抄録
はじめに
脳性麻痺患者の運動障害は、痙性よりも筋力の弱化と運動制御能力の欠如による影響のほうが大きいとされる。そこで、筋力トレーニングは治療選択の一つと考えられるが、意思疎通の困難さやエビデンスが確立していないため、積極的に取り組んだ報告は少ない。今回我々は、積極的な筋力トレーニングにより、ADLが向上した重度成人脳性麻痺者例を経験したので報告する。
症例
症例は50代男性。脳性麻痺で当院入所中。約10年前までは短下肢装具を使用した歩行器での自力移動が可能な状態であったが、最近になって徐々に活動量が減少し、臥床時間が増加していた。本人の希望が得られたため、治療プログラムに筋力トレーニング(下肢筋トレーニング、座位練習、歩行器での自力移動練習)を導入し、週2回の頻度で10週間継続して取り組んだ。運動強度は、バイタルサイン、独自の自覚的運動強度(フェイススケール)を用いて調整した。効果判定は、下腿挙上時間、連続移動距離、除脂肪体重、下肢周径、動作観察、ADL評価:Functional Independence Measure(以下、FIM)、Barthel Index(以下、BI)を測定した。介入前後で比較すると、下腿挙上時間:43秒延長、連続移動距離:835cm延長、除脂肪体重:1.3kg増加、左右下肢周径:大腿最大周径0.5cm、下腿最大周径1cm増加、動作観察:前傾姿勢の軽減、歩幅の増大および明らかな歩行能力の向上、ADL評価:FIM増減なし、BI移動の項目で10点増加を認めた。
考察
本症例は、加齢や不活動による活動量の減少に伴い筋力および筋量が減少し、ADLの低下に陥っていたことが予測される。今回、運動頻度、強度を調整した積極的な筋力トレーニングの導入により、適度な負荷を与えることができ、筋力および筋量が増大しADLの向上に寄与できたと考える。筋力トレーニングの導入は、重度成人脳性麻痺者であっても可逆的変化を望むことができ、有効な治療選択の一つになることが示唆された。著明に歩行能力が向上した動画を供覧し報告する。
申告すべきCOIはない。