抄録
はじめに
ダウン症者は壮年期にアルツハイマー型認知症を発症したり、身体機能低下をもたらすなど早期老化傾向が確認されている。一方で、理学療法士(以下、PT)のダウン症者に対する介入は、幼少期中心で歩行獲得を目標とすることが多い。今回40〜60歳代のダウン症者の加齢変化を調査し、PTの介入を再考したので報告する。
方法
当施設を入所または通所利用しているダウン症者7名(40歳代2名、50歳代4名、60歳代1名)を対象とし、知的に障害がある人のための認知症判別テスト(日本語版DSQIID)、関節可動域検査、筋緊張検査、歩行観察を実施した。
結果
DSQIIDでは50歳以上の4名が認知症の疑いありと判定され、睡眠の乱れ、排泄コントロール困難、興味・関心の低下が共通していた。関節可動域検査では50歳以上全員に足関節背屈制限があった。筋緊張検査では50歳以上の4名に軽度筋緊張亢進が認められた。歩行観察では50歳以上の3名は手引き歩行レベルであり、股関節屈曲・体幹前傾位、膝関節と足関節の動きが乏しく、歩幅が狭くスピードが遅いのが特徴的であった。
考察
今回の調査で50歳以上のダウン症者は認知症の疑いや関節可動域、筋緊張の異常、歩行能力の低下が認められた。認知機能低下は活動性低下をもたらし、筋力や歩行能力低下につながると考えられる。PTとして、50歳以前のダウン症者にDSQIIDを定期的に実施し認知機能の変化に着目すること、また筋緊張や関節可動域を評価し適切な時期に介入すること、認知機能の変化に合わせて運動の機会や方法を提示し、筋力や歩行能力を維持すること、さらに環境調整や日中活動、余暇活動を工夫することが必要だと考える。ダウン症者の平均寿命が伸びていることが明らかになっている今日、年を重ねても豊かに暮らすために、PTは幼少期だけではなく、特に50歳以前から再び関わるべきステージなのではないかと考える。