抄録
本研究は、定住外国人を調査協力者とし、PAC分析を用いて主観的格差感の構成要素を探索し仮説生成することを目的とする。調査の結果、主観的格差感の構成要素(下位格差)として以下の2点が浮かび上がってきた。第一に関係流動性格差である。マクロレベルの準拠集団(国・民族等)の選択を自由に行うことができ、特定の集団を規範としていない調査協力者、つまり関係流動性の高い者には主観的格差を感じない傾向がみられた。第二に承認 / 包摂格差である。特定の準拠集団を規範にせざるを得ない状況の下、統制困難な属性により人格・能力が十分に発揮できず、その属性に対する偏見により他者からの承認および集団への包摂が得にくくなると主観的格差感が生じやすくなることが分かった。だが、承認 / 包摂が得やすいミクロレベルの準拠集団(サブコミュニティ)に一時的に移動することにより格差感を回避している様子からは、マクロレベルとミクロレベルの準拠集団および関係流動性が入れ子構造になっていることが推察された。さらに、準拠集団における人格・能力の発揮を促していたのは努力と支援であったが、日本人と同等の義務が課される準拠集団において支援を求めざるを得ないことは、むしろ格差を感じることにつながっていた。格差感の軽減のためには、準拠集団選択の自由を尊重するとともに、教育現場や職場を含めた公共の場のユニバーサル / インクルーシブデザイン化の推進が求められる。