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−手術の決断を迫られた親を間近で支えた家族の体験−
部谷 知佐恵
2017 年 42 巻 2 号 p.
142
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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子どもの疾患に関する治療の決断は、親に委ねられることが多い。特に、子どもに障がいがある場合は、疾患の進行や成長発達に伴う二次的な障がいにより治療や手術を受ける機会が多く、親はその決断を迫られる場面に幾度となく遭遇します。子どもは成長発達しているため、治療や手術には適切な時期が大切で、その時期を逃すと、治療や手術の意味がなくなることがあるため、親はすぐに答えを出さなければいけない状況に立たされることもあります。
今回、私は家族として、医療者として小学校3年生になった甥の航大の股関節の手術を決断する妹を支えてきました。入学直後に医師から言われた「今すぐに股関節の手術をしなければいけない。」の一言に、私たち家族は選択を迫られました。航大は脳性麻痺で、ひとりで座ることも寝返りもできません。てんかんがあり、毎日何度も発作があります。そんな航大に、股関節の手術が必要なのか。弟や妹にまだ手のかかるこの時期にどうしてもやらなければいけない手術なのか。ようやく学校生活にも慣れてきたばかりの航大、今のリズムで生活を続けていけたらと思っていました。しかし、医師からは、早急に手術を決断するよう言われています。私は、勤務先の特別支援学校の看護師や教員に相談し、妹も、航大が通っている施設のスタッフや、以前通っていた施設の医師やスタッフ等多くの方に相談しました。患者会や学習会に参加して、先輩ママさんたちにもアドバイスをもらいました。手術に関する意見は分かれました。そのため、私たちはなかなか決断することができませんでした。
もっと、専門的な意見を聞きたいと思い、私たちは恩師が紹介してくれた小児専門看護師に相談しました。小児専門看護師は、私たちが心配していた入院生活や手術について丁寧に説明してくれました。説明を聞くことで、手術や入院生活がイメージでき、漠然とした不安が少し減少しました。妹の気持ちもいくらか手術に対して前向きになったようでした。そして、私たち家族はセカンドオピニオンを受け、手術をするかを決めることにしました。セカンドオピニオンを受けるため大阪の病院を受診しました。そこでも脱臼が進行しており、手術の適応であることが告げられました。ただ、最初に診察した医師とは違い、レントゲン写真と股関節の様子だけを見て早急な手術が必要だというのではなく、航大の全身状態や表情にも目を向け、今後起こりうる可能性のある股関節の痛みのこと、なぜ今手術をしたほうが良いのかについて丁寧に説明してくれました。すぐに決断を迫るような態度とは異なる温かい対応は、私たち家族に手術をする決断をさせるきっかけになりました。
医師から告げられる手術や治療の宣告はとても重たいものです。私たち家族には、周りに相談できる環境があり、親身になってくれる専門職に出会えました。その結果、手術を決断することができました。航大は、手術を受け、現在元気に毎日を過ごしています。子どもを持つ家族の中には、手術や治療の決断を迫られても相談できず、結論が出せない家族もたくさんいると思います。医師には、データだけをみて治療や手術の必要性を家族に伝えるだけではなく、子どもの表情や様子などすべてをみていただきたいと思います。そして、現在の医療を考えるとき、医療チームとして重症児に詳しい看護師(CNS等)とともに対応してもらえると、家族は相談がしやすくなると思います。治療や手術の決断の際、不安や心配を打ちあけることができる看護師を含め受診に関わる多くの職種の方に相談できる体制があると家族は救われると思います。 家族だけでは病気や障がいについて正しい知識を持ち合わせた支援者や理解者を見つけるのが難しいです。子どもと家族が手術や治療を決断し、大変な時期を乗り越えていける力を持てるような支援の輪は医療チームから広がっていくのではないかと考えます。
略歴
弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業後、滋賀医科大学大学院医学系研究科看護学専攻に入学する。家族看護学を専攻。修了後は、岐阜大学医学部附属病院に勤務、糖尿病療養指導士として、糖尿病患者の指導にあたる。
脳性麻痺の甥の誕生を機に障がい児と関わる仕事がしたいと思い、岐阜県立希望が丘特別支援学校看護講師となる。この4月からは、特定非営利活動法人らいふくらうど放課後等デイサービスゆうで看護師、児童指導員として子どもたちと楽しく過ごしている。
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−家族をエンパワーメントするネットワークづくりと相談支援−
市川 百香里
2017 年 42 巻 2 号 p.
143
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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医療的ケアを要する重症心身障がい児は年々増加し、多くの障がい児が在宅で生活を送るようになってきています。しかし、この支援を行うための医療・福祉など社会資源は限られており、連携も不十分な状況です。
2014(平成26)年7月岐阜県が実施した重症心身障がい児者実態調査結果によると、在宅で生活する障がい児者は676人、施設入所の児者は308人でした。年齢階層別の割合では10歳未満が9割を占め、かつ医療依存度の高い人は20歳未満に多いことがわかりました。
このため岐阜県は「重症心身障がい在宅支援センター」を設置し、その運営を岐阜県看護協会が受託し、在宅で暮らす重症心身障がい児者とその家族に対する支援の拠点として、2015(平成27)年4月重症心身障がい在宅支援センター「みらい」(以下「みらい」と略す)が開設されました。
私は現在このみらいで家族支援専門看護師として活動しています。「みらい」では在宅で暮らす重症心身障がい児者の家族等からのさまざまな相談に応じるとともに、家族間のネットワークづくりを目的に事業展開しています。今回この「みらい」の活動を中心に重症心身障がい児の家族支援の実際について報告します。
1.直接的な家族支援について (下記の2事例を通して報告する)
事例① A病院NIICUよりの紹介の重症心身障がい児。看取りの目的で在宅移行。しかし子どもは在宅移行後順調に回復し成長を遂げ、家族が奔走していた事例
事例② B病院NICUよりの紹介。里帰り分娩でした。出生後13トリソミーと気管支狭窄症と診断されたが、家族は治療を望まず在宅へ移行した事例
2.家族間のネットワークづくり
重症心身障がい児、医療依存度高い特に未就学児をもつ家族や高校卒業後はそのケアの多さから、家庭で引きこもりになり、社会との交流が減少しがちになり情報も不足します。また世代間の違いでの障がいをもつ家族同志の交流も少なくなります。そのため「みらい」では岐阜県の5圏域でそれぞれ年一回ずつ、「みらい」主催で家族交流会を実施しています。家族主体の交流会としているため、各圏域には主軸メンバーを家族の方にお願いし、家族で交流会の内容を企画してもらい、それを全面的に「みらい」でサポートしています。年々参加人数は増加しており地域での支援者の参加も増えています。また圏域を超えての参加もあり、県内全体のネットワークづくりに発展しています。参加家族からはいろいろな人とつながりをもてることで自分たちだけでないことを実感し、在宅生活の励みになっていることや、家族交流会を通して出かける機会のきっかけができたなどの感想を得られています。さらには、組織化してないことにより誰でも気楽に参加できるということも聞かれています。
本シンポジウムでは事例を通して、家族会を通して医療依存度の高い子どもをもつ家族が、どのように社会とつながり、生活できているかを紹介します。
略歴
岐阜県立大垣看護専門学校卒業後、岐阜県立岐阜病院(現岐阜県総合医療センター)入職 救命救急センター、NICU、小児病棟を経て、岐阜県立希望が丘学園に転勤、2010(平成22)年NICU師長、その後在宅看護に従事し、2014(平成26)年から現職において家族支援専門看護師として活動している。2015(平成27)年愛知県立看護大学院 家族支援専門看護師認定科目履修修了、習得
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−訪問看護ステーション15カ所の聞き取り調査の結果−
遠渡 絹代, 泊 祐子, 叶谷 由佳, 竹村 淳子, 山崎 歩, 市川 百香里, 部谷 知佐恵, 岡田 摩理, 赤羽根 章子, 濱田 裕子
2017 年 42 巻 2 号 p.
144
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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医療の進歩に伴い、これまで在宅生活が困難であった人工呼吸器等医療的ケアを必要とする子どもの家庭生活を可能にしました。しかし、医療依存度の高い子どもとの生活は、家族にさまざまな影響や変化をもたらし、在宅の継続は容易なことではありません。主に母親が子どもの世話を担うことが多く、他のきょうだいの学校行事への参加が難しいことや、急な病気への対応等への対処が求められます。家庭での生活を維持するためには、地域の医療・福祉の専門職種同士の連携が重要で、家族を含めた総合的支援が不可欠です。その中核を担うのが訪問看護であり、訪問看護師の果たす役割は大きいと考えます。しかし家族のニーズに応えようとすると、診療報酬点数に嵌らない内容も多く、訪問看護ステーション(以下、訪問看護St)の持ち出しとなっています。
そこで、私たちは、訪問看護における重症心身障がい児の看護の特徴と課題を明確にする目的で、以下の2つを調査しました。
1.2015(平成27)年度障がい児の訪問に診療報酬算定外のサービスがあると回答した訪問看護St 10カ所へのヒアリング
訪問看護Stの多くは家族のニーズに応えるために診療報酬算定外のサービスを提供していました。その内容は、子育ての相談を含む育児支援、きょうだいの用事、外出中の児の見守りなどによって生じる超過した長時間訪問でした。特に人工呼吸器の子どもの場合は、ケアを安全に実施するために二人の看護師が出向く、病院からケアを引き継ぐための技術研修や会議、体調変化による病院受診のためのキャンセルなどでした。その他に成長発達に伴い変化する障がいの状態に合わせて、診療科やサービス機関、支援内容を調整するために必要な会議等も算定外のサービスでした。家族を支えるために、訪問看護師は医療的ケアの必要な子どもをケアしながら、他のきょうだいにも支援をしていました。
2.2016(平成28)年度小児専門訪問看護St、4県5カ所へのヒアリング
小児専門の訪問看護Stの特徴は、算定外のサービス提供は少ないことでした。その理由は、4カ所が同事業所内で複数のサービス事業を展開しており、サービスを組み合わせることで、長時間訪問を可能にしていたことや、同一事業所内にあることで、スタッフはいつも顔の見える関係で、情報の共有や連携がとれ、無駄のないサービスを展開できることでした。
さらに家族が重症心身障がい児とともに暮らせる力をつける目的で、支援内容を工夫していました。そのひとつに重症心身障がい児との生活のイメージできる見通しシートを活用しました。
本シンポジウムでは、障がい児と家族が家庭での生活を継続するためには、成長発達とともに変化する支援内容や、家族の発達をも考慮した調整が必要ですが、それを小児専門の訪問看護Stのような同一事業所内での多角経営方式でなくても、家族支援を見える化し、エビデンスの積み重ねができる方法を皆様と討論したいと考えています。
略歴
遠渡絹代
看護学校を卒業後、厚生連岐北総合病院および、木沢総合病院の外科内科病棟、透析室等の経験を経て、1992(平成4)年岐阜県立希望が丘学園(現岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター)に入職する。2012(平成24)年3月岐阜県立看護大学大学院小児看護専門看護師コース修了し、2013(平成25)年小児看護専門看護師の認定を取得する。現在は看護部長を兼務し小児看護専門看護師としても活動している。
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−家族エンパワメントを可能にする小児訪問看護の体制作りとエビデンスの蓄積−
泊 祐子, 遠渡 絹代, 部谷 知佐恵, 市川 百香里, 岡田 摩理, 叶谷 由佳, 濱田 裕子, 竹村 淳子, 赤羽根 章子, 山崎 歩
2017 年 42 巻 2 号 p.
145
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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医療依存度が高い小児は、成人と比べ濃厚で複雑なケアが必要です。これは小児が機能的に未熟であること、先天性疾患や希少難病が多く、標準的ケアでは対応できないこと、成長に伴いケア内容の変更の必要性があるためです。私たちは、このような重症心身障がい児(以下、重症児)を育てる家族が当たり前の生活ができることを目指して、このプロジェクトに取り組みました。
現在の制度では対応できず、家族が実際に困っていると思われる内容を話し合い、①呼吸器管理がある児の「看護師の外出支援」、②2時間以上の「長時間訪問看護」、③「重症児をレスパイト先への移動」、④「次子出産支援(陣痛時の重症児の移動や授乳時間の短時間の訪問看護等)」の4つが出ました。
これらの内容を含めて、2015(平成27)年度に岐阜県において、1)家族のニーズ調査と同時に、2)診療報酬の算定外になるサービスをしたことのある訪問看護ステーション(以下、訪問看護St)への聞き取りおよび、3)2016(平成28)年度は全国5カ所の小児専門訪問看護Stへの聞き取り調査をしました。
それらの調査結果では、緊急時に児の世話を依頼できずに困った経験がある家族が7割近くあり、その緊急時の理由は、介護者の体調不良、家族の病気、介護者の用事、兄弟姉妹の急用や行事でした。緊急時にレスパイト施設への児の移動や家族の帰宅までの訪問看護サービスを希望する家庭は9割以上でした。次子出産に関しては、自由記述に「次子出産そのものをあきらめた」、「妊娠中、出産時、育児時の家庭もしくは病院などの訪問」や「出産後の外出支援」があり、さらに「きょうだいで通える通園施設」の「家族以外に障がいの子を気軽にみてもらえるシステム」の希望が出ました。
訪問看護Stの聞き取り結果からは、日常的ケアを家族が行うために、状況に応じ家族が適切に対応できる指導・助言に時間がかかっていること、成長に伴う福祉や教育サービスへの不安や悩みなどにも対応しており、「家族全体をエンパワメントする支援」がなさされていると思われました。
運営上の課題として、成人の訪問看護時間は一般に 30~60 分程度が平均的ですが、上記の理由から小児 は 60~90 分あるいは 90 分を超過する場合も多く、実情にあった報酬となっていないことが見いだされました。
重症児は訪問看護指示書を出している主治医が病院勤務であることが多く、訪問看護師が主治医と連絡が取りにくく対応に困るという問題がありました。小児の状態変化についての相談や、指示内容の変更の必要性などがある場合も、家族を介してやり取りをすることが多く、タイミングよくケアの変更をすることが 困難になる場合があることでした。 もうひとつには、小児は成長・発達に伴って、医療的ケアに必要な器具のサイズや注入栄養剤の量などを適宜変更する必要がありますが、主治医は、受診時に親から得られる情報だけでは変更の時期を十分見きわめられない状況も見られました。
これらの結果から重症児だけでなく、家族も総合的に支援する対策の必要性が示唆されました。その対策として、以下の3つの提案を考えました。
1.「次子出産支援」:少子化社会対策基本法を基に、国と自治体での家族支援の補助事業を検討する。
以下の2つは診療報酬改定に要望します。
2.「小児在宅看護連携管理料」の新設:訪問看護を行っている看護師が指示書を出している主治医の診察時に同席し、主治医と連携強化を図り、在宅療養管理に関する情報交換や共通理解ができることを目的とする(月に2回まで、1回ごとに点数を付加)。
3.現行の「訪問看護基本療養費」を小児においては1.5倍にすること:「家族をエンパワメントする支援」として、親の相談に乗る時間や複雑で難易度の高いケアの十分な時間を確保する。
この3つの提案を実現するために、セッションでご参加の看護師、訪問診療に関わっている医師などの皆様と、どのようにエビデンスを出すことができるのか、ご意見ご助言を頂きたいと思っています。
略歴
泊 祐子
徳島大学卒業後、淀川キリスト教病院NICU・小児病棟勤務、その後、大阪市立大学大学院生活科学研究科に入り、子どもの自由を尊重する大人の姿勢を学ばせてもらった。1984年より教鞭をとり、小児看護学および家族看護学を専門とする。現在は大阪医科大学看護学部および大学院看護学研究科で勤務し、医療的ケアを必要とする子ども家族や看護師への支援を検討している。その間、大阪府立看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了した。
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本多 麻矢, 山口 貢季
2017 年 42 巻 2 号 p.
158
発行日: 2017/08/01
公開日: 2019/06/01
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目的 短期入所を利用している家族を対象とした看護ケアへの満足度を評価し、今後の看護ケアへの示唆を得る。 方法 (1)対象:A病棟で1回以上の短期入所利用がある家族、90人。 (2)期間:2016年10月11日〜11月11日。 (3)内容:調査用紙[5段階で評価する<看護師の態度・対応>16項目、<看護ケア>(関わり、排泄、活動・睡眠、清潔、姿勢・運動、呼吸)15項目と自由記載]を作成、配布した。 (4)倫理的配慮:B病院の倫理審査委員会の承認を得て対象者に文章で説明し、調査用紙提出にて同意を得た。 結果 満足の割合は【看護師の身だしなみが整っている】など<看護師の態度・対応>に関する項目が高かった。 不満足の割合は、【よだれ、鼻水、痰、めやになどに対応し、顔の清潔が保たれている】が最も高く、【陰部や臀部の状態の悪化がない】、【居室を整頓している】・【利用者が過ごしやすい環境をつくっている】など、清潔・排泄・環境に関する項目が高かった。自由記載は、居室環境の記載が多かった。 考察 <看護師の態度・対応>よりも<看護ケア>の満足度が低いことから看護師の接遇は好印象だが、家族が望むケアが充実できていなかったと考える。 看護師は分泌物にタオルを使用し清潔保持に努めているが、迅速な対応が困難な場合がある。また、限られた入浴や陰部洗浄では汚染が残り、臀部の状態が悪化した可能性がある。流涎や発汗、オムツの使用など皮膚障害の誘発要因が多いことを理解し清潔保持に努めていく。 環境面では、ベッド周りが医療機器や持参品で雑然としやすいことや、食事や排泄場所が同じ居室は空気が滞る可能性があるが、定期的な環境整備や換気の時間を設けていなかった。 結論 家族は利用者が快適に過ごせるケアを望んでいたが、看護師は医療行為を重要視した可能性がある。利用者の生活の場であることを再認識し、基本的な看護ケアの実施が重要である。
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−全国医療型短期入所事業所調査より−
平野 恵利子
2017 年 42 巻 2 号 p.
158
発行日: 2017/08/01
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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はじめに 医療型短期入所は重症心身障害児者(以下、重症児者)施設から一般病院・診療所、介護老人保健施設(以下、老健施設)にも広がっているため実態調査を行った。ここでは短期入所に関する自由記述内容について報告する。 方法 各都道府県に問合せて医療型短期入所事業所名簿を作成し、無床診療所を除く388カ所を対象として質問紙調査を行った。242施設から回答があった。自由記述回答を求めた「短期入所について感じていること」に回答してきた78カ所の内容を分析した。 結果 6つのカテゴリーと17のサブカテゴリーに分類できた。【ニーズの変化】には〔医療依存度の変化〕〔小児の増加〕〔介護者の高齢化〕、【ニーズへの対応困難】には〔ニーズが多すぎる〕〔受け皿不足〕〔マンパワー不足〕〔設備不足〕〔休日・緊急の受入困難〕、【制度への意見・要望】には〔介護給付費が少ない〕〔専用ベッドに保障がほしい〕、【重症児者の受入の難しさ】には〔利用者の個別性への対応〕〔キャンセルが多い〕、【地域連携の必要性】には〔体制作り〕〔医療機関との連携〕、【一般病院・老健施設での受入】には〔肯定的意見〕〔否定的意見〕〔スタッフ側の意識変化が必要〕があった。 考察 短期入所でも医療依存度の高い小児のニーズが増加している。既存の施設では対応しきれず、人工呼吸器等医療対応可能な受入施設の増加を望む声が多い。休日や緊急時の受入の他に、歩行可能な重症児の受入も課題である。利用者の個別性に対応しなければならない困難がある上に、体調悪化でキャンセルが多い、介護給付費が少ない等の理由で、事業として継続していく難しさがある。一般病院や老人保健施設での受け入れには肯定的意見がある一方で、「老健施設で医療的ケア対応は困難」「急性期病棟での受け入れには矛盾がある」等の否定的な意見もあり、今後受け皿を増やしていくためにはここでの受け入れの検証が必要である。
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−質問紙調査を通して−
塩谷 一恵, 形山 恭子, 樫埜 純子, 羽鳥 裕子, 鍋谷 まこと, 余谷 暢之
2017 年 42 巻 2 号 p.
159
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 淀川キリスト教病院こどもホスピス病棟では、医療的ケアを要する重症心身障害児(以下、重症児)の短期入所を受け入れ、開設から4年間で延べ2300人以上の重症児が利用している。 目的 こどもホスピス病棟を利用する重症児・家族の短期入所利用前後における生活の変化および利用満足度を明らかにする。 研究方法 短期入所を2回以上利用した19歳未満の重症児の主介護者122名を対象に無記名の質問紙調査を郵送にて行った。調査項目は、重症児の基本的属性(年齢、性別、医療的ケアなど)6項目、サービス満足度(スタッフの対応、イベントなど)20項目、介護が生活に与える影響(家事への負担、健康面への負担など)について18項目、利用前後の重症児と家族の生活変化(〇〇など)5項目とした。 結果 71人から回答を得た(回収率58%)。利用者の平均年齢(SD)は9.3(±4.8)歳であった。必要な医療ケアは、気管切開44%、人工呼吸器34%、経管栄養59%であった。回答者の96%がこどもホスピスのサービスについて総合的に満足と答えた。重症児の介護が生活に与える影響の中で短期入所を利用して軽減したものとしては、「余暇の時間がもてないこと」、「介護者の健康面への負担」、「きょうだいとの関わりが少ないこと」、の項目が挙がった。短期入所利用前後の変化としては、重症児自身の成長発達や社会生活の向上、きょうだい児の子どもらしい感情表出や同胞の存在価値への気づきなどがあげられた。 結論 こどもホスピスの短期入所利用者は、サービスについておおむね満足していた。短期入所を利用することで、家族の負担軽減につながるだけでなく、重症児やきょうだいの成長、発達につながっていることが明らかになった。
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小野 昌子, 大町 明子, 岩尾 佳子
2017 年 42 巻 2 号 p.
159
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 重症心身障害児(者)をケアする看護師が短期入所者を受け入れる際の、親の要望への認識や思い、対応や関わりについて調査研究を行い、受け入れの方策を探索する。 方法 都内2施設の病棟看護師を対象とした。 第一段階:フォーカスグループインタビュー法を用いた質的研究。 第二段階:第一段階の結果より設問を抽出し自由記載欄を含む質問紙を作成。無記名自記式質問紙法を用いた量的研究。 東京都重症心身障害プロフェッショナルナース育成研修における研究であり、倫理委員会の承認を得た上で実施した。 結果・考察 要望は、親からの強い要望であるときと利用者に必要なケアであるときに受け入れていた。また、[集団生活の場で要望すべてを受け入れることには困難がある][利用者全員の安全を守りたい][集団生活の場で公平性を保ちたい]という思いから、強い要望として親から多くを望まれることに看護師は困難を感じていた。しかし、9割以上の看護師が要望を受け入れるために工夫しているとの結果であった。困難を感じながらも、個別性を重視して要望を受け入れたいという思いがあると考える。 要望の内容によっては、その必要性に疑問やジレンマを抱いていた。親とのトラブルを避けたいという思いと、集団生活での過ごし方を施設として明示する方法が曖昧であることが、ジレンマを覚える要因と言える。 親は在宅で、多くのケアを実施している。親の要望を受け入れ、かつ実施方法が決定したら、職員全員が確実に実施できる工夫をすべきと考える。 結論 1.看護師の約9割が困難やジレンマを抱きながら短期入所者へのケア・療育に関わっている。 2.短期入所受け入れにおいて、施設に対して施設基準・体制を明示することを希求していた。 3.施設基準をもとに組織と共に、集団生活への理解を親に働きかけていきたいと考えていた。 4.利用者に適しかつ、病棟で実施可能な方法を親と話し合って決定することが必要である。
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−開設から2年を経過して−
伊是名 若菜
2017 年 42 巻 2 号 p.
160
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 当センターは、2015年5月に開設した。在宅支援の一環として在宅移行支援の他、短期入所と日帰り短期入所事業を行っており、人工呼吸器使用等の医療ケア度の高い児の受入れも行っている。開設時の利用は少なかったが徐々に利用者が増加しており、特に継続的で集中的な多重的医療ケアを必要とした利用者が増加している傾向がある。そこで、利用者の現状をまとめ今後の課題を検討した。 方法 短期入所および日帰り短期入所の重症心身障害児(1〜18歳)を対象とし、2015年5月〜2017年5月までの2年間における利用者の医療ケアの内訳、超・準超重症児の割合について実態調査をした。 結果 利用者166名中、医療ケアの内訳は在宅人工呼吸器30名、在宅酸素17名、経管栄養103名、吸引79名、気管切開43名、吸入44名、導尿7名だった。日帰り短期のみの利用は8名、短期入所と日帰り短期併用の利用は36名、短期入所のみは122名、そのうち5回以上の短期入所利用者が61名(37%)であり、61名中、超・準超重症児は39名(64%)であった。また、5回以上の短期入所利用者は毎月の継続的な利用が多く、利用理由としては冠婚葬祭、家族の病気、母の出産、家族の休養、旅行等の行事、その他であり、公的理由だけでなく計画的で私的理由での利用が多かった。一方、日帰り短期のみの利用では超・準超重症児は8名中、1名だったが、短期入所と日帰り短期併用になると36名中、超・準超重症児20名(56%)であった。 考察 超・準超重症児の目的に応じた継続的な短期入所利用率が半数を上回るという結果から、医療ケア度が高いほど短期入所支援は家族から必要とされており、児と家族の日常生活の中に短期入所の利用が上手く調和し、安定化したものになりつつあるととらえることができた。今後も安全で安楽な短期入所環境の提供が当センターの地域における中間施設としての役割であり、継続した課題である。
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林 佳奈子, 桶本 千史, 高木 園美, 八木 信一
2017 年 42 巻 2 号 p.
160
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 医療ニーズのある子どもへの個別性ある看護提供には、機関や施設の社会的役割・機能が異なる中、看護連携の図り方も多様となる。本研究では医療ニーズのある子どもと家族の支援における看護連携の現状を、入院中と退院後の視点ならびに一般教育機関での就学前後の特徴を把握するため調査を行った。 方法 A県内の子どもと関わる職務に就く看護職者1,398人を対象に郵送法で質問紙調査を行った。 調査内容は対象の概要、連携した看護職と検討内容、医療ニーズのある子どもとの関わりで困ったこと、看護連携の利点・困難点である。 対象の所属機関から総合病院、在宅療養支援機関、保育機関、普通教育機関に分類し、単純集計した。 結果・考察 回収数478(34.2%)、有効回答数466(96.5%)であり、その内139施設(29.8%)は看護職者を配置していなかった。看護職者を配置している327施設で、医療ニーズのある子どもとの関わり経験がある看護職者は161人(49.2%)であった。 連携した看護職と検討内容では、総合病院、在宅療養支援機関の看護職者の大半が総合病院の看護師と連携し、患児・家族の心身面や家庭環境、医療的ケア、医療機器、在宅での緊急対応や課題・問題への対処について検討し、入院中から在宅生活を見据えて連携していた。一方、保育機関、普通教育機関の看護職者は各々同一機関の看護職者と連携し、医療機関の専門職より身近な看護職者と連携していた。医療ニーズのある子どもとの関わりで困ったことは、総合病院の看護師は患児特有の医療的ケアやセルフケア、療養行動に戸惑い、在宅療養支援機関、保育機関、普通教育機関の看護職者は初めての疾患に戸惑っていた。利点・困難点ではいずれの看護職者も相互のつながりを利点としながら、時間調整の困難さを感じていた。異なる場にいる看護職者が連携上の課題を互いに理解することで患児と家族のニーズに応じた多面的な看護支援の実現につながると考える。
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中村 知夫
2017 年 42 巻 2 号 p.
161
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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背景 医療的ケアの必要な子どもと家族が地域で安心して暮らすために、小児においても、地域の在宅医と病院との連携が求められている。 目的 当院在宅医療支援室が行っている、医療的ケアの必要な子どもに対する在宅医との連携の現状、成果、問題点について報告する。 当院での取り組み 1.頻回の入院や救急受診を繰り返している 2.幼い兄弟もおり、病院受診が容易でない 3.退院前から、頻回な医療的介入が必要と考えられる 4.医療デバイス交換のために、毎月の受診が必要 5.療養環境に合わせた呼吸器などの設定変更を必要とする 6.遠方で、救急外来受診が難しい、などの問題を抱えた医療的ケア児と家族に対し、地域の在宅医を紹介し、患者家族が暮らしている地域の在宅医と病院との連携を進めている。 結果 89人(男50人 女39人)の患者に対して在宅医との連携が可能となった。対象者の年齢は0歳から38歳(中間値9歳)であった。病院の主科は、総合診療部(74%)、神経科(15%)、血液腫瘍科(4%)、その他(7%)であった。頻回の入院や救急外来受診が無くなり、在宅生活が安定した患者や、成人患者が地域の地域包括ケア病棟を利用できたなどの成果が見られた一方で、在宅医との関係が難しくなり、他の在宅医を紹介したケースもあった。また、小児在宅患者を診ていただける在宅医を見つける手段がない、病院も家族も在宅医療の内容を十分理解していない、親と在宅医との理解に時間を要する、在宅物品の提供が容易でないなどのさまざまな問題点も明らかになってきた。 考察 医療的ケア児が、地域で安心して暮らしていくためには、在宅医と病院との連携が重要であるが、さまざまな解決すべき問題が存在する。 結語 医療的ケア児と家族を支援するための地域の在宅医と病院との真の連携を構築するためには、患者家族と、在宅医の紹介元である施設が両者を十分に支援することが重要である。
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小林 拓也, 二宮 悦, 森下 浩代, 山内 政治
2017 年 42 巻 2 号 p.
161
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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横浜市では、常時医療的ケアを必要とする重症心身障害児に対し、メディカルショートステイシステム(以下、MSS)を構築し、協力病院への緊急一時入院調整を行っている。この中で、移送の付添いが問題となる事例が見られるため一例を提示し、検討したい。 ケースは6歳女児、部分18トリソミーの超重症児。夜間鼻マスクによる人工呼吸器、必要時酸素、経鼻気管内を含む頻回の吸引、胃瘻からの経管栄養等の医療的ケアが常時必要な児である。兄姉3人と暮らす母子家庭で母親は車の運転ができない。車で片道1時間くらいの所に住む祖母が車の運転を担っているが、医療的ケアはできない。母親が肺炎のため救急車で搬送入院となった。残された児は祖母の車で主治医病院に搬送・入院。その間、酸素5L/分投与で、吸引等出来ない状態で移送した。主治医病院に1週間程度入院をしたが満床のため、MSSによりA病院、B病院と転院した。病院間の移送は転院元の医師が付添った。 日常生活全介助の重症心身障害児は、主たる介護者の体調不良等によりただちに保護が必要な状況となる。従来、緊急一時保護を行い、福祉施設等に搬送、入所対応をしてきた。この搬送には親族が付添い、それが確保できない場合には、児童相談所の職員が付添う場合もあった。しかし、常時医療的ケアを必要とする在宅児が増加し、福祉施設での緊急入所対応が困難となり、また、搬送中にも医療的ケアを行わなければならない状況が増えてきている。医療的ケアを行い得る親族が付添える場合は良いが、核家族化、片親家庭の増加により、搬送の付添い者が医療的ケアを行えない状況も稀ではなくなり、問題となって来ている。 常時医療的ケアを必要とする重症心身障害児の緊急一時要件での入所・入院、その搬送の付添い問題はどこの地域でも顕在化してきているのではないだろうか。
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安田 寛二
2017 年 42 巻 2 号 p.
162
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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背景 当院が約35km離れた県内の同系列機関に移転統合することになった。統合先は重症心身障害者(以下、重症者)医療の歴史がなく、病棟患者については重症者病床の定数削減および専門職員の不足等のため患者の一部の処置変更、在宅患者については地域機関への引き継ぎ、移転までの短期入所や通院事業の対策が求められた。重症者病棟をもつ病院の統合と移転について考察する。 方法 診療録および患者家族、関与した職員からの情報に基づいた 結果 1. 入院患者について(1)他県出身者は原則としてもとの出身地に転院する、神奈川県出身者7名と愛知県出身者3名は系列病院に、一部は家族の希望により法人立機関に(2)県内出身者で小児および重度者計8名、呼吸器を装着している患者4名のうち3名は重症者病棟をもつ県内系列機関に(3)歩行が可能となったが胃瘻造設を要した運動機能と摂食機能が解離する小児等3例は強度行動障害病棟のある県外系列機関に。看護度の低かった脳性麻痺32歳男性を医療機関ではない近隣の入所施設に処遇変更したが適応できず変更を中止した。大半の患者は転院後1年を過ぎたが体調は安定している。 2. 在宅者について(1)短期入所(ショートステイ)は移転までは実施予定。(2)通院事業を利用してきた8名の医療的な管理はほぼ当院で行ってきた。地域の医師会に協力を仰ぎ数カ所の診療所から積極的な引き継ぎの承諾が得られた。このうち35歳の脳性麻痺男性は肺炎を反復するため胃瘻造設を行った。35歳の血友病を基礎にもつ症例が半年後に誤嚥性肺炎で死亡した。 考察 当院は昭和50年から80床の重症者病棟と在宅医療を担ってきた。歴史的に隣接2県からの入院が多かったこと、最近15年間は幼小児が増加したこと、この数年で隣接県の病床数が著増したことなどが今回の処遇変更に影響した要因となった。一方在宅者についてはこれまで地域との連携の不足が反省すべき点であった。
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村田 博昭, 高橋 純哉, 大橋 浩, 横山 尚子, 山方 郁広, 村松 順子, 大友 正明, 倉橋 美由記, 岩本 彰太郎, 安間 文彦, ...
2017 年 42 巻 2 号 p.
162
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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重症心身障害児(者)の在宅支援として三重県の医療福祉施設では国立病院機構鈴鹿病院、国立病院機構三重病院、三重県立草の実リハビリテーションセンター、済生会明和病院なでしこで短期入所、日中一時支援(日帰り入院)および通所サービスが実施されてきたが、本年6月に草の実が他の施設と統合、三重病院に隣接地に移転し三重県立子ども心身発達医療センターとして開設された。われわれは4施設の状況について集計し、三重県の在宅支援の現状と課題について本学会などで報告してきたが、今回は28年度までの7年間を集計、分析し報告するとともに、新体制の課題について考察する。 対象方法 平成22〜28年度の各施設の短期入所、通所サービス利用状況、大島分類、超重症児スコア、年齢、居住地などを集計したデータを収集した。なお今回の調査には個人を特定するデータは含んでいない。 結果 4施設の短期入所利用合計者数の年間のべ数(日・人)は22〜24年度は1599〜2171だったが、25〜28年度は2348〜2622だった。なでしこでは26年度から増加傾向(67→143→514)だが、三重病院(1295→1103)と鈴鹿(665→417)は前年度から減少した。草の実はほぼ横ばいであった。月別ではこれまでは8月が最多だったが5月が最多で分散化がみられた。 実際に利用した月ごとの実人数の前年度との比較で三重病院、鈴鹿で減少、なでしこは増加、草の実はほぼ同数であった。 考察 なでしこでは27年から小児科医が増え超重症児の受け入れも可能となり、体制が改善してきたため大幅に増加した。一方三重病院の減少は他科病棟での空床が減少もあるが、なでしこの受け入れ増加も関連する可能性がある。三重病院への一極集中が改善することは利用者にはメリットがあると思われる。草の実の移転の影響の把握、4施設の協力体制の構築が課題である。
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水野 美穂子
2017 年 42 巻 2 号 p.
163
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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NICUなど高次機能病院からの退院時に人工呼吸器管理を要する超重症児が増加傾向にあり、このような児が安心して在宅で療養するためには「中間施設」の役割が重要である。当院は24時間365日小児の救急患者を受け入れている地域の急性期病院であり、平成24年頃から在宅移行する重症心身障害児のサポート活動を行ってきた。急性期病院の中で小児在宅医療に関わる施設はまだ少数であり 当院の活動について報告する。対象は平成24年1月から平成29年5月までに在宅療養支援目的で転院または院内発生した重症心身障害児48名で、いずれも当院が中心となって多職種による在宅医療のサポートを行っている。人工呼吸器管理が必要な児は34名(71%)。当院の在宅医療支援方法は高次機能病院から「転院」という形で児を受け入れ、2週間のプログラムでケアの確認や多職種によるサポートチームを作り、在宅移行がスムーズに行えるように中心的な役割を果す。在宅移行後は訪問診療医と連携して急変時の対応やレスパイト受け入れ、ケアの見直しや保護者からの相談の受付など児に関わるすべての職種が安心してサポートできる体制を作っている。すでに在宅療養中で十分なサポート体制がなく困っている症例も受け入れている。在宅移行後に病状の変化や合併症によりケア内容を変更した児が18名、保護者の健康や家庭の事情で再度チームを召集してサポート体制を作り直した児が4名あり細かなフォロー体制が必要である。医療と福祉との連携のために平成26年2月から当院が中心となって小児在宅医療に関わるすべての職種が集まって2カ月に1回勉強会を開催している。勉強会を通じた「顔の見える関係」が個々の患者のサポートチームを作り上げる上で役立っている。地域の基幹病院としての機動性を生かして専門性の高い高次機能病院と患者に関わる多職種の連携の中心としての活動が中間施設の役割と考える。
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石渡 久子, 戸谷 剛, 前田 浩利
2017 年 42 巻 2 号 p.
163
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 自宅で暮らす重症心身障害児者と家族は、たくさんの生きづらさを抱えている。周囲の無理解に傷つき、疲弊することも多い。子どもと家族が日常生活から離れ、自然の中で一緒に楽しむことができるレスパイト旅行という取り組みがある。 方法 NPO法人「親子はねやすめ」は、2014年から毎年長野県筑北村で親子レスパイト旅行会を開催している。子どもとその家族数組がゲストとして招待され、NPOの職員と地元や企業のボランティアが手作りのおもてなしをする。当法人の医師、看護師をはじめとする職員も参加し、活動を支えている。家族そろっての旅行は初めてというゲストが多い。人工呼吸器などの高度な医療機器や複雑な医療ケアが必要であっても、医療職を含む多くのスタッフがいるため安心して参加できる。豊かな自然の中で、子どもたちは家族とともに楽しい時間を過ごす。寂しい思いをすることが多い兄弟たちも、親が見守る中で思いっきり遊ぶことができる。親同士の交流が生まれ、苦労や喜びを共有できる。揚げたての天ぷらなど地元の美味しい食材を使った料理、温泉、心からくつろげる時間と空間がそこにある。優しい気遣いをしてくれる人々と自然に囲まれ、子どもと家族にたくさんの笑顔が生まれる。その笑顔は周りの人々に大きな喜びと感動をもたらす。日頃から在宅医療に携わるスタッフも、普段は見過ごしがちな家族の思いや日常の不自由さに気づかされ、自分たちの仕事の意味を改めて認識することができる。 考察 病気や障害をもつ子どもの家族には常に医療ケアを担う緊張感があり、家族全員で行動するという当たり前のことが想像以上に困難である。レスパイト旅行では普段の緊張感から解放され、家族がストレスなく一緒に過ごすことができる。その体験は身体と心を癒し、明日への活力を生み出す。この取り組みを多くの人に知っていただき、活動の輪が広がっていくことを願っている。
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舟本 仁一, 冬木 真規子
2017 年 42 巻 2 号 p.
164
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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人工呼吸管理を始めさまざまな医療的ケアを必要とする子どもたちの在宅移行・地域生活も、多くの関係者の努力・支援により可能となってきた。一方、子どもたちの日常介護を担う母親など家族の負担は過大であり、在宅生活支援として短期入所が医療型障害児入所施設を中心に行われてきている。ところが高度な医療的ケアが必要な場合、受け入れ先が少なく、このため大阪市では2013年4月から病院小児科病棟での障害者総合支援法に基づく医療型短期入所事業を開始、翌年から府全域に拡大された。大阪市内3カ所、府下3カ所の病院小児科が協力・参加し、住吉市民病院は2013年度から人工呼吸管理など高度な医療的ケアを必要とする重症心身障害児者を中心に受け入れ、2016年度は実利用人数89人、延べ510人である。また、検査目的など医療を主目的としつつも家族の休息も期待できるレスパイト入院も受け入れており、2016年度で実利用人数9人、延べ112人、短期入所とレスパイト入院を合わせ、1.7人/日の利用であった。当院の短期入所ならびにレスパイト入院の特徴は、(1)4床を基本として柔軟に運用、(2)要望が多い当日や時間外の緊急利用に対応、(3)次子出産などの際には1カ月以上の利用も可能。さらに、在宅生活中に急変した場合の緊急時対応についても主治医の属する医療機関の病床に空きがない場合などに、受け入れる体制をとっている。しかし、課題として(1)生活の場として遊びやリハビリテーションなどの機会が不十分、(2)運用上、短期入所とレスパイト入院との使い分けが困難、などがある。今後、一般病院小児科は要入院児の減少や医療的ケア児の増加という状況から障害医療への関与は深まっていくと予想できる。そのためにもレスパイト入院と短期入所の位置づけと収入差の整理、院内療養環境の充実、医学部教育や研修制度を通じた人材育成、地域との連携強化などが必要である。
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高村 彰夫, 小林 拓也
2017 年 42 巻 2 号 p.
164
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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当院ではかかりつけ重症心身障害児者(以下、重症児者)の医療的ケアが増え、重症化してきたことを契機に管理方法として特定医療型短期入所を選択した。病棟での日中あずかりを中心に小児科病床の空床時を利用する形態をとり、2015年11月から開始している。2016年の重障学会において開設までの経過を報告したが、実際に運営を始めてみると利用者の当施設の使いにくさを中心にいくつかの困難があり、この間に改善してきた点と今後の課題を報告する。 当院の診療圏である川崎市南部は近隣の市街地の中でも特に人口密集地域であり、居住環境も良いとは言い難い。そのため医療的ケアの重い方が利用するまでのアクセスに大きな問題が生じた。郊外のように送迎できる車両を持っている家庭も少なく、重症児者が利用できるような送迎サービスもないことから、利用はしたいが行く足がないという声が聞かれた。定期的に利用するのは、たまたま病院の徒歩圏内に住む重症者の方だけという状況が続き、運営の先行きが危ぶまれた。自施設での送迎の可能性を追求していたときにタイミング良く、病院での透析管理患者や訪問診療患者の入院時に自施設での送迎を行うという事業計画が上がってきたためそれに便乗する形で重症児者の送迎も2017年の5月より始まることとなった。それ以降では定期的に利用する方が増えている。 利用者が増えてくる一方で、あずかりを病棟の空床を利用して行っていたため病棟が慢性的に空いている時期はよいが、入院患者が増えてくると利用者を定期的に病棟で管理することが今後、難しくなることが予想される。病棟の空床を利用したあずかりから院内の外来フロアを利用したあずかりへの変更を今後予定している。その他にも病院内の人員体制の影響で医療ケアを扱えるスタッフの確保を計画的に行っていかないと対応が難しくなる危機感もあり、課題は山積だが地域での重症児者の在宅生活が安定するように努めていきたい。
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寺田 明佳, 李 容桂, 和田 佳子, 四本 由郁
2017 年 42 巻 2 号 p.
165
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 先天性中枢性低換気症候群(以下、CCHS)は、呼吸の調節と自律神経系の障害を特徴とする疾患である。重度の睡眠時無呼吸が主な症状で、多くは出生直後より発症し気管切開を施行、生涯人工呼吸器管理を要する。 当院では重症心身障がい児を対象に、医療型短期入院を受け入れている。今回急性期病院と連携した計画的短期入院が安全な在宅生活に寄与したと考えられたCCHS症例を経験したので報告する。 症例1 4歳男児。終日呼吸器管理を要し日齢38で気管切開、生後9カ月より急性期病院にて自宅退院練習を開始、急性悪化や家庭の疲労等、早期の生活構築が困難であり、1歳1カ月時に当院転院。1週間程度の短期入院を月2回から開始した。その後の2年間で医療的ケアの程度が下がり急性期入院も減少、月あたりの入院回数、日数とも徐々に減少し、呼吸器装着は睡眠時のみ、短期入院は2-3カ月に1回4-5日ペースとなった。現在は保育所通園を開始している。 症例2 9歳男児。5カ月で気管切開、7カ月で巨大結腸症根治術を施行、重度精神発達障害、自閉スペクトラムを合併、在宅療養中であった。5歳時、母の癌加療のため当院に緊急入院し、その後3年間退院困難となった。試験外泊を経て8歳時、計画的短期入院に移行した。9日程度月2回ペースから徐々に減少、1年間で急性悪化はなく、短期入院は月1回6日ペースとなった。現在は支援学校の訪問級から地域の普通学校支援級へ転校し通学を継続している。 考察 CCHSの生命予後は比較的良好、運動発達も良好に得られるとされており、活動性は健常児と変わらないが要する医療的ケアは重度といういわゆる「高度医療依存児」である。乳幼児期や精神発達障害の合併等意思の疎通が困難な児の呼吸器管理は特にリスクが高く、計画的短期入院は家庭の休息のみならず、児の全身状態を適切に見守り管理するためにも有用であったと考える。
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竹本 潔, 船戸 正久, 児玉 和夫, 位田 忍, 舟本 仁一
2017 年 42 巻 2 号 p.
165
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
フリー
はじめに 平成25年度重症心身障害児者の地域生活モデル事業(厚労省)の受託を契機に、大阪府下の利用者を対象に短期入所・レスパイトを実施している療育施設・病院の連携を目的に、大阪発達総合療育センターを事務局として大阪ショートステイ連絡協議会を設立した。平成26年度以降のモデル事業終了後も、年1回協議会を開催し、短期入所の現状と課題について率直な意見交換を継続しており、現在6つの療育施設(1施設のみ和歌山県北部に位置)と7つの病院が参加している。 短期入所・レスパイトの実績 平成27年度の短期入所・レスパイトの実績を、療育施設(R)と病院(H)で比較した。1施設平均登録人数は、(R)251人(H)71人、1施設平均総利用のべ日数は(R)2635日(H)788日で、療育施設が多かった。登録者の年齢は、(R)の59%が18歳以上であったのに対して、(H)は87%が18歳未満であった。一方、登録者に占める人工呼吸器の比率は、(R)7.3%に対して(H)31.3%、超・準重症児は(R)22%に対して(H)66%であった。1回平均利用日数は(R)4.3日(H)5.2日、年間平均利用回数は(R)2.8回(H)6.4回であった。 考察 病院でのレスパイトは、18歳未満の医療要求度の高い比較的小さな母集団(主に自院出生児など)を対象に、繰り返し受け入れていた。一方、療育施設は大きな母集団を対象に、成人例や生活ケア要求の大きい例(経口食事例など)を幅広く引き受けていた。ベッド不足から1人当たりの年間利用回数が少なく、利用者は複数の施設を利用してレスパイト要求を満たしていると考えられた。病院に比して療育施設での短期入所は、利用者や家族との関係構築、生活面の介助においてより大きな配慮・労力が求められていると思われた。
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早川 真由, 樋口 滋, 深澤 宏昭, 細田 のぞみ
2017 年 42 巻 2 号 p.
166
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 家族のニードに対し、理学療法の介入のみでは改善が見られなかった症例に対し、生活支援員と目標を共有し、協働して課題に取り組んだことで改善が見られた症例について報告する。 症例 37歳男性。大島の分類2。16歳時、事故による心肺停止から低酸素脳症となり、運動障害を残した。長い在宅生活を経て、36歳時に施設に入所した。 経過 自宅ではベッドをギャッチアップし、テーブルを差し込んだ状態で食事をとっていた。しかし、入所後、右膝関節屈曲拘縮が悪化したことで、帰宅時に膝がテーブルに引っかかり、テーブルが入らなくなったと、家族から訴えがあった。家族のニードに焦点を当て週1回40分、4カ月間、理学療法を実施したが、日常的に高い筋緊張の亢進があり、週1回の理学療法では改善が見られなかった。そこで、生活支援員と課題を共有し、支援方法について協働して実施するよう話し合いを持った。取り組みとして、理学療法士は週1回40分、左側臥位にて右臀筋群・右大腿筋膜張筋・右ハムストリングスのストレッチ・マッサージを、生活支援員は週2回、ベッド上での更衣介助時に膝関節伸展運動、ハムストリングスのマッサージを実施した。それぞれ3カ月間取り組み、前後で関節可動域を計測した。 結果 股関節伸展可動域が左右ともに15°改善、膝関節伸展可動域が右10°改善した。家族より、帰宅した際、右の膝を伸ばすときに柔らかさを感じられるようになり、食事時にテーブルが入れやすくなり、効果を実感したと感想がよせられた。 考察 理学療法だけではなく他職種と協働し、日常生活の中にプログラムを組み込むことで、限られた理学療法の時間内だけではなく、日常生活において運動機会を増やすことができた。また、家族の訴えに対し、理学療法士だけではなく、他職種と課題を共有し、同じ方向性で職員が介入を行ったことが改善につながったと考える。
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大嶋 志穂, 榎勢 道彦
2017 年 42 巻 2 号 p.
166
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 児童発達支援事業所において理学療法士として関わった医療的ケアを必要とする重症心身障害児の2名について、この1年間の経過を報告し、発達支援における理学療法士の役割について考察する。 事例と経過 事例は4歳9カ月の男児(事例1)と5歳8カ月の男児(事例2)。両者ともに低酸素性虚血性脳症による重度脳性麻痺で、気管切開、喉頭気管分離、胃瘻造設術後であり、夜間の人工呼吸管理を必要としている。姿勢変換や姿勢保持の適応の困難さがあり、日常の多くの時間を背臥位で過ごしていた。理学療法では胸郭呼吸運動の発達促進を中心とした運動療法と姿勢ケアに取り組んだ。 事例1は、筋緊張亢進による拘束性換気障害と四肢の関節可動域制限を認めた。取り組みの結果、日常的に座位、腹臥位、側臥位姿勢の導入が可能となった。 LIFE(Part1)の生命維持機能領域では17点から24点に向上し、呼吸機能の改善を認めた。また、関節可動域は右股関節屈曲が50°から70°、伸展が0°から5°、左股関節屈曲が90°から105°、伸展が-25°から-10°へと改善を認めた。 事例2は、構築的な非対称変形と体幹の低緊張性により座位では呼吸が努力性となるため、保育場面での活動参加が制限されていた。取り組みの結果、保育士による介助やさまざまな姿勢への適応性が向上し、上肢活動やさまざまな運動遊びの幅が広がった。 まとめ 今回の事例では、運動療法にて胸郭呼吸運動の発達を促進したことで姿勢適応性が向上し、日常で過ごせる姿勢が増え、呼吸機能や介助適応の改善につながった。 運動療法の効果を日常生活に汎化させるために姿勢ケアは重要であり、変形や拘縮の進行予防にも有効だと実感した。 理学療法士は呼吸機能、姿勢と運動、活動と参加を包括的かつ相互的に評価し、臨床場面での小さな発達的変化に気づき、促進していく役割があることが確認できた。 取り組みの効果や発達的変化をより客観的に示していくことが今後の課題である。
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