日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
44 巻, 2 号
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前付け
  • 2019 年44 巻2 号 p. H2
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
  • 末光 茂
    2019 年44 巻2 号 p. 257
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    「第45回日本重症心身障害学会学術集会」を「重症児(者)をインクルーシブな世界の光に」のテーマのもと、岡山の地で開催させていただきます。 振り返ってみますと、江草安彦旭川荘前理事長が、川崎医療福祉大学を会場に第21回学術集会を担当し、はやくも25年が経過しました。 「重症心身障害児施設」が法に認められる施設としてスタートし、50年余になります。その折り返し点が、25年前だった訳です。50年の前半の25年は、苦難の年月だったといえます。 それに対して、その後の25年の成果には、めまぐるしいものがありました。 なによりも、15~16歳までの命と言われていた重症児(者)の寿命が大きく延び、70歳を超える人も珍しくなくなりました。 医療の進歩を反映して、「超重症児」・「準超重症児」、さらにはNICU後の「医療的ケア児」が急増しています。その方々への在宅・地域支援のための学校教育を含む日中活動や訪問看護・介護、そして「医療型短期入所」など、新たな課題も顕在化しています。リハビリテーション部門や口腔ケア、栄養面での進歩には、顕著なものがあります。 さらにご本人や家族の意思尊重とともに、入所と在宅生活を結ぶ「重症児者ケアホーム」へのチャレンジも進みつつあります。年金を活用したご本人の主体的な暮らしのありようを支援する「成年後見人制度」や地域で安心かつ充実した暮らしを実現するために、関係機関等と協力しながら支援体制を構築するための「コーディネーター」養成等も、都道府県レベルで具体化しつつあります。 せっかくの機会です。本学会を契機に最新の情報を直接共有し、将来への展望を拓いていただきたい。口頭発表とポスター発表に加え、今回はじめての自主シンポジウムも6題が採択されました。積極的なご参加を期待しています。 なお、国の厳しい財政状況のなか、社会保障費の適正配分と重症児(者)施策の将来展望をしっかりと共有するため、加藤勝信川崎医療福祉大学客員教授(前厚生労働大臣)には「今後の日本の社会保障と重症児(者)施策」と題して記念講演をいただきます。 さらに諸外国の現場実践者と研究者を代表して、スコットランドからのKirstie Rees氏と、オーストラリアからのDr.Kathleen Tait氏に、わが国の実態を視察(東京と岡山の重症児施設・特別支援学校等)してもらい、国際的視点でコメントをいただく、そのような新しいプランも実現できました。 この国際シンポジウムの他には、「人工呼吸器管理のような高度医療ケア児の学校における看護ケアをどうするか?」と「大地震・大雨など大災害時の支援のあり方」をテーマにしたシンポジウムも開かれます。 教育講演は、牛尾禮子氏(姫路大学)の「重症心身障害児(者)の母親理解と支援について」、高塩純一氏(びわこ学園医療福祉センター草津)の「重い障害のある子どもたちの支援を再考する 本人さんはどう思ってはるんやろ…。」、北住映二氏(むらさき愛育園)の「気管切開のケアの実施の諸問題−特注カニューレの活用、事故抜去への対応など−」の3題です。 その他、看護研究応援セミナーとランチョンセミナーも従来通り予定しています。 また重症心身障害児(者)が自ら輝いている、その姿を市民の方々に広く理解していただくために、2日目の午後は倉敷市の川崎医療福祉大学(バスで移動)を会場に、市民公開講演とファッションショーを計画しています。 そこでは、「医療的ケア児の母として」と題し、野田聖子衆議院議員(前総務大臣)の記念講演のあと、中四国で最初に開設された重症心身障害児施設「旭川児童院」を県民ぐるみで支えて下さっているボランティア代表の黒住宗晴旭川荘友の会副会長(黒住教名誉教主)、旭川児童院ボランティア友の会会長 伊原木奈美氏(岡山県知事夫人)、法人成年後見人制度を10年にわたりリードしてこられたNPO法人ゆずり葉の会 佐藤恵美子理事長等によるシンポジウムが開かれます。 医療関係者だけでなく、重い障害児(者)を支える方々も含めて、医療・福祉と療育・教育そして地域でのインクルーシブな支援のこれからについて意見交換をしたいと考えております。 なお、ご参加の方々にお互いの交流を深めていただくよう、懇親会では自閉症児者の手による地ビール(「西陣麦酒」)を、市民公開講演の前には、障害者特製のカレー(宮崎県産)をふるまう予定です。 学会の前後に日本三大名園の後楽園(岡山市)ならびに大原美術館(倉敷市)等に足を運ばれ、あわせて障害のある方々のおもてなしにもご期待ください。 査読協力者(敬称略、50音順) 新井 禎彦 安藤 泰司 池畑久美子 石井美智子 市原 真穂 宇都宮 律 榎勢 道彦 遠渡 絹代  奥田 憲一 小沢  浩 影平 由美 片山 雅博 釜  英介 河俣あゆみ 神﨑  晋 木下 義博  熊谷 公明 倉田 慶子 佐藤 朝美 澤野 邦彦 汐田まどか 澁谷 徳子 小豆 忠博 鈴木真知子  伊達 伸也 田中総一郎 田中千鶴子 永田 裕恒 中村千鶴子 楢原 幸二 花井 丈夫 羽原 史恭  濱邉富美子 堀内 伊作 三上 史哲 三田 岳彦 村下志保子 門間 智子 山本美智代 第45回日本重症心身障害学会学術集会 会長 末光 茂 (社会福祉法人旭川荘 理事長)
  • 2019 年44 巻2 号 p. 258-259
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
  • 2019 年44 巻2 号 p. 260-261
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
  • 2019 年44 巻2 号 p. 262-266
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
  • 2019 年44 巻2 号 p. 267-269
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
  • 2019 年44 巻2 号 p. 270-306
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
会長講演
  • 末光 茂
    2019 年44 巻2 号 p. 307
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    昭和42年、1967年、児童福祉法の改正に伴い、重症心身障害児施設が、病院でありかつ児童福祉施設として、法に位置付けられた。 その年、中国・四国で最初の民間重症児施設として開設された「旭川児童院」の職員に加わり、一貫してこの分野に身を置いてきた歴史の一証人の立場から、50年余を振り返り、現在の課題と将来展望に言及する。 1.「暗黒時代」の重症児と家族 重症児と家族にとって、児童福祉法が改正されるまでは「暗黒時代」が長く続いた。「不治永患児」等、希望を持てない名を付けられ、冷たい社会環境の下、わが子の生命を絶つ悲しいニュースが、毎日のように報道されていた。座敷牢や北側の納戸で生活するケースも少なくなかった。 2.民間の重症児施設の立場から 当時、全国に1万7,000人と推計される重症児の生命と家族を救うためには、全員入所施設で受け入れるべきだと考え、国は1万7,000ベッドを目標に、整備を進めた。 児童2人に職員1人で、365日24時間の生活を守るには、身辺と食事と入浴介護が全てだった。せめて、障害の軽減に取り組もうと願った。しかし、歩ける可能性の無い子に、リハビリ訓練の余裕も意味も無いと言われる中で、試行錯誤の日々を送った。 一方、1981年の「国際障害者年」を契機にしたノーマライゼーション理念に基づく「脱施設化」の大きな流れに、「重症児施設」は翻弄された。 「障害者総合支援法」に向けた、国の総合福祉部会で「長期入所施設」を明記しない方針が示されかけた時に、「現時点では、重症児入所施設が不可欠」と主張し、認められた。 当初の1万7,000ベッドは2000年にクリアした。その後も新・増設が続き、今や206施設約2万2,000床に達している。この現実は何を意味するのか。その経緯と背景を考えてみたい。 3.国立病院との関わり 独法以前の国立病院時代には、制度の縛りのため、専門職員の柔軟な雇用が難しく、在宅支援にはなかなか手を差し伸べられない状況が続いた。 平成8年、1996年、国は国立療養所の重症児病棟を、モデル的に社会福祉法人に移譲する方針を立て、美幌病院を北海道療育園に、足利病院を全国重症児(者)を守る会に、そして、南愛媛病院をわが旭川荘に移譲した。現場の改革に関わった体験と問題点を紹介する。 4.在宅・地域支援 昭和45年頃、在宅の重症児と家族を励ますため、「全国重症児(者)を守る会」は、各地で在宅巡回療育相談を実施した。 中国、四国、そして九州地区を巡回する機会を与えられた。その経験をもとに、岡山市での巡回療育相談を、定期的に実施(岡山県と岡山市の支援による)し、隣接する倉敷市と比較し、長期入所への予防効果を実感した。 そして、緊急一時保護入所、現在の短期入所にも、早くから取り組んできた。 さらに、重症児通園モデル事業(北海道療育園、長岡療育園、横浜療育園、久山療育園、そして旭川児童院の5か所)にも最初から関わり、一般事業化と質の向上活動に関わってきた。 在宅地域生活を支える4本柱として、①訪問看護・療育、②日中活動、③短期入所、④重症児グループホームが挙げられる。なかでも「医療型の短期入所」と「コーディネーター」養成が大きな課題として残されている。 身近なところで利用できる体制に向けて、岡山県は一般医療機関等を巻き込んだ医療型短期入所事業を、4年前から展開してきた。その成果を基に、国への提言に言及する。 5.親亡き後 50年前には15~16歳までの生命と言われていたこの人たちも、今や70歳を超えて長生き可能となった。親亡き後の安心安全をどう保障するのか、成年後見人制度等の整備が急がれる。 6.おわりに 糸賀一雄先生の『この子らに世の光を』ではなく、『この子らを世の光に』の言葉に倣い、本学会のテーマを「重症児(者)をインクルーシブな世界の光に」とした。その思いと、国外からのシンポジストを招いた意図等にも言及し、次世代への期待を述べたい。 略歴 末光 茂(すえみつ しげる) 1942年愛媛県松山市生まれ。67年岡山大学医学部を卒業し、社会福祉法人旭川荘「旭川児童院」に児童指導員、児童精神科医として勤務。88年「旭川児童院」院長。91年川崎医療福祉大学教授、07年旭川荘理事長、10年上海市第二社会福利院名誉院長。15年トモニー・ネットワーク代表取締役会長等を歴任。 [主な役職] 全国重症心身障害日中活動支援協議会会長、公益社団法人日本重症心身障害福祉協会参与、社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会理事、日本発達障害学会理事、一般社団法人岡山障害者文化芸術協会理事、岡山県協力隊を育てる会会長等。
特別記念講演
  • 加藤 勝信
    2019 年44 巻2 号 p. 308
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    安倍内閣で、内閣官房副長官、一億総活躍や働き方改革担当大臣、厚生労働大臣を担ってきた立場から、日本社会が置かれている現状、今後の社会保障改革の方向性、地域共生社会の実現を目指すために重症心身障害児者施策に求めることについて概説する。 日本の人口は2008年をピークに近年減少局面を迎えており、2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると推計されている。高齢者人口の増加に伴って社会保障制度の持続可能性の確保が課題となっているが、我が国は先進国でもトップクラスの平均寿命を実現しており、高齢化を長寿化と捉えるとむしろこの間の多くの方々の努力の成果と言える。健康寿命の延伸や少子化対策等を引き続き推し進めるとともに、国民誰もがより長く、元気に活躍できて、全ての世代が安心できる全世代型社会保障を構築していく。また、少子高齢化や人口減少という構造的な問題に立ち向かうため、高齢者や若者も、女性も男性も、障害や難病のある方も、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現に取り組んでいる。 日本の障害福祉施策は、ノーマライゼーションの理念の下で、累次の見直しが行われてきた。障害者・障害児が、基本的人権の享有主体である個人の尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう必要な支援を行うことにより、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に寄与することを目指している。具体的には、社会福祉基礎構造改革の流れを受け、措置制度が契約制度へと見直されるとともに、平成18年には障害者自立支援法が施行された。その後も様々な障害福祉サービス等の充実が図られてきた結果、現在は、障害者統合支援法等の下、障害児をはじめとする障害福祉サービス等の利用者は年々増加し、障害福祉サービス等に対する予算もここ12年間で約2.8倍となるなど、増加傾向にある。 重症児者施策については、昭和42年に重症心身障害児施設が児童福祉法に位置づけられ、施設整備が進んできた。当時は、在宅で家族が介護を行うか施設への入所という選択肢しかなかったが、平成元年度からは日中活動の場として重症心身障害児通園モデル事業が開始されるなど、在宅支援のための事業が整備されてきた。平成24年の児童福祉法一部改正により障害種別で分かれていた施設体系が通所・入所別に一元化され、重症児の支援も新体系のもと整理された。 現在は、障害児入所施設の在り方についての議論が行われているほか、近年は、人工呼吸器など医療等が必要な超重症児・準超重症児に対する支援の重要性も増しており、医療的ケアへの対応も重要な課題である。 略歴 1955年11月22日生まれ 東京大学卒業後、大蔵省に入省。 倉吉税務署長、主計局主査、大臣官房企画官等を歴任 退官後は、加藤六月衆議院議員秘書を経て、 2003年の衆議院選挙で初当選し、以来、連続6回当選(岡山5区) 第二次安倍内閣にて官房副長官就任以降、一億総活躍担当、 拉致問題担当、働き方改革担当大臣、厚生労働大臣を歴任 昨年10月より、党総務会長に就任
教育講演1
  • 牛尾 禮子
    2019 年44 巻2 号 p. 309
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)を家族の一員とする家族はさまざまな問題を抱える。今回、特に母親に焦点を当てる理由として、母親は、産む性であり、主たる養育者であるために、子の障害に強いショックを受け、養育上で、周囲の偏見や無理解などからさまざまな苦悩体験をする。それに加え、子は年齢が進むに従って障害は改善されることなく、さらに悪化をたどることや、医療依存度が高まること、などから、過酷ともいえる養育実態があることに端を発する。古くから、重症心身障害児(者)を養育する母親は、「疲れている」70.8%、「健康状態に問題がある」47.9%、「うつ状態である」8.3%(鳥居ら1994)、「人への不信感、関係拒否、引きこもり、孤独感や孤立感が強い」(大道寺1998)、「たえず自らを励ましながら子と関わっている」(荻野ら1995)といった母親の養育状況についての報告がある。発表者は、母親の養育実態について調査を行ったところ、母親の養育態度として「適応状態」、「ストレス状態」、「不適応状態」、といった3つに分類することができた(日本重症心身障害害学会誌 第28巻第3号)。 「適応状態」は、子の障害を受容し、前向きの養育をする、同胞への愛情と人生に理解を示す、自己の生活を大切に考え主体的な生き方をする、社会活動を行う、など母親は、子の障害にまつわるさまざまな落ち込みに対して心理的な克服を果たし、障害に対する価値構造を転換していく姿である。「ストレス状態」は、母親に健康問題と疲弊がある、家族が養育や家事に非協力的である、子の状態悪化による不安がある、福祉の不整備に対する不安がある、など母親が生活や養育においてさまざまな困難や不安を抱えている状態である。「不適応状態」は、子の障害にこだわる、子との一体感固着状態がある、抑圧的な頑張りをする、夫への負い目がある、障害に対する罪責感をもつ、他者への不信感、養育への不全感がある、同胞に過剰な期待をする、ネガティブな出来事に対して感情がよみがえる、など養育に落ち込みと苦悩を抱えた状態である。「ストレス状態」の母親には、不安や困難をもたらせている要因の軽減、除去によって解決が可能であることが多い。しかし、「不適応状態」は、母親のもつ深刻な心理的問題であるために、ストレス要因に注目した支援だけでは解決できない。しかし、これまでの母親理解や支援に関する先行研究では、「ストレス」として捉えられる傾向にあった。「不適応状態」とした母親から養育の詳細についての再度調査を行ったところ、母親は、子の障害を告知された時のショックのみならず、養育過程においてさまざまな外傷体験、苦悩体験、さらに社会や家族からの偏見的な眼差しに耐え続けた生活を送っていた。近年、生活上に生起するさまざまな衝撃や苦痛体験は、「心的外傷」と捉えられ、外傷後のストレス障害が問題視されるようになっている。「不適応状態」の母親たちにおいても養育上で繰り返される「外傷体験」が心理・精神に不調を及ぼし、特徴的な養育態度を形成したのではないかと推測される。 母親の情緒反応を「心的外傷」と捉えた研究は、藤田(1982)が障害児をもったことに起因する情緒反応を外傷体験と捉えているもののそれ以上の言及はない。南雲(1998)は、障害は「心的外傷」をもたらす一つの体験であるといい、自殺者にはその一群がおり、数年たっても慢性のうつ病に悩む人がいることを指摘している。 「心的外傷」が人の意識や態度を歪めるメカニズムを捉えた研究として、西澤(2001)は、「処理能力を超えるような強度をもつ体験をした場合、心はその体験から自らを保護するためにそれを瞬間的に冷凍してしまった状態になる」、「体験を瞬間冷凍させると心や意識の中の異物となり心にさまざまな流れが歪められることになる」、という。この説明は、母親の「不適応状態」と関連すると考えられ、母親理解や支援において極めて重要な意味をもつといえる。 略歴 常盤大学人間科学研究科修士課程、博士課程修了(博士 人間科学) 吉備国際大学保健科学部教授、兵庫大学健康科学部教授、関西福祉大学看護学部教授、現在 姫路大学大学院看護学研究科教授 副学長
教育講演2
  • 本人さんはどう思ってはるんやろ…。
    高塩 純一
    2019 年44 巻2 号 p. 310
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    本人さんはどう思ってはるんやろ…。センター草津の壁には岡崎先生のプレートがあります。初代園長であった岡崎英彦は多忙な仕事の合間を縫って園生の診察をしているとき、この言葉をつぶやいていたそうです。当事者は、この世界をどのように捉え、感じているのだろうか。重い障害によりベッド上での生活を余儀なくされている目の前の○○さんに私は何ができるのか。医療モデルでのリハビリテーションしか知らなかった私にとって、わずか30m離れたところでの共同生活は、まさしく糸賀の言うミットレーベン(共に暮らす)でありました。この大津市長等(ながら)での3年間が、私の思考を医療モデルから生活モデルへと変化させる哲学的思想の原点を形成した時期でもありました。今回の教育講演では、糸賀一雄の思想に触れながら私が行ってきた重い障害のある人たちでも、その人たちなりに主体的に身体を動かすことにより見えてきたことを紹介できればと考えております。 近年、テクノロジーの進歩により、HALなどのロボットを用いてのリハビリテーションが回復期病院を中心に導入されてきております。また世界の流れとしては今年5月にパリで開催されたEuropean Academy of Childhood Disability(EACD)カンファレンスタイトルがInnovation for ParticipationであるようにICFの参加をメインテーマに置いた学会へと様変わりを始めております。 では、重い障害のある人にとって参加とはどのようなものなのでしょうか? そもそも重症心身障害児(者)に参加というものは存在するのでしょうか? 日々の生活の中で自らの身体をどのように感じているのでしょうか。ベッドに貼り付いてしまいそこから動くことが出来ない人たちにとって自分の重さはどのようなものでしょうか。旭川児童院の副院長であった今川忠男氏は障害とは、「環境に対する適応障害」であると述べていました。当時のリハビリテーションは、外部から身体に直接操作(ハンドリング)をすることで中枢神経系のネットワークに働きかけ運動を変えることが出来るといった考え方が主流でありました。 それは、環境に自らを近づけていくことであり、環境を本人の機能・能力に近づけるものではありませんでした。この旧のパラダイムは無意識下に私の心にも刻まれており時々目を覚まします。だからこそ支援方法を再考する必要があると考えます。 Spider 身体の重さ(重力)を軽減し、恐怖感を取り除くための支援機器 私たちの身体は1Gという環境の中で生活しています。Spiderは身体に装着したベルトから四方に張ったバンジーコードの張力を用いて体の重さを軽減し、同時に姿勢の崩れに対する恐怖心を取り除くことで今まで抗重力姿勢になることが出来なかった人たちにも安心して立つことを提供することが出来る環境支援機器であります。これらを臨床場面でどのように使用しているのかを紹介いたします。 Power Mobility Devices 重い障害により自らの意思で移動することができない人たちにとって、そのストレスから常同行動や自傷、他害といった第三者から見ると問題行動と呼ばれるものが出現することがあります。そのような人たちにも電動移動機器を用いて動くことを支援していくことで問題と呼ばれている行動が変化することを臨床場面で見かけます。Lund大学のLisbeth Nilsson女史は、著書Driving to learnの中で電動車椅子での練習は、認知障害のある子ども、若者、大人のための発達を促すためのツールであり、その目的は、自身の身体、活動、道具の使用、イベント、時間、場所、その他の人々の間のさまざまな関係についての注意力、注意の規制、認識および理解を高めることであると述べています。2007年より滋賀県立大学と行っているKids Loco Projectを紹介する中で子どもたちの可能性を紹介します。 略歴 1982年 理学療法士免許取得/1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務/1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務/1988年- 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務 兼務 立命館大学産業社会学部非常勤講師/関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師/京都大学 霊長類研究所共同研究員/日本子ども学会理事/日本赤ちゃん学会評議委員/発達神経学学会評議委員 主著 『赤ちゃん学を学ぶ人のために』(2012年、世界思想社、共著) 『子どもの感覚運動機能の発達と支援』(2018年、メジカルビュー社、共著)
教育講演3
  • −特注カニューレの活用、事故抜去への対応など−
    北住 映二
    2019 年44 巻2 号 p. 311
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    学齢期だけでも全国で3000名近くが気管切開を受けており(文科省調査による)気管切開の重症心身障害児者は増加している。実際に即したケアとリスク管理が必要である。 適切な気管カニューレの選択と特注カニューレの活用 重症児者では、気管の変形・扁平化・狭窄や気管軟化症への対応、気管腕頭動脈瘻発生・肉芽発生のリスクへの対応などを考慮した、適切なカニューレ(材質、可撓性、カーブの角度、長さ、カフの有無と位置)の選択がきわめて重要であり、変形が強いなどリスクが高いと想定される場合には事前のCTでの評価のもとでの選択が必要である。カニューレ挿入下で、気管壁からの出血、気道狭窄症状、呼吸状態の不良。姿勢変化による呼吸状態の悪化、迷走神経反射、カニューレの拍動などがある場合には、胸部単純X線撮影(気管の左右への弯曲の度合い、弯曲した気管とカニューレ先端の関係)、内視鏡(気管の変形・扁平化・軟化症の有無と程度、気管内肉芽・糜爛・出血、カニューレ先端と気管壁の当たり方、気管前壁の動脈性拍動部位とカニューレ先端との位置関係)、CT検査(気管狭窄・扁平、狭窄部位とカニューレの位置関係、再合成矢状断面像での気管走行とカニューレの走行の一致度、腕頭動脈の走行・腕頭動脈とカニューレとの位置関係-単純CTでもかなり確認可)により、カニューレの適合性を再評価し、適切なカニューレへの変更を検討する。螺線入りで固定長さ可能なカニューレは気管変形には適合するが体外部分が長くなると事故抜去のリスクが高くなるので注意が必要である。カニューレの選択肢は広がっているが、既製品での対応が困難な場合には特注カニューレ(コーケンシリコンカニューレ:長さ・フランジの回転可動性、メラ・ソフィットシリーズ:長さ・カーブ角度・カフ位置・フランジとパイプの取付け角度)の活用がきわめて有用である。カニューレによるトラブルの回避のためにはカニューレフリーが望ましいが、気管孔・気管の狭窄による窒息のリスクもあり、慎重な対応が必要である。 気管カニューレの事故抜去の予防のための固定法の工夫と、事故抜去への対応 カニューレの事故抜去への対策は、自宅や入所施設だけでなく学校や通所においても極めて重要な課題である。<固定の工夫>頸バンドによる2点固定で固定が不充分な場合には4点固定(腋窩を通してのバンドも併用しての4点固定、紐とテープでの下方向への固定を併用しての4点固定)が必要である。左右への変形が強い場合には3点固定とする。緊張などによる姿勢の変化(反り返りやねじれ)に対応するため、伸縮性のあるゴム紐の利用も有用である。カニューレのバンドによる直接の固定に追加して、さらに上から、穴あきの固定具を考案して使用して間接的な固定を追加する方法の有用性が発表されており(鈴が峰、橋本ら、2017年重症心身障害療育学会)、同様の方法での固定器具(メラ、ささえフランジ固定板)が2018年秋に発売され、事故抜去が生じやすいケースで有用である。<事故抜去が生じた場合の対応>学校や通所などでのカニューレの事故抜去の際の看護師によるカニューレ再挿入が禁止されていた自治体もあった。これについて、「看護師又は准看護師が臨時応急の手当として気管カニュ レを再挿入する行為」は是認されるとの見解が2018年3月に厚労省から示されている。ただし、応急的な再挿入が困難な場合もあり、担当看護師による事前の挿入研修(主治医か指導医などの立ち会いのもとでの)、挿入しやすいカニューレ(1サイズ細い間カニューレ、カフなしカニューレなど)とゼリーの用意など、充分な準備が必要である。 略歴 1973年 東京大学医学部医学科卒業 1974年 東京大学医学部付属病院小児科 1975年 都立墨東病院小児科 1976年 整肢療護園(現、心身障害児総合医療療育センター)小児科 1989年より 心身障害児総合医療療育センター外来療育部長 2005年より 同センターむらさき愛育園長 2015年より 同センター所長(むらさき愛育園長兼務) 2019年4月より 同センターむらさき愛育園長名誉園長
シンポジウム1:大地震・大雨など大災害時の支援のあり方
  • 東 美希
    2019 年44 巻2 号 p. 312
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    平成28年熊本地震(以下、熊本地震)は、観測史上初めて、同一地域において28時間の間に、最大震度7の地震が2度発生し、熊本市や上益城地域、阿蘇地域を中心に多数の家屋倒壊や土砂災害など、甚大な被害をもたらした。この地震で、本県の総合周産期母子医療センターである熊本市民病院も深刻なダメージを受け、NICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児回復期治療室)、小児病棟の入院患児らは、緊急避難および転院を余儀なくされた。                                    このような中、県は、県内の小児周産期医療の関係者と情報交換や連携をしながら、NICU病床等の調整や、主要医療機関による小児周産期医療提供の補完等、医療提供体制の再構築を行った。幸いなことに、平成27年度に本県の独自の取組みとして、小児在宅医療を提供している医療機関や事業所を対象に、災害時における非常用発電機を整備する補助事業を実施していたことから、熊本地震の停電の際に整備機器が有効に活用され、在宅医療児が安全に避難生活を送ることができた。                                    国は、平成28年12月に、東日本大震災の経験を踏まえ、災害医療コーディネーターと連携して小児周産期医療に関する情報収集や関係機関との調整等を担う「災害時小児周産期リエゾン」の養成を開始した。本県においても、熊本地震の経験を踏まえ、災害時の小児周産期医療の提供体制の強化を図るため、2024年度(令和5年度)までに産科医および小児科医を合計12名養成する方針を定めた(平成31年3月末までに8名養成)。さらに、この4月には熊本大学と連携のもと、九州各県の小児周産期リエゾンおよび行政職員の顔合わせを行い、九州ブロックでの連携強化を図ったところである。                                   また、昨年9月に発生した北海道胆振東部地震における大規模停電の実態を受け、特に停電の影響が大きい人工呼吸器を使用する在宅療養児の災害対応を再確認するために、県内の主要な小児在宅医療関係者を招集し、災害時における小児在宅医療提供体制に関する意見交換を実施した。今後の課題として、ライフラインが寸断するなどの大規模地震が発生した場合に、発災後3日間を乗り切るための平常時からの準備、自助・互助の意識の醸成や地域のつながりの強化、医療的ケア児等の全数把握と具体的な災害時対応の検討が挙げられ、平時からの訓練や災害時の活動を通じて、地域のネットワークを災害時に有効に活用する仕組みの検討を行っているところである。                               略歴 熊本県健康福祉部健康局医療政策課 参事 東 美希 
  • 岩﨑 智枝子
    2019 年44 巻2 号 p. 313
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    昨年の西日本豪雨ではこの岡山県でも多くの方々が被災されたと聞いております。心よりお見舞い申し上げます。熊本では平成12年に九州北部豪雨に襲われました。白川沿いに住まいのあった在宅会員の自宅では、朝から通所に送っている間に増水した川の水が室内に勢いよく流れ込み、渦を巻く濁流に飲み込まれ家具が部屋中ぶつかり、1階はめちゃくちゃな状態となっていたそうです。しかし間一髪重度のお子さんの命は救われました。早めの避難が生死を分けてしまうことを実感させられました。 そして、災害の中でも地震は何の前触れもなく突然襲ってきます。素早く避難することの出来ない重症心身障害児・者およびその家族にとりましては、死をも覚悟する恐ろしい一瞬です。 平成28年4月14日午後9時半に、前震と言われた震度7の強震に続き、翌16日午前1時半には、本震とされる震度7以上の激震に見舞われました。熊本県にこんな大きな地震が襲来するとは誰も予想していませんでした。 我が家は熊本市の北区で震源地から少し離れていましたが、本震は真夜中であり、ドド~ンという地響きと共に揺れ始め、障子紙が斜めに破れるのではなく割れていくようを懐中電灯の光で横目に見ながら、余震が続く中よろよろと、まして4月半ばの深夜の気温はまだ肌寒く、寒さと恐怖に震えながら駐車場の車の中に逃げ込むのがやっとの状況でした。余震は止まる気配もなく強弱を繰り返す中、明け方に恐る恐る家の中に入ってみますと、2階のタンスは倒れ、壁には亀裂が入り室内も散乱し大変な状況になっていました。 我が家の次男は、生後4か月半で化膿性髄膜炎を患いその後遺症で水頭症も併発し、重症心身障害児者としての人生を余儀なくされましたが、多くの方々に支えられ充実した人生を全うし、地震発生の2か月前に内因性心臓死との診断で、33歳で亡くなりました。49日の法要の2週間後の大地震でした。 今回は「たんぽぽの会」の会員の避難事例いついて少しお話をさせていただこうと思います。 「たんぽぽの会」は、全国重症心身障害児(者)を守る会 熊本県支部在宅部の位置づけで、重度の知的障害と重度の肢体不自由を併せ持った在宅で暮らす重い障害の子どもたちの幸せを願って活動する親の会です。平成2年に発足し、会員は県内各地に点在し災害当時55名在籍をしていました。4歳から42歳までの重症児・者家族で、半数は医療的ケアを必要としています。 地震発生時では、咄嗟に寝ている我が子のベッドに覆いかぶさる事しかできなかったとの声や、自力で非難することのできない我が子を車に移動させるのが大変だったという声が多く聞かれました。 <避 難> ◇ 避難入院・・医療的ケアの濃いお子さんのご家庭では、1回目の強震の時に避難入院をされた方が7家族。短期入所などを利用している施設・病院で必ず1人付き添うことが条件。小さい兄弟児のいるご家庭や他に介護の必要な方がいるご家庭は、避難入院をしたくてもできない状況でした。 ◇ 車中泊 ◇ 特別支援学校(家族全員の受け入れ) ◇一次避難所(体育館で・・) ◇ 福祉避難所・・一次避難所等を保健師等が巡回し、避難者の心身の状態などを確認した上で、受け入れ施設と調整を行う→重症児・者は最初から福祉避難所でなければ難しい。 大地震発生から数日で他県から小児科医師や看護師さん等が応援で熊本入りし、直ぐに会議を開いて状況把握や必要な動きの確認を行い行動していただいたことは、大変有難く心強さを感じました。また、重症児施設勤務の医師にも支援に加わっていただき、医療的ケアに必要な機材や消耗品の調達をネットで呼びかけていただいたり、医療的ケアの必要な子どもたちの避難先に出向いていただいたりと、精力的に動いて下さいました。周産期医療に力を入れている「熊本市民病院」が被災し、受け入れ不可になったことで、重い障害の我が子の体調管理に不安を感じていたご家族にとって、先生が出向いてくださったことは大きな安心感を得られたようです。 今一度熊本地震の体験を活かし防災対策も含め、研修を重ねてまいりたいと思います。  略歴 1983年~次男哲也が生後4か月半で肺炎球菌による化膿性髄膜炎に罹患、後遺症で重症心身障害児・者としての人生を余儀なくされ、家族と共に生活し33歳で他界。 1995年~熊本県重症心身障害児(者)を守る会 在宅部 たんぽぽの会会長 1999年~熊本県重症心身障害児(者)を守る会事務局長 1999年~全国重症心身障害児(者)を守る会 九州・沖縄ブロック在宅部会長(~2018年)
  • −入所・日中活動の現場から−
    土屋 さおり
    2019 年44 巻2 号 p. 314
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    概要 当センターは熊本市東区にあり、最も被害の大きかった益城町と隣接しており、周囲は住宅街が多く、山はなく、近くに大きな川が流れているが河川の工事が行われたことで水害被害のリスクは少なくなった土地に建っている。平成6年に開設し、入所利用者は徐々に増加し、平成28年4月より3病棟体制、入所定員116名である。 熊本地震と施設の被害状況 当センターでは新規入所の受け入れを順次開始して2週間で熊本地震に襲われ、最大震度6強を記録した。発災時、入所者102名のうち超重症児(者)15名、準重症児(者)21名、人工呼吸器使用者18名であり、利用者に大きな被害はなかったものの、建物の被害は大きく、利用者の生活は影響を受けることになった。スプリンクラーの破損で1つの病棟が使用できなくなり、地盤沈下(8~10cm)したことで車椅子を使用する利用者は通行できなくなった。ライフラインでは電気とガスの復旧が早く、問題なく使用できた。深刻だったのは水であり、地盤沈下で多くの給排水の配管を破損し、非常用の水や支援物資に頼る生活が4月25日(発災後10日目)まで続いた。 利用者・職員への対応 入所病棟では、スプリンクラー配管の破損や地盤沈下による移動制限から狭い空間で多くの利用者が過ごすことになり、涙を流したり、大きな声を出したり、眠れないなどの変化が見られた。 在宅重症児(者)・家族への対応として地震直後から避難の依頼があったが、建物被害で使用できない病棟や部屋があり、人工呼吸器の電源が確保できない等、緊急性の高い利用者を当センターで受け入れた。日中活動の各事業所では利用者の安否確認・家庭訪問および生活物資の提供を行い、センター建物の安全確認後、事業を再開することになった。 職員への対応として、発災当日から自宅の被害状況、ライフラインの状況(電気・ガス・水道)、食糧の備蓄状況、子どもを含む家族の状況を個別で聞き取り、今後の勤務への配慮を行った。職員が昼間働いていることで支援物資を受け取ることができないことを考慮し、センターに寄せられた救援物資を昼休みや勤務終了後にセンター内で提供した。他にも保育園や学校などが休みになった子どものいる職員を対象に子どもの預かりや、宿泊場所の提供、入浴・洗濯施設の開放などを実施した。 災害対策の課題への対応 (1)災害時の点検チェックリスト・アクションカード作成 災害対策本部が立ち上がるまでの初動対応の手順や応援者への指示を記載したアクションカードを作成し、それを使用した地震想定防災訓練と見直しの実施。 (2)夜勤者・夜勤専従者の防災意識の向上 夜間勤務することが多い職員を中心に災害対策の教育や研修の機会を設け、災害時に対応できる職員の育成と意識の向上を図る。 (3)搬送のためのトリアージ基準を作成 重症児(者)である利用者を、何を基準に誰を優先して搬送するのか明確にできていないことから、診療部を中心に搬送基準の作成。 (4)病棟間避難の基準 病棟間避難の基準について、優先順位や方法を策定する。 (5)日常生活回復基準の見通し ライフラインの復旧状況が毎日変化する中で、食事や更衣、入浴など利用者の日常生活をどう回復させていくのか、何を基準に判断するのかを策定する。 今後の大災害時利用者支援として〉 今回の熊本地震、繰り返される水害から考える対応策・利用者支援として、①地震・火災と水害の避難を区別した防災訓練を通じて防災対策マニュアルの定期的な見直し、②日中活動の場として在宅重症児(者)の安否確認と避難生活を支えるための支援、③利用者の生活を守るために柔軟な職員対応の実施、④利用者の震災ストレスを考慮した支援の早期実施、が求められる。 略歴 氏名:土屋さおり 役職:くまもと江津湖療育医療センター 地域連携教育センター 課長 1990年 銀杏学園短期大学看護科卒業/看護師免許取得⇒看護師として病院勤務/2005年 東京福祉大学 通信教育課程 社会福祉学部社会福祉学科卒業/社会福祉士取得⇒看護師・社会福祉士として児童福祉施設勤務/2009年 くまもと江津湖療育医療センター就職/2016年 病棟主任経験後、教育担当主任へ/2017年 九州看護福祉大学大学院看護学科卒業/看護学修士(小児看護学)/2018年 地域連携教育センター 課長就任
  • −重症心身障害児(者)の生命を守り抜くために−
    堀野 宏樹, 井上 美智子
    2019 年44 巻2 号 p. 315
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    平成30年7月豪雨は、歴史的に災害が少ないと言われていた岡山県においても、初めてとなる特別警報が発表され、多くの観測地点で時間降水量の極値を記録するなど、甚大な水害・土砂災害が発生した。8か所に及ぶ堤防決壊による浸水被害が広範囲に及んだ倉敷市真備町を中心に、県内の死者・行方不明者数は60名を超え、平成に入って最大の被害となった。 「平成で最悪の豪雨災害」と言われるこの豪雨の中、旭川荘療育・医療センターのある岡山市北区祇園地区も危機的状況に遭遇することとなった。当センター所在地の傍を流れる一級河川「旭川」の上流にある「旭川ダム」の放流に伴い水位ピーク時(氾濫危険水位0.8m超え)に一時は3700t/sの放流を決定(結果的には放流に至らず)、療育・医療センター付近も越水決壊は回避できず、倉敷市真備町と同じ状態になっていたと推察される。 法人内の利用者はすべて2階以上へ避難。法人内の一般避難所は近隣住民220人が一時避難し、療育・医療センターが開設した障害者用の福祉避難所も身体障害のある2家族が利用された。また、法人内の特別養護老人ホームが開設した高齢者の福祉避難所も9名を受け入れた。センター該当職員16名が床上床下等被災(法人全体では31名が被災)。被災した地域の重心相当の方々についても、当センターで3名(一般入院2名とショートステイ1名)と南岡山医療センターで5名を受け入れた。また、当センター通園センター利用者のうち3名もショートステイ利用という形で一時避難利用された。両センターを利用された方々のほとんどが医療的ケアニーズの高い方々で、人工呼吸器、胃瘻栄養、気管切開、膀胱瘻がその主なものであった。南岡山医療センターを利用された方々は真備町およびその周辺にお住まいの方で、ご自宅が全壊の方が半数以上おられたことから、短期入所利用はもとより、最長8か月という長期入所に切り替えざるを得ない状況の方もおられた。また、南岡山と旭川荘を交互に併用利用されて対応された方もおられた。 今回の豪雨災害を受けて、浮き彫りとなった課題は、河川の越水決壊の可能性がある旭川荘療育・医療センターの場合、浸水想定時の電気の供給(非常用発電機の燃料供給)や梅雨時期や夏季の停電に伴う①空調コントロール②呼吸器管理は必須の課題である。入所者の安全確保はもちろんのこと、在宅障害児(者)の支援も必至で、在宅者情報の管理と在宅者への被災時の対応のための事前レクチャ―および連絡ネットワークの確立。特に、医療的ケア児のデータは必須である。さらに、今回の真備町のように長期戦になった場合のことも想定し、二次避難も視野に入れた対応が望まれる。県下の医療機関との事前協議や、近隣県の医療福祉施設との連携ネットワークの確立は、避難先の確保に加え、備蓄品の提供や復興に向けた人材提供の一助になることは言うまでもないところである。 私たちが日ごろから従事している重症心身障害児(者)の方々への治療支援の現場である医療機関や施設に求められる緊急災害時の機能ニーズは一気に膨れ上がることはこれまでの各種の災害で経験しているわけで、入院入所利用者の安全確保はもちろんのこと、地域在宅者の安全確保も大きな守備範囲となる。医療機関や施設側の受け入れ態勢を充実させることはもちろんのこと、在宅生活をされている方々のご家族においても、緊急時にどのように避難対応するのかをしっかりとシミュレーションする機会を持っていただくためのアナウンスも我々の使命の一つと考える。 重症心身障害児(者)の生命を自然災害から守るために、昨年度の豪雨災害を教訓にしつつ、新たな戦略を練っていかなければならない。 略歴 堀野 宏樹 【現職】社会福祉法人 旭川荘 旭川乳児院 院長 1982年3月 大阪産業大学経営学部経営学科卒業/1982年3月 株式会社岡山木村屋グループ入社/1987年4月 社会福祉法人旭川荘 入職 肢体不自由児施設旭川療育園、重症心身障害児施設睦学園で児童指導員として利用者の生活支援、相談支援に携わる/2010年4月 旭川療育園 副園長/2011年4月 旭川療育園 副園長 兼 睦学園 副園長/2016年4月 旭川児童院 副院長 兼 旭川療育園 副園長/2019年4月 旭川乳児院 院長 兼 さくら児童館館長、現在に至る 井上 美智子 【現職】独立行政法人 国立病院機構 南岡山医療センター 小児神経科医長 1989年3月 岡山大学医学部卒業/1992年3月 同大学大学院医学研究科卒業、同大学附属病院小児神経科/同年10月 日本小児科学会専門医認定/1996年 4月 三菱水島病院小児科/1997年 5月 日本小児神経学会専門医認定/1998年11月 東大阪市療育センター/2002年 4月  神戸重症心身障害児・者療育センター/2007年 9月 南岡山医療センター/2010年 倉敷地区在宅重症児の医療を考える会の代表世話人として活動開始。/2013年 岡山県看護協会主催の訪問看護教育講座にて「障害児医療」の教育講座担当/2015年〜 岡山県特別支援学校の医療的ケア指導医として活動/2019年6月 日本小児神経学会 災害対策委員会委員、現在に至る
シンポジウム2:国際的視点からみた日本の重症児(者)支援の評価と課題 −教育的支援を中心にして−
  • Kirstie Rees
    2019 年44 巻2 号 p. 316
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    This presentation details a doctoral research project which employed qualitative methodology to explore parents' and nursery staff conceptualisations of development for children with profound and multiple learning disabilities (PMLD). Views were obtained from individual interviews and from two focus groups involving both sets of participants. The main themes emerging from the data indicate that how progress is perceived is very much influenced by cultural norms and by the extent to which those supporting a child adhere to a linear trajectory of progress. This then informs the strategies that are employed to promote a child's progress. Other mediating factors such as a child's aetiology and presentation are discussed. Comparison will also be made to cultural norms of disability in Japan. Further information will also be provided about a proposed cultural-transactional model of development which enables psychologists and other professionals to better comprehend the factors informing individual understandings of development for children with PMLD. This then enables professionals to identify why, at times, there may be a mismatch between parents' and education staff views and to address this explicitly. A multi-agency intervention is also detailed which enables parents and staff to work together in assessing and addressing the progress of young children with PMLD. Initial findings suggest that shared understandings of development result in parents and staff noting more specific examples of a child's progress. Biography Kirstie Rees is a Depute Principal Educational Psychologist working near Glasgow in Scotland. This involves overseeing a team that provides a psychological service to children and young people between the ages of 0-18 in nurseries and in schools. This includes providing consultation, assessment, training and intervention in areas such as autism, learning difficulties and mental health. Kirstie specialises in supporting children and young people with PMLD and their families. She has worked with schools and families to develop a meaningful curriculum for this group of learners, and to assess and address behaviours which are deemed to be challenging. Kirstie has also conducted a significant amount of research in this area; she was the lead author on the 'South Lanarkshire Framework for supporting pupils with severe and proving learning needs' (Rees, Tully and Ferguson, 2017) and has written a number of articles published in educational and psychology journals. Kirstie's recent doctoral work at Dundee University focuses on exploring parents' and education staff conceptualisations of the development of children with PMLD and the factors which influence people's beliefs about a child's progress. The research has led to a proposed model for practice and a multi-agency intervention which aims to ensure that both parents and staff notice more specific examples of a child's progress.
  • Kirstie Rees
    2019 年44 巻2 号 p. 317
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    本発表では、重症心身障害児に対する親と保育スタッフが持つ発達概念を、定性的方法論を用いて調査した博士研究プロジェクトについて詳述する。個別面接ならびに両方の参加者が含まれている2つのフォーカスグループから意見を収集した。データから浮かび上がってきた主要テーマは、進歩がどのように認識できるかは、文化的な規範や、子どもを支援する人たちが進歩の直線的な軌跡にどれだけこだわるかによって大きく影響されることを示している。これにより、子どもの進歩を促進するために用いられている方法についての情報が得られる。子どもの病因および症状などの他の媒介因子についても論じる。また、日本における障害の文化的規範についての比較も行う。 さらに、重症心身障害児の発達についての個人の理解に影響を与える要因を、心理学者などの専門家がよりよく理解できるようにする、提唱されている発達の文化的な交流モデルについての情報も提供する。これにより、専門家は、時に親と教育スタッフの意見に不一致が生じる場合がある理由を特定し、これを明確化し説明することができるようになる。親と職員が協働して重症心身障害児の進歩を評価し対応することを可能にする複数機関による介入についても詳細に述べる。初期の知見からは、親と職員が発達についての理解を共有することで、子どもの進歩のより具体的な例に気付くようになることが示唆されている。 略歴 Rees先生は教育心理学部の学部長代理としてスコットランドのグラスゴーの近くに仕事の拠点を置いており、保育所や学校の0歳から18歳までの子どもたちに心理的サービスを提供している。 これには、自閉症、様々な学習上の困難、精神的健康などの分野での相談、評価、訓練および介入の提供が含まれている。Rees先生の専門領域は重症心身障害児・者とその家族を支援することである。 Rees先生は学校や家族と協力して、重症心身障害児・者にとって意味のあるカリキュラムを開発し、困難と思われる行動を評価し、取組んだ。 Rees先生は重症心身障害の分野において膨大な量の研究も行っている。またRees先生は「重症心身障害児を支援するSouth Lanarkshire Framework」(Rees、Tully and Ferguson、2017)の主執筆者であり、教育および心理学の専門雑誌に多数の記事を執筆している。 Dundee大学でのRees先生の最近の博士課程の仕事は、親と教育スタッフの重症心身障害児の発達の概念化と、子どもの成長に対して人々の考え方に影響を与えている因子について調査することに焦点をあてている。この調査から、親とスタッフの両方が子どもの発達についてより具体的な事例にしっかりと気が付くことを目的とした、実用的で多機関による介入モデルを提案することにつながった。
  • Kathleen Tait
    2019 年44 巻2 号 p. 318
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    The term profound/multiple disabilities (PMD) refers to conditions in which the person has a severe to profound intellectual disability plus severe physical impairments. As well, such individuals also often have co-morbid vision and/or hearing impairment and chronic health conditions, such as epilepsy. About 0.13% of the school aged population have PMD. Children with PMD often appear to be extremely unresponsive to instruction and indeed even to any type of environmental stimulation. However, children with PMD have been anecdotally reported to show subtle signs of engagement or responsiveness in relation to different activities. A major educational priority for children with PMD is to increase their levels of engagement so that they are then more likely to benefit from instruction. However, one barrier to increasing engagement is the difficulty of determining when a child with PMD is in fact sufficiently alert and engaged. Thus, a major priority for such children is to increase the amount of time that they are alert and actively engaged. This research study examined the extent to which five children with profound/multiple impairments aged 9 – 13 years were reported by carers to indicate engagement and the extent to which these reported indices of responsiveness varied in relation to differing levels of environmental stimulation. Each child was directly observed across three different environmental conditions that varied in terms of the amount and type of stimulation provided. The child's level of engagement/responsiveness under each condition from videotapes. Findings suggested a number of potential indices of engagement/responsiveness did seem to vary reliably and consistently in relation to the amount and type of environmental stimulation being provided. These results suggest that children who appear largely passive and unresponsive might show subtle signs of engagement/responsiveness in response to higher levels of environmental stimulation. The presence of these indicators might signal times when the child is actively engaged and more likely to be responsive to instruction. This project is significant because this approach could point to a reliable, yet practical and easy method for determining the individual with PMD's level of alertness and engagement. Biography Doctor Kathleen Tait is a special educator and developmental psychologist. Her area of specialization is assessment and intervention for individuals who have limited or no spoken language. Kathleen has authored 17 book chapters and over 50 journal articles. Her books are on the top ten best seller list of Oxford University Press. Her expertise stems from 25-years-experience in the United Kingdom, Brunei, Hong Kong, Mainland China, and Australia. Kathleen describes her research projects as“practical and applied”as she aims to improve the educational and functional outcomes for individuals with profound multiple disabilities, their families, teachers, and allied health professionals. Kathleen's special interests include functional assessment and the development of communication - especially in the area of prelinguistic behaviours. Kathleen has been awarded: an Australian Postgraduate Research Award at the University of Queensland; a Faculty of Excellence in Teaching Award at the University of Sydney and a Vice Chancellor Excellence in Teaching and Learning Award at Macquarie University. She has one daughter. Kathleen is currently employed as the Academic Program-Director of Post-Graduate Studies in Special Education at Macquarie University, Australia.
  • Kathleen Tait
    2019 年44 巻2 号 p. 319
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(profound multiple disability・PMD)という用語は、重度から最重度の知的障害に加えて、身体的な障害がある状態を言う。さらに彼らは、視覚障害、聴覚障害やてんかんのような慢性的な健康上の問題を有している場合が多い。学齢児の0.13%が重症心身障害児である。重症心身障害児は、こちらの働きかけに対して、また事実上いかなる種類の環境刺激に対しても、極めて無反応であるように見える。しかしながら、重症心身障害児は、様々な活動に関連して、関わりや反応のかすかな兆候を見せるとの報告もある。重症心身障害児への教育で大切なことは、子どもたちが働きかけから恩恵を受けられるように彼らが関わろうとするレベルを高めることである。しかしながら、彼らが実際に十分に覚醒している状態にある時が判定しにくいことが、そのような関わりを高めていく上での一つの障壁になっている。そのため、重症心身障害児が十分に覚醒して積極的に関わろうとしている時間を増やす取り組みが重要である。本研究では、介護者によって報告された、9歳から13歳の5人の重症心身障害児の関わりの指標の度合いについて検討し、関わりおよびこれらの反応性の指標が、様々なレベルの環境刺激との関係で変化することを示した。それぞれの子どもたちを、与えられる刺激の量と種類が多様な環境条件において直接観察した。調査結果から、与えられた環境刺激の量と種類との関係で、関わり・反応性について、多数の潜在的な指標が確実に一貫して変化しているように思われることが示唆された。これらの結果は、大抵受動的で反応がないように見える子どもたちが、より高レベルの環境刺激に反応しては関与や反応性のかすかな兆候を示す可能性を示唆している。これらの指標の存在は、子どもが積極的に関わっていて、働きかけにも反応しやすい時を知らせる信号となる可能性がある。このアプローチは、一人一人の重症心身障害児の覚醒と関わりのレベルを判定することができる、信頼性が高く、実用的かつ簡便な方法になる可能性があるため、本プロジェクトは重要である。 略歴 Kathleen Tait博士は特別支援教育者であり、発達心理学者ある。 博士の専門領域は言葉が限定的か話し言葉を全く持たない子どもたちの評価と治療である。Tait博士はこれまで書籍の17章分を担当し、50以上の専門雑誌に執筆している。Tait博士が携わった書籍はオックスフォード大学出版のトップ10リストに入っている。Tait博士の専門知識はイギリス、ブルネイ、香港、中国、オーストラリアでの25年間の経験に基づいている。Tait博士自身によれば、博士の研究プロジェクトは重症心身障害児の個人、その家族、教師、医療専門職のために教育的および機能的な成果を向上させることを目的としており、実用的でかつ応用的と述べている。Tait博士の専門領域は、前言語的行動期の機能的評価とコミュニケーションの発達である。 Tait博士はQueensland大学のAustralian Postgraduate Research Awardを受賞し、Sydney大学ではFaculty of Excellence in Teaching Awardを受賞。Macquarie 大学ではVice Chancellor Excellence in Teaching and Learning Award を受賞している。 博士には一人娘がおられる。現在、博士はオーストラリアのMacquarie大学で特別教育の大学院研究の学術プログラムの責任者として働いておられる。
  • 雲井 未歓
    2019 年44 巻2 号 p. 320
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    コミュニケーションの充実は重症児教育において最も重視されている指導内容の一つである。これまでに、子どものわずかな応答表出を手掛かりに働きかけを行ってきた経過で、コミュニケーションが安定した事例が数多く報告されてきた。運動機能や知的機能の著しい制約下で示されるこうした変化について、我々は、学習プロセスにおける生得的な注意機能と働きかけの相互作用の視点から検討を行ってきた。本シンポジウムでは、こうした検討で得られた知見の概要と、教育実践への適用の取組について報告する。 1.注意機能の初期発達に関する検討 発達初期にみられる注意機能としては定位反応と期待反応を挙げることができる。定位反応は最も早期に出現する選択的・能動的な注意反応であり、情報を取り入れ必要な組織的活動を起こすための高次な認知活動の基盤を形成する。期待反応は、特定の事象を、先行する刺激によって予期し、事象の生起まで注意を続ける反応である。Yesの意思表出や表象機能の基礎を形成するもので、乳児の「イナイイナイバー」遊びでは約6か月齢で、「イナイイナイ…」により「バー」への期待が生じる。これらの注意機能は心拍数の一過性変動に反映されることから、我々は行動観察と心拍反応を手掛かりに、重症児における定位反応と期待反応の発達的特徴および促進要因の検討を行ってきた。その結果、定位反応が全体的に不活発な場合でも、人の顔・姿や接触刺激の呈示下では、名前の呼びかけに対して定位反応が生起しやすくなることを明らかにした。また、働きかけを先行刺激と対にして呈示することで、行動上の変化や心拍上の期待反応が生起するようになった事例を報告してきた。これらにより、重症児では発達初期の注意機能と働きかけとの相互作用が、コミュニケーション関連行動の学習における重要な要因であることを指摘した。 2.コミュニケーションの実態把握に関する検討と教育実践 日本では学齢重症児のほとんどが特別支援学校に就学し、その多くが自立活動を中心にした教育課程の下で教育を受けている。自立活動は教科と異なり指導内容が子どもの実態に応じて設定される。そのため、的確な実態把握が特に重要であるが、コミュニケーションに関しては信頼性・妥当性のある評価法が従来十分に示されてこなかった。この点について我々は、期待反応を中心に15の学習項目を評価する行動質問票を作成し、「学習把握表」(小池ら,2011)として整備した。学習把握表を、一人の児童について担任と副担任がそれぞれ評価した結果は、高い一致度を示した(n=78, κ=.63, p<.05)。また、ROC分析の結果、15の学習項目のうち8項目以上の達成をもって、音声単語の理解語数11以上の児童を峻別できることが示された(感度.78、特異度.79)。これらの結果は学習把握表の信頼性と妥当性を示すものであり、コミュニケーションの実態把握法としての有効性が指摘できた。 教育実践への適用としては、学習把握表による評価結果を考慮して指導を計画・実施する取組が報告されてきた。また、近年我々は、日常的な授業の中で児童と教師の間に生起する相互作用場面を、学習把握表の15項目に従って分類し、働きかけの傾向や学習評価との関連を分析した。このうち、「音声単語の理解」の項目に途上から達成への変化が見られた事例では、授業において「音声単語の理解」を促す働きかけとともに、当初から達成であった「期待反応の表出」や「視覚サインの初期理解」に関連した働きかけも多く観察された。それより、音声単語の学習過程で、期待反応や視覚サインに基づく表象機能が関与したことが推測された。この事例から、学習把握表に基づく相互作用の分析は、授業における教師の働きかけの意義を整理して説明する有効な方法となる可能性が指摘できる。今後は、分析結果が教師や授業に及ぼす効果について、さらなる検討が必要と考える。 略歴 2002年3月 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(博士後期課程)修了/2002年4月 東京小児療育病院 心理職/2004年4月 鹿児島大学教育学部 講師/2006年4月 同准教授(現在に至る) 研究分野:障害児心理学、認知生理心理学 研究内容:重症心身障害児の認知発達とコミュニケーション支援、学習障害児の読み書き困難に対する支援 著書:『障害の重い子供のコミュニケーション指導―学習習得状況把握表(GSH)の活用―』(小池敏英らと共著)、ジアース教育新社、2014年ほか
シンポジウム3:人工呼吸管理のような高度医療ケア児の学校における看護ケアをどうするか?
  • 前田 浩利
    2019 年44 巻2 号 p. 321
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    近年、新生児医療の発達や医療の高度化等により、日常生活の場において、継続的に医療的ケア(喀痰吸引、経管栄養等)を必要とする小児が増加し、文部科学省調査によれば、約8000人にのぼっており、こうした小児に対する教育の提供は、教育現場で重要なテーマになっている。従来、日常的に医療的ケアが必要な児童に対する教育は、主に訪問教育で、自宅に教員が訪問し、授業を行う方法であった。しかし、訪問教育は週3回程度で各数時間という短い時間で学習時間においても不十分であり、学校教育において重要な子ども同士の交流や、集団行動による社会的行動の体験や学び、親との分離による自立心の育成などの面で、不十分なことが多く、児童の成長・発達を考慮するとともに、人権擁護の観点からも通学の保証が必要と考えられる。さらに、近年、従来の重症心身障害児の枠に入らない、知的障害の無い子ども、あるいは歩行したり、会話ができる人工呼吸器装着児童も出現し、その数は年々増加している。 その増加に文科省でも学校看護師の数を増やすなど、様々な対応を行っているが、看護師の確保や、その研修、医療的ケア実施のためのシステムの整備、医師の支援体制などの整備が追い付かず、医療的ケア児が通う学校で十分な医療的ケアを実施できないために、保護者の付き添いが必要になったり、学校に通えない子どもがいるなどの状況がある。その問題の解決のために、在宅で利用していた訪問看護師が学校へも訪問し、医療的ケア児のケアに携わることが有効な方法の一つと考えられる。そこで、医療的ケア児が学校において義務教育を受けられる環境づくりの推進を目指し、将来的な制度設計に資する課題の整理と基礎資料を得ることを目的とし、田村正徳先生を代表として、平成30年度の厚生労働科学特別研究事業で、学校の療養生活の場における医療的ケア児への質の高い医療的ケアの提供に資する研究として、人工呼吸器を装着した児童を対象として訪問看護師の介入研究を実施した。 我々は、東京都内で10人の児童、千葉県松戸市で2人の児童を対象に研究を行った。訪問看護師の介入方法は、Ⅰ型(訪問看護師の付き添い):訪問看護師が付き添い学校での医療的ケアを全て行う。Ⅱ型(訪問看護師による伝達):訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達し、学校看護師がケアを実施する。Ⅲ型(訪問看護師によるケア+伝達)訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達し、同時に訪問看護師もケアを実施する。)Ⅳ型(訪問看護師が複数の小児をケアする) 保護者、担任、学校看護師、養護教諭、訪問看護師から事前、事後でアンケートを回収した。その結果では、保護者と担任は概ね、訪問看護師のケアは有用であるという回答であった。学校看護師は、有用と有用でないがほぼ半数で意見が分かれ、養護教諭はどちらとも言えないとの回答であった。有用でないことの理由としては、学校での医療ケアの責任の所在が不明確という意見が多く、有用な理由として、保護者の負担軽減、子どもの自主性や意欲が引き出される、学校看護師のできる医療ケアが学校のマニュアルで制限されているということが多かった。また、学校での体制として、学校看護師と訪問看護師がコミュニケーションをとり連携するⅡ型、Ⅲ型の介入が困難であり、学校での看護師同志のコミュニケーションを支える仕組み作りも重要な課題と考えられた。また、看護師が安心して医療的ケアを行うためには、その医療的ケアに責任を持つ医師が不可欠であり、主治医、指導医、学校医の連携と協議の仕組みを作り、その協議と連携の場が学校の医療的ケアの指示を出すと共に責任を持つことのできるシステムが必要ではないかと考える。 略歴 学歴 1989年3月 東京医科歯科大学医学部 卒業 職歴 1989年5月 東京医科歯科大学医学部附属病院 小児科臨床研修医/1990年5月 武蔵野赤十字病院 臨床研修医/1991年11月 東京医科歯科大学医学部附属病院 小児科/1994年4月 土浦協同病院 小児科医員/1999年6月 あおぞら診療所 設立/2004年11月 あおぞら診療所新松戸 開設/2011年4月 子ども在宅クリニック あおぞら診療所墨田 開設/2013年2月 医療法人財団はるたか会 設立 理事長就任 現職 医療法人財団はるたか会 理事長/東京医科歯科大学医学部臨床教授/東京女子医科大学非常勤講師/埼玉医科大学総合医療センター非常勤講師/慶應義塾大学看護医療学部非常勤講師/東京大学医学部非常勤講師
  • 高田 哲
    2019 年44 巻2 号 p. 322
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    在宅医療技術の進歩に伴い、医療的なケアを受けながら自宅で過ごす子どもが増えてきた。特に、人工呼吸器を使用して在宅生活を送る子どもの増加は目覚ましいものがある。特別支援学校に在籍する人工呼吸器を必要とする子どもは、平成19年度の545人 から平成29年度 の1418人へと増加している。人工呼吸器を使用しながら、通常の学校に通う子どもの数も、平成29年度では50人に達していた。平成28年6月には、児童福祉法の一部が改正され、「地方公共団体は、人工呼吸器を装着している、障害児その他日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児が、その心身状況に応じた適切な保健、医療、福祉その他の各関連分野の支援を受けられるよう、保健、医療、福祉その他の各関連分野の支援を行う機関との連絡調整を行うための体制整備に関し、必要な措置を講ずるように努めなければならない。」とされた。高度なケアを要する子どもが増え、学校を取り巻く環境は大きく変化した。平成29年に文部科学省は、「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」を設置し、(1)学校における医療的ケアに関する基本的な考え方、(2)教育委員会における管理体制の在り方、(3)学校における実施体制の在り方、を整理した。2019年3月には、最終まとめが、全国の都道府県、政令指定都市の教育委員会に通達された。本会議の特徴は、対象を、通常の小中学校を含む「全ての学校」、酸素吸入や人工呼吸の管理を含む「全ての医療的ケア」としたことである。学校において医療的ケアに対応するために、医師と連携した校内支援体制の構築や医療的ケアマニュアルの作成が提言された。管理体制についても、学校医、医療的ケア指導医が、教育委員会内の医療的ケア運営協議会に参画し、一人ひとりの子どもの特性に応じた「個別の判断」をすることが必要とされ、医療の役割が大きくなっている。 「医療的ケア児」への支援・対応の協議が全国で始まっているが、人工呼吸器使用児の学校への受け入れへは地域により大きく異なっている。主治医・指導医などが適切に判断するためには、どのようなデータを基にどのような観点から検討するかについての統一した方針が求められるようになった。日本小児神経学会では、平成28年に社会活動・広報委員会内に、「学校における人工呼吸器使用に関するワーキンググループ」を設置して、特別支援学校で人工呼吸器使用児を受け入れる際にチェックすべき項目、支援するための体制・組織づくりまでを含んだ特別支援学校向けのガイドを策定した。前提となる考え方は、「人工呼吸器を必要とする子どもも、家庭で安定した生活が行われていれば、子どもの精神的自立と社会参加の可能性を拡げていくためにも、できる限り家族が付き添うことなく通学できることを目指す」である。最終的な判断は、医療者も交えた協議会において個別の児童・生徒ごとに行うこととした。 災害時には、在宅で人工呼吸器を使用している子ども達の避難場所、電源、医療物資の確保などが大きな問題となる。社会活動・広報委員会内に設置された災害対策小委員会は、日本小児科学会、重症心身障害児(者)・在宅医療委員会と協力して、医療関係者同士が連携できるネットワーク作りを呼びかけている。メーリングリストやラインなどを用いた医療者間のネットワーク(災害時小児呼吸器地域ネットワーク)を作り、災害時小児周産期リエゾンと有機的に連携できるようにしたいと考えている。現在、全国でネットワークの輪が少しずつ広がってきている。 略歴 1979年 神戸大学医学部卒業/1979−1981年 神戸大学医学部付属病院研修医、県立淡路病院小児科医員/1981年 神戸大学大学院医学研究科大学院入学/1985年 神戸大学大学院医学研究科にて医学博士号取得。呉共済病院新生児科、愛仁会高槻病院医員を経て、1989年 神戸大学医学部小児科助手(小児神経グループ主任)/1995年 神戸大学医学部付属病院周産母子センター講師(病棟主任)/2000年 神戸大学医学部保健学科教授/2008年 神戸大学大学院保健学研究科地域保健学領域 領域長/2010年 神戸大学評議員/2012−18年 神戸大学都市安全研究センター 医療保健講座教授(兼任)/2013−16年 神戸大学大学院保健学研究科 研究科長/2016年 神戸大学先端研究融合環教授(兼任)/2018年 神戸大学を退職 名誉教授 神戸市総合療育センター診療所長 日本小児神経学会社会活動・広報委員会 前委員長
  • −その成果と課題−
    植田 陽子
    2019 年44 巻2 号 p. 323
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    豊中市立の小中学校では、教育課程に位置付いた時間帯には、豊中市教育委員会に所属する看護師が、地域の小中学校を巡回訪問し、医療的ケアを実施する体制をとっており、日常的に医療的ケアを必要とする児童生徒は保護者の付き添い無く地域の小中学校で教育を受けている。これは、校内学習だけでなく、校外学習や宿泊行事でも保護者の同行なく学習に参加出来る体制をとっている。 豊中市は大阪府の北部に位置する人口約40万人の中核市で、豊中市教育委員会は小学校41校、中学校18校の計59校を所管している。特別支援学校は大阪府立の学校のみであり、大阪府教育委員会の所管となっている。 児童生徒の就学先の決定については、都道府県教育委員会ではなく市町村教育委員会が行うが、豊中市教育委員会における障害のある児童生徒の就学先の決定については、本人保護者の意向を最大限に尊重するとともに、居住地校区の小・中学校への就学を基本としている。これは、人工呼吸器の管理や気管内吸引などの医療的ケアを日常的に必要とする児童生徒についても同様であり、看護師が小・中学校を巡回訪問することで、人工呼吸器を使用する児童生徒も保護者の同行なく宿泊行事にも参加し、地域の小・中学校で他の児童生徒と一緒に教育を受けている。 豊中市の障害児教育は昭和50年代より障害の有無に関わらず地域の学校でともに学びともに育つ方針で取り組んできており、医療的ケアの体制については平成15年度に小学校への看護師配置を開始している。しかし、医療的ケア児が年々増加するにも関わらず看護師の退職希望が相次いだため、平成20年度より看護師配置を「配置型」から「巡回型」に変更し看護師の安定的人材確保に努めてきた。豊中市がこの事業を開始してから今年で17年めになるが、課題も多く安定しない状況は開始当初から現在までずっと続いている。 課題は大きく二つあり、一つめは、学校への看護師の安定的な確保が非常に困難であること。二つめは学校で働く看護師と、主治医や病院看護師、訪問看護師などの医療職同士の情報交換が非常に困難であることである。 また「学校で働く看護師」と一言で言っても、特別支援学校で働く看護師と地域の小・中学校で働く看護師では業務内容も働く環境も全く違う。児童生徒の教育課程そのものが特別支援学校と地域の小・中学校とでは全く異なるだけでなく、特別支援学校には1校に医療的ケアを必要とする児童生徒が複数名いるのに対して、地域の小・中学校では医療的ケアを必要とする児童生徒は市内に点在しており、1校に対象児童生徒が1人か2人であるという点も体制を作る中での大きな違いとなる。つまり医療的ケアを必要とする児童生徒も当たり前の事ではあるが、「学ぶため」に学校に登校している。しかし、学ぶ内容や学び方、学ぶ環境は特別支援学校と地域の小中学校では異なる部分が多いので、当然看護師の業務内容も働く環境も異なってくるのである。 今回は通常は看護師が勤務する事のない教育委員会事務局という場所で勤務してきた看護師の立場で、豊中市の小・中学校における医療的ケアの実施体制とその課題について説明することで、豊中市の小・中学校で子どもの学びを支える看護師の役割について考察するとともに、課題を解消してゆく方法についてシンポジストの先生方からご助言をいただき、豊中市に持ち帰り、今後の教育行政に生かしていきたい。 略歴 1992年3月 国立療養所刀根山病院附属看護学校 卒業 1992年4月~1993年6月 国立小児病院 勤務 1993年7月~2001年3月 市立豊中病院 勤務 2001年4月~現在 豊中市教育委員会事務局 勤務 児童生徒課 副主幹兼 支援教育係 係長
第4回看護研究応援セミナー
  • 石井 美智子, 倉田 慶子, 田中 千鶴子, 涌水 理恵
    2019 年44 巻2 号 p. 324
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    臨床で日々の業務をされながら、研究に取り組まれている看護職の皆様のお力になれたらと、はじめました看護研究応援セミナーも第4回目をとなりました。 昨年度の学会では「実践の中から看護研究のテーマを探そう」と題して、2名の先生にこれまでのご経験を基に、研究の進め方と実際の指導例などをお話しいただきました。(内容は日重障誌Vol.44に掲載されております。)講演後のテーブルディスカッションでは、参加していただいた皆様の研究を進めるうえでの悩みや課題等について、ファシリテータを交え話し合う事が出来ました。「研究に使う時間の工夫」「研究テーマの絞り方」「気付きの大切さ、雑談の中での気付き」等が話されおり、悩みを共有することができました。 臨床の場で行う研究は、日々の看護実践の中の「気付き」から始まると思います。その「気付き」を研究に発展させたい、また、その「気付き」は研究になり得るか。日々の看護実践(経験知)を、他の看護師達に形式知として伝え、広く知ってもらうためにはどのようにすればよいのか。研究の取り組みのヒントになればと「研究の芽を育てよう」と題してセミナーを企画いたしました。セミナーでは「臨床での気付きをリサーチクエスチョンにするにはどうすればよいか」について、名越恵美先生にお話しいただきます。初めて研究に取り組む予定の方や現在指導をされている方など、皆様のご参加をお待ちしてります。 ・日時:2019年9月20日(金)10:30~12:00  ・場所:第4会場(301会議室) ・対象:50名程度(看護研究初心者、研究を支援する立場にある方) ・内容:1.主催者あいさつ 2.講演:「臨床の研究シーズを芽吹かせよう」(50分)   岡山県立大学保健福祉学部看護学科 准教授 名越恵美先生 3.テーブルディスカッション (30分程度)   日頃の研究での疑問や悩みなどを語り合いましょう。   ファシリテータ:田中千鶴子(神奈川工科大学看護学部)           濱邉富美子(東海大学医学部看護科)           涌水理恵(筑波大学医学医療系保健医療学域小児保健看護学) 4.まとめ
市民公開講演 特別講演
  • 野田 聖子
    2019 年44 巻2 号 p. 325
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    9年前、妊娠中に息子の臍帯ヘルニアと心臓疾患がわかった。 生まれた後も食道閉鎖症が見つかり、それが原因で気管軟化症となり、気管切開をして人工呼吸器をつける手術を受けた。その他にも大きな手術を10回も受け、息子のいまがある。また呼吸が止まった時の脳梗塞の後遺症から、右手・右足に麻痺があり、今でも自由に動かすことができない。 医療技術の進歩のお蔭で命が救われ、重度の障がいを抱えながらも在宅生活ができる子どもが増えた。医療的ケア児の数は2016年には18,000人となり、10年前の人数から約2倍に増えた。また、中・高度な医療的ケアを必要としている重症児が増加傾向にあり、複数の障害を抱えたケースも多く、病態もそれぞれ複雑に影響している。 沢山の障がいを抱える息子の母親となってから、私の政治への思いがガラリと変わった。「政治は弱者のためにある」と頭ではわかっていても、本当に理解ができていなかった事に気付かされた。「息子が生きやすい世の中になれば、みんなも生きやすい国になる」と、どのような政策に携わる時でも、障がいを持った息子を基準に考えるようになった。そして障がいを抱えた息子が生きていく中でぶち当たる様々な障壁を取り除いていく事。それが結果として、同じ立場にあるお子さんや親御さんの進む道を切り開くことに通じる。そのような思いで取り組むようになった。 医療技術の進歩のお蔭で命を救っていただいた息子だが、障がい児・者を育む空気がまだまだ整っていないこの国において、成長と共にぶち当たる障壁は計り知れない。通園・通学に伴う受け入れ先や支援の問題等、細やかな問題の解決のためには、親がそれぞれの関係機関等に飛び回らなくてはならず、道を切り開いていくには時間と労力を要す。それらの改善のためにも医療的ケア児等コーディネーターの役割はとても大きい。また生活の場において多職種が包括的に関わり続けるインクルーシブ教育や、医療・教育・福祉の切れ目のない支援体制も重要であり、現在もそれらの構築に取り組んでいるところである。 色々な問題を乗り越え、今年の4月から息子は特別支援学校から小学校の特別支援学級(軽度知的障害)に転校することができた。医療的ケアを必要とする子どもたちが自宅から出られない状況を取り払うことや、同年代の子どもたちと触れ合う環境を整備することは、医療的ケア児の成長における可能性をより引き出す大切な環境であることを、今まさに身をもって感じているところである。 平成28年に新たに設置された認定資格に「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」がある。これからますます増加するであろう障がい児(者)の摂食・嚥下機能障害に、有資格者の需要が高まっていることは間違いない。 医療的ケア児を子にもつ親の願いは、「親亡き後」子どもが自分の力でしっかりと生きていけるようになることである。そのためにも、摂食嚥下リハビリテーションで、胃瘻ではなく自分の口から食べられるようになることは、「親亡き後」の息子の生命を繋ぐとても大切な事なのである。専門の先生方に助けて頂きながら、今後も地道に命を繋ぐためのトレーニングを続けていく。 医療的ケアが必要な子どもは福祉サービスに制限が多い。そのため、今でも親が付きっきりでケアをしなくてはならないケースが多く、地域での相談員やコーディネーターも不足していることから、親がケアで疲れた身体と時間の制約の中、情報収集し対応しなければならない現状がある。しかしながら、子どものケアのためには何よりも親が健康でなければならない。そういうことからも、親を支える地域支援の充実も常に必要と感じている。 医療的ケア児の親は誰でも、「親亡き後」を考えながら生きている。その気持ちに寄り添う環境の整備と支援がしっかりと整うことを願いながら、私も引き続き、政治の立場から環境整備に務めていく。 略歴 1960年9月福岡県に生まれる。1983年3月上智大学を卒業し、株式会社帝国ホテルに入社。その後、1987年4月岐阜県議会議員選挙に当選。 1993年7月第40回衆議院議員選挙で初当選。1998年7月郵政大臣、2012年12月自由民主党総務会長、2017年8月総務大臣・女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣を歴任し、現在は2018年10月から衆議院予算委員長を務める。2017年10月第48回衆議院議員総選挙で当選9期目。 国の未来をつくる子どもと女性の問題に取り組んでいる。 著書 「国民のみなさまにお伝えしたいこと-ホンネで語る政治学」(PHP社)1996年 「だれが未来を奪うのか-少子化と闘う」(講談社)2005年 「みらいを、つかめ-多様なみんなが活躍する時代に」(CCCメディアハウス)2018年
市民公開講演 シンポジウム:インクルーシブな地域の創生
  • 黒住 宗晴
    2019 年44 巻2 号 p. 326
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    昭和40年(1960)4月から9月末までの半年間、私は若い人たちと共に「中・四国を対象に重症心身障がい児の施設を造ろう」というキャンペーンをいたしました。 これは、その前年の暮近く、旭川荘の江草安彦先生から一人の身で三重四重の重い障がいを持つ子どもさんたちのことを教えられ、「旭川荘にこの子どもさん方のための施設を造ろうではないか」と熱く訴えられてのことでした。 旭川荘は、岡山市内で大病院に成長した川崎病院の川﨑祐宣先生が、この病院では治療もお世話もできない障がいを持った人たちのための、医療と福祉の総合施設を目指して創設された社会福祉法人です。昭和32年、旭川荘は知的障がい児と身体障がい児そして乳児院の3つの施設からスタートしました。 これらの施設を土台に、重症児施設を造ろうとされた江草先生でした。 私どもは重症児を持つ3人のお母さん方の勇気ある協力を得て、そのお子さん方の生活ぶりを写真に撮り映画を作ることができました。重症児方のありのままがフィルムに収められた写真また映画は、多くの人たちの心をゆさぶり、放っておけないの思いをかき立てました。 中・四国の主要な街角での日曜祭日毎の街頭募金をはじめ、その頃まだ手植えが多かった田植えなどのアルバイトをしたり、備前焼作家や画家の作品、宗教者の書などをご寄贈いただいてのいわゆるチャリティーオークションを開催したり、あらゆる手立てを尽くして問題を訴え募金につとめました。 地元岡山に本社のある山陽新聞社は、この年8月末、社告を出して重症児のための施設づくりの大切を呼びかけ始め、この力強いキャンペーンのおかげで昭和42年4月、旭川荘の中に「旭川児童院」として結実したのでした。 以来、私は親しくなった3人のお母さんとお子さん方から尊いことを教えられてきました。 昔から〝目の不自由な人は勘がよい〟とか言いますが、彼ら彼女たちには、肉体的な機能が働いていない分、心の奥深いところの働きは鋭敏で、私たちが到底かなわないものがありました。 映画班と最初に訪ねた岡山県北に住むM家のY君(当時14歳)は、難産のため鉗子(かんし)でもって生み出され、そのために脳に深く大きな傷がついて生まれ出ました。目もうつろ、半身は全く機能しないまま、食事も三度々々、お母さんの口移しで食していました。 Y君が3歳のときお父さんは自ら命を断ってしまい、その直後、お母さんはY君を抱いて冬近い県北の河の中に入っていきました。「お父さんと一緒に往こう……」とつぶやきながらも、せめて最後にわが子の顔をと抱き上げたとき、Y君の両眼はらんらんと輝き、今まで見せたことのない目つきでお母さんをみつめ続けていました。お母さんは初めてとんでもないことをしようとしていた自分に気づき、慌(あわ)てて河原に這い上がりそこで初めて泣き伏す中でY君に詫(わ)びたのでした。 Rさんの息子M君は、幼い頃に日本脳炎に罹(かか)り一命は取り止めましたが、厳しい身体状態になりました。彼は34歳で腎臓の病で亡くなりましたが、家族の見つめる中でお医者さんがご臨終ですと告げた時、両眼をかっと開き今まで見せたことのない眼差(まなざ)しで、母親の肩越しに見下ろす弟N君の両眼を見据えて「おふくろを頼む、おふくろを頼む」と告げ続けました。N君の「分かった。分かったちゃ」と叫ぶ声に、その意味の分からない家族はうろたえるばかりでした。程なく眼を閉じ息を引き取ったM君が弟N君へ声なき声で訴えた遺言への、「分かった」という返事であったことに改めて涙した家族でした。 このように、宗教者の一人としての私には、格別尊いことを教えてくれた3人の母親とお子さん方でした。 略歴 黒住宗晴 黒住教名誉教主 1937年9月生まれ/1960年 京都大学文学部哲学科卒/1961年 黒住教青年連盟長に就任/1965年 中四国を対象に「重症心身障がい児施設建設運動」を起こし、それが基盤と成り、今日の社会福祉法人旭川荘にある重症児施設「旭川児童院」となった/1973年 黒住教第六代教主就任/2017年 黒住教名誉教主就任 主な公職 社会福祉法人 旭川荘理事/社会福祉法人 山陽新聞社会事業団理事/岡山県立岡山西支援学校教育後援会会長/学校法人 おかやま希望学園教育後援会長/学校法人 川崎学園監事/社会福祉法人南野育成園後援会長/学校法人 関西学園特別顧問/学校法人 順正学園理事 賞罰 山陽新聞賞/三木記念賞
  • 伊原木 奈美
    2019 年44 巻2 号 p. 327
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    私は、主人が知事に当選したご縁で、歴代の知事夫人が務めている旭川荘でのボランティア友の会の会長職を引き継ぎました。皆さんにご指導いただきながら、約5年が経ったところです。 皆さんと一緒にボランティアをさせていただきながら、感じたこと、気づいたことについて、お話させていただこうと思います。 略歴 伊原木 奈美 いばらぎ なみ 1976年1月20日岡山市生まれ 1998年3月 聖心女子大学文学部卒業 2014年より 旭川荘児童院ボランティア友の会会長
  • 佐藤 恵美子
    2019 年44 巻2 号 p. 328
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    娘が1歳を少し過ぎた頃、突然高熱を出し、全身を震わせてひきつけをおこしました。私は大学病院に連れて行き診て頂きました。先生から「お母さん本当にお気の毒ですが、お子さんは脳性小児麻痺です。今の医学では、治して上げることはできません。多分20歳までは生きられないでしょう」と言われました。 目の前が真っ暗になり、頭のなかは死ぬことだけで一杯になり、その足で高梁に出張中の主人に会い行き、自然公園で娘の事を話し、死ぬしかないと思って来たと言いました。娘にアイスクリームを食べさせていたら、何処からともなく1匹の猿が娘の持っていたアイスクリームを取って逃げました。娘は今までに無い大声で笑いました。私はハッとして、この子は何も判らない事はない。こんなに喜んでいる娘を連れて死ぬわけにはいかないと思い直す事が出来ました。 翌日から、私と娘の闘いが始まりました。他の病院に行けば治るかもしれないと思い、来る日も来る日も病院を巡り、主人の給料は病院代に消えていきましたが、どんな事をしてでも治してやらなければと一生懸命でした。 ある日、診察を待っていると、女医さんが旭川荘の話をしてくれました。翌日行ってみると旭川荘は人里離れた寂しい所にありましたが、子どもたちが障害を持ちながらも一生懸命に生きている姿に接し、頑張ろうと元気が湧いてきました。それから毎日母子通園をする事になり、車の免許も取りました。 昭和42年、中四国で初めての重症児施設が出来、娘を入所させたらという話が持ち上がりました。私は踏ん切りがつかず悩みました。「貴女の娘さんだから取ってしまわん。何時でも返して上げるから」と言われ決心しました。娘を置いて帰るときの寂しさ、辛さは言葉にできず、少しでも近くにと思い、祇園に家を建てました。 親同士親しくなり、皆で一緒に子どもたちを守ろうと保護者会を立ち上げました。当時院長だった江草先生は「児童院と保護者会は車の両輪でなければならない、子どもたちを中心にお互い頑張って行こう」と何度も励まして下さいました。児童院のお蔭でどれだけ多くの親子の命が救われたかわかりません。 この施設が出来るにあたり、山陽新聞社はキャンペーンを長期にわたってして頂き、黒住教の青年団には募金を集めていただき感謝の念でいっぱいです。当時はまだ重症児(者)に対して理解もなく、「社会の役に立たないものには国のお金は1円も使えない」と言われた時代です。私たちも皆様に理解していただくため、チャリティーバザーを何回も行いました。   全国には重症心身障害児(者)を守る会のある事をお聞きし、親にとってこの会しか子どもを守ってやれないと決意し、岡山県支部を立ち上げました。 平成18年より自立支援法が施行され、親御さんは大変戸惑いましたが、何とか子どもたち一人一人に親または親族の方が後見人になりました。しかし、家族会で出てくる話は「今は後見業務も出来るが、親亡き後の事も心配で」との声が聞かれるようになり、家庭裁判所に相談に行きました。すると「子どもたちを法的に守るには、NPO法人を立ち上げるしかない」と言われ、子どもたちに背中を押され頑張るしかありませんでした。平成21年4月よりNPO法人ゆずり葉の会としてスタートしました。「これで安心して死ねる」と言ってくれた家族もいました。昨年秋10周年の記念式をしました。 今は充実した施設の中で、行き届いた医療と介護を受けて、恵まれた生活を送らせて頂いています。20歳までは生きられないと言われた娘も、児童院の先生方や家族に看取られ、52歳で安らかに旅立っていきました。 この50年間で重症心身障害児(者)を取り巻く医療・福祉・教育の施策は大きく進展しました。これもひとえに社会の方々のご理解とご支援があったればこそと感謝しています。 私もこれからの人生をNPO法人ゆずり葉の会理事長として、子どもたちを見守ってまいる決意です。 略歴 1967年7月 娘(直美)、旭川児童院入所/1969年4月 旭川児童院保護者会副会長/1990年4月 全国重症心身障害児者を守る会岡山県支部副会長/2001年4月 岡山市介護相談員(2011年3月退任)/ 2005年4月 岡山市社会福祉協議会生活支援員(2015年5月退任)/2006年4月 旭川児童院家族会会長/2007年4月 旭川荘家族会等連絡協議会副会長/2009年4月 特定非営利活動法人ゆずり葉の会理事長/2016年4月 旭川荘理事/2016年4月 旭川荘友の会理事 他に全国重症心身障害児者を守る会評議員
市民公開講演 ファッションショー
  • 2019 年44 巻2 号 p. 329
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    協力:学校法人第一平田学園 中国デザイン専門学校 今回のファッションショーを企画するにあたり、まずはじめに、地元岡山・倉敷の「ジーンズ」が頭に浮かびました。日頃、身体や生活に合ったおしゃれを楽しむことや出かけることが難しい重症心身障害者の方が、ちょっとおしゃれをしてお出かけしたくなるような、カジュアルファッションをイメージして構成しました。この思いに賛同してくださった中国デザイン専門学校は、国内でも珍しくファッションデザイン科にデニムジーンズ専攻コースを有しており、より専門的な技術やアイデアでご協力いただきました。 3名の出演者やご家族には、「おしゃれ」についておたずねしましたので、そのコメントをもとに今回の出演者をご紹介します。なお、実名でのご紹介については、ご家族の承諾をいただいています。 坂万優子さんは、ピンクや淡いパープル系の色が好みで時々スポーティーな服も着ますが、基本的に可愛らしいデザインのものが好きです。レギンスや短パン、スカートもよく着ています。最近はお姉さんの結婚式におしゃれをして出席したり、成人式ではドレスを着たりして、特別な日のおしゃれも体験しました。髪型はお姉さんお勧めのボブヘアーですが、お出かけの時にはセットしてアレンジしたりして、トータルなおしゃれも考えています。 池田千鶴さんは、小柄ということもあり、水玉やフリルのついた可愛い系の服が好みでした。最近では、「いまどき女子」の服に挑戦したり、外出するときは、ガラッと雰囲気を変えて大人っぽい服を着たりすることもあります。歌や音楽が好きで、曲に合わせて笑顔でリズムをとる姿が「かわいい、かわいい」といわれますが、おしゃれをすると、さらに皆から「かわいい」と言われるので、おしゃれすることは大好きです。 宮木俊輔さんは、在宅で暮らしながら、通所事業所に通っています。医療的ケアが濃厚で、変形も強いので、着る服装は限られますが、おしゃれは大好きです。お母さんと一緒にその日に着るTシャツやポロシャツを選ぶことから朝がスタートします。また、車椅子はどんな服装でも素敵に見えるように、フレーム以外は全て黒で統一しています。好きなことはたくさんありますが、出かけて行く先々で、人と出会うことが何より大好きです。「かっこいい!」という言葉をかけてもらうととても嬉しいですが、中でもお祖母さんがいつも体をさすりながら掛けてくれる言葉が最高に嬉しいです。「俊ちゃんは、つらいこともいっぱいあるじゃろうに、心がきれいじゃから、いつも満面の笑顔でおれるんじゃなぁ。この笑顔がみんなに元気をくれて、幸せにしてくれとる。えらいなぁ。一番かっこいい!俊ちゃんは、かっこいい生き方をしとるよ」。 中国デザイン専門学校の先生方や学生の皆さんは、何度も施設に来てくださり、出演者の生活の様子や車椅子のこと、介護のことも考えて、一人ひとりの「おしゃれ」のためのデザインを提案してくださいました。機能的な面からのちょっとした工夫やカジュアルファッション特有の面白さをお伝えできたらと思います。また、それらを着こなしているモデルの表情もご覧下さい。 担当:旭川荘療育・医療センター 出演者(敬称略50音順) 池田 千鶴 坂 万優子 宮木 俊輔
ランチョンセミナー1
  • 徳光 亜矢
    2019 年44 巻2 号 p. 330
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    ①重症児(者)の栄養の考え方 重症児(者)における適正な摂取熱量や栄養素は、年齢や身長、体重によって簡単に決められない。同じ年齢、同じ体重であっても、個々の障害の重さや呼吸状態、筋緊張、移動能力などによって、必要な熱量が異なることはよく知られている。また同じ人であっても、炎症、褥瘡、骨折の有無といった健康状態によって、必要な熱量や栄養素の量は異なる。同じ熱量の食事でも形態によって摂取熱量や消費熱量に違いが出ることがある。例えば、流動食では食塊形成がしにくく口から食べ物が出てしまう人の食形態を、まとまりやすいものに変更すると、提供する食事をほぼ摂取できることがある。食事に使用するトロミ剤の熱量のために、意図しない体重増加を招くこともある。筋緊張が強い場合、嚥下しにくい食形態だと、食事に費やす熱量が無視できないほど大きいこともある。 少なくとも「その人にとって悪くはない」食事とは、成人であれば大幅な体重の変動がなく、感染症の罹患や褥瘡の発生の頻度が少ない、あるいは罹患しても重症にならずに回復し、血液検査上の栄養評価項目に異常がない状態を維持できるものと考えている。小児であれば、年齢相当の成長に必要な栄養を摂取しなければならない(GHの分泌が十分ではない場合はこの限りではない)が、過剰な熱量摂取は体重増加やそれに伴う呼吸障害を来すこともある。 ②熱量・タンパクの不足 重症児(者)における経口摂取の場合、体重を増やしたくても食事量を増やすことが困難である場合が少なくない。提供する食事の一部を高カロリーのものに替える他、少量摂取で熱量とタンパク質が補えるような栄養補助飲料や、タンパク合成に必要なロイシンを多く含有する栄養補助飲料を補食として用いる方法もある。 経腸栄養では、そもそものタンパク摂取量が不足していることがあるので、MCTやカルニチンを含有した濃厚流動食や栄養補助食品を利用し、効率のいいタンパク合成を促す。また感染症罹患時であっても安易に絶食にせず、高濃度の経腸栄養剤や吸収のいい経腸栄養剤などを利用して少しでも経腸栄養を続け、タンパクの保持につとめることが大切である。 ③栄養素の不足 鉄、亜鉛、銅、カリウム、カルニチンなどの栄養素は、経腸栄養の場合だけでなく、経口で通常の食事を摂取していても不足する場合がある。鉄欠乏性貧血は、原因として胃食道逆流のほかに、消化器の悪性腫瘍も考える。亜鉛は普段の血中濃度が極端に低くなくても、骨折や褥瘡などに伴い消費量が増加し欠乏症になることがある。銅は、通常の食事摂取で発症することはないが、吸収において亜鉛と競合することが知られており、亜鉛補充時に欠乏することがある。カリウムは、便秘のために頻回の浣腸を行う場合や下剤を調整し泥状便が続くようになった場合などに、腸液からの喪失により欠乏することがある。カルニチンは、バルプロ酸やピボキシル基を有する抗生剤の投与を行った場合に欠乏することがある。どちらも重症児(者)ではよく使う薬剤であり、注意が必要である。 経腸栄養の場合は、使用する経腸栄養剤や濃厚流動食によっては上記の栄養素に加え、ヨウ素やセレン、各種ビタミン、ナトリウムなどの栄養素が不足する可能性がある。経腸栄養剤や濃厚流動食は1000kcal/日を摂取することで、主要な栄養素が充足できるように設計されているものが多い。経腸栄養を行う重症児(者)は摂取エネルギーが800kcal/日未満であることも少なくないことから、必然的に摂取する各栄養素も少なくなり、欠乏をきたす。鉄、亜鉛、カリウム、カルニチン、ヨウ素、ビタミンなどは薬剤投与によって補充することが可能だが、銅やセレンは補充のための薬剤がなく、院内で調剤したものを用いるか、栄養補助飲料などで補充する。 当日は、当園で経験した症例の提示も行う予定である。 略歴 出身地:神奈川県逗子市(県立横須賀高校卒業) 1993年3月 旭川医大卒/同年4月 旭川医大小児科入局/1995年5月 深川市立病院小児科/1996年4月 富良野協会病院小児科/1997年4月 北海道療育園/2015年4月 北海道療育園 診療部長 専門医:日本小児科学会専門医
ランチョンセミナー2
  • 玉村 宣尚, 森 惠子
    2019 年44 巻2 号 p. 331
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    長鎖脂肪酸からのエネルギー産生にカルニチンは必須である。 カルニチンは1905年に発見され、1960年代からはその生理作用について数多くの研究がある。一方、本邦では2018年にようやく血中カルニチン2分画検査が保険適応となり、カルニチン欠乏症を診断できるようになった。 「カルニチン欠乏症の診断・治療指針2018」では重症心身障害児(者)がカルニチン欠乏を生じやすいと指摘されている。特にバルプロ酸の服用でカルニチン濃度低下による高アンモニア血症を発症するリスクがある。 本セミナーでは重症心身障害児(者)におけるカルニチン欠乏症の診断や治療について当院での実態を報告し解説する。 略歴 2001年 京都府立医科大学卒業 京都府立医科大学小児外科、舞鶴医療センター小児外科などを経て 2008年より 国立病院機構兵庫あおの病院 小児外科医長
ランチョンセミナー3
  • −適正な栄養管理を目指して−
    田中 芳明
    2019 年44 巻2 号 p. 332
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    長期入院患者では、年齢を問わず安静に伴い骨格筋が廃用萎縮に陥るなど、栄養学的リスクが存在する。さらに外傷や感染症などの炎症、手術、化学療法などの侵襲が加わると生体内で糖新生が加速し、これに伴い蛋白の異化が亢進して身体機能の低下に伴う転倒や創傷治癒遅延、嚥下機能、免疫能の低下による誤嚥性肺炎などが惹起される。殊に長期の経管栄養管理を要する症例では、栄養剤の組成による生体への影響も考慮する必要がある。従って栄養評価を実施し、それに基づく適正な栄養療法の実践が病態の改善に貢献するだけでなく、種々の合併症のリスクを低減するうえで重要となる。 たんぱく質の投与意義としては、骨格筋量の維持・回復、サルコペニアの予防、創傷治癒の促進、免疫能の維持・強化による感染予防が挙げられる。「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書では、高齢者のたんぱく質の推定平均必要量、推奨量は若年成人との差は認められず、たんぱく質摂取量が減少している高齢者はフレイルティが高度となることが指摘され、たんぱく質の補給量に配慮する必要性が報告されている。長期臥床を余儀なくされる重症心身障碍者もPEMやフレイルのリスクは高い。筋肉を構成するたんぱく質のうち約20%がBCAAであり、ことにロイシンは蛋白合成促進・分解抑制に中心的な役割を果たすため、BCAAリッチな栄養剤などが有用と考えられる。 カルニチンはミトコンドリア内における長鎖脂肪酸代謝の必須因子で、ミトコンドリア内で産生される有毒なアシル化合物の細胞外への排出も担う。併用薬剤による影響としては、抗てんかん薬、ピボキシル基を有する抗菌薬、抗腫瘍薬などでカルニチン欠乏症の報告がある。重度心身障害者では長期の経腸栄養や抗けいれん薬、抗菌薬の使用を余儀なくされる場合が少なくなく、欠乏のリスクは大きい。欠乏症では低血糖やけいれん、ミオパチー、肝機能異常、高アンモニア血症などが認められる。カルニチンの他にもセレンやヨウ素の欠乏症、過剰症にも注意が必要で、特に長期の経腸栄養管理や血液透析、慢性炎症下において、これらの欠乏症の報告が散見される。 最後に、腸管免疫能や腸内細菌叢、食物繊維と短鎖脂肪酸の役割について概説する。小腸は栄養素の消化吸収を行うとともに、人体最大の免疫臓器として重要な役割を担う。加齢に伴い腸内細菌叢は変化し、いわゆる善玉菌は減少、悪玉菌が増加する。その結果、慢性炎症や悪性腫瘍、うつ病の発症などとの関連も報告されている。また、生体に影響を与える成分として短鎖脂肪酸の短鎖脂肪酸レセプターを介する生体作用についても言及する。さらに、乳酸菌などによる腸内フローラ改善(整腸)作用は周知の事実であるが、腸内フローラに影響を及ぼさない乳酸菌などの加熱殺菌体による免疫賦活、老化制御など生体調節作用(バイオジェニックス)等も報告されつつあり、一部紹介する。 以上、経腸栄養のリスクマネジメントについて概説する。 略歴 1982年 久留⽶⼤学医学部 外科学第1講座⼊局/1994年 同⼩児外科 講師/2000年 久留⽶⼤学病院NST運営委員会代表幹事/2007年 同 医学部外科学講座⼩児外科部⾨准教授/2011年 久留⽶⼤学病院 医療安全管理部副部⻑/2012年 同 医療安全管理部部⻑ ⼩児外科部⾨教授/2016年 同 副病院⻑ 栄養治療部部⻑ 【所属学会】 ⽇本臨床栄養学会 理事、評議員/⽇本静脈経腸栄養学会 代議員/⽇本⼩児外科学会 評議員/⽇本外科代謝栄養学会 評議員/⽇本栄養材形状機能研究会 世話⼈ ほか 【資格】 ⽇本外科学会 指導医、専⾨医/⽇本⼩児外科学会 指導医、専⾨医/⽇本臨床栄養学会 臨床栄養指導医/国家公務員共済組合連合会「第5回医療安全管理者研修全コース」修了 ほか
ランチョンセミナー4
  • 岩津 聖二
    2019 年44 巻2 号 p. 333
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    クラウド・コンピューティングは世界中で「新たな価値の創造」を始めています。 これは、エネルギー分野でのスマートグリッドや交通・通信分野でのプローブ情報ネットワークに代表されるように「ICTを通じて多くの情報を結びつけ、サービスとして価値を提供する時代」の到来です。 医療分野においても、今般、地域医療ネットワークに参画する施設として検査機関や調剤薬局、健診、介護施設などを加え、サービスの拡大が図られています。今後は地域の経年的な疫学調査や、健康期の情報との融合など、さらなる利活用が期待されます。 一方、このような様々な情報の連携、融合のためには、共通基盤の進展が望まれるところです。 例えば医療、介護、健診の個人のデータを統合するには、個人の共通IDのための仕組みが必要です。また、医療と介護の連携を考えるうえで、保険制度の改善施策も望まれます。このような政策的な展開も見据えながら、ヘルスケア分野での最新のICT利活用について事例を踏まえながら紹介いたします。 略歴 ・1993年 富士通株式会社入社  本社医療営業部配属。オーダリングシステムなどの製品企画と全国プロモーションを担当。 ・2007年 東北支社へ異動  東北地区のHISのアカウント営業を担当。 ・2012年 ヘルスケアビジネス販推部門へ異動。  電子カルテ・地域連携システム、健康情報などの製品企画、全国プロモーションを担当。 現在、富士通株式会社ヘルスケアビジネス推進統括部第二ヘルスケアビジネス推進部 部長(兼)エバンジェリスト、地域医療ネットワーク研究会 事務局、JAHIS 標準化推進部会普及推進委員長を務める。
ランチョンセミナー5
  • −早期治療の重要性−
    古城 真秀子
    2019 年44 巻2 号 p. 334
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    ライソゾームは細胞内小器官の一つで体の中の老廃物を酵素の働きで分解するいわゆる生体のごみ処理場である。ライソゾーム病(lysosomal storage disease:LSD)はライソゾーム酵素が先天的に欠損しているため老廃物の分解が滞り、中間代謝産物がライソゾーム内に蓄積するためライソゾームが肥大化し細胞機能障害を生じる進行性の先天代謝異常症である。LSDは現在60以上の疾患が知られており、そのうち約2/3は神経症状を呈する。 近年LSDに対し遺伝子組み換え酵素製剤が発売され酵素補充療法(Enzyme Replacement Therapy:ERT)を行うことにより症状および予後の改善が期待されている。ERT可能なLSDはゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis:MPS)Ⅰ型、Ⅱ型、ⅣA型、Ⅵ型の7疾患である。 ゴーシェ病はグルコセレブロシダーゼ遺伝子異常によりグルコセレブロシダーゼ酵素活性の低下を生じグルコセレブロシドがマクロファージに蓄積することによって発症する。またゴーシェ病の神経症状はグルコセレブロシドのリゾ体であるグルコシルスフィンゴシンの脳内蓄積により発症する。ゴーシェ病は神経症状の有無と重症度によりⅠ、Ⅱ、Ⅲ型に分類され、Ⅰ型は神経症状を伴わない病型で血小板減少、肝脾腫、骨症状を呈する。Ⅱ型は新生児期から乳児期に発症し、主に精神運動発達遅滞、筋緊張亢進、ミオクローヌスなど神経症状が早期に出現し、また急速に進行する。Ⅲ型はⅡ型より発症年齢が遅く進行速度もⅡ型より緩徐である。Ⅱ型とⅢ型を合わせて神経型ゴーシェ病と分類される。 ファブリー病はα‐ガラクトシダーゼA(α- galactosidase A:GLA)の遺伝子異常によりGLA酵素活性の低下を生じ、グロボトリアオシルセラミド(globotriaosylceramide: Gb-3)が血管内皮細胞、平滑筋細胞、汗腺、腎臓、心筋、自律神経節、角膜などに蓄積することによって発症する。GLA遺伝子はX染色体長腕に存在しファブリー病はX連鎖遺伝形式をとる。臨床症状や臓器障害、性別により学童期までに発症する古典型、遅発型、ヘテロ接合体女性患者に分類され、さらに遅発型は心亜型と腎亜型に分類されることもある。臨床症状はGb-3の蓄積しやすい血管、腎、心、神経、眼などに発現するが古典型の特徴的な症状として四肢末端痛、低汗症、被角血管腫、若年性脳梗塞を呈する。 ポンぺ病(別名:糖原病Ⅱ型)は酸性α‐グルコシダーゼ(acid α–glucosidase:GAA)の遺伝子異常によりGAA酵素活性の低下を生じライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積する。臨床的に乳児型と遅発型に分類され、重症型である乳児型では心筋ならびに骨格筋にグリコーゲンが蓄積することにより心肥大、筋力低下を伴うfloppy infantとして発症する。 MPSではムコ多糖(グリコサミノグリカンglycosaminoglycan:GAG)の分解に必要なライソゾーム酵素が10種類以上存在し、欠損している酵素のちがいにより7つの病型に分類されるがERT可能なMPSはⅠ型、Ⅱ型、ⅣA型、Ⅵ型である。GAGは全身組織に分布するが、特に軟骨、皮膚、靭帯に多く存在するため骨関節の変形、関節拘縮(ⅣA型では過伸展)、特異顔貌、異所性蒙古斑を呈する。また神経症状として難聴、知能障害、角膜混濁、水頭症、頸髄の圧迫による四肢麻痺などを呈する。 酵素製剤は高分子であり血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)を通過できないため、ERTは神経症状の改善には乏しいことが報告されているが、兄弟・姉妹発症例では早期診断・早期治療が可能であり神経症状を含むさまざまな症状が出現する前にERTを開始することで、症状および予後の改善が認められる。ライソゾームはほとんど全ての細胞に存在するためLSDの症状は多岐におよび、症状が出現する前に疾患を疑い診断することは困難であることも多い。しかしERTが開始され、早期治療により長期予後が改善される可能性があり、治療可能なLSDの早期診断のため、新生児マススクリーニングの対象疾患の候補と考えられている。兄弟・姉妹症例のため比較的早期にERTを開始することのできた実際の症例を紹介しLSDに対する早期治療の重要性を概説する。 略歴 氏名: 古城 真秀子 (ふるじょう まほこ) 生年月日: 1966年4月18日 所属: 独立行政法人 国立病院機構岡山医療センター小児科    〒701-1192 岡山市北区田益1711-1 TEL:086-294-9911 FAX:086-294-9255 学歴・職歴: 1993年 国立浜松医科大学医学部医学科卒業/1993−1997年 岡山医療センター小児科(旧国立岡山病院)研修医/1997年− 岡山医療センター小児科常勤医/2018年− 岡山医療センター小児科医長 専門:先天代謝異常/小児内分泌/新生児マススクリーニング
ランチョンセミナー6
  • 石田 雄介
    2019 年44 巻2 号 p. 335
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    消化管に味覚センサーが発現していることがわかってきています。 味もわからないのに味覚センサー?と思われるかもしれません。 胃瘻からなら、流動食でもミキサー食でも同じなのでしょうか? 経験的に患児にはミキサー食のほうが喜ばれるそうです。 手足をバタバタさせて喜ぶ仕草をしたり。 また下痢が改善されたりするそうです。 さらに完全流動食とは違って、キザミ食は天然由来のものから作られるためか肌がつやつやになるとか。 なぜでしょうか。 本セミナーでは、この予想される回答に関しまして、     1.腸の進化     2.味覚学習     3.内臓感覚  の3つの視点で考えたいと思います。 特に中心となりますのは3.内臓感覚です。 せっかくの口頭発表ですので、これまでの報告だけでなく追加の情報やオリジナルデータも交えて話させて頂きたいと存じます。 完全流動食は使いやすいと思います。いっぽうミキサー食は手間がかかりますが、これを機会に時にはミキサー食もよいと思って頂ければこれ以上の幸いはございません。 略歴 1998年3月 名古屋市立大学 医学部 医学科 卒業(学士(医学)) 1998年4月 医師免許取得 1998年4月 名古屋市立大学附属病院 研修医(耳鼻咽喉科) 1999年4月 名古屋市立大学大学院 医学研究科 外科系専攻 入学 2003年3月 同 修了「博士(医学)」の学位を取得 2005年4月 名古屋市立大学大学院 第二解剖学講座 分子形態学 助手 2007年4月 同 助教 2009年9月 大阪大学大学院 医学系研究科 第一解剖学講座 助教 2009年10月 大阪大学大学院 医学系研究科 第一解剖学講座 学内講師 2010年9月 大阪大学大学院 医学系研究科 第一解剖学講座 講師 2016年9月 東北医科薬科大学 医学部 解剖学教室 准教授 2019年10月 同 組織解剖学教室 教授 就任予定
自主シンポジウム
  • −「訪問カレッジ」・「秋津・欅大学」の取組−
    飯野 順子, 山本 景子, 梅垣 富美
    2019 年44 巻2 号 p. 336
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    花が咲くイメージの令和、未来に向かって咲かせたいのは、生涯にわたって学び続ける「喜びの花」である。2019年3月文部科学省は、報告書「障害者の生涯学習の推進方策について」を出した。提言は、いつでも、どこでも、だれにでも、生涯学習の尊重である。 重度・重複障害者にとっての学習は、人や社会とのつながりを持つ上でも大変重要なものである。本人や保護者、支援者には、学校に就学している間にできていた学習や周りの人との交流を卒業後も継続したいとの希望が極めて強いことも念頭に置いて、学びの場づくりを進める必要がある。 【取組1 訪問カレッジ@希林館】 医療的ケアを必要とする在宅の方の訪問学習システム 1.目的:障害や重い病気のために、通所施設等の毎日の利用が難しい18歳以上の障害者の自宅等へ学習支援員を派遣し、豊かな地域生活を目指した生涯学習を支援する。 2.対象:令和元年度17名(人工呼吸器使用11名)在宅11名 病院2名 施設入所2名 3.学習内容:①運動動作、②音楽、③意思伝達装置(iPad・視線入力)の活用、④創作等 4.授業等:原則 週1回 前期・後期(8月と3月は休業月) 授業料 年間・1万円 【取組2 秋津育園「欅大学」】 ライフステージに応じた利用者のニーズに応えるシステム 1.目的:①表出や運動など様々な能力を最大限に発揮できる ②集団の中で同世代の仲間をお互いに意識して一緒に活動できる 2.対象:入所者 19歳~29歳 10名 職員構成:看護師1名 支援員:2名 訓練士:3名 3.プログラム:始めの会 準備体操・口腔機能訓練 姿勢変換 活動 終わりの会 4.年間プログラムを作成、2018年度の専攻科目は音楽。評価表を作成し、個別に評価する。 【提言~生涯にわたる学びのシステムを拡充するための課題を考える】 1.大学等の要件は、シラバス、評価、単位の修得であると考える。日中活動を整理し、見直しの視点を提言する。  2.療育とは何か、日中活動とは何か、その取組を明確にして、これからの入所施設の在り方を考える。
  • 平井 孝明, 金子 断行
    2019 年44 巻2 号 p. 336
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の健康的な生活向上のため、新たに下記2つのアプローチを紹介し、多面的な理学療法アプローチの可能性を追求したい。 1)重症児(者)の呼吸障害は、気道通過障害・胸郭呼吸運動障害・中枢性・未成熟性が複雑に混同して生じる。この内、上気道の通過障害では、鼻腔周囲筋群の緊張異常、アデノイド肥大などの上咽頭(鼻咽頭)狭窄、下顎後退・舌根沈下等による中咽頭狭窄等を呈する。多くのケースは口鼻呼吸の未分離による鼻呼吸の未発達や、顎関節の可動性低下や拘縮をきたし下顎挙上・前推が困難となる。上気道通過障害には、これまで鼻咽頭エアウエイ、下顎挙上、各種ネックカラー、座位保持装置での顎枕、ポジショニング、下顎前垂、耳朶からの顎関節モビリゼーションなどで対応されていた。今回は新たに上気道通過障害に対し鼻腔周囲筋群(上唇鼻翼挙筋、鼻根筋、前頭筋など)へのアプローチにより鼻腔開大させる上咽頭(鼻咽頭)狭窄の改善、顎関節症のアプローチを応用した内側外側翼突筋、咬筋、側頭筋等への介入、舌根沈下の一因である舌根部の過緊張緩和、による中咽頭狭窄の改善、これらは頭頸部制御発達と密接に関連するので頸部アライメント整調も併せて言及する。以上のように上気道通過性障害呼吸障害を僅かでも改善させる試みを報告する。 2)重症児(者)の示す閉塞性・拘束性の呼吸障害、誤嚥や感染に伴う気管支炎・肺炎等の呼吸器疾患、胃食道逆流症・便秘・下痢・腸閉塞等の消化器疾患、浮腫・褥瘡等の循環障害の多くは、特異的運動発達に伴う二次障害としての筋・骨格系の異常である脊柱側弯変形、股関節脱臼が主要原因となって引き起こされ、児の健康で快適な生活と社会参加を脅かしている。生物進化を移動様式の変化と捉えれば、系統発生においてヒトは四つ這いから直立二足歩行により垂直軸で重力を受けることで生理的均衡を維持するように分化した。個体発生においては、この変化の中で運動機能が発達し、呼吸機能・循環機能・消化吸収機能・排泄機能を含めた内臓機能が最も効率的に働く。 内臓機能は血流により連結され全体的に協調して機能をしているが、その前提として直立姿勢の保持と二足歩行能力の獲得が大きく影響する。今回、運動機能の発達が呼吸機能、循環機能、摂食嚥下・消化吸収機能、免疫機能等に与える影響について述べ、重症心身障害児の示す運動障害に対して、二次障害予防のために我々理学療法士はどう対応したら良いかについて、臨床経験の中から提案したい。
  • −重症心身障害児(者)が医療から卒業していくために−
    直井 寿徳, 中島 愛, 菅沼 雄一
    2019 年44 巻2 号 p. 337
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))が外に出ていくことは、その子とその家族にとってかなりハードルが高く感じているように思われる。そしてバリアフリー、ユニバーサルデザインと言われているがまだまだ環境も優しくないことが多い。 また、その子とその家族が、ライフステージに合わせて自分たちの生活や人生を具体的に考え、どんな支援が必要かを選択したり、医療から福祉へ転換していくなど上手に出来ている家族を見ることも多くない。 そしてセラピストも同様で、いつまでも機能訓練を迷うことなく行い、どのように生活していくか、何を楽しみにしていくかなどに関心を向けていくことが少ないように感じる。 そういった中で、令和に入ってすぐに京都で行われた、第28回パラアーティスティックスイミングフェスティバルに東京の重症児(者)のチームが出場した。 その報告をしながら、重症児(者)が外に出ていくための用意や、気持ちの持ちようや、そもそもの考え方、出場したことでの変化や周りへの影響、バリアだらけの町など、理学療法士、障害のある子たち・その家族とプール活動をするばしゃばしゃ戦隊アクアレンジャー、障害のある子たちと外出をたくさんしているボランティアという視点からお話しする。 そしてこのシンポジウムをきっかけに、重症児(者)とその家族がたくさん外に出て、より良い人生を送れるようになること、サポートしようという学会員がたくさんできることが一番の目的である。
  • −岡山県における保育園受入れの実際から−
    植田 嘉好子, 村下 志保子, 松本 優作, 江田 加代子
    2019 年44 巻2 号 p. 337
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    医療的ケア児は全国に約1.8万人いると推計され、新生児医療の進歩等によりこの10年間で2倍に増加している。医療的ケア児とは、喀痰吸引や人工呼吸器、経管栄養などの医療的ケアを常時必要とする児童を指し、重症心身障害児も、知的障害や肢体不自由を伴わない児童も存在する。つまり障害福祉サービスが利用できない医療的ケア児も存在し、このような児童は法の谷間に取り残され、家族の昼夜問わない介護の負担や社会的孤立が指摘されている。 ノーマリゼーション理念の浸透や障害者差別解消法の後押しもあり、障害の程度に関わらず、医療的ケア児の一般の保育所や認定こども園への入園希望も高まっている。そこで本シンポジウムでは、医療的ケア児とその家族が社会から排除されることなく包摂(インクルージョン)されるよう、保育所における安心・安全な受入れの人的・物理的な条件整備と制度のあり方を検討する。特に岡山県内においては、ここ数年の間で「医療的ケア児」の保育園受入れが進み始めたところであり、その現場実践と関連する制度の運用に焦点を当てて議論していく。 最初の話題提供として、地域の療育センターで相談支援業務を行ってきた立場から、医療的ケア児が地域で生活する際の課題等、岡山県の医療的ケア児の実態について報告する(村下)。次に医療的ケア児の保育園受入れに関する研究動向を大学関係者より発表する(松本)。加えて、医療的ケア児を受入れている保育園の立場から園での日常的な保育の実際と課題等について実践報告を行う(江田)。最後に医療的ケア児の保護者から、保育園の利用によって子どもや保護者の生活がどう変わったか、今後何を期待するかという率直な思いを聞いた結果を報告する(植田)。 本シンポジウムを通して、介護負担の軽減とQOLの向上を図るだけでなく、医療的ケア児自身の成長・発達が社会から断絶せずインクルーシブに実現されるための示唆を得ることを目指す。
  • 河俣 あゆみ, 市原 真穂
    2019 年44 巻2 号 p. 338
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    医療のめざましい発展や社会の千変万化する価値観の多様性は、重症心身障害児(者)(以下、重症児)の「生きかた」に影響を与えている。重症児は、気管切開や人工呼吸器の装着などの新たな医療的ケアの導入や、延命・救命処置の選択を求められる重要な局面が生涯のなかで幾度となく訪れる。このような重症児が生活する場所は、家庭や教育機関、通所や放課後等デイサービスなど地域全体に広がっており、様々な機関の看護師が重症児にかかわることが増えている。 その一方で、看護師は重症児の看護に困難感を抱いていることが先行研究によって明らかにされている。これは、重症児の意思を読み取ることは難しく、その判断基準は看護師によって異なっていて曖昧であることや、重症児看護には暗黙知という看護の技の継承文化があるために、ケアの根拠が言語化されてこなかったことも影響していると考える。 重症児にかかわる看護師が看護倫理を考えることは、重症児の意思や人生をどのように捉え、そこに看護師がどのようにかかわっていくかを考えることである。「障害」に対しての価値観が多様化し、大きく流動している今だからこそ、重症児が主体的に「生きていく」ための看護倫理とは何かというテーマに、今一度真摯に向き合うことが必要である。 本シンポジウムでは、重症児の看護に携わっている小児看護専門看護師がそれぞれの立場から、重症児に対する看護倫理の考え方、重症児の権利を擁護するための実践や看護管理、看護学生や看護師に対する看護倫理教育や研究のあり方等を話題提供する。ディスカッションをとおして、重症児の「生きていく」を支えるための看護倫理とは何かを参加者と共に考えていきたい。 <COI開示> 「小児看護2019年5月号(総特集号:重症心身障害児(者)の看護倫理)」(株式会社へるす出版社発行)を基に発表内容を構成しているが、本シンポジウムに関する報酬等は一切受けていない。
  • 平野 大輔, 勝二 博亮, 谷口 敬道
    2019 年44 巻2 号 p. 338
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)と関係を築いていこうとする際、児(者)のことを分かろうとする姿勢が強く求められる。それは、重症心身障害児(者)の応答性としての表出は小さく分かりにくいことが多く、誰もが目に見える形で表出されるとは限らないためである。このような児(者)に対して、私たち、療育者は、家族や多職種の情報、発達歴、自らの関わりに基づく個人的な印象から端を発し関わりを持つ。児(者)の応答性は、力動感を伴うわずかな印象であることが多いことから、複数の療育者も確認しながら、その応答を事実として受け止め療育の手立てとする。 このような児(者)の応答を明確化する試みとして、ビデオ解析や視線解析、心拍変動や発汗等の自律神経機能の解析、事象関連電位を中心とした脳波解析、近赤外分光法を用いた脳血流動態の解析等が行われてきた。得られた測定結果を家族や療育者が知ることによって、家族や療育者の関わりが児(者)に影響を与えていることを実感する機会となり、また、特定の応答を認めた場合は、表情や動作から変化を読み取ることができない場合であったとしても関わりに対する自信の無さを解決する一助となってきた。日常的に観察されている印象と上記の方法等を組み合わせることにより、児(者)に適当とされる療育方法を選定できる可能性があると考えられる。 本シンポジウムでは、作業療法士の平野がこれまでの上記に関する報告と自らの取り組みを紹介し、勝二が学校(訪問教育を含む)や家庭の現場において児(者)の応答性をどのように知り、どのように支援に役立てているかを報告する。最後に作業療法士の谷口が原初的コミュニケーションおよび関係発達の視点から、どのような測定手法が開発されても変わらない児(者)との関わり方について提言する。 本シンポジウムを通し、これまで以上に重症心身障害児(者)の応答性を知っていくための心構えと具体的手段を知る機会にしたい。
一般演題
  • 吉永 治美, 井上 美智子, 水内 秀次, 産賀 温恵
    2019 年44 巻2 号 p. 339
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)施設にはてんかんを合併した患者が多く入所している。しかし、施設内で働く医療者のてんかんに対する専門知識は乏しく、発作が日常的に見過ごされていたり、一方では過剰なダイアップの使用がされていたり多くの問題が存在する。 南岡山医療センターの重症心身障害病棟で勤務を開始して2年間で経験した問題症例を提示し、重症心身障害児(者)施設におけるてんかん診療の問題点を以下のよういまとめる。 1)ほとんど全ての患者のカルテ病名は脳性麻痺とされているが、中には結節性硬化症、Ring 22、DRPLAなどてんかん発作が難治化しやすい基礎疾患の人が隠れている。そこで基礎疾患を加味したオーダーメイドのてんかん治療は行われ難い。 2)てんかん性スパズム、ミオクロニー発作などのいわゆる小発作のすべてが瞬間発作として一括の上軽視されており、発作の報告、観察が行われない。ビデオ脳波検査を行うことで、2年間で3例の非けいれん性重積状態を繰り返している患者を発見した。 3)全身けいれん発現時も上記の小発作の頻発時も、全て同じように安易にダイアップが使用され、発作時、挿入後、いずれも観察が不十分である 4) 小児期のてんかん専門医から施設に至るまでの移行を繰り返すうちに、発作の変容や薬の有効無効の歴史が不明になり、同じ処方が続けられている。またはむやみに新薬が加えられている。 重症心身障害児(者)のてんかんの治療においては、施設に入所する前のてんかん専門医による先を見据えた治療と、施設への仔細な情報提供のが必要である。そして施設と医療機関の医療連携、施設内における医療従事者へのてんかんに対する知識の伝達、教育の必要性を強調したい。 申告すべきCOIはない。
  • 内山 素子, 小西 徹
    2019 年44 巻2 号 p. 339
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    はじめに  重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、てんかんの合併が多い。しかし、異常筋緊張亢進や不随意運動など、てんかん発作と紛らわしい症状を呈する事も多く、その観察は難しい。そこで、重症児(者)のてんかん発作の特徴および観察の要点を明確にすることで、臨床の場でてんかん発作の観察をしやすくなると考えた。 対象・方法  てんかんの診断で内服治療中の28名を対象とし、過去3年間の発作回数,発作出現時間,発作症状(発作型分類)を調査した。その後、脳波上の突発性異常波と比較し、てんかん発作の確認をした。 結果  発作症状を観察したのは18名(64%)であった。発作出現時間は起床直後の午前8時頃が最も多かった。発作症状は、全身を強直させる全般発作1名で、眼球や頭部を側方に回転させる等の部分発作を17名で認めた。部分発作はほとんどが運動発作で、前頭葉由来の発作であった。側頭葉由来の意識減損・動作停止発作などは観察できなかった。脳波上に突発性異常波を認めたのは21名(75%)で、すべて焦点性異常波であった。前頭部棘波8名,側頭葉棘波1名,頭頂部棘波1名,複数の焦点性棘波10名、多焦点性棘波1名で、脳波上の二次性全般化は3名であった。なお、今回発作が観察されなかった10名のうち7名では脳波上に突発性異常波を認めた。  考察  重症児(者)のてんかん発作は運動発作(前頭葉由来の発作)がほとんどであった。これは元々前頭葉発作が多い、または、運動発作が観察しやすいためと思われる。側頭葉由来の意識減損・動作停止などの発作は見逃されていた可能性もある。このような静かな発作は定期脳波検査から突発性異常波出現部位と、そこから予測される発作症状を予め明確にして観察する事が重要と考える。また、異常筋緊張亢進や不随意運動との鑑別については、出現時の状況,症状の経過,意識の有無などの詳細な臨床観察が重要と考える。 申告すべきCOIはない。
  • 大津 真優, 大谷 ゆい, 永田 智
    2019 年44 巻2 号 p. 340
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    要旨 てんかん発作のある重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))と保護者の生活状況と、保護者のてんかんの治療に対する考えを知る目的で、年に1回以上てんかん発作があり、当園を利用されている47名を対象にアンケート調査を行った。37名から回答が得られた。現在のてんかん治療に満足している人は38%、満足していない人は35%であった。てんかん治療で特に重要と考えているのは、「発作の頻度が少なくなること」であった。発作症状で最も困っていることは、「発作後の疲れ、眠気」と「夜間睡眠中の発作」であった。薬の副作用で最も困っていることは、「眠気」であった。医療機関の受診で困っていることは、「交通手段」が最も多かった。68%の人が、「児のてんかん発作が自身の体調に影響していると感じる」と答えた。自由記載欄では、長期にわたって抗てんかん薬を多剤内服することへの不安が最も多かった。重症児(者)のてんかん治療では、保護者と主治医の間で、綿密なコミュニケーションをとることが重要と考えられた。 キーワード:重症児者、てんかん、アンケート 申告すべきCOIはない。
  • 常石 秀市, 田口 和裕, 八木 隆三郎
    2019 年44 巻2 号 p. 340
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    はじめに 薬物代謝酵素CYP450を誘導する旧来型AEDs(PB、PHT、CBZ)の長期投与が、血清ALP値上昇の原因と成ることが報告されている。従来の研究は生活背景や運動量、内服率や食事内容など、バイアスが大きい外来患者での検討であった。今回、重症心身障害児(者)施設入所例を対象とすることで、確実な内服、均一な内服時間・採血時間、摂取熱量、活動量などがほぼ一定である、バイアスの小さな集団での解析を試みた。 対象 医療福祉センターきずな&のぎくに入所中の重症心身障害児(者)の内、ALP値への成長の影響を除外するために18歳未満のケースを除いたAEDs内服中の87例を対象とした。PB、PHT、CBZのいずれか1〜2剤を内服中の47例を酵素誘導剤群(EI群)、これら3剤以外を内服中の40例を酵素非誘導剤群(非EI群)とし、2018年1月〜4月に検査した血清ALP値を比較評価した。また、CBZ単剤内服中の2例においてLCMへの置換を試み、CBZ中止後のALP値の推移を前方視的に検討した。 結果 2群間において、性別、年齢、服用AED数に有意差なし。ALP値はEI群320.8±128.6 vs 非EI群217.4±59.8(p<0.001)と有意にEI群で高値であった。ALP異常率(346 IU/L以上)は、EI群16/47例(34.0%) vs 非EI群 1/40例(2.5%)(p<0.001)と有意に高率であった。単剤投与例のみでの検討でも、2群間に有意差(p<0.02)を認めた。CBZからLCMへ薬剤置換した単剤投与中の2例では、CBZの中止後数か月以内にALP値の低下を認めた。 結論 患者背景バイアスを最小にしたことで、酵素誘導型AEDsの骨代謝への悪影響を明らかにすることができた。てんかん患者へのAEDs選択において、酵素誘導型AEDsの長期投与が骨代謝に及ぼす影響に注意が必要である。 申告すべきCOIはない。
  • 市山 高志, 伊住 浩史, 杉尾 嘉嗣
    2019 年44 巻2 号 p. 341
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の多くは骨密度が低下しており、日々のケアにおいて脆弱性骨折をきたしやすい。一方、酵素誘導型抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール)の副作用の一つに骨密度減少作用がある。骨折リスク軽減目的で重症心身障害児(者)において酵素誘導型抗てんかん薬から新規抗てんかん薬へ切り替えた症例の臨床経過を検討した。 方法 調査期間は2015年4月から2019年3月。対象は当院に入所中または外来通院中の重症心身障害児(者)27例(男性19例、女性8例;年齢6歳から51歳、中央値20.0歳)。酵素誘導型抗てんかん薬から新規抗てんかん薬へ切り替えた際の臨床経過を診療録で検討した。 結果 切り替えの対象となった酵素誘導型抗てんかん薬はカルバマゼピン13例、フェニトイン8例、フェノバルビタール7例だった(重複あり)。最初に切り替えた新規抗てんかん薬はレベチラセタム11例、ラコサミド10例、ラモトリギン4例、ペランパネル2例だった。最終的に処方された新規抗てんかん薬はレベチラセタム20例、ラコサミド11例、ラモトリギン5例、ペランパネル3例だった(重複あり)。切り替え中に発作が一時的に増悪したのは5例(19%)でその際の新規抗てんかん薬はラコサミド3例、レベチラセタム1例、ペランパネル1例だった。切り替え前と最終的な処方との比較では、改善4例、不変21例、悪化1例だった。 考察 切り替え中発作が一時的に増悪した症例は従来の報告と同様約2割だった。重症心身障害児(者)の骨密度を勘案すると酵素誘導型抗てんかん薬から新規抗てんかん薬への切り替えは検討すべきと考えた。 申告すべきCOIはない。
  • 徳光 亜矢, 浅井 洋子, 斉藤 剛, 岩佐 諭美, 鳥井 希恵子, 土井 敦, 竹田津 未生, 楠 祐一, 岡 隆治, 林 時仲, 平元 ...
    2019 年44 巻2 号 p. 341
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    はじめに 新規抗てんかん薬(新規薬)は従来の抗てんかん薬(従来薬)と比べ、傾眠や過鎮静などの副作用が比較的少ない。従来薬を新規薬に置換することで覚醒度が上がり、経口摂取が可能になった方を経験した。 症例 アンジェルマン症候群の52歳女性。抗てんかん薬はフェニトイン(PHT)、バルプロ酸(VPA)、クロバザム(CLB)、アセタゾラミド(AZA)を内服していた。40歳前から誤嚥性肺炎やけいれん重積を反復し、寝たきり、経腸栄養となった。47歳時、Fanconi症候群のためVPAをレベチラセタム(LEV)に置換すると覚醒度が上がり、デザート1品の経口摂取が可能となった。LEV1200mgでけいれん発作は一旦消失したが、1年後に再燃した。LEVを1400mgに増量したが眠気のためそれ以上増量を諦め、ラモトリギン(LTG)を併用した。LTGを260mgまで増量し血中濃度が4μg/dl台となった時点で発作が軽減したが、PHT血中濃度が28.8μg/dlと上昇し、PHTの漸減を開始した。またAZAも無効と考え中止した。PHT投与量が元の量の2/3に到達(血中濃度6.4μg/dl)すると、おもちゃで遊んだり寝返りをするようになり、食事は昼・夕食が経口摂取のみとなった。PHT減量開始後けいれん発作は一度もない。またVPAを中止後、誤嚥はみられていない。 考察 本症例ではVPAやPHTをLEVやLTGに置換することで、発作の抑制、覚醒度の上昇による誤嚥の消失、経口摂取への移行につながった。従来薬を内服している重症心身障害児(者)の中には、新規薬に変更することにより副作用が軽減し、QOLが改善することもある。どのような状況下で同様の置換を試みるべきか、症例を積み重ねて検討を行いたい。 申告すべきCOIはない。
  • 大瀧 健, 小西 徹
    2019 年44 巻2 号 p. 342
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    はじめに 満期産児型低酸素性虚血性脳障害の代表的疾患である両側基底核視床病変(以下、BGTL)の加齢に伴う臨床症状の変化に対する報告は少ない。今回、当園を利用しているBGTLを呈する症例について検討した。 対象および方法 当園利用者で満期産の低酸素性虚血性脳症にて初診時MRI所見でBGTLを呈する重症心身障害児(者)12例。評価時年齢は5〜27歳、男女比は各々6例。全例痙性四肢麻痺。痙性のみで経過している5例(Ⅰ群)痙性に固縮の要素を伴った2例(Ⅱ群)痙性にジストニックの要素を伴った5例(Ⅲ群)に分類した。初診時のMRI所見と分類した各群における姿勢緊張、身体、呼吸、摂食の各状況の経年的変化を評価した。 結果 MRI所見は、両側基底核と視床は全例が萎縮または脱落を示した。大多数が皮質や白質などの大脳病変を伴ったが、病変の範囲や程度は様々だった。小脳と脳幹部は目立った異常所見が無い例が半数以上だった。臨床症状は、姿勢緊張は低緊張性から幼少期の早い段階で四肢に痙性が出現し、幼少期から学童期に固縮またはジストニックの要素を伴う傾向があった。全群で幼少期は各関節の可動域制限や変形は軽度だが、学童期に進行が目立ち始め、特にⅡ群とⅢ群で急速に増悪しやすかった。幼少期から日常的に慢性的な呼吸障害を来す例が多く、外科的対応を要した例もいた。半数以上が経口摂取困難となり、経管栄養に移行し、胃瘻造設した例もいた。 考察 幼少期に呼吸状態の悪化と共に経口摂取困難、姿勢緊張の変化、各関節の可動域制限や変形が増悪し重症化を来す。臨床症状に特徴的なエピソードがあり、初診時のMRI所見で経過の予測が得られる部分があると示唆される。臨床症状の経過を見越し、医療・療育・リハビリテーションが個々に適した関わりをもち、QOLの向上に繋げていきたいと考える。 申告すべきCOIはない。
  • 高尾 智也, 上野 悠, 山本 真弓, 宮田 広善
    2019 年44 巻2 号 p. 342
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/10/30
    ジャーナル フリー
    重度痙縮による障害を改善する方法としてバクロフェン髄腔内投与療法(以下、ITB療法)は、非常に有用な方法である。当施設で管理している5例について経過を含めて報告する。脳性麻痺、重症痙縮の8歳、9歳、21歳、23歳、25歳の男性で、それぞれ4歳時にボトックス療法の効果の短縮、9歳時に筋緊張による呼吸状態悪化、11歳時にボトックス療法の効果の短縮、19歳時に筋緊張時の疼痛と側弯の悪化、20歳時に筋緊張による介護困難を理由に受診された。実際に埋め込みポンプの大きさや定期的なバクロフェンの補充が必要であることを説明した上で、入院にてスクリーニング検査が行われた。スクリーニング検査においてバクロフェン25μgで効果を認めたため、ITB髄注ポンプ植え込みを施行した。術後半年から10年経過し、創部感染やポンプトラブルなく経過している。現在、バクロフェン540μg/日、85μg/日、80μg/日、430μg/日、87μg/日にて筋緊張は軽減し、術後は表情も良くなり、家族も満足している。また、入所後はスタッフからも移乗やおむつ替えがやりやすいと高評価である。しかし、筋緊張が取れすぎたことで自力除圧ができなくなり仙骨部に褥瘡形成し、形成外科的処置を要した症例も見られた。さらにバクロフェン投与量が増えすぎる症例もあり、内服薬やボトックス併用を考慮する必要があると考えている。重症心身障害児(者)の痙縮は日常生活・介護支援上の重篤な阻害因子になるだけでなく、痙縮由来の疼痛によりさらに痙縮が増悪し、側弯の進行などの負の連鎖を形成している。痙縮を軽減することは障害児(者)医療において大きな意義を持っており、適切な筋緊張コントロールと長期的な評価が重要である。 申告すべきCOIはない。
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