抄録
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))が長期入院・入所できる設備を備えている医療機関の設置主体には、大きく分けて独立行政法人国立病院機構(NHO:National Hospital Organization)と社会福祉法人の2つがある。それぞれの設置主体が異なるため、看護師の採用条件や卒後教育の体系も異なる。それぞれの場における特有の風土や価値観の中で、看護実践の積み重ねによって形成されていく看護師個々の看護観は多様であると考えられる。重症児(者)にかかわる看護師の教育においては、そのような点を加味した教育内容を構築していくことが重要である。
重症心身障害看護に携わる看護の質の向上や人材育成を目指し、日本重症心身福祉協会では協会認定重症心身障害看護師制度を立ち上げて人材育成を行っている。各施設においても、それぞれの組織に応じた看護師教育を実施している。しかし、重症心身障害施設や重症心身障害病棟に勤務する新人看護師の離職率は、一般病院に比較して高いと言われている。また、重症児(者)に対する看護ケアやかかわりの難しさなどの理由から、重症心身障害病棟から一般診療科病棟への異動を希望する看護師もいると聞く。さらに、重症心身障害看護に携わる看護師教育のための効果的な教育プログラムに関しては、その効果が実証され、かつ明確に体系化されたものはなかなか見当たらない。
そのため、臨床において看護師教育を行っている管理者や教育者の立場の看護師たちは「重症心身障害看護を教えること・伝えることの難しさ」を感じ、新卒看護師や他の病院や病棟から転職したり異動してきた看護師たちは「重症心身障害看護を理解し、実践することの難しさ」を感じている現状がある。両者ともに、このような思考の向こう側には「重症心身障害看護のやりがい」とは何かという、重症心身障害看護を実践するうえで極めて根本的な問いに対して自問自答しているのではないだろうか。そして、その自問自答に対する答えを見い出すために、看護師たちは日々考え続けているのではないかと推察する。
そこで、本シンポジウムは、「重症心身障害看護の“やりがい”を考える」をテーマとし、重症児(者)にかかわる私たち看護師が、「重症心身障害看護のやりがいとは何か」について共に考えることを目的として開催する。
登壇者は、臨床からの話題提供として、国立病院機構西別府病院看護師長の原口麻友氏から「重症心身障害看護の専門性向上や人材教育のための看護師長としての取り組み」を、久山療育園看護師長の藤島信也氏からは「日本重症心身福祉協会認定・重症心身障害看護師制度について~認定資格を活かした指導について~」について発表して頂く。そして、重症心身障害看護の分野で長年にわたって実践者・教育者・研究者の立場を経験されてこられた小児看護専門看護師の市原真穂氏に、ご自身の体験から重症心身障害看護において今後求められる看護実践のあり方などについて発表して頂く。
登壇者の発表後には、聴講して頂いている参加者の皆さま方と共に、重症心身障害施設や重症心身障害病棟における看護師教育の実状と課題、そして重症心身障害看護のやりがいについての情報交換と意見交換を行いたい。そして、重症心身障害看護の分野において今後求められる看護師教育のあり方についてディスカッションを深めていきたいと考えている。本シンポジウムが重症児(者)にかかわっている看護師にとって、重症心身障害看護のやりがい・楽しさ・喜び・幸せなどを新たな視点から見い出すことができる時間になることを望んでいる。