抄録
養殖ヤマメに不完全菌類のOchroconis属菌に原因する慢性的に死亡する症例が発生した。罹病魚の外観は腹部膨満を呈する程度であったが、開腹すると腎臓が腫大し、部分的に白斑状を呈していた。腎臓内部には多数の淡褐色の菌糸が繁殖しており、病理組織学的に肉芽種を形成していた。患部からはサブロー寒天培地などで1種類の菌を培養することができた。分離・培養された菌は3隔壁を有する淡褐色の長楕円形の分生子を仮軸状に産生し、分生子の表面には細い棘状突起を有した。これらの特徴から本菌は、Doty and Slater(1946)によって米国のマスノスケから報告されたOchroconis tshawytschaeに近似する種であると考えられた。
そこで基準株であるATCC 9915とヤマメ株とを走査電顕で詳細に形態を比較検討した結果、ヤマメ株は疣状突起が1種類であるのに対して9915株は大小2種類の突起が存在した。また分生子の形状は、9915株の方が、ヤマメ株よりも細長かった。また、集落の形状や色調も若干異なった。
さらにヤマメ株のD1/D2 LSU rRNA遺伝子の配列は既知種の配列とは異なり、相同性は80%であった。なお、他の病原性黒色菌の配列にヤマメ株の配列を加えてクラスター解析を行った結果、他のOchroconis属菌と同一のクラスターに位置した。以上のことからヤマメ株はOchroconis属の新種であると判断した。