抄録
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の正確な聴覚評価のため、聴性行動観察聴力検査(BOA)と音場閾値検査法を検討したので報告する。
対象と方法
同意を得た入所者80名を対象とし、耳垢の有無、安静状態の観察後、聴力検査室(65名)または病棟居室(人工呼吸器装着者15名)で環境騒音測定後、BOAまたは音場閾値検査を実施した。刺激音は(1)オージオメーターの5周波数(ワーブルトーン250〜4000Hz)、(2)楽器音5種類(太鼓、鈴等)、(3)女性の話声、(4)音楽(館内放送使用中のオルゴール曲)とした。
結果
音場閾値検査は15名で実施でき、BOAは34名で複数回の検査を要した。ワーブルトーンによる平均聴力レベルは、正常範囲12名(19%)、軽度難聴疑い24名(37%)、中等度難聴疑い21名(32%)、高度難聴疑い6名(9%)、重度難聴疑い・測定不能2名(3%)であった。人工呼吸器利用者には正常範囲・軽度難聴疑いの者はなく、中等度難聴疑い8名(53%)、高度難聴疑い3名(20%)、重度難聴疑い・測定不能は4名(27%)であった。正常聴力群は、認知発達が高い群に多かった(10/12名)。80名中26名は、楽器音への反応が良好であり、再現性や明確な聴性反応が得られやすかった。また、11名はワーブルトーンの反応に比べて話声に対する反応閾値が低かった。ワーブルトーンで高度難聴が疑われた8名中5名は、音楽に対して15〜35dB閾値が低かった。
考察
重症児(者)の音に対する反応は曖昧なことが多く、検査音の違いで閾値の乖離や再現性の変動がみられる例が存在した。このため、オージオメーターのみでなく重症児(者)の興味を惹く楽器音や音楽を使用する意義と必要性が高いと考えられた。また正確な聴力の把握に、複数回の検査、刺激音の工夫と同時に、神経生理学的検査の併用による総合的評価も検討すべきと考えられた。