抄録
目的
カルバマゼピン(CBZ)やフェニトイン(PHT)が甲状腺機能に影響を与えることが以前から知られている。重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では多種の抗てんかん薬・抗精神病薬の内服が多いため、CBZ、バルプロ酸Na(VPA)、フェノバルビタール(PB)のそれぞれの内服群とそれ以外の抗てんかん薬を内服している非内服群、抗精神病薬も含め抗てんかん剤を内服していない無内服群で甲状腺機能を検討した。
方法
当センター長期入所者のうち、甲状腺ホルモン補充療法を行っていない73名(抗てんかん薬内服者65名、抗精神病薬を含め抗てんかん薬を内服していない無内服者8名)、男性47名、女性26名(平均年齢48.4歳(30〜68歳))の定期検査などを利用し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離トリヨードサイロニン(fT3)、遊離サイロキシン(fT4)を計測・検討した。
結果
CBZ内服群と非内服群、無内服群では、TSHとfT3では有意差はみられなかったが、fT4は内服群が非内服群と無内服群に比べ、t検定で有意に低く(p<0.001)、同様にfT3/fT4で検討すると、内服群の方が(p<0.05)で高くなる傾向があった。PB、VPAでは各群間で有意差を認めなかった。
考察
重症児(者)での過去の報告は関らのみで、抗てんかん薬内服者と健常者と比較検討ではfT4が低下し、PB、PHT内服者は健常人に比べt検定で有意(p<0.001)にfT4が低く。各抗てんかん薬内服者と健常者でfT3ではその傾向はみられなかったと述べている。今回われわれは、重症児(者)という母集団のみでの検討で、CBZのみで内服群が非内服群および無内服群間で有意差がみられた。薬剤性甲状腺ホルモン低下の機序に関しては、脱ヨード化、グルクロン酸抱合、脱アミノ化などの代謝亢進とされる報告がある。重症児(者)では甲状腺機能低下症の臨床症状は発見しにくく、定期的に検査を行う必要があると考えられた。