抄録
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の死因で、悪性腫瘍が増加しているという報告がある。重症児(者)の支援は、より良い生活を支える医療・看護・療育であり、そのすべてが緩和ケアである。悪性腫瘍を併発した場合には、疼痛管理等、より専門的なケアが加わることとなる。治療方針の選択や決定は、多くの場合家族に委ねられ、葛藤やプレッシャーとなり感情が揺れ、家族の支援も重要なものとなる。母親への関わりを通し、医師、看護師、療育指導員、緩和ケア認定看護師の多職種で行った意思決定支援を報告する。
症例と経過
38歳男性、3歳で結核性髄膜炎発症、大島分類1である。36歳時、膀胱がんと診断され術中の体位や長時間の全身麻酔の懸念から根治術は困難とされた。腫瘍増大による腎不全への移行回避のための尿管皮膚瘻造設の提案に対し母親は、自分が決めることはエゴではないかと意思決定にゆらいだが、話し合いを繰り返した。医師は病状や尿路変向の意義、看護師は日々の本人の様子や思い、指導員は療育参加の工夫と継続を伝え、母親の気持ちを聴き支援を行った。そして母親を含めてカンファレンスを行い、緩和ケア認定看護師からの、尿路変向は腎不全の苦痛を緩和するという説明の後、母親は、みんなで話したら決められたと述べ、手術を選択された。
考察
家族への意思決定支援の先行研究から、納得するまで待つ、心情の理解や分かち合い、多職種からの情報提供と共有、状況打開への関わりなどの必要性が示唆されている。今回、母親も本人に関わるチームとし、エンドオブライフにおける治療の有効性の情報提供、母の望む生活と気がかりについての感情の共有を積極的に行い、意思決定を支援できた。重症児(者)と家族を支えるケアの視点に、悪性腫瘍がもたらす苦悩、意思決定に至るゆらぎ、残された時間を生ききる準備への、継続する支援が加わる重要性は今後も高まると考える。