抄録
目的
重症心身障害児(者)(以下、重症児)は筋緊張の亢進を呈し、治療に難渋することが多い。われわれはこの中に音や皮膚刺激等で筋緊張が増強される一群(以下、刺激過敏性筋緊張亢進「stimulus sensitive hypertonus (SSH)」)があり、バルプロ酸(VPA)によって、筋緊張を比較的良好にコントロールすることが可能であることを、痙直型について第41〜43回の本学会において報告した。今回、アテトーゼ型のSSHに対するVPAの効果について報告する。
対象および方法
症例1は6歳11か月、症例2は11歳1か月で、出生体重はそれぞれ1456g、787g、乳児期に脳室周囲白質軟化症と診断された。両者とも頸定なく、自力での座位、寝返り不能。四肢の深部腱反射の亢進、Modified Ashworthスケールで2および3の痙性を認めた。体幹・上肢を中心としたアテトーゼ様の動きがあり、後弓反張、肩関節伸展、上肢の回内肢位を呈しやすく、SSHを合併していると判断した。VPAを開始し有効量まで徐々に増量した。症例1では異常行動チェックリスト日本語版(ABC−J)を治療前後で評価した。
結果
VPAの最終投与量はそれぞれ18.0mg/kg、13.6mg/kg、血中濃度は53.6μg/ml、41.9μg/mlであった。投与開始から両者とも2週間で改善が認められ、1か月でほぼSSHが抑制された。症例1のABC−Jは治療前後で69点から57点に、サブスケールI(興奮性)は16点から10点に減少した。
考察
効果が認められたVPAの血中濃度について、アテトーゼ型のSSHでは、これまで痙直型で報告してきた99.7±26.1μg/mlに比較して、低い血中濃度で効果が出現した。アテトーゼ型は筋緊張が気分によって影響されやすいことが知られており、効果発現機序として想定される気分調節作用などもあわせ、VPA治療はより効果的であるかもしれない。また、ABC−Jによる解析から、興奮性についての減弱が明らかとなり、客観的な評価法として有用であった。