日本重症心身障害学会誌
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教育講演3
気管切開のケアの実際の諸問題
−特注カニューレの活用、事故抜去への対応など−
北住 映二
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2019 年 44 巻 2 号 p. 311

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抄録

学齢期だけでも全国で3000名近くが気管切開を受けており(文科省調査による)気管切開の重症心身障害児者は増加している。実際に即したケアとリスク管理が必要である。 適切な気管カニューレの選択と特注カニューレの活用 重症児者では、気管の変形・扁平化・狭窄や気管軟化症への対応、気管腕頭動脈瘻発生・肉芽発生のリスクへの対応などを考慮した、適切なカニューレ(材質、可撓性、カーブの角度、長さ、カフの有無と位置)の選択がきわめて重要であり、変形が強いなどリスクが高いと想定される場合には事前のCTでの評価のもとでの選択が必要である。カニューレ挿入下で、気管壁からの出血、気道狭窄症状、呼吸状態の不良。姿勢変化による呼吸状態の悪化、迷走神経反射、カニューレの拍動などがある場合には、胸部単純X線撮影(気管の左右への弯曲の度合い、弯曲した気管とカニューレ先端の関係)、内視鏡(気管の変形・扁平化・軟化症の有無と程度、気管内肉芽・糜爛・出血、カニューレ先端と気管壁の当たり方、気管前壁の動脈性拍動部位とカニューレ先端との位置関係)、CT検査(気管狭窄・扁平、狭窄部位とカニューレの位置関係、再合成矢状断面像での気管走行とカニューレの走行の一致度、腕頭動脈の走行・腕頭動脈とカニューレとの位置関係-単純CTでもかなり確認可)により、カニューレの適合性を再評価し、適切なカニューレへの変更を検討する。螺線入りで固定長さ可能なカニューレは気管変形には適合するが体外部分が長くなると事故抜去のリスクが高くなるので注意が必要である。カニューレの選択肢は広がっているが、既製品での対応が困難な場合には特注カニューレ(コーケンシリコンカニューレ:長さ・フランジの回転可動性、メラ・ソフィットシリーズ:長さ・カーブ角度・カフ位置・フランジとパイプの取付け角度)の活用がきわめて有用である。カニューレによるトラブルの回避のためにはカニューレフリーが望ましいが、気管孔・気管の狭窄による窒息のリスクもあり、慎重な対応が必要である。 気管カニューレの事故抜去の予防のための固定法の工夫と、事故抜去への対応 カニューレの事故抜去への対策は、自宅や入所施設だけでなく学校や通所においても極めて重要な課題である。<固定の工夫>頸バンドによる2点固定で固定が不充分な場合には4点固定(腋窩を通してのバンドも併用しての4点固定、紐とテープでの下方向への固定を併用しての4点固定)が必要である。左右への変形が強い場合には3点固定とする。緊張などによる姿勢の変化(反り返りやねじれ)に対応するため、伸縮性のあるゴム紐の利用も有用である。カニューレのバンドによる直接の固定に追加して、さらに上から、穴あきの固定具を考案して使用して間接的な固定を追加する方法の有用性が発表されており(鈴が峰、橋本ら、2017年重症心身障害療育学会)、同様の方法での固定器具(メラ、ささえフランジ固定板)が2018年秋に発売され、事故抜去が生じやすいケースで有用である。<事故抜去が生じた場合の対応>学校や通所などでのカニューレの事故抜去の際の看護師によるカニューレ再挿入が禁止されていた自治体もあった。これについて、「看護師又は准看護師が臨時応急の手当として気管カニュ レを再挿入する行為」は是認されるとの見解が2018年3月に厚労省から示されている。ただし、応急的な再挿入が困難な場合もあり、担当看護師による事前の挿入研修(主治医か指導医などの立ち会いのもとでの)、挿入しやすいカニューレ(1サイズ細い間カニューレ、カフなしカニューレなど)とゼリーの用意など、充分な準備が必要である。 略歴 1973年 東京大学医学部医学科卒業 1974年 東京大学医学部付属病院小児科 1975年 都立墨東病院小児科 1976年 整肢療護園(現、心身障害児総合医療療育センター)小児科 1989年より 心身障害児総合医療療育センター外来療育部長 2005年より 同センターむらさき愛育園長 2015年より 同センター所長(むらさき愛育園長兼務) 2019年4月より 同センターむらさき愛育園長名誉園長

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