抄録
脳死提供者からの死体臓器移植の進まないわが国では、始めに腎臓、続いて肝臓・小腸、さらに肺・膵臓と、心臓以外の臓器移植のほとんどの領域で生体提供者からの移植技術が発達してきた。なかでも生体肝移植は、その需要の大きさから国内の肝移植の 99% 以上を占め、世界で最もその経験の豊富な国として、欧米諸国に影響を与えるまでになっている。臓器移植医療における深在性真菌症対策の経験は、多くの領域で諸外国に数十年遅れて始まり、わずか十数年の内に、欧米諸国と同様の経験をたどってきている。 臓器移植後の深在性真菌症は、そのほとんどが Candida とAspergillus によるもので、その頻度は腹腔臓器では小腸・肝・膵移植で、胸腔臓器では肺移植で高いとされる。発生の危険は移植される臓器の種類だけでなく多くの因子に左右され、移植前の臓器不全と菌交代の程度、手術侵襲と初期の移植臓器機能、免疫抑制の強度、などが挙げられる。しばしば初期の感染兆候が弱く、抗真菌薬の使用に関しては免疫抑制剤を中心とした他の併用薬剤との相互作用が問題となる。 臓器移植領域においても Candida 感染は内因性の菌交代の影響が大きく、肝移植では消化管、肺移植では気道の colonization の影響が無視できず、前者では腹腔内への播種化も起こりやすい。Aspergillus 感染は気道を介した外因性因子(あるいはその後の colonization)の影響が大きく、胸腔内臓器移植に特異的と考えられがちであったが、欧米と同様に肝移植などでは少数ながらわずかずつ頻度が増えており、ひとたび顕在化するとその死亡率は高い。
限られた情報ではあるが、移植臓器別に経験的危険因子が挙げられ、初期の一律予防 universal prophylaxis からハイ・リスク群での標的予防 targeted prophylaxis への移行が推奨されているが、初期治療の遅れが予後を決定づけることから先制攻撃治療 preemptive treatment の必要が言われながら、証左に基づいたハイ・リスク群の特定と先制攻撃治療の基準についてはまだ充分に証明されていないものが多い。 術前状態や手術因子、免疫抑制因子を含めた移植臓器の特性に基づいた症例の階層化を行い、臨床的裏付けに基づいたテーラー・メイドの指針、さらに免疫抑制減量を含めた安全で有効、かつ経済的な予防・治療の指針に到達するまでには、欧米でもわが国でも、多くの試案と検証を繰り返していく必要がある。