抄録
はじめに 重症心身障害児者ではさまざまな原因での不眠・不穏・緊張で管理に苦慮する場合が多い。甘麦大棗湯は小児の夜泣きや発達障害児ではしばしば使用されるが、重症心身障害児者での使用は一般的ではないため、4例の経験を報告する。 対象/症例 わかば療育園入所中の重症心身障害児者4例。全例横地分類A1・経管栄養。症例1 41歳男性、脳性麻痺。年余にわたる昼夜逆転でジアゼパム、ニトラゼパム、フェノバルビタール、ダントロレン、ラメルテオンを使用するも、効果は限定的で夜間の不穏・反り返り・緊張・発汗が継続。甘麦大棗湯5g分2で使用開始後、睡眠パターンは改善しなかったが、不穏/緊張昂進が改善し「静かに起きている」状態になった。症例2 16歳女性、歌舞伎症候群。喉頭気管分離術+夜のみ人工呼吸管理。ラフラゼフ酸、ジアゼパム長期間投与。不眠や深夜覚醒で体動激しくなることが頻繁になり、胃瘻からの漏れが増加し周囲の皮膚障害が悪化した。ラメルテオンは無効のため甘麦大棗湯開始し、興奮・体動が減少し皮膚障害が改善した。症例3 11歳男性、水頭症性無脳症。肺炎治癒後不穏/緊張昂進が夕方を中心に続くようになりジアゼパム座薬では効果が一時的であったため、甘麦大棗湯開始し翌日から改善した。症例4 15歳男性。元来筋緊張の高い脳性麻痺児でリオレサール、ジアゼパム、ダントロレン継続。緊張亢進に伴って気切カニューレの事故抜去が頻繁となり、クロルジアゼポキシド開始、ジアゼパム、ダントロレン増量したが効果が不十分で甘麦大棗湯開始した。効果は明らかでなくその後リスペリドンで効果が見られた。 結果 不安・不穏も関連した緊張亢進の可能性がある3例には有効で日常生活の安楽さが増し、その効果は1週以内にみられた。 考察 甘麦大棗湯は不穏/緊張亢進を示す症例の一部には効果がある。低K血症を示す場合は禁忌だが、筋緊張低下・分泌物増加・呼吸抑制の副作用が無く、開始後早期に効果判定ができ重症心身障害児者でも使用しやすい薬剤である。