抄録
【目的】重度脳性麻痺児(以下,重度CP児)の代表的な二次障害に脊柱側彎症(以下,側彎症)がある.側彎症は長期に渡り年齢とともに進行し,嚥下機能や活動性の低下,呼吸機能障害など様々な障害を引き起こす要因となる.側彎症に対するアプローチは物的介入による姿勢管理が一般的であるが,外来通院や通園困難な重度CP児への在宅でのケアはその複雑な病態や物理的要因,人的要因等により十分に対処されていないことが多い.また,重度CP児では身体的負担から通園,外来リハビリを定期的に受けられない場合には訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)が選択されるが,その介入報告は少ない.今回,側彎症を有する重度CP児2例に対して訪問リハで安定した接触支持面の確保,獲得を目的に接触-運動知覚学習課題を重点的に実施した結果,簡易な姿勢管理下であっても側彎症の改善を認めたので報告する.【方法】対象はCカーブ側彎を有する重度CP児2名(いずれもGMFCSレベル5,年齢は共に2歳9ヵ月).症例Aは後弓反張がある痙直型四肢麻痺,Chailey姿勢能力発達レベル背臥位(以下,姿勢レベル)1,右凸側彎症(両肩峰を結ぶ線と両上前腸骨棘を結ぶ線がなす角度40°),全身的に過敏性を持つ女児.症例 Bは左側脊柱起立筋の筋緊張亢進,姿勢レベル2,右凸側彎症(両肩峰を結ぶ線と両上前腸骨棘を結ぶ線がなす角度25°)を有する女児.2例ともに右側身体での外部からの接触刺激に対する受容は比較的良好であったが,左側身体では過敏な反応を認めて受容は困難であった.2例ともこれまで左右対称性を考慮した臥位での姿勢管理を指導されており,医療機関で指導を受けた養育者が在宅で2年以上継続して行っていたが,1歳時より側彎症が出現し進行していた.訪問リハ介入は6ヵ月間(1回60分/週),介入方法は外部刺激に対する受容の左右均衡を得ることと安定した姿勢を獲得することを目的に接触を用いた課題を実施した.課題内容は刺激の受容が困難な身体部位(体幹凹側)に対し自己身体同士の接触を行う二重接触を受け入れる課題と,理学療法士の身体との接触を用いて接触面,荷重部位,身体の伸張の変化を受け入れる課題を行なった.外部刺激の受容は異常筋緊張の出現,バイタルサインを指標に判断した.姿勢管理は従来通りの方法を継続した.【説明と同意】今回の報告にあたって対象者の保護者に文書並びに口頭にて説明し同意を得ている.【結果】症例 Aでは両肩峰を結ぶ線と両上前腸骨棘を結ぶ線がなす角度10°の改善が得られ,姿勢レベル2に向上した.加えて上肢下肢の自発的な運動が出現し始めた.症例 Bでは左脊柱起立筋の筋緊張の緩和が得られ両肩峰を結ぶ線と両上前腸骨棘を結ぶ線がなす角度20°の改善がみられた.接触支持面の拡大を認めたものの外部刺激の受容の左右均衡は依然,得られていない.2例とも介入前の接触刺激に対する過剰な反応は軽減し,背臥位での接触支持面の拡大が得られるようになった.尚,訪問リハは継続して実施できた.【考察】今回の2症例はこれまで在宅での姿勢管理を中心に側彎症に対するケアをしてきたが,物的介入のみでは自己身体と外部との接触による環境適応が不十分であったために,左右非対称に筋緊張を高め,側彎症が出現していると考えられた.そこで身体への接触による外部刺激の変化を経験させ,身体と外部との接触刺激に順応したことで過緊張が抑制され,側彎症が改善したと考えられる.これは自己身体への注意喚起に左右差があった状態を修正できたことと身体と環境との関係性の学習へと繋がったとも考えられた.一方,重度CP児では前述した外部環境と身体の関係性の学習は多様性に欠けたものとなりやすく,生活環境の変化,身体構造の発達や内部疾患の変化への適応が困難な場合が多い.今後,発達過程や生活様式の変化に対して適宜対応していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】側彎症の改善には,従来の姿勢管理に加えて理学療法士の行う課題が有効である可能性が示唆された.また,訪問リハによる介入においても重度CPの継続的な身体運動発達,二次障害ケアが可能であることが示された.