日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム2:いのち輝く生活を多職種と協働で支える看護の専門性を考える
重症児ケアにおける看護の専門性
-多職種との協働と専門性の高い看護師の役割に焦点をあてて-
荒木 暁子
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2019 年 44 巻 1 号 p. 61-62

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抄録

Ⅰ.はじめに 重症児の重症化・高齢化、医療的ケア児の学校や地域生活への参加が促進される中、医療依存度の高い方々の地域生活支援がますます求められている。ここでは、看護師の専門性について、多職種との協働における看護師の役割、そして、専門性の高い看護師の活用を述べる。 Ⅱ.重症児ケアにおける看護師の役割 看護師は対象の疾患や障害を理解し、安全・安楽な医療を提供し、健康状態を維持・向上させる。その視点は、生活、成長・発達、心理・社会、スピリチュアルな面を包括し、ゆえに、対象のこれまでを理解し、今何が必要か、何を優先すべきか、この先どういう問題が生じ、どのような先手を打っておくことが必要かを最も身近で知り、関わることができる。健康状態の基盤を整えることで、QOLを高めることに寄与する。 重症児看護は生活の中で疾患管理や成長発達支援が連続的に行われ、それを調整する中心は家族や看護師であるため、看護師のこのような強みが最大化する領域であると考える。実際の重症児ケアにおいては、医師や療法士と協働し、疾患管理・健康管理・リハビリテーションを行い、保育士や介護職がQOL向上への支援が最大限できるよう一緒に考えていくなど、チームを活性化する役割がある。 また、重症児や医療的ケア児の健康状態は安定しているように見えても、成長発達や加齢による身体変化の影響を受け、不安定、あるいは、徐々に予備力が小さくなるなど、急激な悪化を見せることもある。対象の比較的長いスパンの中での変化と今の優先事項を判断するのは難しい。家族やチームの意思決定を支援することも重要な役割である。 これらの役割を発揮するための看護師の実践能力は、臨床現場において積み上げられていく。日本看護協会は「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)(2016,JNA)」(以下、JNAラダー)を公表し、あらゆる場で働くすべての看護師に共通する看護実践能力の指標を示した。JNAラダーは看護実践能力に焦点化し、ニーズをとらえる力、ケアする力、協働する力、意思決定を支える力の4つの力で構成されている。重症児の対象特性に沿った専門的な看護知識・技術があるが、上述した協働する力や意思決定を支える力についても、重症児看護の実践能力の高まりを教育やキャリア支援に活用できると考える。 Ⅲ.専門性の高い看護師への期待 専門性の高い看護師として、専門看護師(CNS、13分野)、認定看護師(CN、21分野)、認定看護管理者(CNA)は、日本看護協会において個人認定を行い、5年ごとの更新制により実践力を維持・向上させており、診療報酬など社会的にも高く評価されている。 重症児看護の領域では、小児看護専門看護師、家族支援専門看護師、摂食・嚥下障害看護認定看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師、緩和ケア認定看護師、慢性呼吸器疾患看護認定看護師、訪問看護認定看護師などが関わることが多い。 他にも、大学院で特定行為研修を含む教育カリキュラムを修了した者、特定行為研修や学会認定研修などを修了した者などがいる。日本重症心身障害福祉協会は、2012年度より協会認定重症心身障害看護師の認定を開始し、すでに500名以上が誕生した。 医療依存度の高い重症児や医療的ケア児は地域のあらゆる場で医療的な管理を必要とするため、あらゆる場で看護を提供できるようにし、対象の価値を中心とする医療やケアへシフトする必要がある。専門性の高い看護師は、元々の重症児看護の繊細なアセスメントや看護に加えて、臨床推論力や病態判断力を強化することにより、適切な医療的ケアの提供や、速やかな症状マネジメントを可能とする。そして、対象・家族や多職種へ状態を説明し、チームのキーパーソンとしての役割が求められている。このように、昨今の疾病構造や医療提供体制の変化の中、あらゆる場においてその専門的な知識・技術を必要とする人たちに看護を提供できるよう、より自立した判断と説明力が求められており、日本看護協会では認定看護師教育に特定行為研修を組み込むなど制度を再構築しているところである。 また、専門看護師による包括的な成長発達支援、家族支援も重要である。重症児や医療的ケア児は生まれたときから、親子関係の構築、NICUからの退院移行支援、その後も、障害福祉サービスなどの活用が必要であり、成長発達に沿って変化する課題への対応、本人・家族の意思決定を支援することが期待される。 加えて、これらの専門性の高い看護師や看護管理者には、個々の対象へのサービス調整のみならず、地域のサービス資源やその提供状況と地域の重症児全体を見て、保健師や行政とつながり、地域のサービス提供上の課題を解決してほしい。

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