抄録
在外邦人数は増加の一途にあるが、海外生活は母国との社会文化的な違いに直面し、精神的健康を損ないやすい環境にある。そこで在外邦人がメンタルヘルスを維持しながら異文化生活を送る術を見いだすことが課題となる。本稿では、在外邦人数が南米最多のブラジルに注目した。在ブラジル日本人15 人を対象に半構造化面接を行い、ブラジル生活で感じる困難と対処を聞き取って、修正版グラウンデット・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した。ストレスを感じた困難体験を語ってもらったところ、ブラジル生活における社会不安への警戒や用心が顕著で、言語面ではホスト言語に不自由を覚える一方で、英語習得の重要性にも言及があった。対処法は、「社会生活」、「対人」、「子育て」に分類され、それぞれに行動的、認知的なソーシャルスキルがまとめられた。社会生活スキルとしては、治安・安全対策が重視されており、細かく徹底した日常的配慮の要領が抽出された。対人スキルとしては、ホストや同胞といった相手に応じたつきあい方の要領が見いだされ、対ホストの交渉ではねばる、あきらめるといった異なる対処方法の切り替えがみられた。子育てスキルとしては、子どもの生活の充実のための、努力や工夫が含まれた。