてくれるはずだ」と子どもたちに教えているという。普段からの信頼関係があってはじめて、「つなみてんでんこ」は成立するのである。 このような悲惨な体験から立ち上がる力(レジリエンシー)を次世代に育むためには、絆を信じる力が重要である。負の遺産を正の遺産に変えていくためのキーワードは、この「絆を信頼する力」であるといえる。

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