日本重症心身障害学会誌
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Print ISSN : 1343-1439
第3回看護研究応援セミナー
研究の進め方を一緒に考えてみましょう!!
鈴木 真知子
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2019 年 44 巻 1 号 p. 107-109

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抄録

本セミナーでは、「実践の中から看護研究のテーマを探そう −研究の進め方を一緒に考えてみましょう!!−」というテーマで話をさせていただきました。ここでは、セミナーでお話しした内容の概要をご紹介させていただきます。 Ⅰ.背景と事例 日本重症心身障害福祉協会による重症心身障害看護師の第7回認定審査の結果が、71名の内、合格者60名(合格率84.5%)であり、例年に比べると「論文のスタイルは整ったものの、合格率は横ばい状態」でした。不合格と判断した論文や気になった点を委員で検討したところ、「テーマが大きすぎて目的に応じた方法にはなっておらず、何を目指した研究なのかが不明瞭。そのために、目的に応じた結果も得られていない」ということが課題の一つとして挙げられました。これは毎年指摘されていることです。そこで、「知りたいことに積極的に取り組める看護研究のテーマの見つけ方」という、少し大きいところから研究の進め方を考えることにしました。 「みなさんならどう考えますか??」という問いのもと、研究テーマの例を挙げ、考えを進めていきました。 例;重症心身障害児施設で働く看護師の決められた服装について、自由な服装にすれば、入所者の家族や職員に良い印象、親しみやすさを与えるのではないかという疑問を持ち、看護師の自由な服装によるその影響を研究目的とする、というものです。 Ⅱ.研究テーマを考える場合のポイント(参考文献:黒田裕子:黒田裕子の看護研究 step by step, Gakken) テーマを考える上でのポイントを5つ、お示ししました。 ポイント1.先入観、偏見、邪念は捨ててテーマを考える ポイント2.それは「研究」によって明らかにしなければならないような疑問だろうか? 研究疑問になりえるものと、そうではないものがある。個人的な感情ではなく、先ずは、論理的な思考により、筋道立てて、手持ちの知識を土台にして考える ポイント3.看護の中で起こっている事実や現象を、客観的に見ようとする姿勢や視点があるだろうか ポイント4.数値で表すことが可能なデータについては、極力数値で表す ポイント5.わざわざ研究を行う必要があるのか ① その研究疑問が真に看護研究として価値があるか、② 医療や福祉領域において何らかの貢献となるか、③ 新しい発見、さらなる問題解決に結びつくか 上記のようなポイントのもと、特に研究テーマの絞り込みのスタートでは、◇気づいたり問題だと感じたりしたその内容が、何かおかしい、疑問と思ったときに、ちょっとひと呼吸、瞑想の時間を持ち、次のような点についてもう一度熟慮してみましょう。 1.業務改善と研究を同レベルで思考していませんか? 2.すでに過去に研究がありそうなことではありませんか? 3.あまりにも膨大なことに取り組もうとしていませんか? 4.看護の視点で見ることができていますか? 5.専門家の話、文献などで解決することではありませんか? 6.思考は論理的でしょうか? 7.研究テーマを生かした研究方法が組み立てられていますか? 8.動機とテーマの方向性はつながっていますか? 9.事例にヒントが潜んでいます。事例に立ち戻って考えてみると、どんなことが挙げられますか? 最も大切なことは、研究の背景(序文)がどのようなものかということです。つまり、十分な文献検討ができているか、自分の研究テーマについて、すでにどのような発表がなされているか、どのような点に着眼されているか、自分の研究の目的=何故この研究が必要なのか、自分の研究の意義(どのような点が先行研究と異なるのか)、などについて、先行研究と比較し検討することです。それらが研究を焦点化するうえでは、重要なヒントを与えてくれます。つまり、そこだけを見るのではなく、研究の位置づけ、背景からテーマを捉えることが、実践に根ざした良い看護研究につながるということです。 Ⅲ.具体例を通して考える 先の研究例から、テーマの焦点化をもう少し具体的に考えてみましょう。 テーマは、看護師の「自由な服装」が入所者家族や施設職員に与える印象(家庭的な雰囲気、親しみやすい、その役割にふさわしい)への効果検討です。先行研究からは、決められたユニフォームにはメリットとデメリットがあること。病院看護師のユニフォームについては、好まれる色、カラーユニフォームに対する印象の変化があるが、入所施設や福祉施設では看護師ユニフォームに関する報告がないことが分かりました。そこでは、過去何年間の文献を検討しましたか? 通常は、過去10年間の文献を調べます。どんな検索ソフトを用いましたか?キーワードはなんですか? 病院で勤務する看護師のユニフォームに関する文献はあったようですが、病院と施設とでは、何が異なるのでしょうか? 過去の文献を通して検討してみると、テーマは全く同じではないかもしれませんが、テーマの見方を少し別の角度から見直すと、すでに知見を得ているかもしれません。先行研究では十分な結果を得ていないとしたら、それはどのようなことからでしょうか? つまり、例示したものは、研究の背景となる過去の文献を通して、テーマの検討が十分に行われたのかどうかが疑問として生じます。 次に目的に応じた方法という点について、考えてみます。 方法は、独自に作成した調査用紙を用い、アンケート調査を実施しました。対象者は自施設の職員73名(回答者54名)と入所者家族40名(回答者24名)であり、結果は、質問項目別に整理した対象者数の割合と、自由記述内容を分類したものを用い、傾向として示していました。目的では、「看護師の服装による影響を調べる」としています。統計学的に「傾向」や「影響」をいうには、どのような手続きが必要でしょうか? 割合の比較により傾向や影響がいえるでしょうか? 「看護師が自由な服装で勤務することによる、入所者の家族と職員に与える印象を調べる」という研究テーマは、よく分かりました。ところが、先のポイントとして述べた「研究テーマを生かした方法へと考えが進んでいるだろうか?」から考えると、目的に書かれている「その効果を検討する」ことと、タイトルに示されている「看護師の服装とその影響」は、「印象を調べる」という研究目的に対して、研究テーマを生かした方法として思考が論理的につながっているとは言えないようです。 「印象」を「影響や効果」として調べるということは、どのようなことを意味しているのでしょうか? テーマを解明するために「正しい統計学的な方法が用いられたかどうか」を考える前に、「印象」「影響」「効果」という言葉(概念)を、もう少し丁寧に、慎重に、見直す(考える)必要がありそうです。 Ⅳ.おわりに 本当に疑問として思ったことは、何だったんだろう‥? 苦しい闘いですが、スタート時点での研究テーマの絞り込みの作業が、その後に続く研究のキーになります。 そこでは、繰り返しになりますが、文献に立ち戻り、「文献に聞いてみる」ことや、上司・仲間との意見交換、これまでに研究を実施し、研究をまとめて報告した経験を持つ先輩ナースや専門看護師、大学の教員などに、考えている研究テーマのアイデアを聞いてもらい、意見をもらうことが役立つと思います。論文の「背景」にあたる部分を書き、それを誰かに読んでもらい、意見を求めることができたら、なお望ましいと思います。 業務改善でもかまいません。疑問に思っていることをキーワードにして文献にあたり、文献を深く読みこなす。参考にする文献は、権威あるものと評価されている学術誌で、原著論文を選びましょう。そして、過去の研究からいえること、まだ十分言い尽くされていないことは何か、自分が疑問として思っていることは、そこではどのような方法を用いて検討されているか、などを整理するところから、先ずは、はじめてみましょう。アクションを起こすことが大切です。Let's do it !!

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