日本重症心身障害学会誌
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巻頭言
生命と生活を支える看護の力
細田 のぞみ
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2018 年 43 巻 3 号 p. 417-418

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抄録

「看」という字は、「手」と「目」からできています。重症心身障害のある方の医療には看護師の「目」と「手」が必要不可欠であることは言うまでもありませんし、当法人が受託している看護研修事業を通し、看護が病院から地域まであらゆる場所で必要とされていることを実感しております。 9月28日・29日に東京で開催された第44回日本重症心身障害学会学術集会では、素晴らしい講演やセミナーがありました。私は2日目の「いのち輝く生活を他職種と協働で支える看護の専門性を考える」というシンポジウムに参加し、改めて「看護の力」を再確認することとなりました。 相模原市では、平成23年度より重症心身障害児者の支援を目的として、訪問看護事業と看護研修事業が行われております。訪問看護事業は、在宅の準超重症児者と超重症児者が対象で、医療保険としての訪問看護90分に連続して、無料で福祉サービス分90分を追加し、訪問時間を180分とすることで、保護者の介護負担の軽減を図ることを目的としています。90分だけでは家族の負担を軽減できないだろう、180分にすれば、多忙を極める母親が美容院にいくことができるかもしれない…と考えてのことだと市の担当者からこぼれ話をお聞きしたことがあります。そして看護研修事業は、重症心身障害児者を看ることができる訪問看護師を増やすことを目的としています。この事業の開始当初から、当法人が市から委託をうけ、研修の企画から実施まですべてを担っており、地域貢献のために私どもが力を注いでおりますので、概略をご紹介したいと思います。 研修プログラムを企画するにあたり、単に知識や技術を伝えるだけの研修にはしたくないという強い思いがありました。訪問先の親子の現状だけでなく、その親子のこれまでの経過を知り、また将来像を見据えて看護できるようになってほしい、そして在宅生活を支えるには医師や看護師だけでなく、様々な専門職との連携が大切であるということを知ってほしいと考えたのです。そのため、各方面の関係機関からご協力をいただき、行政・医師・日本重症心身障害福祉協会認定の重症心身障害看護師・理学療法士・歯科衛生士など多彩な講師陣による講義、大学病院NICU病棟や特別支援学校の見学、ご家庭や生活介護施設での現場実習などの多彩なプログラムを企画し、年に8~10回程度、週末に実施しています。また、研修中に、広く市民を対象とした公開講座や公開シンポジウムを開催することにいたしました。 この研修は3年を1クールとしており、2クール目に入った平成26年度からは、この事業の目的に、「講演会開催により、在宅の重症心身障害児(者)とその家族が安心した生活を送れるように地域社会への啓発と関係機関のネットワーク構築を目指す」という文言が加わり、市が、私どもが3年間積み重ねてきたことを認めてくれたのだと嬉しく思っております。 2クール目の3年目、平成28年度には、「重症心身障害児者・医療的ケアのある障害児とともにくらす~私たちが望むさがみはら~」をテーマに、大きなシンポジウムを行いました。その際に、市内にある社会資源の紹介DVDを作成し、シンポジウム会場で参加者の皆様に見ていただき、また「重症心身障害児者に関わる相模原市の社会資源と福祉の制度」というタイトルのパンフレットを作り、市民に配布することができました。 受講してくださっている看護師の勤務先をみると、訪問看護ステーションだけでなく、病院、クリニック、施設、生活介護事業所、児童発達支援事業所、保健センター、学校など多岐にわたっており、看護師が様々な場所でその専門性を発揮していることがわかります。また、看護師以外にも、医師、ヘルパー、訪問リハを担当している理学療法士や作業療法士、相談支援事業所の相談員、ケースワーカー、児童相談所の職員、行政など様々な方面からの参加があり、地域で実にたくさんの職種が重症心身障害児者の支援に意欲的に関わっていることを実感しております。この研修が、地域で、職種を超えて、顔の見えるネットワークをつくるために大きな役割を果たしていることを感じており、このような機会を与えてくれた市に心から感謝しております。この10月から平成30年度の研修事業がはじまったところです。今年で8年目、今後もよりよい研修をめざしたいと思います。 住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けることができるよう構築されつつある地域包括ケアシステムは高齢者だけが対象ではないと思います。障害のある方もない方も、子どもから大人まで対象になるべきものだと思います。そのために、医師、ヘルパー、生活支援員、リハビリテーション担当者、相談支援員などの多職種をつなぐ、そして病院と地域をつなぐ、扇のかなめのような役割を果たすのが「看護の力」なのではないでしょうか。在宅でも、病院でも、施設でも、生命と生活を支える看護の力に、今後もより一層期待したいと思います。       

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