抄録
高度医療の進展に伴い真菌症は増加傾向にあり,その中でも特にアスペルギルス症は重要である.アスペルギルス症は A. fumigatus もしくは Aspergillus section Fumigati に属する菌がその原因の大半を占める.Section Fumigati に属する菌の系統分類と生理学的性状の相関に関する報告は既になされており(Yaguchi et al, 2007),最高生育温度による典型的な A. fumigatus と非典型的な A. fumigatus の区別が可能であることが示唆された.しかし,A. fumigatus 関連菌以外の病原性 Aspergillus 属菌の中には,分類に基づいた性状の把握が十分になされていない菌が存在する.
Emericella 属は Aspergillus のテレオモルフの一つであり,アナモルフは Aspergillus section Nidulantes に分類され,36 種 2 変種のうち 5 種で病原性が報告されている.Verweij ら(2008)は臨床分離株の E. nidulans と E. quadrilineata の MIC を比較し,2 菌種間で複数の抗真菌薬に対する感受性に差があることを報告し,同時に遺伝子配列を用いた正確な種同定の重要性を指摘した(2008).
今回,我々は病原性 Emericella 属菌 5 種の MIC を測定し,菌種間による薬剤感受性の差異を明らかにすると共に,種特異的かつ迅速な同定が必要なことから,PCR などを用いた識別法の開発を試みた.