抄録
背景 重症心身障害児者(以下、重症児者)では、慢性的な呼吸障害があり痰や分泌物の喀出が不良な場合、感冒から気管支炎や肺炎を引き起こす。当センターでは重症児者の気道クリアランス法としてSmart VestTMによる高頻度胸壁振動法(High Frequency Chest Wall Oscillation:HFCWO)を行っているがその効果は不明である。本研究の目的は、HFCWOに理学療法士によるポジショニングを併用し、その効果を明らかにすることである。 対象 出生時の頭蓋内出血にて痙直型四肢麻痺を呈した30代男性を対象とした。10代の頃から呼吸器感染を繰り返しており、気管切開術を行った。現在はカフ付きカニューレを使用している。身体変形として脊柱左凸の側彎、胸郭扁平化を呈する。 方法 HFCWOを1日2回(午前、午後の各1回)5分間実施した。HFCWOを仰臥位にて実施する期間(A期)と、右側臥位にて実施する期間(B期)に分け、それぞれ3週間行った。評価項目は、呼吸数、心拍数、SpO2、一回換気量、EtCO2とした。また、呼吸数と一回換気量から分時換気量を算出した。評価はHFCWOの実施前後、1日4回行った。研究開始前から行っていた通常の呼吸理学療法は週1、2回の頻度で継続した。A期とB期の間の差の検定には、t検定を用い、有意水準を5%とした。 結果 午前でのHFCWO実施後の各評価項目の平均値は、A期に比較して、B期で呼吸数は有意に減少し、一回換気量は有意に増加した。心拍数、SpO2、EtCO2、分時換気量に有意な差はなかった。また、午前のHFCWO実施前、午後のHFCWO実施前後では、すべての評価項目において有意差を認めなかった。 考察 午前のHFCWO実施後ではA期と比較してB期で、呼吸数の減少、一回換気量の増加を認め、分時換気量の値に変化を認めなかった。そのため、ポジショニングを併用したHFCWOの実施によって換気効率が改善されたことが示唆された。今後の課題として、喀痰の評価、実施期間について検討していく必要がある。