抄録
Pseudallescheria boydii は世界的に広く土壌中に棲息し、BSL-2 にランクされている。そのアナモルフである Scedosporium apiospermum と共に、菌腫、角膜真菌症、肺菌球症などの起因菌種として知られている。近年、侵襲性肺真菌症、関節炎など日和見真菌症の起因菌として重要度が増し、近縁種 S. prolificans、S. aurantiacum と共に薬剤抵抗性からも問題視されている。我々は、千葉大真菌センターに保存されているこれら菌種に関して、形態、生育温度を再検討比較し、ITS 領域による多型解析を行った。さらに、若干の疫学的データを整理し、薬剤感受性試験を実施した。今回検討した菌株中、本邦初の分離となる S. aurantiacum が 1 株認められた。S. apiospermum の最高生育温度は 40-42℃、S. prolificans は 42-45℃、S. aurantiacum は 42℃ であった。系統解析の結果、S. apiospermum は単系統のクラスターにまとまり、さらに 4 サブクラスターに細分され、日本の臨床分離株はその中の 3 つに分布し、S. prolificans と S. aurantiacum はそれぞれ独立したクラスターを形成した。また、S. prolificans は voriconazole はじめ今回試験したすべての薬剤に対して抵抗性を示した。結論として、S. apiospermum の臨床分離株は表現型、遺伝子型共に多様性を示し、S. apiospermum と S. aurantiacum は表現型では識別できなかった。