抄録
はじめに
移動制限を持つ児は認知・社会面の発達の遅れを引き起こす可能性があり、早期からの移動支援の必要性が指摘されている。また学齢期の重症心身障害児での自操式車椅子による認知・動作関連報告は少ない。今回、当施設入所者で介助型から自操型車いすへの変更を行う機会を得た。その過程で操作・行動、生活機能の変化が確認されたので報告する。
対象・方法
11歳男性で先天性筋強直性ジストロフィー、脳室周囲白質軟化症(PVL)と診断され当施設入所中。大島の分類2、横地分類B3。粗大運動は寝返り、両上肢支持での座位姿勢保持可能。2014年9月から2015年4月までの8カ月間、月2〜3回程度の頻度で車椅子操作の様子をビデオで記録した。ビデオと観察記録を用いた質的評価で操作・行動を評価し、客観的評価には新版K式発達検査(K式)と生活機能評価(LIFE)を導入前と導入後6カ月後に実施した。
結果
ビデオによる質的評価では、開始直後は手元をみて後方に動くことが多く、2週間程度で手元を見ることが減少、周囲に視線を向け対象物に触れる場面が増加した。17週で方向転換が可能になり、屋外など視界にない場所へ移動する様子がみられた。K式では言語・社会項目における「絵の名称II」、「姓名」において点数が上昇した。LIFEではPartIIIにて車椅子で部屋間移動が可能になり、点数が27から29点へと上昇し、PartIVでは活動を選択・表出がみられ点数が31から37点へ上昇した。
考察
症例は寝返りや頭部のコントロールなども上肢で代償しており、自力での立位、歩行は未獲得である。またPVLの合併があり、下肢よりも上肢の方が良好であると考えられる。今回、自操型車いす導入において、上肢機能を用いたことが操作・移動の獲得へとつながり、また症例では学齢期からの導入であったが、移動経験を重ねることにより好みや思意、言語認知の表出へも好影響を及ぼした可能性がある。