抄録
はじめに
強度行動障害を有する動く重症心身障害者は、相手に自分の要求が伝わらず、問題行動を表出したり、それが原因で行動を制限されたりすることが多い。本症例は、強度行動障害と視聴覚障害を重複する動く重症心身障害者であり、コミュニケーションに困難がある。そこで、自分だけの閉じられた世界から他者と関わる世界へと活動が広がることを目的に個別療育を実施した。約6年にわたる個別療育記録を分析したところ、他者の存在を理解して関係を構築しようとする等、要求行動の量や質に変化がみられ、強度行動障害スコアが減少したので報告する。
症例
強度行動障害と視聴覚障害を重複する動く重症心身障害者40歳代女性(以下、A)。大島分類5。強度行動障害スコア30点。
方法
強度行動障害スコアは個別療育実施前後のスコアを比較した。要求行動については、X年5月〜X+5年3月の個別療育記録を年度ごとに分け、テキストマイニングの手法を用いて行動の出現回数を抽出し、総抽出語数に対する割合を算出・比較した。
結果と考察
強度行動障害スコアは30点から9点に減少し、日常生活での大きな問題行動はほとんど見られなくなった。個別療育を実施する中で、Aは粗大な行動では自分の思いや要求が伝わらないことを体感し、担当者を物まで引っ張って行く、クレーン様に動かす、(具体物に)触れさせる、さらには“してほしい”ことを合図する(「力を入れる」)等、行動を変化させていった。受け身で過ごしていたAにとって、個別療育活動は“どうしたら理解してもらえるのか”と苦慮する機会となり、結果として、他者の存在への気づきと適切な行動の獲得に至ったと推測される。Aが具体的な行動で要求を伝えるようになったことで、対応するスタッフもAの意図が理解できるようになり、必要な支援が提供できるようになった。そのことがAの行動障害減少につながったと考える。