抄録
はじめに
今回、食道がんを発症した事例に対し、医療、倫理、宗教の観点から、人間の尊厳に根拠を置き、倫理委員会にて最善の利益を考え緩和ケアを選択した。その経緯について報告する。
症例・経過
A氏、57歳男性。脳性麻痺、てんかん、食道がん。改定大島分類横地案B1。A氏の両親他界、親族なし、成年後見人は社会福祉士。
X年12月、嘔吐残渣物に鮮血の混入を認め、B病院での内視鏡、生検の結果、食道がんと診断。この結果を受け、A氏の代弁者として、担当医とスタッフ全員から意見・思いを聞いた。結果、手術で完治に近い状態が見込めるのであれば治療を進め、困難であればQOLの維持優先と胃瘻の検討をすることとした。
翌月、手術適応検討のためC病院受診。手が付けられない状態ではないが、本人のことを思うと手術適応でないとの意見をいただいた。
両院の結果と代弁者の意見・思いを持って、本事例を契機に設立された当施設の倫理委員会が開かれた。A氏が1人の人格者として何を望み、どう生きたいかに重点を置き審議した結果、次の結論を得た。1.侵襲の強い手術や化学療法など根治目的の治療は行わない。2.胃瘻造設は行う。
胃瘻造設術後、痛みのコントロールを行いながら、本来のA氏らしく今を生きるよう援助し、傍らに寄り添い、共に歩んでいる。
考案
今回、倫理委員会の構成員が、人間の尊厳に共通の根拠を置き、それぞれ専門の立場からの意見を尊重し、医学的見知からは限界と判断した結果、緩和ケアを選んだ。
宗教的な価値観では、科学的な限界の次は、人は霊的援助を必要とすると考える。しかし、重症児者は神から与えられた使命を生き、果たしているそのものが霊的と考える。重症児者の命を預かる者として、今回の選択はA氏にとって最善の利益であると確信し、そうであることを願った。