抄録
背景
重症心身障害児(者)は長期にわたり経腸栄養剤を使用する。経腸栄養剤には食事摂取基準の対象となる栄養素のすべては含まれておらず、特定の栄養素欠乏症が生じうる。これらの患者では銅、亜鉛、ヨウ素、セレンおよびカルニチン欠乏が臨床的に問題となる。
対象と方法
2019年度に当院小児科で経腸栄養剤を処方された重症心身障害児(者)のうち、2020年3月から9月に銅濃度、亜鉛濃度、fT4濃度(ヨウ素欠乏の指標)、セレン濃度、カルニチン濃度の測定が行われた患者を対象とした。年齢、性別、体重、使用している経腸栄養剤、ミキサー食やビタミン・ミネラル補充飲料の使用の有無、レボカルニチン製剤の内服の有無、濃度測定結果、欠乏症状の有無について診療録から後方視的に調査した。さらに2020年10月から2022年7月に同患者について再調査した。
結果
対象は23例で男12例、女11例、評価時年齢は3〜44歳(中央値17.1歳)であった。血清銅低値は1例(52μg/dL)で、銅欠乏症状はなかった。血清亜鉛低値は22例(36〜77μg/dL)だったが臨床症状を伴わず、亜鉛欠乏症の診断にはならなかった。血清fT4低値は2例(0.75,0.76ng/dL)だった。血清セレン低値は8例(5.4〜9.8μg/dL:中央値7.4μg/dL)で、うち2例では赤血球の大球性変化がみられセレン欠乏症と考えられた。血清遊離カルニチン低値は5例(7.3〜29.2μmol/L)で、低血糖が1例、肝機能異常が1例にみられた。2022年の調査では血清セレン低値は9例(4.4〜9.4μg/dL:中央値4.9μg/dL)で、2020年と比較し改善がみられなかった。その他には血清遊離カルニチン低値を1例(26.2μmol/L)に認めた。
結語
2020年の調査に基づいて主治医の判断で栄養管理の調整を行ったが、血清セレン値の改善がみられなかった。経腸栄養剤およびビタミンミネラル補助飲料のみでは血清セレン値を上昇させることが難しく、セレンの経口製剤の市販が望まれる。