抄録
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は全国で約38,000人いるといわれている。国立医療学会の報告によると、がん死亡率は年々増加している。重症児においても例外ではなく、高齢化に伴い、がんは今後重要な問題になると予測されるという報告がある。がん治療における終末期の疼痛緩和には麻薬投与を選択される場合が多いが、公法人立の重症心身障害施設は125施設ある中で、薬剤師が常勤でない施設も多く、国立病院機構では麻薬管理が十分に行われる体制にある。このような状況において、重症心身障害者の50代女性で、右乳房の腫瘤に気づき、針生検にて乳がんと診断されホルモンレセプターが陽性にて患者本人の負担を考慮し、ご家族とも相談しホルモン療法を開始した。その後、胸筋温存乳房切除術を行ったが、2年後には多発肝転移、多発骨転移、多発リンパ節転移、多発皮膚転移を認めた。疼痛緩和のために麻薬を使用する時期を、医師とともに検討し、薬の効果については薬剤師と治療を進めていった。家族は遠方で、なかなか面会に来ることができなかった。私たちは、成年後見人を介して再三にわたり疼痛緩和について患者家族と意思確認を行っていった。残念ながら麻薬使用して1カ月後に永眠された。今回の症例は、疼痛緩和の目的で麻薬投与の試用期間を見きわめながら、治療していく経過の中で、家族の意思を尊重する関わりの大切さと、身取りに際して、遠方の家族の心理的支援の必要性を学ぶことができた。また成年後見人を介してご家族の希望と患者本人の負担を軽減するため、医師を中心に他病院とも連携しながら患者家族の気持ちに寄り添い疼痛緩和を進めていった。この経過において重症児の緩和ケアに関する多くの学びがあったので報告する。