日本重症心身障害学会誌
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教育講演②
アフリカ・ケニアの障がいのある子どもたちに寄り添って、原点を考える
公文 和子
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2022 年 47 巻 2 号 p. 241

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抄録
目の前の一人ひとり子どもの幸せを願うという原点は、障がいのある子どもたちに寄り添う者たちに共通したものである。そのために、過去・現在・未来に目を向け、原因を分析し、現在できることを考え、子どもたちの未来を見つめる。しかし、そのバランスが崩れたり、原点にある「幸せを願う」気持ちが薄れたり、その個人にとっての「真の幸せ」に目を向けることができない時に、障がい児医療・教育・福祉という名前による介入が単独で進んでしまうこともある。 演者は2002年から東アフリカに位置するケニア共和国において、様々な保健分野の仕事に従事する中で、障がい児に対する医療・教育などケア全般や、福祉・社会保障などの社会的支援の大きな遅れに目を止め、2015年、障がい児の包括的ケアを目指す事業「シロアムの園」を設立した。 持続可能な開発目標(SDGs)では「誰一人残さない」を基本理念としており、この「誰一人」には「アフリカの子どもたち」も「障がい者」も含まれる。しかし、ケニアの障がい児のほとんどが、適切な医療や教育へのアクセスを得ることができていない。また、社会保障・福祉・保険制度の不備により、非常に苦しい経済状況に追い込まれている。さらに、地域社会における迷信や語り伝え、風習などにより、差別偏見も強く、地域内の問題や家族の問題を多く抱えている。そのような問題がゆえに、家族崩壊が起こり、貧困が進み、精神的・社会的問題が助長される。そして、インフラの未発達や社会参加の機会が乏しいため、差別偏見と合わせて、多くの子どもたちが家に閉じ込められている現状がある。 このような現状において、シロアムの園は子どもたちやご家族に寄り添うことにより、真のニーズを共に考えつつ、リハビリ、医療、教育、心理、社会的など様々な通所サービスを提供することにより、子どもたちやご家族にとっての居場所をつくり、自己肯定感の向上を目指し、それぞれのもつ可能性を発掘し、発揮できるよう能力開発や環境整備を行っている。さらに、今後は子どもたちの生きる社会の変革にも目を向ける。それは、日本の戦後に障がいのある子どもたちのご家族や医療・福祉・教育関係者が手を取り合って社会の変革を行ってきた歴史に学び、またアフリカという日本とは違う文化や制度の背景を加味しつつ、さらに急速に進む高度経済成長期において、子どもたちが笑顔で生きることができるケニアらしい社会をつくるというビジョンを掲げている。 本講演においては、症例を通して子どもたちやご家族のもつ様々な問題に目を向け、それぞれの職種や立場においてできること、違った立場の人たちが共にできること、それぞれ違った立場の人たちがひとつになって子どもたちの幸せを願い、成し遂げていくために必要なことを共に考えたい。 制度や環境の整わないケニアではできないことがたくさんあるが、日本にも同様な、もしくは違った形の問題が多々存在する。また、不完全な制度や環境下における障がい児包括的事業であるからこそ原点をみつめることができると考え、経験を共有したい。 略歴 1994年 北海道大学医学部 卒業 1994年 北海道大学小児科入局、道内医局関連病院勤務 2000年 北海道大学小児科博士取得 2001年 リバプール熱帯医学校 熱帯小児医学修士取得 2001年 Merline International  シエラレオネ 小児科医 2002年 Friends without boarder カンボジア 小児科医 2002年より、ケニアにて JICA(国際協力機構)専門家、Merlin International 医療コーディネーター、Child Doctor Japan共同代表など 2015年より、ケニアにてシロアムの園代表(現職) 著書:『グッド・モーニング・トゥ・ユー』(いのちのことば社)
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© 2022 日本重症心身障害学会
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