抄録
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設では一般入院施設と異なり、さまざまな基礎疾患を持つ方が入所されている。また、気管切開や重度の変形拘縮をきたしている方も多い。したがって、急変時の対応として一般的なBLS(Basic Life Support)やICLS(Immediate Cardiac Life Support)では、その方々に適切な対処をすることが困難であると考えられる。今回、重症児(者)の院内急変に対応するため、専用の救急訓練(IJLS)を考案し、はまゆう療育園内で実施したところ急変時対応レベルが格段に向上したので学会の皆さんにご紹介したい。
一般入院患者に比べて重症児(者)では呼吸障害から急変を起こすリスクが高いことが知られている。そこで、より効果的な酸素化の改善のためジャクソンリースを使用した呼吸補助を基本とする。また、ジャクソンリースのバッグが膨らまないことによりしっかりとしたマスク保持ができているかどうかの訓練に繋がる。カニューレフリーの患者や気管腕頭動脈瘻による出血の患者に対応するため、カフ付きカニューレの挿入も訓練に組み込んでいる。誤嚥時の排出法としては躯幹の変形をきたしている患者が多いことから、肝損傷などのリスクのあるハイムリッヒ法ではなく、より安全な背部叩打法を基本とする。
実際の訓練は3つの想定シナリオ1)心肺停止、2)気管切開患者(カニューレフリー)のチアノーゼ、3)誤嚥を用意して行う。訓練は看護師、支援員の区別なく行い、平均3回の訓練で適切な動きができるようになることが多い。訓練の指導者は毎年交替しこれも看護師、支援員の区別なく担当している。
当園での経験から今回紹介する救急訓練を実践することで重症児(者)施設での急変時の対応は格段に改善されると考える。今後日本全国にIJLSが広まり、重症児(者)施設での標準訓練となることを願っている。
略歴
1987年 熊本大学医学部卒業、熊本大学医学部付属病院などで初期研修。
1996年 熊本大学医学部大学院卒業 医学博士。
1997年 国立小児病院 麻酔集中治療科 など。
2001年 熊本赤十字病院 小児科。
2008年 はまゆう療育園。
2014年 くまもと芦北療育医療センター。
2016年 はまゆう療育園。