日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
公開セミナー:これからの治療・ケアに関する話し合い~アドバンス・ケア・プランニング~について考える
これからの治療・ケアに関する話し合い
~アドバンス・ケア・プランニング~について考える
余谷 暢之
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2018 年 43 巻 2 号 p. 237

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抄録
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは「患者およびそのケア提供者と医療者との間で価値、人生の目標、将来の医療に関する望みを理解し共有しあう自発的な話し合いのプロセス」のことを指す。ACPの目標は、重篤な疾患や慢性疾患において患者・家族の価値や目標、選好を実際に受ける医療に反映させることにある。神経疾患は、がんと比較して長期に亘り変化しやすく、終末期を正確に把握することが難しい。事前に話し合いを行い、その背景や理由、価値観を共有することで、重篤な神経疾患を抱える子どもを診療する際に突然直面する複雑な医療状況において患者・家族の価値や目標、選好を実際に受ける医療に反映させることが可能になる。しかし、小児領域においては、予後がはっきりしないことや、医療者と患者家族の病状認識にギャップがあること、希望を失ってしまうのではないかという医療者自身の不安などが障壁となり、医療者からこういった話を切り出すことにためらいを感じることが多いという現状がある。特に神経領域においては、急変時に集中治療を行うか否かの話し合いはがん領域に比較して行われている頻度が高いのに対して、今の病状理解を確認しこれから起こりうる病状について話し合うことはがん領域に比べて行われない傾向があることもわかっており、日常診療の中で患者家族と現在の病状の共有とこれからの見通しを意識して話し合うことが大切といえる。 話し合いのポイントは「希望」を尋ねることである。重篤な疾患や慢性疾患を抱える子どもの家族は、不安や抑うつといったnegativeな感情と同時に子どもを大切に想うなどのpositiveな感情もあわせもっていると言われている。しかし、状態が重篤であればあるほど、不安や悲嘆の感情が強く子どもを大切に想う気持ちから生じる希望にたどり着けない。医療者にとっても、心肺蘇生などの急変時の対応の話し合いに終始してしまうことが多い。しかし、心肺蘇生などの医療行為に関する意思決定はあくまで過程であり、目的はその子にとっていかにその子らしい最期を過ごすかということにある。これまでの病状経過の共有や見立て、価値観などを共有していく中で、子どもと家族がどのように過ごしたいのかをともに考えていく結果として、これからの治療やケアの目標が立てられるのではないだろうか。 また小児領域におけるACPのもう一つの課題が思春期年齢の患者との話し合いである。ケアや治療の意志決定に思春期年齢の子どもを巻き込むことは挑戦であるといわれるほど難しい。75%の思春期患者が終末期の話し合いを状態が悪くなる前に行いたいと思っているとの報告があるが、実際の現場では医師は本人とは話さず両親とだけ話すことも少なくない。思春期患者の特徴を把握した上で、本人の価値観を探っていく必要がある。 このセミナーを通じて、重篤な疾患や慢性疾患をもつ子ども・家族との話し合いについてともに考える機会になれば幸いである。 略歴 学歴 2004年3月 大阪市立大学医学部卒業/2014年3月 大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了(公衆衛生学) 職歴 2004年4月 独立行政法人国立病院機構京都医療センター臨床研修医/2006年4月 国立成育医療センター総合診療部レジデント/2009年5月 国立成育医療センター総合診療部医員/2014年5月 神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科 医員/2015年4月 神戸大学医学部附属病院腫瘍センター・緩和ケアチーム 特定助教/2017年4月 国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科 医長/2018年6月 国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科 診療部長 資格 日本小児科学会小児科専門医/日本緩和医療学会緩和医療専門医 業績 Yotani N,et al.Differences between pediatricians and internists in advance care planning for adolescents with cancer.J Pediatr 182:356−62.2017. Yotani N,et al.Advance care planning for adolescent patients with life-threatening neurological conditions: a survey of Japanese paediatric neurologists.BMJ Paediatrics Open 1:e000102.2017. Yotani N,et al.Specialist palliative care service for children with life-threatening conditions: A nationwide survey of availability and utilization.J Pain Symptom Manage 2018.Epub ahead of print.
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© 2018 日本重症心身障害学会
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