抄録
はじめに
骨粗鬆症を合併しやすい重症心身障害児者に対して活性型Vit D製剤やビスホスホネート製剤を使用されるが、高Ca血症を経験する事はあまり多くない。今回、既製栄養剤への変更を契機に高Ca血症を来した症例を経験したので報告する。
症例
40歳台の大島分類1の女性。体重は25kgで痙性四肢麻痺と強度の側弯がある。骨粗鬆症のためアルファカルシドールを投与され、3年前からエルデカルシトールに変更している。これまで定期の検査などで血清Ca値の異常の指摘はない。これまで経口的食事摂取であったが、嚥下性肺炎の頻度が増えてきたこと、摂食中のむせがひどくなり摂取量も減少してきたため胃瘻造設(開腹的造設術)を受けた。手術翌日より既製栄養剤の注入が開始されて順調に経過していたが、術後12日に活気と笑顔の乏しさに気づかれ13日後に無表情な顔貌、追視の低下を認めた。排尿あり、嘔吐なし。血圧144/110mmHg、頻脈(105/分)、検血でCBC、肝機能に異常認めなかったが、高Na血症、高Ca血症、腎機能障害・脱水(Na 156mEq/L、Ca 16.6mg/dL、BUN 69.9mg/dL、Crea 1.1mg/dL)を認めた。高Ca血症による多尿と脱水、腎機能障害と考えて服用中のエルデカルシトールを中止し補液を施行したところ、数日で表情の改善を認め、2週間後にCa値が正常域に戻り、血圧や脈拍も徐々に改善していった。経過中PTH intactは正常値であった。Ca含有量は術前に約240mg/日、術後は480mg/日であった。Vit Dの服用と食事形態の変更によるCa摂取の増加が原因と考えられた。
考察
一般食から注入用栄養剤変更によるCa量の増加が誘因となったと考えられるが、Caの栄養摂取基準(幼児では400mg、成人では650mg)に満たない量であった。古くから指摘されていることであるが、活性型Vit D製剤の服用中は高Ca血症が生じる危険を改めて認識させられた。