抄録
皮膚科領域において、真菌を原因とする主な人獣共通感染症には、皮膚糸状菌症、クリプトコックス症およびスポロトリコーシスがある。中でも皮膚糸状菌症は動物から人への感染が起こることが古くから知られているにも関わらず、制御困難な疾患である。皮膚糸状菌症は、感染源となる動物種によって病原となる菌種がある程度想定することが可能であるが、飼育動物の多様化によって思わぬ動物から感染する場合もあり、疫学的に注意を要する疾患でもある。Microsporum canis は猫や犬からの分離頻度が高い菌種であり、罹患動物や保菌動物との接触によって人が発症する場合が多い。我が国ではペットブームによって海外から病原菌が付着した動物の輸入が増加したことにより、ペットショップを介して他の動物種へ感染が蔓延していることも多くみられるようになった。特に最近では、愛玩動物から伴侶動物へと呼称が変わったことに示されるように、従来よりも人間と密着して生活していることから、感染が増加傾向にある。例えば、分子生物学的な菌種同定が普及したことに伴って、Trichophyton mentagrophytes のテレオモルフの 1 種で、我が国では分離報告の認められなかった Arthroderma benhamiae が齧歯類を中心に全国的に蔓延していることなどが判明している。
クリプトコックス症は、鳩を主とする鳥類の糞便が汚染されていることが知られており、人への感染源としてもこれら鳥類の堆積糞が重要視されているが,猫や犬などの鼻腔にある程度常在することが疫学的に明らかにされており,注意が必要であると思われる。また,最近では日本国内で斃死するコアラからも高率に血清型 B の Cryptococcus neoformans が分離されることが明らかとなっており,これら動物の動物園間の移動に伴う病原性菌の汚染拡大も危惧される。
スポロトリコーシスは,我が国の皮膚科では比較的古典的な真菌感染症であるが,動物から人への感染は報告されていないために,人獣共通感染症として認知されていない。しかし,欧米では本疾患に罹患した動物(特に猫)から受傷した,軽度の引っ掻き傷などから感染することが知られており,人獣共通感染症として注意を要する疾患であると考えられている。
動物は人と同様に、直接鏡検による病原体の証明,分離培養による菌種の同定で診断されるが,分子生物学的な技術によって病原体の同定作業は迅速かつ正確に行えるようになった反面,診察室における直接鏡検標本の評価能力が向上しないと言う,医療現場と同じ問題が起こっている。
治療方法も,グリセオフルビンに加えて新規の全身投与が可能な抗真菌剤が国内で入手可能となったことから,確定診断さえ行われば速やかに治療することが可能となっている。しかし,費用の問題や治療終了の判定基準が無いことなど,問題は山積している。