抄録
【はじめに】従来真菌感染症は血液,移植領域などの高度免疫抑制患者で問題となってきたが,近年の広域抗生物質の汎用や各種留置カテーテルの使用頻度の増加などとともに,重症疾患患者における免疫力低下が注目されるようになり,救急・集中治療分野においても大きな問題となってきている.しかし,真菌感染症の明確な診断基準はなく,さらにしばしば細菌感染も合併していることから,治療の開始基準や治療効果の判定に混乱がみられる.治療に際しても,アンホテリシン B は強い臓器傷害性をもつことやアゾール系の薬剤は,non-albicans カンジダやアスペルギルスに対する効果が期待しにくいことから,病勢が急速に進行し,臓器障害を伴いやすい ICU にて治療を受けている患者では治療法の選択が難しい.しかし,近年これまでの抗真菌薬とは作用機序の異なるミカファンギンが選択肢として加わったことにより,ICU 患者における真菌症治療に変化がみられるものと考えられる.そこで今回我々は救急・集中治療領域における深在性真菌症に対するミカファンギンの有効性及び安全性を検討したので報告する.
【対象と方法】2003 年 7 月から 2005 年 3 月の 1 年 9 ヶ月間に当科関連 3 病院の ICU に入室した患者で,腋窩温で 37.5℃ 以上の発熱を有し、かつ診断根拠として 1)真菌学的検査又は病理組織学的検査により原因真菌が証明された患者(確定診断例),2) 監視培養で真菌が複数部位から検出された患者(真菌症疑い例),3) β-D-グルカン陽性の患者(真菌症疑い例)のいずれかの項目を満たす患者を対象とした.なお,2), 3) については別に定めた深在性真菌症発症のリスクファクターを有することを条件とした.前記の条件を満たす,34 例にミカファンギンの投与を開始しこのうち,投与期間が 5 日未満の症例など 5 例を除外し 28 例を対象に (I) 臨床症状・所見の改善度,(II) 真菌学的効果,(III) 胸部 X 線・CT・内視鏡検査等の画像所見の改善度,(IV) 真菌の血清学的検査所見の改善度を指標に効果判定を行った.
【結果】15 例でカンジダが証明され,13 例は疑い症例であった.アスペルギルス症と確定診断が得られた症例はなかった.年齢は 62.5±19.0,男性 18 例,女性 10 例であった.投与量および投与日数は主治医判断とし,それぞれ平均 110.7±45.8 mg,13.0±6.6 日であった.カンジダ症の 11 例(73.3%),疑い症例の 8 例(80.0%)で有効と判定した.投与量による有効性の差はみられなかった.また non-albicans カンジダ 5 例中 4 例で有効であった.34 例中 10 例(29%)に因果関係は明確ではないが何らかの有害事象がみられ,肝酵素の上昇 4 例,皮疹 3 例,高ビリルビン血症 2 例等であった.いずれも生命に関わるような障害は認めなかった.
【まとめ】救急集中治療領域の深在性真菌症に対するミカファンギンは高い有効率を示し,新たな治療法の一つとなりうるものと考えられる.
共同研究者:織田成人,中西加寿也,奥 怜子,北村伸哉,森口武史,相川直樹