日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
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一般演題
P-1-E24 療育的視点による関わりが治療に効果的であった多発性感染性粉瘤の一例
明城 和子大瀧 潮長嶺 香奈子木実谷 哲史
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2017 年 42 巻 2 号 p. 240

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抄録
はじめに 多発性感染性粉瘤の治療は、抗菌薬投与と切開排膿であるが、処置に伴う患者の苦痛が大きい上、根治が難しい。今回、われわれは感染症治療に加え、栄養状態改善と疼痛管理・アロマテラピーによるストレス軽減を試み、感染コントロールが改善した1例を経験したので報告する。 症例 15歳男児。基礎疾患は13トリソミーで、寝たきり、喉頭気管分離後、経管栄養の児。低γグロブリン血症による免疫不全も合併している。6年前から全身に粉瘤が数十個多発し、感染を繰り返している。膿が貯留した粉瘤に対して切開・排膿を行ったが、感染が治まってもしばしば不良肉芽を形成し、完治が困難だった。治療を続けるうちにMRSAに感染し、感染コントロールにも難渋した。元々スキンシップを好む児だったが、切開・排膿や洗浄等の処置のたびに苦悶様表情がみられ、触れるだけで強い緊張が見られるようになった。そこで、地域の皮膚科にコンサルトし、感染前に粉瘤を摘出する方針となり、不良肉芽形成が予防可能となった。同時に、内服・局所麻酔による疼痛コントロール強化、病棟看護師の協力によるリラクゼーション・皮膚状態改善目的のアロママッサージを行った。また、経腸栄養剤を増量した。2年間の治療介入で、感染性粉瘤による抗菌薬使用が減少し、膿の培養からMRSAが検出されなくなった。また、触れた際の緊張の軽減、覚醒時間の延長、表情の改善が見られた。 考察・結論 粉瘤は全身どこにでも生ずる嚢腫で、炎症性粉瘤で膿性の内容物が疑われる場合には切開排膿が第1選択となっている。本症例のように、多発性で病勢を抑えることが難しい場合、栄養管理、疼痛管理の強化、健常部も含めた皮膚ケアにより、児のQOLが向上し、結果的に感染症のコントロールも改善することがある。侵襲的な治療を伴う感染症においては、感染症そのものへの治療のみならず、多面的なアプローチが重要と考えられる。
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© 2017 日本重症心身障害学会
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