抄録
症例
54歳 男性。
基礎疾患
脳性麻痺で経口摂取可能。側弯なし。定期的な単純胸部レントゲンで左横隔膜が右横隔膜より常に拳上している所見だった。
主訴
嘔吐
現病歴
2011年と2013年に急性胃拡張に対し、経鼻胃管による胃内減圧を施行し軽快していた。2014年3月下旬に嘔吐し、腹部単純レントゲンで胃拡張を認めたため、経鼻胃管を挿入された。この際、血性の胃内容物が吸引され、胃噴門の通過障害を認めた。胃軸捻転による胃拡張と診断し、4月8日に開腹した。胃壁全体は発赤を伴い高度な浮腫を認めた。短軸方向の胃捻転を認め、胃食道接合部と十二指腸弓部が接近し、そこを中心にして捻転していた。軸捻転の整復と癒着剥離を行った。十二指腸球部と胃接合部の前壁はともに10円玉ほどの壊死に陥っていた。その2カ所を健常な胃壁の漿膜面で被覆し、小腸瘻を造設した。術後は2カ所の壊死は穿孔しなかったが、胃食道接合部は10Frの経鼻胃管がやっと入る程度の狭窄に、胃幽門は完全に閉塞した。経鼻胃管による胃内の減圧と小腸瘻による栄養剤注入で管理し、胃食道接合部の瘢痕狭窄に対してはバルン拡張が有効と判断し、初回術後11カ月時に胃幽門閉鎖に対して小腸パウチを形成した胃空腸吻合と胃瘻造設を行った。術後は胃食道接合部のバルン拡張と狭窄予防のステロイド投与を行い、ペースト状の食事の経口摂取が可能になった。
考察
胃軸捻転症は重症者に特有の疾患ではない。しかし、重症者には慢性の呑気や鼓腸を伴うことが多く、消化管ガスによって横隔膜が拳上している症例も多く、潜在的な胃軸捻転のリスクファクターを抱えている。胃拡張を認める重症者には胃軸捻転を念頭に置く必要があると思われた。自験例は合併症して食道狭窄と胃幽門閉塞の来したバルン拡張と外科的手術で通過障害を治療できたが、胃軸捻転に対する手術治療をより早期にすべきだったとも思われた。