抄録
はじめに
A氏は、毎日のようにスタッフの両腕を掴み力任せに数十メートル引きずるという手引き行為や、スタッフの髪留めを奪うこだわり等の問題行動がある。A氏の問題行動はなぜ起こるのか、行動の機能アセスメントを行い、要因を明らかにすることはできないかと考えた。
目的
A氏の行動観察を行うことで問題行動が引き起こされる行動要因を明らかにする。
方法
1.期間:20XX年9月〜20XX年3月
2.対象者:A氏、20代男性、重度知的障害、自閉症、強度行動障害スコア28点
3.データ収集・分析方法
1)機能アセスメントシート(問題行動の観察記録)にて、A氏の問題行動で頻度の多い3つの行動の記録を行う。
2)同じ行動をMASの診断スケール16項目の質問を回答する。
3)記録を基にABC分析を行い、MASの診断スケールの結果と比較し問題行動の要因をカンファレンスにて分析する。
結果・考察
スタッフの手を引く行為では、ABC分析とMASは同じように注目や関わりを求めての行動ではないかという結果であった。そのことから、関わって欲しいというA氏の思いからの行動が考えられる。
鍵を取ろうとする行動は、ABC分析では、普段と違う環境を普段通りの環境にしたいために起こっているのではないかと分析された。MASの結果は感覚的な刺激の獲得であった。ABC分析とMASでの評価結果は違うように思えたが、鍵を閉めることで得られるA氏にとっての刺激があるのではないかと考える。
スタッフの髪留めを引っ張り取る行動は、ABC分析では、関わりを求めているのではないかと分析された。MASの結果も注目の獲得であった。
3つの行動ではほぼすべての行動の結果に、必ずスタッフが関わることから、問題行動はA氏が何らかの関わりを求めて出現している行動ではないかということが考えられる。私たちが問題行動であると考えていたことは、もっと関わってほしいというA氏にとってのコミュニケーションの一環であったと考える。