抄録
はじめに
当センターでは2016年度より、施設利用者を対象に視覚機能の定性・定量評価を実施している。その中で追視機能を確認できた34名について、注意促進や情報提供、意思確認に有効な指標の開発を目的とし、選択的注視についてアイトラッカーを用いて検討した。
対象
施設長期入所利用者34名(男性19名、女性15名;44±13歳)、対照群は健常成人25名(男性9名、女性16名;39歳±8歳)である。
方法
視距離約60 cmに設置したモニターに刺激画像を提示した。刺激は、白色楕円(9.3°×6.9°)上に顔パーツ(眉毛、目、鼻、口)が正しく配置された顔条件と、縦に配置された非顔条件、空白条件の3条件とし、1試行に2条件ずつ左右視野にランダム順で提示したときの視線の動きをアイトラッカー(Tobii社製:X2−60)で測定した。各条件18試行を提示した。楕円内を興味領域として定義し、a. 興味領域に最初に視線が到達した時間(初注視時間)とb. 興味領域に視線が停留した合計時間(総停留時間)について2要因(条件×提示視野)の分散分析を群毎に適用した。
結果と考察
利用者34名中29名で計測が可能であった。総停留時間は、利用者(顔vs.空白: p<.001、非顔vs.空白: p<.005)、対照群(顔vs.空白: p<.001、非顔vs.空白: p<.001)ともに条件間で有意差(p<.001)が認められ、特定の範囲内に提示された複数の刺激を利用者も選択的に注視できることが示唆された。一方で、初注視時間は、対照群で条件間(顔vs.空白: p<.001、非顔vs.空白: p<.001)で有意差(p<.001)が認められたものの、利用者では有意差がなかった。これは、利用者における反応時間そのものの遅れや低視力による視空間探索の時間延長が関係していると考えられた。なお、いずれも提示視野による差は認められなかった。したがって、利用者における選択的注視の指標には視野や初注視時間ではなく総停留時間が有効であることが示唆された。