日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム4:障害者虐待の現状と対策について考える
病院における虐待防止の取り組み
加藤 雅江
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2015 年 40 巻 2 号 p. 207

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抄録

 当院では平成10(1998)年から子ども虐待防止のために医療機関で何ができるかを検討するため、勉強会を始めることとなった。その結果、平成11(1999)年から子ども虐待防止委員会が設立された。その後平成17(2005)年にはDV、高齢者、その他暴力被害を受けた人々を対象に活動ができるように名称を虐待防止委員会に変更し、今日までその活動は続いている。設立当初の活動の目的は虐待を見落とさないこと。虐待を見つけたときに適切に介入すること。そのためのスキルを身につけることができるよう研修を行ったり虐待の知識が得られるよう努力をした。確かに、救命救急センターで子ども虐待の悲しい結果を確認することも多かった。元気で生まれた子どもが重い障害を負って生死の境をさまよっている。助かったとしても重度障害を持った子どもを家庭に返すには解決しなければならない課題が山ほどあった。そのような事例も、辿っていけば周産期から支援体制を整えることができたなら、そのような悲惨な結果を生むことはなかったのにと思うことばかり。このような経験から、医療機関の役割は虐待を見つけることではなく、虐待をさせない環境づくりを目指すことに意義があると考えるようになった。そのためには何をしていくべきなのか。数年前から試行錯誤しつつ向かうべき道、やらなければいけない課題を明らかにしてきた。世の中の虐待に対する意識は16年前とは大きく変わっている。子育てをする家庭に支援が必要なことも理解され始めている。地域の中には虐待防止に関心を持ち働きかけようとする専門職者も存在する。子どもと養育者が愛着形成を阻害されることなく安全に生活していくことができる地域作りをソーシャルワーカーとして行っていきたい。何年も何年も生きづらさを抱えながら苦しむ人たちを増やしたくない。地域の中の点と点をつなぐ媒介になりたいと考えたことから、虐待防止委員会として年に6回の勉強会の開催を行っている。福祉、保健、教育、医療、司法の場の専門職者から、地域を支える民生・児童委員やNPOのスタッフ、学生など様々な分野の人が集まり意見を交換し、課題を共有する。医療機関としてしなければいけないのは、虐待をさせない母子関係形成のサポート、養育支援、突き詰めていえば、虐待をさせたら終わり、と言った覚悟が専門職者として必要だと思うようになった。そこで、周産期へのより積極的な介入の方法を検討した。外来での妊婦さんのスクリーニング、必要に応じてソーシャルワーカーの介入、入院中の産婦さんへのソーシャルワーカーの全例介入(挨拶とお産の振り返り、地域へのつなぎ)を行い、1カ月健診へと情報をつなぐ。産科、新生児科、小児科、地域がこれでつながり線になる。母体搬送の事例については、そもそも、多問題であるため全例SWに介入依頼が入る体制作り。もうひとつの取り組みでは小児救急看護師が事故防止を目的に介入する。救急外来や一般外来で特に3歳以下の幼児が受診した場合、小児救急看護師に連絡が入り、シートをもとに、事故の状況を確認し、再発防止を目的に養育者に指導する。虐待という視点だけでなく、けがをした子どもを広くすくい上げることで、結果ネグレクトをはじめ虐待事例をキャッチすることにつながる。この聞き取りの際、必ず地域の保健師あるいは子ども家庭支援センターに情報提供し、介入してもらうことになることを保護者に伝えている。当事者が専門職者の介入の目的を十分理解していなければ支援の効果が無いと思う。このような取り組みを報告し、話題提供としたいと思います。 略歴 1990年上智大学卒業。同年より杏林大学付属病院に医療ソーシャルワーカーとして入職。1999年より杏林大学虐待防止委員会副委員長。子どもの虐待防止センター評議員。

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