抄録
重症心身障害者(以下、重症者)における骨粗鬆症治療の実施にあたり必要なのは薬剤の選択だけではない。骨折リスクのスクリーニングおよび診断や評価として用いる骨密度測定機器や、定期の歯科診療も含めた診療体制の構築が必要となる。
目的
規模の大きくない重症者施設が、スクリーニングから骨粗鬆症の診断、治療、管理までの体制を構築し実施すること。
対象
横須賀市にある重症者の長期入所施設の利用者45名。年齢は12から65歳(中央値35歳)で、必要な医療ケアは気管切開5名(人工呼吸器使用者3名)、経管栄養(胃管および胃瘻)15名だった。また、自施設に骨密度測定機器はなく、院内での歯科や整形外科の診療は行っていなかった。
診療プロトコール作成
骨折リスクの定期スクリーニングとして、市内の整形外科医院と連携し、訪問で年1回の定量的超音波測定法 (QUS)の評価を導入した。治療薬は皮下注剤のdenosumabを選択した。骨粗鬆症の診断と治療後の骨密度評価に、横須賀市の市民健診施設で実施している前腕DXAを利用し、歯科診療は通院困難者のために近隣歯科大学の障害者歯科部門の訪問診療を導入した。
結果
QUSの結果が低値 (GE A−1000 にてstiffnesの%YAM値34−41%、T−score 5.4−6.0)で、骨折の既往がある3名と黄体ホルモン補充療法中の1名が治療の対象となった。年齢は36から58歳で、気管切開+人工呼吸管理1名、胃瘻使用者2名だった。歯科診療は2名が通院困難で訪問診療を利用した。3名はスムースにdenosumab治療を開始できたが、1名で治療開始前に抜歯など数回の歯科治療が必要であった。
結論
規模の大きくない重症者施設では、骨粗鬆症診療の実施に設備や診療体制の問題は大きい。今回は、地域のリソースを利用し施設の弱点を補完することで診療プロトコールを作成し実施できた。