抄録
はじめに
本症例は18歳まで片手引きで歩いていたが、高校卒業2か月後に体調不良を起こし、脳血流低下、脳萎縮などが見られ医療棟に転棟した。その後長期臥床となり、体調は徐々に安定したが、覚醒は上がらず自発性は低下していた。そこで、上行性網様体賦活系に着目し介入した結果、徐々に変化が見られSRCウォーカー(以下、SRC)を使用して歩くまでに回復した。自発性が上がることで、本人と外界との相互作用が生まれ、病棟全体の意識も変わっていった。その経過について考察を踏まえて報告する。
方法
<対象>
20代男性。外傷性脳挫傷、精神遅滞、難治性てんかん、視力障害。横地分類A3−B。外界に無関心。覚醒時は激しく体を揺らし、感覚刺激を求める。
<方法>
導入期 寝返り、起き上がり、端座位(8か月)
第1期 端座位からの立ち上がり(4か月)
第2期 SRCを使用した歩行(3か月)
<経過>
導入期 下肢クローヌス著明で座位保持は難しく覚醒が低い日が続いた。
第1期 足底支持を促すと、15分間の座位保持が可能になった。介入中は覚醒を維持することが増えた。
第2期 立位の意欲が高まり、SRCに乗せてみると足底で床を蹴り前進し、音や光に注意を向け始めた。
考察
症例が活動性を再獲得した要因を以下のように考えた。座位や立位を積極的に行うことで、足底からの感覚刺激が入力され、上行性網様体賦活系の活動を促進させた。また、抗重力活動は立ち直りなどの姿勢反応を誘発し、脳幹に影響を与え、脳活動が亢進し効果的に覚醒を向上させることができた。次に、自発性を引き出すためにSRCを導入したことで、自分の意志で移動できるようになり、光や音だけでなく他者の存在に気が付き、外界との相互作用が生まれた。また、症例が歩く様子を見て、病棟職員の意識にも変化が生じ、症例への関心が一気に高まった。積極的に生活の見直しを検討し、訓練外でも座る時間を設けるなど、病棟全体で活動性を高める関わりを促すことにつながった。